《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》51 魔學院教授 ウルフガング

2020.9.28 タイトル名を魔法學院教授から 魔學院教授に訂正しました。

「ふむ、これが呪われた祭壇というわけかね。この魔法陣には儂も見たことも無い文様が多く使われておるな……」

ウルフガング教授というのは、見た目から言うとかなりの老人にみえたが、きは俊敏で年をじさせなかった。マートが魔法のベルトポーチから祭壇を取り出して、一連の出來事について説明をすると、彼は力的に様々な角度から眺めたり、描かれた禍々しい文様を詳しく調べたりし始めた。助手らしき2人の男も、彼と一緒に、文獻を調べたり、シンボルを書き寫したりしている。

「リリーの街の魔師ギルドがよくこれを手放したのう」

「これで呪われたというと、ほとんど見もせずに調査を任せてくれたよ」

「臆病者めが。呪いを怖れておっては、何も進歩せんというのに。ほれ、腕を見せてみよ」

「ああ」

マートは、腕を固定していた紐を解くと、真っ黒い腕は、だらんとその場に垂れた。

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「ふむ、さまざまな魔力をじるのう。ん?これはなんじゃ?」

教授は、マートの左腕の一部を指差した。そこは、マートが泉の霊(ナイアド)のウェイヴィとの契約の文様が刻まれている場所だった。

「ああ、それは、霊との契約の文様だよ」

霊使いはこのような契約の文様を持つのか。ふむ、なるほどのう。ジュディ君がヤドリギの枝を手にれるのに、そなたに力を借りたと言っておったが、これが、それを渡してくれた霊との契約の印ということか」

「ああ、その通りだよ。俺と泉の霊(ナイアド)との絆さ」

「道理で魔力が満ちておるわけじゃ。なるほど、なるほど 興味深い。ふむ、ふむ、ふむ」

教授は、マートの腕と、呪われた祭壇とを互に見比べ、何かメモを取り始めた。

「そちらのの手も同じように呪われたと言っておったな。見せてみよ」

アニスが右手の革の手袋を取って見せると、彼の手をとって、教授はまた呟き始めた。

「なるほど、なるほど 興味深い。ふむ、ふむ、ふむ」

「その者はリッチからデイモスリッチに進化をすると言っていたのじゃな。しかしそのものは溫は確かに低かったがアンデッドでは無さそうだったと。不思議じゃな」

マートの説明では、前世記憶というものについてわざとれなかったので教授が不思議に思うのは當然だった。だが、彼にとってはそれを説明することは躊躇われたので、その呟きにも特に反応はしなかった。彼もそれを特に尋ねるわけでもなく、そのまま再び助手たちと、文様について意見をわしている。

「しかし、ということは、祭壇が壊れた時に現れた黒い煙のようなものというのは……」

「ふむ、これは集めるという記號じゃな、そして、これは圧?ふむ、ふむ……」

「お嬢、このおっさんはいつもこうなのか?」

マートが、その様子を見ながらジュディに尋ねると、彼は、苦笑しながら頷いた。

「この狀態になると、かなり時間がかかるわ」

「そうか、まぁ、仕方ないな」

1時間ほど、手持無沙汰に待っていると、教授たちはようやくマート達のほうを向いた。

「よし、大判ったぞ。で、任せてくれるの」

「何を?」

あまりにせっかちな言葉に、ジュディ、アニス、マートの3人は思わず言葉を返した。

「腕に溜まった呪詛の解消じゃ。おそらく教會に行けばその呪いは解いてもらうことができるじゃろうが、解呪の謝禮に金貨100枚は必要じゃろうな。そっちのお嬢さんは、まぁ20枚と言ったところかの」

そう言って、教授はマートの方を見た。

「ああ、やっぱりそれ位か。なかなか厳しいな」

「そうじゃろう、そうじゃろう。じゃが、それを、儂に任せてくれたら金貨10枚でその腕はくようにしてやろう。どうじゃな?」

マートは怪訝そうな顔をし、アニスのほうをちらりと見た。彼も首をかしげる。

「もし、解除できなかったら、金は払わなくても良い。教會で解呪を試みたところで、失敗する可能もあるし、だが、それでも謝禮金は前払いで払わなければならないじゃろう。それを考えれば、格安だと思わんかの?どうじゃな?」

教授は、どんどん早口で説明した。

「なぁ、教授、きちんと(・・・・)説明してくれよ。そういう言い方は碌なことがないっていうのは、冒険者としてをもって経験してるんだ」

「………」

マートとアニスは肩をすくめ、首を振った。その様子を見て、教授が慌てた様子で押し留めた。

「判った、判った。ちゃんと説明する。とはいっても、推測がかなり混じるのじゃがな。儂の考えでは、おそらく、この祭壇には、リッチがデイモスリッチに進化するだけの、負の力と言うべきものが蓄積されていたのじゃろう。じゃが、それが使われる前に、お前さん方に破壊され、そのエネルギーは行き場を失い、手近なものに依ろうとした。じゃから、それは呪いでもあるが、力でもあるのじゃ」

「ふむ、そういう仮説って事だな。それで?」

「とすれば、その力を何かに向けてやればよいはずなのじゃ。幸い、そなたには契約している霊がおる。その霊にその力を注ぎ込めば、おそらくその霊は力を増し、そなたの腕から、余分な負の力は消えて、そなたの手は再びくようになるはずじゃ」

「泉の霊に、アンデッドを呼び出す際に集められた呪詛の力を注ぎ込む?それで、どうやって霊が力を増すというんだよ」

マートの聲にすこし怒気が孕んだ。

「もしかしたら、伝説の闇の霊(スコウド)や影の霊(スキアド)が誕生するかもしれんのじゃぞ。4大霊や、泉、海の霊などはよく知られておるが、闇や影などは、一部の文獻に記述があるだけで、実は謎に包まれておる。是非、それらを研究してみたいのじゃ。そなたも霊使いとして、使役してみたいと思わぬか?」

そういう教授の聲に、マートは首を振った。

「話にならねぇな。霊と俺たちは、お互い尊重し合う仲間だ。使役なんて言葉は全く當てはまらないし、霊が、他の力によって歪められ、違う存在に生まれ変わるなんて、とても容認はできない。悪いがその提案には乗れないな。悪いが帰らせてもらう」

そう言って、彼は立ち上がる。

「教授、私も教授には落膽いたしましたわ」

マートの言葉に、ジュディもそう続けた。

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