《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》53 王都での尾行者

それからの數日、彼らは、王都を観して廻った。とは言え、教授が失敗すれば金がいくらかかるかわからないなので、贅沢はできず、市場などを冷やかして回った程度だ。ところが、3人は途中で、尾行者に気が付いた。決して彼らは豪華な服を著ているわけでもないし、大きい荷を抱えているわけでもないのにだ。マートたちは、お互いに顔を見合わせて首を傾げた。

「お嬢関連かな?」

「どうしてだい?何か心當たりでもあるのかい?」

「ああ、マクギガンの街で、彼が尾行されてたことがあったんだ。その時は、ハリソンっていう彼の出りの商人のところに預けて終わったんだが、関係あるかなと思ってな。尾行されそうな事といえば、それ位しか思いつかない。どうするのが良いか…」

「今日は儀式だ。それの時には尾行は撒いて行くことにしよう。それ以外は、余程人數が多けりゃ別だけど、そうじゃなければ、あの程度の素人だから大丈夫だろう。気になるけど、手を出さずに居ようよ。対処はうまく呪いが解けてからでいいんじゃないかねぇ」

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彼らはそう言って、尾行者については、とりあえず手を出さないことにしたのだった。

儀式については、何の危険があるか不明というので、學院ではなく、郊外の學院が持っている研究所の一つで行われることとなった。教授が學院から使用が許されている研究所ということであったが、マート、アニス、アレクシアの3人が到著してみると、ただの農家の家を改造しただけの、末な建だった。

「王國の魔法學院教授の研究所というからには、すごい建を予想していたんだが……」

思わずマートは呟いた。

「そうだねぇ。周りの土地が凄いことになってるよ。焼き払われたような跡も結構あるし、沼みたいになってるところもある。モンスターとかも棲みついていそうだね」

「ああ、沼には何か気配があるな。スライムとかだろう。他は大丈夫そうだ。いったいあのウルフガング教授というのは何の研究をしてるんだ?祭壇をということからすると、魔法陣か魔法裝置ってことか」

「ああ、その本人かどうか不安なんだけど、王國で魔法裝置についての研究をしてる魔師でウルフガングって名前は聞いたことがあるよ。たしか、かなり有名だったはず」

「うーん、どうなんだろうな」

そんな話をしていると、農家の扉から、ジュディとクララ、そして當のウルフガング教授、2人の助手が出てきた。

「待っておったぞ。貓(キャット)君。アニス君、そして君は初めてみるな。いや、たしかその手のひらが黒いところをみると、アレクシア君か。よしよし、準備は萬端じゃ。さっさと始めるぞ」

教授に急かされて、マートたちが建ると、そこには大きな土間があり、そこに張られた大きな羊皮紙にかなり細かい文字でびっしりと魔法陣のようなものが描かれていた。そして、その中心には、おおよそ30㎝程の人形が置かれている。それはの人形のように見えた。

「よし、そうじゃ、マート君はここ、そしてアニス君はそこじゃな。アレクシア君はふむ、そのあたりでよいじゃろう。黒くなった患部は全て見えるように。ふむ、ふむ。そうじゃ」

教授は2人の助手に指示して、3人の位置を調整しながら、作業を進めていく。かなり繊細な調整のようで、一部魔法陣を手直しをしたりして、時間は過ぎていく。

「まだかかりそうか?」

「いや、もうすぐじゃ。ほれ……」

教授が何かを口の中でぶつぶつと唱えると、魔法陣の一部が赤くり始めた。

「アインス、そっちじゃ」

アインスというのは助手の名前らしく、アニスの近くに立っていた男が、『起初期処理《スタンバイイニシャルステート》』と唱える。別の一部が、青くり始め、徐々に魔法陣全に青白いが點滅を始めた。

「よし、順調じゃぞ。ツヴァイ、進めよ」

『起主処理《スタンバイメインモジュール》』

の蛍に魔法陣がり、そのだけが、幻のように徐々に空中に浮かび始めた。

出開始(イクストラクト)』

教授がそう唱えると、マートの腕、アニスの手、アレクシアの手のひらからも、黒いもやが徐々に浮き出始めた。

「よし、良いぞ。そのまま、そのまま」

『注開始(インジェクト)』

教授の言葉に、黒いもやのようなものが、中心においてある人形に吸い込まれてゆく。それに合わせて、マートたちの黒く染まった部分のが徐々に薄まり始めた。だが、それはある程度で止まり、黒いもやは人形の周りに留まり、その黒いもやはどんどん膨れ上がっていく。

「人形では容量が不足しておるのか。いや、ちがう。次の段階にすすめということか…。よし」

『融合開始(フュージョン)』

人形自がゆっくりと大きくなり始めた。最初は30㎝ほどであったものが、普通の人間のサイズになってゆき、ただの人形だったものが、実際の人間のようになり始める。マート自は初めて見るだが、黒髪のストレートを長くばした髪のかなりの人だ。

「おお、素晴らしい。ここからが山ぞ」

教授は上機嫌だが、の顔をみて、ジュディ、クララ、そして助手2人は何かに気が付いたようだ。顔が変わる。

『接続開始(コネクト)』

緑の魔法陣のが、そのを包む。そして、そのが、マートにび、彼をも包み込んだ。マートの腕の黒いはほとんどなくなり、元のに戻っている。

『進化開始(エボリューション)』

が宙に浮き、徐々に半明に変わっていく。そして、そのはゆっくりとマートに近づいていく。そして、そのまま、マートの左腕に吸い込まれるようにして消えた。

皆が息を飲む…。

しばらくの間

徐々に魔法陣がを失ってゆき、全てのが消えた。

マートはそっと手を持ち上げた。が戻ったその両腕はちゃんとくようだ。

「よし、儀式は無事終わったぞ」

教授の明るい聲が、研究所の土間に響いた。

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