《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》58 ハリソンの依頼

2020.7.25 誤字訂正)マジックバッグ → マジックバック

2020.9.21 マジックバック → マジックバッグ

マクギガンの街を囲む城壁は、空から見るとすこし歪んだ5角形をしていた。リリーの街と同じように高さ5mほどで、城壁の上の部分には、人が立って矢がられるように1mほどの幅が設けられ、壁がつくられていた。

ジュディに、誰にも気づかれないようにハリソンと接するように依頼をけたマートは、どうするか迷ったが、結局、街の門を通らず、日が暮れるのを待って、この城壁を闇に紛れて飛び越え、街の中にることにしたのだった。

彼はそのまま、街の建の屋の上を伝い、かつて行ったことのあるハリソンの父親、ウォトキンの布を扱う店に移した。そこで、事務室で父親を手伝っているハリソンを無事発見したのだが、それと共に、彼の周囲で怪しげなきをしている監視していそうな者が2人、店の外に居るのに気づいたのだった。

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“なぁ、魔剣、あんたの識別呪文で、あの2人を調べられねぇか?”

“前にも言った通り、儂の識別はを調べる呪文じゃ。人を調べることはできぬ。”

“力づくで排除したら、ハリソンの立場が余計ややこしくなりそうだし、2人が居なくなるタイミングを待ってても時間がかかりそうだ。仕方ねぇ、中に潛り込んで、ハリソンが1人の時に話しかけることにするしかねぇか...。幻覚呪文だけでも十分だろ。”

“空耳を聞かせて注意を引くんじゃな。まぁ、そなたなら監視の人間も見えるじゃろうから、それだけで躱して中にっていけるじゃろう。最悪、毒針を使って眠らせればよいしな。”

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「邪魔してるよ。」

ハリソンが自室に帰り寛いでいると、開いた窓の傍、クロークの影から、聞き覚えのある聲がした。

彼はぎょっとして、そちらのほうを良く見ると、そこには、マートが立っていたのだった。

「貓(キャット)、どうやってったんだ。そんな簡単じゃないはずなんだが。」

「そこは、まぁ、斥候だからいろいろとな。」

マートは、なんでもないという風にそう答え、軽く頭を掻いた。実際には靜かに歩いたり、に隠れたりといった斥候のわざだけではなかったが、そこは誤魔化しておく。

「その腕、呪いは解けたんだな。よかった。その、なんだ、この間は悪かった。」

気まずそうに、ハリソンはそう言った。

「事はお嬢から聞いたよ。だけど、あまりいい狀況とは言えなさそうだな。本當は普通に來ようと思ったんだが、あんたにはずっと見張りがついてて、この手段しか思いつかなかった。とりあえず、これを渡してくれって頼まれたんで。」

マートは、そういいながら、ハリソンには見えないようにカモフラージュしながら魔法のベルトポーチにれ、小さい箱を取り出した。

「お、何処から出したんだよ。それも斥候の技なのか?」

ハリソンはその箱をけ取り、その上にりつけてあった手紙をチラチラと読みながら會話を続ける。

「いや、これはマジックバッグってやつさ。見たことあるだろ?」

「ああ、確かに見た事はあるが、そんなのを持ってるのか。僕はまだ手にれてないんだよ。親父のは見たことあるけどな。容量はどれぐらいなんだ?」

「そうだな、樽一つ分ぐらいだろうな。」

易に使うには厳しいサイズか。それでも金貨100枚はするだろ。」

「さぁ、相場はわからねえな。どっちにしろ、これがあるとすげぇ楽だからな。手放す気はねぇよ。」

「確かにそうだろうな。大きい商売は無理かもしれねぇが、稼げるだろう。」

「というわけで、確かに渡したぜ。じゃぁな。」

「ちょっと待ってくれよ。僕からも頼みがあるんだ。お嬢にも関係ある話だ。」

帰ろうとするマートをハリソンは押し留めた。

「あまり長居をすると、誰かに気付かれそうなんでね。ちょっと落ち著かない。」

「そうか、わかった。じゃぁ、手短に言う。護衛の仕事をしてくれないか?」

「護衛?お前さんの護衛なら、たしかレドリーってのが居たんじゃなかったか?」

「いや、ジュディお嬢様の兄上、セオドール様の護衛だ。」

「いや、それは...。」

マートは、そう聞いて返答に詰まった。たしか、兄弟で伯爵家の後継者爭いをしている當人だ。そんなものに関わったら碌な事にならないと彼は考えたのだ。

「気持ちはわかる。ただ、最近のノーランド男爵のきはかなり怪しいんだ。近いうちに必ずなにか起こる。僕は秋の収穫祭の中で行われる狩りが危ないんじゃないかと考えているんだ。必ずしも貓(キャット)が表に立つ必要はない。危険そうなものをチェックして、護衛役の騎士に告げてくれたらそれだけで良い。頼む。」

マートはし考え込んだが、顔を上げて頷いた。

「お嬢には、今回呪いの件では、すげえ世話になった。わかった、力になろう。」

マートの返事を聞いて、ハリソンは安心したように溜息をついた。

「貓(キャット)、助かるよ。お前さんの嗅覚は人間離れしてるからな。壁の向こうの連中にも気が付くぐらいだ。よろしく頼む。伯爵様自の病気の事もあって、ジュディはかなり辛いことになってる。表には出さないけどな。なんとかしてやりたいんだ。このまま、護衛にれるか?」

「ああ、それは構わない。リリーの街には寄ってきたしな。ああ、一応、アニスたちにはこっちで仕事をすると手紙だけだしておくか。」

「もちろんだが、仕事の容は伏せておいてくれよ。僕は一緒に行けないが、セオドール様宛に手紙を書くので、それを持って、花都ジョンソンに居るランス卿に渡してほしい。ランス卿はセオドール様の補佐役で、怪我のため引退されたが、前の伯爵家の騎士団長なんだ。詳しくはランス様が話してくださるだろう。」

程、一つ、聞いていいか?伯爵はどう思ってるんだ?お嬢の話だと、あまりそういう諍いは無いと言ってるらしいんだろ?伯爵がけばこの爭いは止むんじゃねぇのか?」

そうマートに聞かれて、ハリソンは苦笑を浮かべた。

「ランス卿と伯爵様は子供のころからの友人で、かなり気の置けない関係なんだ。そのランス卿が、2人っきりの時に伯爵にロニー様とノーランド男爵について、忠告したらしい。だが、伯爵様は、そんなことはないから大丈夫だと答えたらしいんだよ。ランス卿によると、伯爵様は家族の強い方で、ロニー様に対する信頼もセオドール様と同じぐらい強く、明確な証拠がなければ、これ以上の追及は難しいという事だった。」

「そうか、困ったもんだな。」

そう話をしていると、ハリソンが何かにハッと気がついた。

「貓(キャット)、花都に旅立つ前に、もう一つしてもらわないといけない事がある。」

「え?急ぐんじゃねぇのかよ。」

「その言葉遣いじゃ、側仕えは無理だ。うちの引退した執事にお願いしておくから行儀作法を勉強してくれ。3日程で最低限の事は習得してもらうことになるから、覚悟してくれよ。明日の早朝からで頼む。彼には花都にもついていってもらって、時間があるときには指導を続けてもらうことにしよう。」

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