「マートと申ひまふ（イタッ）」

ハリソンの紹介狀を見せ、ランス卿の屋敷の豪華な部屋に通されたマートは、自分の名前を告げようとして、早速舌を噛んだ。

ランス卿は片方の眉を上げたが、その様子は大目に見ることにしたようだ。

「ふむ、知っているぞ。そなたが、ジュディお嬢様が以前言っていたマートか。若いな。幾つだ？」

「１５」

「言い直せ」

「１５．．．才です」

「『１５才になります。』だ」

「ああ、そうそう、それ」

「ハリソンめ、何が最低限のマナーはにつけさせておきますだ。全然なっておらんではないか。本當にそなた役に立つのか？」

「どこまでかはわからねぇ...いや、わからないけど、一杯はさせて...いや　やらせて頂きます？」

「どうして、最後は疑問形なのだ？マナーについては、引き続いて勉強してもらうとして、まずは問題はどれほど役に立つかだ。この屋敷で怪しいきをしてそうなやつはおったか？」

「ここで言って良いのかい」

「『言ってもよろしいですか』だ」

「ああ、言ってよろしいですか？」

「もちろん良いぞ」

「４人です」

「４人？」

「そこの機の中と、奧の扉の外、屋裏に２人」

そう聞いて、ランス卿とその橫にいた補佐らしき男が固まった。

「ほう、屋裏の２人を捕まえてくれるかの」

「おかしいな、それは、俺の仕事じゃないはず……」

そういわれて、マートは首をかしげた。だが、なんとなく、４人も居るというのは想定外だったのだというのはわかった。

「今回だけじゃ。特別手當を払おう。手段は択ばずともよい」

「わかったよ。じゃ、ちょっと失禮して」

マートは、その場でジャンプすると、天井にりついた。それを見て、ランス卿がおぉと思わず聲を出した。

マートはそのまま、かすことの出來る板を迷わず選び、天井裏にり込む。天井裏では人影が２つ。一つはランプを點けていたが、そちらには目をくれず、もう一人の人影に向かって飛ぶようなスピードで移した。相手は自分の存在が発見されていると気づき、ナイフを抜いた。

『毒(ポイズン)』

無言の呪文行使。が麻痺する種類の毒を送り込む。

それと同時にマートは、腰の小剣を抜きつつ、相手に迫る。相手のきはし遅くなっていた。そのまま、ナイフを持つ手を剣の峰で強打し、相手の武を無効化すると、剣の柄をそのまま口に突っ込んだ。

「自分で死のうとしただろ。悪いな、それはさせねぇよ」

相手はだった。剣の柄が突っ込まれて口の端が切れたのか、それとも歯が折れたのか、が滴っている。

マートはロープを取り出すと、猿ぐつわをし、手早く手足を縛った。そうしておいてから、最初からけずにいたもう一人の人影のほうを向いた。

「あんたは、素人だろう？自分で降りな」

そちらの方は男のようだった。マートの言葉に頷き、マートが飛び込んだまでを引きずるようにして移し、廊下に下りる。ランス卿の配下らしい騎士が、彼を迎えている。マートは、縛り上げたも、その配下に引き渡すと、自分も廊下に下りた。

「これでよかったかい？そっちののほうは、かなり真剣だったみたいで、暴な手をとらざるを得なかった。尋問とかはそちらに任せるよ」

「ああ、お前さんの腕が良いのは十分に判った。ハリソンが勧めるわけだ」

「３人は試しだったんだろ？だから言って良いかって聞いたのに」

「言葉……」

ランス卿の部下が呟いたが、ランス卿がそれを遮った。

「追々、言葉は直してもらうとして、そなたの力は儂等の予想を超えていた。そして、事態も深刻な様だというのも、よくわかった。ハリソンの推薦は時機を得ていると考えたほうが良さそうだ。そして、今回のような場合に備えて、ハンドサインのようなものが必要じゃな。予定外の事が起こるたびに、特別手當を出していては、金がいくらあっても足らぬ」

「ありがとうございます」

「その言葉は、舌を噛まずに言えるのだな」

「かなり練習したからな。ついでに言って良いか？」

「言葉……」

ランス卿の部下が再び呟いたが、又、ランス卿がそれを遮った。

「すまねぇな。ジュディのお嬢には世話になったんでね。彼の悲しむ顔は見たくないんで正直に言わせてもらう。ハリソンのところもそうだったが、ここもかなり々な連中が出りしているじだ。そこにハリソンの紹介狀を持って、付にノコノコと來れば、何かあったなって屋裏に忍び込まれ、調べられるのは當然だ。そうすりゃ手のが見られて、そのうちになにも出來なくなっちまうだろう。こういった連絡のやり方にしても、もうし考えた方が良いと思うぜ」

「ああ、そなたの言う通りだ。見直すこととしよう」

「よろしく頼むぜ」

「『よろしくお願いします。』だ」

マートはそう言われて、すこしうんざりしたような顔をした。

読んで頂いてありがとうございます。