《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》65 後継者爭いの顛末
「結局、あの2人は何者だったんだ?」
「魔法使いが倒れたときに、彼の格納呪文が破れ、いろいろな所持品が地面に転がった。その持ちから判ったのだが、おそらく、彼はハドリー王國の人間だ」
「ハドリー王國?隣の國か」
「ああ、我々は見事に踴らされていたようだ。このアレクサンダー伯爵領は、彼の國と國境が接する領地。やつらがセオドール様とロニー様の確執を過剰に演出し、われら騎士団と、ノーランド男爵を中心とする政たちとの間で一即発の狀況にまで持って行こうという謀があったと思われる」
「ああ、なるほどな」
「そなたの疑念も、これでつじつまが會う。我々はわざといがみ合うように仕向けられていた。2人の報をノーランド男爵に伝えたところ、彼の家にも、うちのメイドと同じように間諜がっていたことが確認された。ほぼ間違いないだろう。結局、伯爵様が兄弟の間に確執はないと言っていたことは正しかったというわけだ。屋裏に忍び込んでいて捕まっていた男を殺したのも、あの男が口封じにやったのだろう」
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「あのメイドが男の姿に変わったのは?」
「変呪文だ。伯爵の城のように警備が厳しいところであれば、魔法知ですぐわかったはずだが、儂やノーランド男爵の邸宅のようなところまでは、そこまで厳しくない。そこを突かれた。領地からメイドとしてやってくる途中にすりかえが行われたようだ。まだ彼の死はみつかっていないが、5年以上前の話だ。探すのは難しかろう」
「わかった。じゃぁ、これで一件落著ってことで良いんだな」
「ああ、まだ多ギクシャクすることはあるだろうが、ノーランド男爵と儂の間での誤解が解けた今となっては、徐々に関係は修復されていくだろう」
「伯爵の病気の件は?」
「そっちはまだ判らないが、たまたまタイミングが悪かっただけという可能が高いと考えている。もしハドリー王國が絡んでいたとしても、それを糾弾する証拠が何も無い」
「今回の件は、ハドリー王國には?」
「そこまで主張することはできないだろう。そういう意味では、この件については口外無用で頼む。証拠もないのに波風は立てられぬ」
「そういうものなのか。俺にはわからないが、まぁ口を出す話でもないか。わかった」
「マート、そなたの魔法の素養は高いのか?」
「それについては、答えられないな。どうしてだ?」
「あの魔法使いは自分は★が4つと言っていたと、そなたは言っていたな。そなたに同行した補佐は魔法は使うことが出來ないが、素養は☆2つ。一般的に言われているのは、★4つの魔法使いが☆2つの人間に魔法を使った場合、7割~8割の確率で抵抗できないといわれている。そういう意味では、補佐は2回魔法をかけられて2回とも抵抗はできなかったというのは、ほぼ確率通りと言わざるをえん。運がよかったら倒せたかも知れんという程度だな。そこまでは仕方ない」
「ところが、そなたは、3回魔法をかけられて、3回とも抵抗できたのだという。そうであれば、そなたは☆が4以上の素質を持っていると考えなければ辻褄が合わん。かのジュディさまは☆が5つだが、そなたもジュディさまに勝るとも劣らぬ魔法の素質を持つのではないか?」
「どうだろうな」
「もし、そうなのであれば、伯爵家に、そなたを是非雇うべきだと推挙したい。今回の件の事もある。ノーランド男爵も否やはないであろう。どうだ?最初は2等騎士としてになるであろうが、そなたの才覚であれば、儂と同じ1等騎士になるのもすぐであろう。今回で言葉遣いも上手になった。正式にセオドール様の近衛として働かぬか?」
「悪いがそれは斷る。俺は冒険者として莫大な財寶を見つけ、王様のような暮らしをするのが夢なんだ。騎士として人に仕えるなんてごめんこうむりたいね」
「そうか、普通であれば飛びつく話だと思ったが、なんとなくそなたはそう答える様な気もしておった。今回の禮として、何かしいものはあるか?」
「今回は解呪を手伝ってくれたお嬢たちへの恩返しのつもりだったが、そう言ってくれるのなら…そうだな、じゃぁ、あの魔法使いとメイドが持ってたものをくれないか?あんたがたが証拠になるかもしれないと思うようなものは要らない。金とか道類とかそういったものだ。間諜や暗殺者(アサシン)になる気はないが、どういったものを用意していたのか知りたいんだ。どうせ一連の出來事が表沙汰にできないのなら、かまわないだろう?」
「ふむ、がないのかあるのか...。奴は実はかなり金も持っていたし、価値の高い魔道、危険な毒もあったが良いだろう。確かにそなたのいう様に表沙汰には出來ぬものだ。あと、もし、気が変わって仕しようという気になったなら、是非連絡をしてきてくれたまえ」
「わかった。そうするよ」
読んで頂いてありがとうございます。
次から章が変わり、時間軸は遡りますが、この事件と同時並行で進んだニーナの冒険です。
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