《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》70 ニーナとマート

「顕現の解除はしないんだね」

1週間ほどして、ニーナはマートに海辺の家に呼び出され、簡単に換をしたのだったが、その時に、ニーナはマートにそう尋ねた。

「ああ、簡単に話を聞いたが、俺が、王都からリリーの街に戻ったりしてる間に、そんなことまでしてるとはな。前に顕現の解除をしたときの事を憶えているだろ?あの経験からすると、今顕現を解いたら、しばらくけなくなっちまいそうだ」

「せいぜい1時間とかじゃないかな」

「いや、今はマクギガンの街の知り合いの家なんだ。明日はハリソンと會う予定」

「ああ、マージョリーのところで泊まったんだ。今も待たせてるってこと?じゃぁ、元々顕現の解除はできなかったんじゃないか?」

「まぁ、そうだな」

「魔剣は返さないとだめ?」

「ダメだ。明日は、お嬢に頼まれてハリソンに荷を屆けねぇといかねぇからな。もうアニスやアレクシアと一緒でもねぇし、元々2週間の約束だっただろ?」

「そうなんだけどね。あの日記とかリッチのメモとか調べるのに魔剣がないと大変なんだよ。本で調べても判りにくいしさ」

「そのための本だろ?高そうな本だけど、いったい幾ら使ったんだよ」

「仕方ないだろう?古語の辭典とか、初期の魔法門的な本とか一冊一冊が高いんだよ。そうそう、南方植図鑑ってのが高くてさ。図が全部手描きで綺麗なんだけど...そうそうアンジェがスズキって言ってた果、あれは正式にはバナナっていうらしいよ」

「まさか、ここに置いてた金……」

マートの頭に不安がよぎってそう尋ねたが、彼は不思議そうな顔をした。

「うん?銀貨と銅貨がちょっと殘ってるぐらいかな?ああ、ピール王國の貨は使おうとしたら、骨董的な価値があるとかどうこう言われたんで、そっちは殘ってる。どうかした?」

「50金貨はあったよな……。もうちょっと貯めて、リリーの街で家を買おうとおもってたのに……」

「それぐらい、また稼げるだろう?大丈夫さ」

「くそっ大丈夫じゃねぇっつうんだ」

「何をそんなに焦ってるんだい?金なんて大したこと無いだろう。どうしても金が要るんだったら、ピール王國の貨をオークションにかけてみたらどうだい?金銀銅全部揃ってるじゃないか。ああ、殘念ながら、あのアンデッドをたくさん召喚していたリッチ男が持ってた指は、たいした価値がなかったらしい。殘念だったね」

「ああ、あいつが持ってた奴を魔剣に識別してもらったのか...って...おい、話をそらすなよ」

「何のことだい?」

「ちっ、もう金はここに置いておくのは止めだ」

「明日の僕のご飯代は?」

「自炊」

「プレザンスの街で味しい飯屋があってね。2時間程で行けるようになったんだ。こんどはリリーの街に行くルートを探そうと思っているんだが、途中、街に立ち寄って食事をするにはお金がないと……」

「自炊」

「……」

「俺に何か呪文を使おうとしたな。作か?幻覚か?」

「ほとんどのものは、君の依頼を果たすために買ったんだよ?それに、本で勉強してもどうせ君もその知識を利用できることになるんだ。寶を調べたりするのに、必要なものじゃないのかな?力を蓄えることのほうが、金を蓄えることよりずっと大事だよ?」

ニーナは、そう言ったが、マートは首を振った。

「あれは俺のほとんど全財産だったんだ。悪いがホントに金が無い」

マートがそういうと、ニーナはため息をついた。

「そっか、それは仕方ないな。僕が冒険者として稼ぐのはダメかい?」

「そっちもダメだ。しばらく外には出ず自炊で頼む。たぶん島に喰えるものはあるだろう?」

「ああ、それはね。芋類や果富だしサトウキビなんてのもある。鳥や魚、貝類も」

「ついでに料理の腕も上げておいてくれ」

ニーナはしぶしぶ頷いた。

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