《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》72 水の救護人
「もう、初段に合格したのかい?最近すごく上達してきたねぇ。ということはランクももうすぐAになりそうだね」
跡の転移トラップでの騒から半年が経ち、黒い鷲(クラン)の詰め所になっている倉庫の2階は、すっかり溜まり場になっていて、今日もリーダーのショウとその奧さんであるレティシアのほか、アニス、グランヴィル、ジェシー、アレクシアが集まり、マートが冒険者ギルドの道場で片手剣の初段に合格したことを祝っていた。
「ああ、姐さんやグランヴィルにはよく教えてもらったからな」
グランヴィルというのは、同じクランの仲間で筋骨隆々の戦士だ。
「最近、グランヴィルとはいい勝負らしいじゃないか。アニスにも5回に1回は勝ててるって聞いてるぞ。斥候はアレクシアに任せて前衛の戦士をメインとして働いたらどうだ?十分通用するだろう?」
クランリーダーのショウが、飲みを片手にそう言った。
「どうせ、採集系のクエストをけることが多いからなぁ。前衛で登録しておく必要はないだろ。ああ、そういえば、この間、ドラゴンの卵の採取クエストに行ったんだ」
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マートはそこまで言って、首を振った。
「でも、あれはダメだ。苦労してドラゴンの巣って言うところに行ったんだけどさ、まず、ドラゴンじゃなくワイバーンの巣でさ。それも、巣に2匹ずっと卵に張り付いてるから、盜むなんてとても出來ねぇ」
「報酬が高いから、どうかなぁと思ってたけど、そうだったのかい。よく巣までたどり著けたね。たしか、このあたりで一番高いって言われてるカディック山の山頂近くだったろ?あそこはずっと氷に覆われてて、人がいけるようなところじゃないって聞いたよ」
「そうなんですね、さすが、水の救護人(ウォーターレスキュー)です」
アニスの言葉に、アレクシアが賛辭の言葉を付け足した。
「いや、その水の救護人(ウォーターレスキュー)ってのはもういい。っていうか、普通に話をしてくれよ」
マートはそう聞いてうんざりしたようなしぐさをした。
「貓(キャット)さんは私の命の恩人です。いつも、どうやって恩をお返ししたら良いかと……」
「アレクシア……。そういう言い方はやめてくれ。同じクランなんだし、仲間として普通にやろうぜ。それに、呪いをけたときはホント助かったんだから、あれでおあいこで良いじゃないか。ショウさんもなんとか言ってやってくれよ」
「あはは、まぁそうだな。アレクシア、気持ちはわからないこともないが、貓(キャット)はそういうのは苦手だろうよ。クランやパーティとしてやっていく上で、お互い助けたり助けられたりっていうのは大なり小なりある。恩は恩として思っておくのはいいが、あまり表に出すのは良くないぜ。貓(キャット)は違うが、そうやって恩を著せて上手いを吸おうってする連中も世の中にはたくさん居る。特に若いの場合はそういうのは気をつけたほうがいい」
「そうだね、アレクシア、はしぐらいちやほやされて當たり前ぐらいに思っておいてもいいんだよ。貓(キャット)、酒がなくなったよ、注いでおくれ」
アニスがマートにグラスを差し出した。マートも普通に応じる。
「しかし、水の救護人(ウォーターレスキュー)って名前が結構知られるようになったみたいだね」
「ああ、そうなんだよ。ついこの間は、沈沒船の財寶を探しに行かないかってわれた」
「へぇ、それはちょっと魅力的じゃないか?」
「ああ、俺も最初はそう思ったんだが、詳しく話を聞くとかなり胡散臭くてさ。その後、冒険者ギルドの付と話をしたんだが、潛水の魔道ってそこそこあるらしいんだよ。有名な沈沒船はそういうのを使って回収されてることがほとんどで、未発見の沈沒船なんて、古代跡よりはまだ存在するかも?というぐらいの話らしい」
「なるほどね、金のない山師が、聲かけてきたじってことかい」
「そそ、まぁ、俺は水中でも目が効くし、魔道使わなくて済むから金がかからねぇだろうって踏んだんだろうな」
「まぁ、そうだな。伝説に言うセイレーンだのクラーケンだのが出るところでも見つかれば別だが、そうじゃなければ一山あてるのは難しいだろうな。ドラゴンの卵にしても、そんな味しい話はそんなの転がってないってことさ。ただ、水の救護人(ウォーターレスキュー)の話は最近の遊詩人の流行らしいから、まだまだそういうのは増えるだろうな」
グランヴィルがそんな事を言いながら、にやにやしている。
「うへー、勘弁してくれよ」
「だが、貓(キャット)のおかげで、うちのクランだと遭難しても助けに來てもらえるって噂になって會者が激増中だ。なんかあったときには、また頼むぜ」
「もう何かあったら困るわ。ないようにしてね」
クランリーダーのショウが軽口を言うとレティシアが釘を刺した。
「そういえば、そろそろフィンレイさんの花祭りの荷の隊商の護衛メンバーを組まないといけないんだが、どうする?今回は貓(キャット)がリーダーしてみるか?」
「もう、あれから1年か。あっという間だったな」
丁度そうやって話をしている途中に、表のほうで、誰かが呼びかける聲が聞こえてきた。
「こんにちは」
マートとアニス、グランヴィルには聞き覚えのある聲だ。たしかジュディの護衛の騎士でシェリーとかいう名前だったはずだ。
「黒い鷲にようこそ、騎士(レディ)シェリー」
クランリーダーのショウが彼を出迎えた。
「うむ、お邪魔する。マート殿はこちらと聞いたのでな」
「貓(キャット)名指しですか。何かご依頼でもおありで?」
「ああ、ラシュピー帝國のさらに北まで行くので護衛を頼みたいのだ」
読んで頂いてありがとうございます。
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