《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》381 新しい座標

マートがローレライ城で待っていると、出かけていた連中が続々と戻ってきた。いつの間に召集されていたのか、アマンダの姿もある。蠻族討伐隊も200人以上居そうだ。

アレクシアが嬉しそうにマートに駆け寄ってきた。

「お疲れさん、アンソニーたちは大丈夫だったか?」

「はい、3人とも無事です。火によるありがとうございました」

「すげぇ人數だな。だれも怪我とかしなかったか?」

「はい、萬が一に備えて6番隊と7番隊を招集しましたのでこれほどの人數となりましたが、幸い出番はありませんでした。怪我人もありません」

「そうか。よかった。夜中に叩き起こして參加させたんだろ。労ってやってくれ」

「そうよ。いい気分で眠ってたのに急に起こされたのよ。大変だったわ」

いきなりモーゼルが抱き著いてきた。かなをマートの腕に押し付けてくる。彼も參加していたらしい。魔法がつかえるようになったとは言え、それほどの戦闘力はなかったはずだが……いや、得意の潛力を買われたのかもしれない。

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「ちょっと、モーゼル……?」

ジュディが近づいてきた。モーゼルはあわててじゃぁまたねと微笑みながらマートから離れていった。

「お嬢もお疲れさん。シェリーは?」

「他の連中と一緒にアンソニーたちの様子をみているわ。ワイアットもお疲れさま」

ワイアットも近寄ってきた。深々と禮をする。

「ありがとうございました。おかげさまで犠牲者を出さずに済みました」

「ああ、よかった。なんとかこれで巨人の里の実も知れた。週末に労會でもするか。その頃にはアンソニーやブレンダたちもある程度回復してるだろ」

「はい、是非」

ワイアットは嬉しそうだ。マートは帰ってきた連中に次々と聲をかけ、無事帰ってきた事を祝い労ったのだった。

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その日の夕方、仮眠を済ませたマートはあまり使われていないローレライ城の広い地下室にジュディを呼び出した。

「お嬢、悪いな」

「いいけど、どうしたの? こんなところに呼び出して」

「いや、どうするか悩んでることがあってな。まずこれを見てくれ」

そう言ってマートはマジックバッグから巨大な箱(チェスト)を取り出した。サイズは左右6m奧行3m、深さも3mぐらいあり、金屬で補強された上に華な裝飾まで施されている。蓋は開いていた。

「これは何?どうしたの?」

「火の聖殿から盜んできた。実際は3つ盜んできたんだが2つは巨人用の武とか防だったんでドワーフの工房に回す予定だ。そしてこれが殘った1つ」

「豪華ね。何がってるの?」

ジュディは飛行して中を覗きこんだ。マートもそれを追うようにして宙に浮きあがった。中にはきらきらと松明の炎のゆらめきをうけて大量の寶石と金貨がっていた。

「まぁ……」

ジュディは驚いて思わず口を両手で覆う。

「昔、ヨンソン山にあった財寶をみつけたときも凄いと思ったが、今回は半分以上が寶石などの裝飾品なんでおそらく桁が違うだろう。ほとんどが略奪品だな。元の持ち主がわかるものもあるはずだが、曖昧なものも出て來そうだ。どうしようかと思ってな」

「これは燃やす予定だった?」

「ああ、の焼き討ちをかけた倉庫にあったものだ。中を確かめる暇はなかったが、燃やす前にいくつか確保してたんだ。豪華そうなのを選んでとってきたから寶石類はこの箱だけだったんじゃないかと思う」

「大半はダービー王國で略奪されたものだろうけど、もしかしたらラシュピー帝國のものも混じっているかもしれないわね。王家が先祖代々継承してきた國の寶とか……でもこれはあなたのですかと質問しても正直な答えは期待できないでしょう。命乞いで巨人たちに渡したものもあるかもしれない。寶石商に鑑定させるしかないんじゃない?」

「鑑定させてどうするんだ?」

「いくら國がなかったって言っても國の寶と呼ばれるような有名なのは見せればすぐわかるわよ。そういうのは持っててもどうしようもないわ。返して恩を売るしかないでしょ。あとは貰っといてもいいんじゃない?」

そういってジュディはぺろりと舌を出した。

「それでいいのかよ」

「正確な事はどうやってもわからない。きっと全部渡しても自分のものが帰ってこない連中には不満が殘るだろうし、特に寶石とかでありがたがるのは貴族や金持ちだけ。寶石でかえしてあげるより違うものがいいんじゃないかしら。一応ライラ姫とも相談して決めればいいと思うけど、今年の春もかなりの穀を融通してるのよ。貓(キャット)、ねぇ、最近人が良すぎない?」

ジュディにそう言われてマートは考え込みしして顔を上げた。

「わかった。そうしよう。お嬢、あと、この座標の解析を頼む」

マートは人間に戻ると巨大な箱(チェスト)をマジックバッグに仕舞いこみ、代わりに転移追跡(トレーステレポート)の棒杖(ワンド)を取り出した。

「座標採れたのね。あんなに霜の巨人(フロストジャイアント)の行く先を気にしてるからと思って渡したけど、ホントに採れるとは思ってもなかったわ」

ジュディはそれをけ取ると片手に持って棒杖(ワンド)の先に浮かび上がっている文字と數字の羅列をじっと見、何もないところから取り出したペンと羊皮紙を取り出して書き記しはじめる。

「ああ、ちょうど霜の巨人(フロストジャイアント)は居なくてな。火事になったことを伝えようってする間抜けな魔法使いが居たんで丁度良かった」

マートはその時の狀況をジュディに説明した。

「それだと罠の可能は低いのかな……でもさすがにいきなり飛ぶのは危険ね」

『座標解析(アドレスアナライズ)』

ジュディは両手をの前で差すると座標を調べる呪文を唱えてじっと目を瞑る。

「これは、かなり西ね……あ、し待って……。ああ、そうね」

何か獨りで彼は呟いている。5分ほどして彼は眼を開けた。

「わかったわ。この場所はここからはるか西よ。ざっと5000キロはあるわね。このあいだ、リザードマンに攻められて困っていた南西の島があったでしょう。あそこからだと北に1000キロってところかしら」

「遠いな……霜の巨人(フロストジャイアント)はそんなところでなにをやってんだ」

ジュディは首を振る。

「そんなの判るわけないじゃない」

「近くまで転移っていうのも無理だよな」

「もちろん無理。そして、危険な事をしないでって言ってもどうせ無理なんでしょう。仕方ないわね。また魔空飛ばしたら? 鱗(スネーク)とネストルあたりにお願いして南西の島まで行ってもらって、そこで合流すればいいんじゃない? 座標がわかってるから場所はすぐ特定できるはずよ」

「ああ、そうだな。悪いがこれだけは放置しておけない。霜の巨人(フロストジャイアント)はその場所が俺たちにばれてるってことを知らないはずだ。今度こそ決著をつけてやる。あとは平和に暮らせるはずだ」

「わかってるわ。決著をつける時は私も一緒よ」

読んで頂いてありがとうございます。

次は新しい話の予定です。

誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

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