《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》384 処刑臺

“マート……、これ、酷い”

モーゼルから念話が來たのは手分けして集落の様子を探り始めてからしばらくしてからのことだった。

“どうした?”

“集落の西の端に処刑臺みたいなのがあるの。10人ぐらいの死がぼろぼろの服は著たまま曬しものになってるわ。その下に何か書いてあるんだけど、知らない文字が混じっててうまく読めない”

“西の端だな、わかった、見に行く”

マートは集落の人間観察は一旦取りやめてモーゼルのいう場所に向かった。周囲に人影はないが綺麗に掃除はなされていた。そこにはモーゼルのいう通り服裝からすると分のある人間らしき白骨化した死骸が手足を拘束されたままの狀態で雨ざらしとなっていた。男だけでなくい子供もだ。

“何かの見せしめか……”

極悪犯罪を犯した場合に公開で処刑されたりすることは無いわけではない。とは言っても死骸をそのまま放置するというのはあまりなかった。死骸の様子から見ると完全に白骨化していて死んでから5年以上は経っていることだろう。

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“なんて書いてあるかわかる?”

“ちょっと待ってくれ”

マートはニーナを呼び出して文様の中の彼から魔剣をけ取った。魔法知を警戒して今日もまたニーナに預かってもらっていたのだ。

“魔剣よ、読めるか?”

マートは手に持った魔剣を処刑臺らしきものに向けた。

“うむ、読める。現代語とピール王國時代の文字、そなたらが古代語と呼んでいる言葉とが混じっておるな……『この者たちは反を企てし者どもとその家族なり。この島の中では逃れようがないと知れ』 というような意味の事が書いてあるようじゃ”

“署名は?”

“魔王イクソルト……とあるな”

マートは思わず大きく息を吸った。イクソルト、すなわち霜の巨人(フロストジャイアント)か。マートはモーゼルにも聞いた容を説明する。

“どうするの?”

モーゼルは不安そうに聞いた。

“集落の連中を見ている限り、ゴブリンに小突かれても何をされても唯々諾々と従うだけというじだった。何故あそこまでかわからなかったんだが、こういう事か。こいつは集落の誰か話ができてちゃんとを守れそうなやつと接したいな”

“そんなの、どうやって見極めるのよ”

“わからねぇ、でも希はあるかもしれねぇ。 もうすぐ暗くなる。もうちょっと調査を続けよう。モーゼルのほうからここの話をお嬢たち、あと城のアレクシアにも伝えておいてくれ”

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翌朝、まだ太が海岸線から顔をだす前のまだ薄明るい時間の事だった。マートは半分仮眠をとりながら集落の西の端、処刑臺と思しきものの近くに潛んでいた。そこに1人のがやってきた。年のころは30代前半ぐらいだろうか。髪は金髪でかなりやせており、濃い灰の地味なだぶだぶのワンピースにこれもまた地味なこげ茶のスツールのようなもので顔を隠すように頬かむりをしている。手には掃除のための箒などを持っていた。

マートはしばらくそのの様子をじっと見つめていた。彼は最初きょろきょろと周囲を警戒していたが、誰もいないと判斷したのか処刑臺の周りにまで行くと丁寧に何度も掃き清め、そのあとじっと手を合わせて何かを祈っている様子だった。

それを見てマートはにっこりと微笑み、何度もうなづいた。そして掃除の後片付けをして去っていこうとする彼にわざと姿を見せるとゆっくりと歩いて近づいていく。彼はぎょっとした様子で両手で箒を握りしめた。

「驚かしてわりぃな。蠻族じゃねぇよ。すこし話を聞かせてくれねぇか?」

マートはできるだけ落ち著いて優しい聲をだしてそう彼に話しかけた。両手は何も持っていないと示すように軽く上げている。

「あ、あなだば誰でずが?」

そのは震えながらも気丈にそう尋ねてきた。言葉はマートたちの話す言葉とはすこし変わっていた。獅子頭島のものとよく似ている。

「俺の名はマート、ここからはるかに海を渡って東にあるワイズ聖王國の者だ。ここの狀況を知りたいんだが、話はできるか?」

マートの言葉には大きく目を見開いた。マートをじろじろと見つめ、し首をかしげた。

「ぞれを証明(じょうめい)ずるものば?」

そう尋ねられてマートは首を傾げた。

「紋章とか見せたってきっと通じねぇだろ? どうしたらいい?」

「じゃあ、ぶぎを預がりまず、ぞれで話(ばなじ)をじまじょう」

そう言ってそのは掃除用のバケツをその場に置いた。武をそこにれろということか。マートは腰の2本の小剣とナイフをゆっくりとした作でバケツにれる。

「これでいいか?」

「でば、づいで來(ぎ)でぐだざい。靜(じず)がに」

そのに案されて到著したところは、村はずれの小屋だった。まだ夜明け前ということもあり誰にも見つかることはなかった。猟でもして暮らしているのか、家の外には解用とおぼしき臺などもあった。そこにはかなり年配の男が居て、に連れられたマートの姿をみるとかなり驚いた様子で腰のナイフに手をかけつつ立ち上がった。が慌てて何かを合図すると、小屋の口に駆け寄りその中にとマートを導きいれたのだった。

年配の男は疑わしい者を見る目で片手にナイフを持ったまま、とひそひそ話を始めた。とはいっても鋭敏覚を持つマートには結局筒抜けだ。話している容からすると彼と年配の男とは親子らしい。マートが言っていたことを信用したいが、確信がないので武を預かって連れてきたと彼は言っていた。彼のことを父親はシンシアと呼んでいた。それが彼の名前なのだろう。

父親はバケツにった剣を調べ始めた。ゆっくりとその剣を鞘から抜くとホウと心したような聲を上げる。それを見て何かをしばらく考え込んでいたが、おもむろに口を開いた。

「わがっだ、あんだの言う事(ごど)を信(じん)じよう。ぞれで、何を聞(ぎ)ぎだいのだ?」

「まず、この村の狀況だ。あの処刑臺で曬しものになっているのは誰なんだ?」

読んで頂いてありがとうございます。

誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

いいね、評価ポイント、想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。

2022.6.25

>ここからはるか西のワイズ聖王國の者

東西まちがっていました>< ご指摘ありがとうございます。 訂正します。

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