《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》387 守護者
“何? モーゼルっ?”
“えっ? ここどこ? 暗いっ”
モーゼルの念話が屆いたところを見ると即死トラップという訳ではなさそうだった。彼が跳ばされた先は目の前の球狀の建造の中というのが一番可能が高いだろうか。
“何かにったようなはあったか? そこは水はあるのか? 呪文は使えるか?”
マートは矢継ぎ早に質問しながら、モーゼルの姿が消えた場所に急いで移した。単純な転移裝置だとすると、何らかののスイッチとなるものがあるはずだ。魔法知の呪文をニーナに使ってもらい何か裝置がないか探る。
“何か押したりしたようなはなかったよ。空気があって水中じゃない、呪文は試してみる”
“頼む、十分注意してくれよ”
“よっ……きゃぁ!”
“モーゼル!”
マートはモーゼルが居たところから手が屆く範囲にある殘った泥の跡をあわてて確認する。球の形の建造の側面に一箇所、魔法知の呪文に反応する場所があった。彼は躊躇なくその箇所にれた。すぐに転移したとき特有のくらっとしたじがあって目の前が真っ暗になった。次の瞬間、視界が開けたのとほぼ同時に右肩に強い衝撃が來た。毆られたようだ。咄嗟にの力を抜きジャンプして衝撃を逃がそうとする。
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「きゃぁっ」
すぐに何かにぶつかったとモーゼルの悲鳴。毆られた方向にはまるで磨き上げた金屬のような質の白いつるっとした人型のモノが左手の拳をマートにむかって突き出していた。おそらくそいつに毆られたのだろう。長はマートよりし高くて2mぐらい、手足の関節などは人形のような丸い形をしており、ゴーレムだと思われた。そのゴーレムにモーゼルが毆られようとした瞬間にその間にマートが急に転移で割り込んだ形になったらしい。衝撃で跳んだマートがモーゼルにぶつかったようで、マートは辛うじて転ばずに済んだが、彼に押されたモーゼルは衝撃でその場に転倒してしまっていた。
「わりぃ、大丈夫か? モーゼル。こいつは何者だ?」
転倒したモーゼルをかばいつつマートは構えた。周囲は真っ暗闇で彼は何が何かよくわかっていない様子だった。だが、鋭敏知覚によって暗視能力のあるマートには周囲の様子は見えている。4m四方ほどの狹い部屋だった。周囲にはが積み上げられていており、水がれてきているといったじはなかった。ゴーレムは1だけのようだ。本當にあの球形の建造のなかかどうかは確信が持てない。
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「わかんない、なにか念話みたいなのを送ってきたんだけど、よくわからない」
“セキュリティ警告です。抵抗しないでください。十秒以に分証を提示してください”
モーゼルの返事とほぼ同時にマートにもその念話が屆いた。
“セキュリティ警告だと? ずっと以前、同じようなことがあったぞ。”
続いて魔剣から念話だ。たしかにあった、あの時は研究棟にった時……、そう考えてマートは魔法無効化の魔道を取り出して使おうとした。
“だめじゃ、もし、ここが水底にあったあの球の中なら魔法無効化などすれば霊魔法が解除された狀態で水がってくるかもしれぬぞ”
ギリギリでマートは使うのを思いとどまった。だが、その躊躇している間に10秒が経過してしまったらしく、ゴーレムはマートに毆りかかってきた。かなり素早い。モーゼルを庇う必要があるので避けるわけにもいかない。
【強化(ボディブースト)】
【爪牙(クロウファング)】
咄嗟にカギ爪を出してゴーレムの拳をける。角度をつけて流したとはいえ、かなりの衝撃だ。マートはその力を利用して回転し裏拳でゴーレムの脇腹あたりを狙う。ガツとまるで鋼鉄の塊を毆ったような音。ゴーレムのには傷一つついていない。
“なんだ、こいつ。小せぇのに……まったくダメージが通ってねぇぞ。ミスリルか何かか?”
“ピール王國全盛期に作られた守護(ガーディアン)タイプのゴーレムじゃ。おぬしの言うとおりミスリル製じゃ”
守護(ガーディアン)ゴーレムはマートの攻撃には頓著せず、踏み込んでマートの足を刈ってきた。足の裏で弾こうとするものの、止めきれずに、マートはその場でくるりと宙返りする羽目になった。マートはその勢いのまま今度は人間でいう耳の上あたりを蹴る。だが、守護(ガーディアン)ゴーレムはかなり重いようで揺らぎもしない。
“だめだ、効かねぇ。こいつ、龍鱗でももってやがるのかよ”
“あるとしたら絶対防じゃな”
“僕に行かせてっ!”
ニーナがマートの中でぶ。
“たしか、守護(ガーディアン)ゴーレムは首の後ろには安全裝置として急停止ボタンがあるはずじゃ”
「だとよ、顕現せよ(やっちまえ)、ニーナ」
拳を突き出して突っ込んでくる守護(ガーディアン)ゴーレムに向けて、マートの突き出した掌から黒い鎧姿のニーナが飛び出した。
「任せといてっ!」
ニーナはその勢いのまま守護(ガーディアン)ゴーレムの突き出された腕をつかんだ。そのまま自らの方に引き寄せ、首の後ろに手をばそうとする。だが、守護(ガーディアン)ゴーレムもそれは予想していたようで、腕を振ってニーナのきを阻止しつつ地面にたたきつけようとした。ニーナはとっさにを丸めると、一気に両足を前に出す。空中でその腕を自分の肩に載せてをひねり、守護(ガーディアン)ゴーレムの元を蹴る。守護(ガーディアン)ゴーレムはその衝撃をものともせず、今度はを前に出してきた。ニーナは守護(ガーディアン)ゴーレムのを足場として上に跳ね、さらに天井を足場としてまた跳ねると、スタッと著地をした。まるで曲蕓のようなきだ。
「やるねぇ、ボタンを狙ってくるのは想定ってことか。じゃぁ次はどうかな」
【強化(ボディブースト)】
ニーナはカギ爪のような形をした武を構えた。守護(ガーディアン)ゴーレムの注意はニーナに移っている。マートはモーゼルを手助けして立ち上がらせると自らの背後に庇いつつ、戦いの邪魔にならないように部屋の隅に移した。モーゼルがさっきは唱えられなかった呪文を唱えた。彼の周囲が明るく照らされる。
<地> 格闘闘技 --- 踏み込んで毆る
<地> 格闘闘技 --- 踏み込んで毆る
が合図になったかのように、守護(ガーディアン)ゴーレムがニーナに向かって一気に突進した。ニーナもほぼ同時に前に出る。お互いの踏み込み、拳とかぎ爪が差してガツンといもの同士がぶつかったような音がした。守護(ガーディアン)ゴーレムとニーナは恐ろしいほどの速さですれ違ったが、それほど広くない部屋の中で立ち位置をれ替えただけで再びにらみ合った。
「わぁ、だめかぁ。ほんと、いねぇ、こっちは効かないかなと試してみたけど、蠻族特効はゴーレムにはやっぱり効果なしかぁ。魔獣スキルに影響を與えてるなら可能もあるかなと思ったんだけど。じゃぁ、やるしかないかな」
ニーナはトントンと軽くジャンプしながら守護(ガーディアン)ゴーレムのきを見る。そして、今度は脇を締め両腕を広げるようにして守護(ガーディアン)ゴーレムに向かって走り出した。呼応するように相手もニーナに向かって走り出す。ニーナはその姿勢から守護(ガーディアン)ゴーレムの関節部位を狙って突きを何度も繰り出した。
<巖破> 格闘闘技 --- 裝甲無効技
守護(ガーディアン)ゴーレムは左肩を前に出すことによってニーナの狙いをずらし、そのままニーナの懐に飛び込んだ。攻撃の隙を突いて弾き飛ばそうとする。
<逆突> 格闘闘技 --- カウンター攻撃
ニーナはにやりと笑った。タイミングを待って、甘んじて當たりをけた。両腕を攻撃のために突き出した姿勢のまま突き飛ばされながらも、をひねって守護(ガーディアン)ゴーレムの首の後ろを覗き込む。
【毒針(ポイズンニードル)】
カタン!
守護(ガーディアン)ゴーレムはきを停止した。
「毒針で停止ボタンを押したのか、よく狙えたな……」
マートは心した様子でそう呟くと大きく息を吐きだした。
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