《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》391 逃亡者の話

逃げていた男は後ろで戦いが始まったのに気づいて振り返った。そしてあっという間に蠻族たちがすべて倒れ伏したのに驚愕の表をうかべて足を止めた。

「な、なんと……」

「安心せよ。蠻族は倒した」

シェリーがにっこりと笑って聲をかける。だが、男は表を凍り付かせ、警戒をしているようだった。

「べ、べぇ……ありがどうごぜいやず」

いつでも逃げだせるような勢を保ちつつ、男はあわててお辭儀をした。

「私たちはローレライ侯爵家のジュディとシェリー、あなたはパーカー殿の配下の方かしら?」

ジュディにそう言われて男は首を振った。

「あ、あぁっど……あっじばごの森に逃げ込んで猟をじで暮らじでる者でモンティど申じやず。パーカー殿どおっじゃるのば伝説の領主様でやんずよね。生憎、あっしば存じ上げまぜん」

ジュディとシェリーは顔を見合わせた。

「このあたりに隠れ里を作っているという話を聞いたのだけど、知らない?」

「申じ訳ありやぜん。あ、あの、お禮を差じ上げだいのでやずが、今日の獲も全部逃げる途中で放り出じでじまっでおりやじで……」

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「どうする? シェリー」

シェリーはぼろ布で剣についたをぬぐい鞘にしまう。男はその様子をじっと見て、安堵したのかその場に座り込んだ。そうしているところにアンソニーたち3人が追いついてきた。

「ジュディ様、シェリー様 ご無事で?」

「もちろんよ。ホブゴブリンはたぶん生きていると思うから縛り上げて頂戴。他に生きているのが居たら同じようにね。死骸はいったん回収して後で処分するわ」

ジュディにそういわれて、アンソニーたちと一緒に戦った跡を片付け始めた。

「そなたは、この森に逃げ込んで猟をして暮らしていると言ったな。どれぐらいになるのだ?」

シェリーはモンティの橫に立って話を聞き始めた。

「ぞろぞろ5年になりやず。ごごがらずっど南の村の出でやず。母親をゴブリンに殺ざれで怒りのままぞのゴブリンを殺じでじまいやじだ。ぞの上ぞの後怖ぐなっで逃げ出じでぎでじまいやじだ」

そう言って、男は顔を伏せた。逃げ出してきた村に対して罪悪じているのかもしれない。

「それで、ずっと獨りでこの森で暮らしているのか。ほかに同じように暮らしているものはいるか?」

「べぇ、あっじの知っでいる限りでば3人ぼどでやじょうが。お互いぼどんど干渉じやぜんが、ごくだまに森で遭うど挨拶程度ば……」

「それらと接するすべはあるのか?」

モンティは首を傾げて考え込む。

「ピピンどいうあっじより長ぐごの森に住む爺さんがおりやず。どうじでも困っだごとがあっで連絡をどりだがっだら、亀石の左足に矢を挿じでおげど言っでぐれでおりやしだ」

「挿して置いたらどうなる?」

「明げ方に亀石のどごろにぎでぐれるどいう話でじだ。だだ、毎日見れるわげでばないがら、ぞの時ば見だ日の翌日になるどいうごどで」

程な。その亀石というのはどこにあるのだ?」

モンティは亀石のある場所と見つけ方を教えてくれた。5mほどもある巨大な亀の形をした巖らしい。

「あともう一つ質問だが、巨人たちは猟犬を連れてこのあたりをよく見張っているのか?」

「ごんなごどばばじめでのごどでやず。猟犬なんぞに追いがげられでどうじようがど思いやじだ。あの……騎士様だぢの仰っだローレライ侯爵家どいうのば、いっだいどごの貴族様で?」

「ここからはるか東、船で何週間もかかるところにある陸地に領地を持っている」

「ぞれば、ピール王國に仕えでいらっじゃる?」

「ピール王國? ピール王國ははるか昔に滅びたと聞く。われらはワイズ聖王國に仕えている」

「その、ローレライ侯爵様ば蠻族ど戦っでいらっじゃるので?」

彼はローレライ侯爵家の事、ワイズ聖王國の事などをシェリーに尋ねた。聞くと蠻族を追い払ってくれそうなのか興味があるらしい。彼は得意げに蠻族との戦いについて詳しく彼に説明をした。

「なるぼど、ぞのローレライ侯爵ば魔王イクソルトを倒ぞうど?」

「その通りだ。私も一度奴の片腕を切り落としたのだがな。とどめを刺すことはできなかった」

シェリーは巨大集落の上空でおこなった戦いの事を思い出しながらそう話した。モンティは大きく嘆した聲を上げた。

「シェリー、片付け終わったわ。そっちの話はどう?」

見ると、戦った痕跡はきれいに片付けられ地面にの跡も殘っていない。ホブゴブリンとゴブリンが1ずつ縛り上げられている。

「うむ、大終わった。モンティと言ったな。気を付けてゆけよ。一応蠻族の死は片付けたが警戒は厳しくなるやもしれぬがな。あと、我々の話は口外無用で頼む。蠻族には奇襲をかけたいのでな」

「へぇ、ありがとうごぜいやじだ」

彼は我に返った様子で深くお辭儀をするとその場を立ち去って行ったのだった。

「パーカー一族につながりそうな報はあった?」

ジュディは尋ねたが、シェリーは首を傾げた。

「微妙です。どこまで信頼できるかわかりません」

「そう、わかったわ。ゴブリンはどうしようかしら。ここで夜営するのも危険だし、暗くなってきたから移するのも危険ね。一度ローレライ城に戻って貓(キャット)と相談してからにしましょう」

ジュディの提案に皆は頷いたのだった。

読んで頂いてありがとうございます。

誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

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