《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》397 大作戦會議
數日後、ローレライ城の広間には再び侯爵家の主たる連中が集められた。中央の一段高いところに進行役のアレクシアが立ち、その下に筆記役の部下が機を並べている。そして、彼を囲むように椅子とテーブルが並べられ、そこには侯爵であるマート、政であるパウルやライオネル、ケルシーといった面々、騎士団のシェリー、オズワルト、アズワルト、蠻族討伐隊のワイアット、アマンダ、バーナード、衛兵隊のアニス、魔法使いのジュディやエリオットたち、そして王のライラも混ざって座っている。一部長距離通話の魔道で參加している者も居た。
「さて、報はかなり出そろったと思う。今日はライラが來てくれているが、遠慮する必要はないぞ。みんなの正直な意見を聞きたい。何を優先するか、そして何を譲れないか……ってとこだ。今時點ではとてもじゃないが無理ってのもある。だが、それについて考えをみんなと合わせておきたいんだ。アレクシア、今考えられることについて、軽く整理してくれねぇか?」
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「わかりました」
アレクシアが立ち上がり手許の資料から殘る目標を項目別に述べ始めた。事前に彼とマートとで考え得る目標を整理したのだ。それには以下のような項目が上げられた。
①霜の巨人(フロストジャイアント)退治
・霜の巨人(フロストジャイアント)は転移呪文が使えるため、何度も逃げ出されています
②炎の巨人を生み出すための施設(神殿?)の破壊
・地下深く降りる階段も含めての破壊なのか、り口を封鎖するだけで良いか
③巨人の里の殲滅
・裂け目の周囲には多くの巨人が住んでいます
④ピール王國跡の破壊
・跡を果たして破壊できるのかという本的な問題もあります。魔法陣さえ壊せば可能なのかもしれません
⑤ピール王國跡の奪取
・奪取ということは破壊せずに今後も我々で確保する必要が出てきます
⑥オーラフ島の開放
・アレクサンダー伯爵領より広い地域で村々をゴブリンが占領しています
⑦蠻族の壊滅
・なくともダービー王國國境地帯の長城の外側にある蠻族側の5つの拠點及び蠻族の島について
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⑧古都グランヴェルの奪還
・ダービー王國の南半分はまだ蠻族の占領下にあります
アレクシアの説明に、みんなうんうんと頷きながら聞いていたが、⑥⑦⑧に関してはアニスとパウルは苦い表をしていた。人數的に厳しいと考えているようだ。
「できれば、霜の巨人(フロストジャイアント)をやっつけたいね。あいつさえ倒せば後は全部勝手に解決する問題だろ。あと蠻族の島についてはかなりの數を減らしてる。占領することも可能だと思うね」
アマンダの聲は明るい。蠻族の島というのはミュリエル島から北東に進めば見えてくる島だ。ミュリエル島と同じぐらいの面積をもっており、この島を占領すれば海での蠻族の行はかなり制限されるものになるだろう。
「ピール王國跡はできれば研究をして活用したいと思います。もちろん前世記憶に関してはこれ以上裝置での付與はしない方向としたい」
バーナードはそう主張したが、ワイアットからは研究所だけを殘して他はさっさと壊してしまうべきだという聲が上がった。蠻族討伐隊からは前世記憶に関する忌避は強く、を守れる者と話しただけだがその技は闇に葬ってしまいたいとの聲が多く上がったらしかった。
これについては、実はマートも一度ライラ姫とこの會議のし前に話し合っていた。以前から聖剣がピール王國で作られたものであるということなどを公にすることは聖王國として許容できるのか微妙なところだからだ。彼の意見としては技者の間で知識として殘すことは必要だが一般に流布するのは避けたいというものだった。それについては気をつけないと聖王國のり立ちを貶めることになりかねないというのはマートも理解していた。
「とりあえず、前世記憶を利用してスキルを習得するというピール王國の計畫については、魔導機械を停止させるということでいいんだな?」
マートは皆に念を押した。そうする事によって魔や蠻族の特徴を持つ子供が生まれなくなる代りに、生まれながらのスキルというのは無くなることになる。その結果、今のように剣や魔法の素質が高くすぐにそれに到達するようなことは無くなるのだ。蠻族や魔とのバランスも大きく変わってくることになるだろう。
「も、もしかしたら、対象を人間だけに絞り込むことが出來たのなら……」
ローラがそう言いかけたが、マートは首を振る。
「ピール王國がしようとしてできなかった事に敢えてこれから挑戦しようってのか? 最初の魔王を生み出したときにピール王國の魔法使いたちは當然それは考えたはずだ。だが、それは出來なかったんだろう。連中は前世記憶の裝置も止めず、聖剣を創り出す事によって対処しようとした。だが、その方法も危うく破綻するところだった。それが今だ。同じ轍を踏むのは避けたいな」
ローラは頷いた。他のメンバーも頷く。
「霜の巨人(フロストジャイアント)たちが何をしているのかわからない。無茶苦茶に壊すとなにかしらの暴走があるかもしれない。萬が一の事を考えて安全に停止させれるだけの研究は続けさせてほしい。安全に停止してからこれを殘すか殘さないかは落ち著いて議論したい」
バーナードがそう言った。
「んー、ってことは、古代跡に忍び込んで破壊工作をするのはダメってことかい? 占領ねぇ……ってことはかなりの人數が割かれちまうね。アニスの姐さんが言ってた話も考えると是が非でも今回霜の巨人(フロストジャイアント)の息のは止めたいところだね」
アマンダが考えながら言う。
「姐さんが言ってたこと?」
「オーラフの島に居る連中を保護したいんだが、それをするには衛兵隊だけでは手が足りない。蠻族討伐隊からも人を出してほしいって話があってね。あれほどの大きさの島だし、住んでる人も多い、わからなくもないんだけどさ。人數的にはそれをするとしばらくは外には攻め込むのは無理になるね。最初の話に戻ると⑤と⑥、跡の奪取とオーラフ島の占領をするんなら②③⑦⑧、蠻族の拠點と古都グランヴィルに関してはしばらく無理って事さ」
「一時的な襲撃はどうなんだ?」
「まぁ、奇襲攻撃だけならね。だから人間の奪還は継続できる。でも蠻族を討伐してそこを占領するっていう本格的な攻撃は無理だよ? 蠻族の島についても一旦はお預けだね」
「ということは蠻族討伐隊から衛兵隊や政についてかなりの數を回してもらえるってことでいいんだね」
アニスが念を押す。アマンダはワイアットの顔を見た。彼はしぶしぶといった様子で頷いた。
「みんなの意志として前世記憶を作する魔導裝置については止めるってことは優先したいってことで良いってことだな。あと気になるのはそれと霜の巨人(フロストジャイアント)を倒すこととはどっちが優先かってことだが……」
マートはそう言って皆の顔を見まわした。
「んー そう言われるとあいつは転移呪文で逃げるからねぇ。それよりは前世記憶持ちが生まれないようになるほうが優先かね。あいつは倒せたらラッキーぐらいに思わないと仕方ないんじゃないかねぇ」
アマンダがすこし諦めた様子でそう答える。
「魔法無効化すれば転移はできないけど、龍鱗を破るための聖剣の魔法効果も消えちゃう。難しい所よね。タイミングを測る練習はシェリーと私とでずっとやってきたけど、それも完璧じゃないわ。あとは呪文の再使用時間(クールタイム)である30分を利用するぐらいかしらね」
ジュディもそれぐらいしかないかと首を振る。
「そうだな、アレクシア、コリーンの報告では霜の巨人(フロストジャイアント)は巨人の里からよく転移呪文を使って居なくなっているっていう話だったよな。転移先はオーラフ島なのか? 規則はあるんだったらそれを利用しよう。すこしは可能が上がるだろ。あとは、オーラフ島の跡近辺の戦力の調査か」
「巨人族がかなり居る印象ですが、それでもさすがに1千は超えないでしょう。ゴブリンたちは1萬程度でしょうか」
アレクシアの言葉にアマンダの目がる。それなら行けると考えているのだろうか。
「わかった。あまり時間をかけているとさすがに蠻族も気づく。2週間が限度だろう。目標はとりあえず跡の確保を最優先に霜の巨人(フロストジャイアント)はできれば狙うということでいくぞ。みんなそのつもりで準備と作戦を頼む」
マートの言葉に皆は大きく頷いた。
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