《【WEB版】王都の外れの錬金師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~【書籍化、コミカライズ】》02.錬金師①
呼稱などの表記の揺れが激しかったため、後半部分を父親目線の文へと全的に見直しました。
洗禮式の日がやってきた。
私はお父様とお母様に手を引かれ、王都の教會へやってきた。
今日の日のために誂えてもらった新品のワンピースを著ている。珍しく姉様のお下がりでないのが嬉しい。
神から與えられた職業は、それに関係するスキルの向上率が高く、それは神からの思し召しであり恩恵であると考えられている。例えば、洗禮前から魔法を使える子がいたとして、儀式において騎士の職業が與えられたとする。すると、その子は魔法が使えたとしても魔導師にはなれない。それをむことは、神が與えたもうた職業の拒否、すなわち、『神への翻意』であると、教會から非難されるからだ。そのため、就職希時には洗禮時に渡される『職業証明書』の提示が求められ、適合した職業でないと、そもそも就職が非常に困難な仕組みになっている。
教會には、五歳の子供たちが、親に連れられて沢山並んでいる。その子供たちは自分に告げられる將來を夢想してみんな笑顔でいっぱいだ。
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私も、待ち時間が長いので、とてもソワソワする。
「大丈夫、きっとデイジーも魔導師に決まっているよ」
そう言って、私を勵ますように、お父様が繋いだ手をぎゅっと握ってくれた。
呼ばれる順番は、名簿にある名前の順に司祭様が呼んでいるようだ。おそらく貴族は家格の順、子爵の子である私はまだ呼ばれない。そしてその後に平民の子供たちの洗禮を行うのだろう。
「デイジー・フォン・プレスラリア」
司祭様にやっと名を呼ばれる。
「はい」
と答えて、教會の禮拝堂の一番前中央に歩いていく。
「さあ、この水晶の上に手を乗せて」
司祭様が、私に、魔道の水晶の上に手を乗せるように促した。
私はそれに素直に従う。
「神よ、デイジー・フォン・プレスラリアに五歳の祝福と、相応しき職業をお與えください」
眩いが私の手を覆った。
……そして、示された職業は、『錬金師』だった。
「……魔導師じゃない……」
私は、ぽつりと呟き、神父様に禮をして、急いで歩いて教會を出た。
教會の外に出て、私は大聲で泣いた。
あとから追いかけてきたお父様とお母様が私を抱きしめて、私の背をでて宥める。
でも、兄様や姉様のように當然與えられるとばかり思っていたものが與えられなかったショックに、私はただ泣くことしか出來なかった。
◆
娘に與えられた職業は『錬金師』。
それはあまり貴族家としては喜ばしいものではなかった。娘は、洗禮式から帰るなり部屋に閉じこもっている。
『錬金師』、それは様々なポーションと言われる薬剤を作ったりして、人々の生活を助けるのが主な仕事だという、貴族家には不人気職業だ。伝説のエリクサーや賢者の石を作れる……なんて伝説があるが、本當かは疑わしい。現実には存在しないと言われているくらいだ。
大抵の人はポーション屋などを営む程度、それも、初級レベルで作れるものしか売っていない店がほとんどである。
貴族家への嫁りにしても、その能力を期待した、高齢者への後添いや、要介護者の居る家への介護要員としてまれるような申しれがほとんどで、あまり若い娘にましい婚姻の聲はかからないのが現実だった。
父である私、ヘンリーは考えていた。決まってしまったものをどうするか。
まだ泣いて自室に籠っている娘と違い、私は父親であり、デイジーを娘としてしていた。我が子のために私は考えてやらねばならない。
デイジーの職業が決まってしまったものは覆らず、彼が幸せになれるか否かは、彼が、そして支えるべき私たち父母がどうするか次第だ。
不遇職である『錬金師』と定められてしまった娘に、どのように接し、育てれば、幸福な人生を送らせてやれるだろう。家族を平等にする私は考えていたのである。
……ちなみに、巷では不遇職に決まった子を勘當したりするのが流行りのようだが。そのような選択肢は、私には最初からない。
私は、妻の部屋へ向かった。
「ロゼ、居るかい?」
扉を優しくノックして、するローゼリアに聲をかける。
「ええ、居るわ。エリー、開けてちょうだい」
侍が、その言葉に従って扉を開けてくれた。
部屋にって、私は妻に親の挨拶のキスを頬にする。
「デイジーの今後のことで話したくてね。今、君の時間をくれるかい?」
ローゼリアは、私にキスを返して、しい笑みを返す。
「勿論です、ヘンリー。あの子は私たちのしい子、親として當然です」
そう言うと、ロゼは私をソファへ招き、私は彼の橫に座る。侍のエリーは、二人に紅茶を用意すると、一禮して部屋を後にした。
「デイジーの『錬金師』の件なんだけれどね」
私の切り出しの言葉に、ロゼはコクリと頷く。
「あの職は、怠惰でいれば、たとえ貴族の子といえども、幸福な人生を送り難い職業だ。それは君も知っているよね?」
再びロゼは頷く。子を思う母親の表は憂いに満ちている。
「魔導師の職をいただけなかったのは、あの子には可哀想なことでした。……でも、考えようによっては、あの子の格には、あの職もあながち悪いものではないのではないかと思うのです」
意外な意見がロゼの口から出たことに、私は、ほう、と呟いて興味を持った。
「ロゼ、それはどういうことだい?」
ひとくち紅茶を口に含み、ロゼが答える。
「あの子はとても勉強熱心ですの。あの年で読み書き計算をほぼ習得していますのよ。それに、あの子はもともと植に関しては興味も深いですし、研究熱心です。あの格であれば、たとえ不遇と言われる『錬金師』でも、十分に生業として幸福に生きていくことも可能ではないかと思うのです」
そう言って、デイジーが手をかけて育った薔薇が咲く庭に目をやった。
ふむ、とロゼの意見をけて私は頷く。
「ではまず、あの子に『錬金師』として生きていくことを自ら決意してもらって、……私たちはその手助けをしてあげるのが良さそうだね」
ロゼは子供たちのことをよく見ている賢母だ。さらに口を開いて私に提案する。
「そういえば、デイジーは『植図鑑』や『薬草図鑑』を好んで読んでおりますわ。錬金に関する本を與えてみてはどうでしょう、案外素直に興味を持つのではないかしら?」
「流石は私のロゼだ!」
私は妻の肩に手を添えてにキスをする。
「早速、あの子に必要なものを買いに出ることにするよ!」
私は憂いが晴れたような心持ちで足早に部屋を後にした。
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