魔獣ベヒーモスが倒されて、王都に平和がもたらされた。

戦いにを投じていた者達は、安堵の息を吐き、ある者は力したようにどっと地面に、またある者は櫓の床に腰を下ろす。

あちらこちらに笑顔が浮かびはじめる。

私とマーカスは、そんな前線で活躍してくれた皆さんの周りを走り回って、ポーション不足の人にポーションを配って歩いていた。

そんな時だった。

私は、見知らぬ騎士に両肩を摑まれ、捕捉された。

「……君は聖か？我々を助けてくれた茨がベヒーモスを拘束する前、君は緑ので強く輝いていた。君が私たちを……國を守ってくれたのか？」

その聲に、周囲の目も一斉に私に向けられる。

「……ちょっといいかな」

お父様が、人垣を掻き分けて私のもとへやってくる。

「お父……」

「……しっ」

お父様と呼ぼうとするのを、軽く口元に手のひらを添えられて制止される。

「……この子は私の知り合いの子でね。し借りるよ」

一介の騎士が、魔導師団の副師団長に不服を唱えることは當然なく、私はお父様に手を取られ、その場を立ち去った。

その時、あるひとりの白貓の獣人のが、戦いに出た両親を探すために南門に向かって走ってきた。人混みにもまれる私は、そのとすれ違った事に気づくことは無かった。

◆

私は今お父様と共に王城へと向かう馬車の中で、向かい合って座っている。

暫くの間、そこは沈黙が支配していたが、お父様がようやく口を開いた。

「……ひとまず、君があの場にいたことは置いておこう」

……『置いておく』ね。お説教はあとってことだろう。

「先に確認したいのは、あの騎士の言っていたことだ。デイジー、君は聖なのか？」

お父様は真面目な顔で私に確認する。

「いいえ、違います。私は緑の霊王様の加護を持っているだけで……あ」

その時、私は何か心の中に違和をじた。

『し子』と言って下さった霊王様のお言葉。

確認のために自分に対して鑑定をかける。

【デイジー・フォン・プレスラリア】

子爵家次

力：５０／５０

魔力：５２５／５２５

職業：錬金師

スキル：（鑑定（５／１０））錬金（４／１０）、風魔法（４／１０）、土魔法（３／１０）、水魔法（２／１０）（隠蔽）

賞罰：なし

ギフト：緑の霊王の(・)し(・)子(・)

「たしかに以前はご加護をいただいていただけだったのですが、今【鑑定】で確認したら、『緑の霊王のし子』と……。私は、あの場で、人が傷ついていく様子を見ていることしか出來ない非力さを嘆いていました。そうしたら、霊王様が私の前にご來臨くださいました。そして、私の願いを聞き屆けてくださって、ご助力を賜ったのだと思います……」

「……そうか。デイジー、君は今後どう生きて行くつもりかな？君が本當にむ生き方を、君の父親として知っておきたい。そこまでの加護を持つ者、貴族でも王室でも、どんな立場のものでも喜んで迎えれるだろう。君の『霊王のし子』というギフトは、冗談ではなく、例えばどんな國の王妃の座もめば手にるくらいの存在なんだよ」

『冗談ではなく』などというお父様の顔は、本當に一切の冗談などなく真剣だ。

「……本當はこんなことを考えさせるような歳ではないのに……」

続けてお父様はそう小さく呟いて、下をキリ、と噛み締める。

「お父様、私の將來の願いは既に固まっています。私の事で嘆かないでください」

にこり、とお父様に笑いかけ、噛み締めている下をツン、とまだの細さの指でれて、指摘する。

「が切れてしまいますよ」

私の言葉に、お父様はし表を和らげる。

「で、君の將來の願いとはなんだい？」

「私の願いは、この國の一介の錬金師として獨立し、アトリエを持つことです。そのアトリエは、分の貴賎を問わず來店が可能なように、平民街に持つ予定です。……そのための資金も既に十分ありますしね。ね、『副師団長様』」

あえて、役職名で呼ぶことで、『取引』のことを匂わせる。

「……軍と取引を始めた頃からそんなことを考えていたとはね。五歳の時の洗禮の日の試練がなければ、兄姉と同じく、君はもっと年相応に子供らしくいられたのかな。……あの時に君に決斷を求めた僕達両親が厳しすぎたのかな」

後悔のりじるお父様の言葉に、そうではない、と私は首を振る。

「お父様とお母様が、あの時道を示してくださったからこそ今の私があるのです。あのまま、洗禮の容に腐ってしまっていたら、私はきっと何者にもなれなかったでしょう。そして、アトリエを持ちたいという夢も持つことは葉わなかったと思います」

お父様は、私の言葉に、うんと頷く。

「そうであれば、私は君の父親として、最大限に君の夢を葉えるべく応援するのが役割だろうね」

「……ありがとうございます」

私は父の言葉に、穏やかに頬を緩めた。

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