王城の謁見の間。

そこに、國王陛下を玉座に戴きながら、この國の宰相、財務卿、軍務卿、騎士団長及び副団長、魔導師団長及び副師団長であるお父様、そして、お父様の橫に私が居た。

私とお父様は、一度家へ寄り、謁見に相応しく正裝に著替えている。私も子供ながらに、著慣れないドレス姿だ。なんだか裾を踏みつけて転びそうで怖い。

……そもそも場違いなのよね、私一人が。居なきゃいけない理由はわかってはいるんだけど。

「此度の魔獣討伐、まずは皆、大儀であった。あれだけの魔獣を王都に一歩たりとも侵を許さず、一般市民に犠牲を出さずに済んだ。そなたたち、対応に當たった武人達を、私はこの國の誇りと思う」

「勿なきお言葉です」

軍部の者が一同に禮を執る。

「そして、この度の魔獣の強襲によって、中には命を落とした者もいる。彼らには、分や立場を問わず、武勲を稱え族への見舞金を惜しまぬように。良いな、財務卿」

そして陛下は、財務卿を見下ろし、命を下す。

「承知致しました」

財務卿が恭しく禮を執る。

「そして、デイジー・フォン・プレスラリア」

國王陛下が私の名を呼ぶ。

「はい」

私は、ドレスの端をつまんで恭しくカーテシーをする。

「そなたはまだいにもかかわらず、その錬金師としての立場から、危険を顧みず、戦場に向かう者たちへポーションを無償で配布しに赴いたと聞く。その崇高な志と慈の心、素晴らしい。そなたの貢獻、深く謝する」

「勿なきお言葉です」

私は再度禮を執る。

「ところでデイジー嬢、魔獣を取り押さえた謎の茨の件なのだが、そなたがかかわっているというのは本當か？」

國王陛下が私を見下ろしながら尋ねる。

「いいえ、私のかかわりなど欠片のようなものです。私はあの場で、魔獣によって大勢の人々が傷つけられるのを見て、心の中で嘆き悲しみました。それを、緑の霊王様が聞き屆けてくださり、ご助力くださったのです。あれは、ひとえに霊王様の業です」

私は陛下の問いに事実をお答えした。

「『緑の霊王様』と言ったな。その方と、そなたはどういう関係だ？なぜ、そなたの嘆きを聞き屆けてくださるのだ」

私の回答だけでは、陛下の疑問はまだ解けないようで、再度陛下は私に尋ねた。

「限られた方々しかいらっしゃらないので申し上げます。それは、私が『緑の霊王のし子』だからです」

そう告げて、私は顔を伏せる。

このことを隠すことは容易いのかも知れない。けれど、噓は好きではないし、そもそもこの場であれば、あえて申し上げた方が上手くいくのではないか、そう思った。

その瞬間、その場にいた私とお父様以外の人間がざわついた。

「それは、まことか？事が事だけに【鑑定】で確認をさせて貰いたいのだが、良いか？」

陛下が尋ねてくる。私は、ただ、はい、と頷いた。

急遽、【鑑定】持ちのハインリヒが呼ばれる。

「急ぎのお呼びと伺い、參りました」

ハインリヒが陛下に、そして、その臣下の重臣たちに禮をする。

「この場で判明することは一切他言無用と思え。破るものは厳罰に処す」

陛下が、まず一同に口止めをなさる。その場にいるものはみな、黙って頷いた。

「ハインリヒ、デイジー・フォン・プレスラリアを鑑定し、『緑の霊王のし子』であることを確認せよ」

陛下のお言葉に頷いてから、ハインリヒがじっと私を見つめる。

そして、ハインリヒが私に対して膝をついて、頭を下げた。

「デイジー嬢は、まこと『緑の霊王様のし子』にございます」

「なんと……！」

「我が國に霊王様のご寵をいただく者が現れるとは……」

ハインリヒの回答に、周囲から驚きと喜びと恐れのりじった聲が上がる。

特に『緑の霊王』である。

その『し子』が國にあり、健やかに過ごせるのであれば、その國は緑の穣の恩恵をけかな國でいられるだろう。だがその反面、『し子』を不幸にするような仕打ちをすれば、『し子』は霊王に霊たちの國へと連れ去られて守られると共に、その國は見捨てられる。穣は失われ、その國が砂漠のようになる可能もあるのだ。

國王陛下が立ち上がる。そして玉座を離れ、肩からかけた赤いマントを引きずりながら階段を降りてこられる。そして、私の目の前で一度立ち止まり、膝を突き、こうべを下げられたのだ。

「陛下、それはおやめ下さい！」

私は慌てておやめくださるよう、お願いをする。

「それは出來ない」

しかし陛下は、首を振ってから、膝をついたまま私を見上げる。

「今、この場でだけ、我が國と臣民のために、貴に膝をつくことを認めてしい。そして、我が願いを聞き屆けてしい。……『緑の霊王』に寵されし者よ、どうか我が國に留まりこの國をしていただきたい。その為には、あなたのみはこの國の王である私が必ず守ると誓おう」

まだ二十代の若い王のエメラルドの意思の強いが、私を見つめる。

「私の願いは、いつかこの國の一介の錬金師として獨立し、アトリエを持つことです。そのアトリエは、分の貴賎を問わず來店が可能なように、平民街に持つ予定です。素材の採取のために時折遠出することはあるかもしれませんが、私の戻る國は父母と兄姉のいるこの國です。……アトリエのことについてお認めいただくことと、そして今後も一介の錬金師として扱っていただけるならば、私に他にむものなどございません」

私の言葉に、陛下は笑っている。「無だな」と。

それはそうと、いい加減私は、陛下にひざまずかれるなんて居心地が悪い。

「……陛下、もう玉座へお戻りください。七歳の私には、恐れ多すぎてもう立っていられません」

そこに、お父様も加勢してくださる。

「そうです陛下、娘の膝がさっきから淑の態度を取れぬほど震えております」

そこで場の雰囲気が砕け、居合わせた他の方たちからも笑い聲が上がる。

陛下も笑って私の願い通り玉座にお戻りになられ、そして、宣言してくださった。

「デイジー嬢、そなたの願い、しかと聞き屆けた。デイジー嬢が理想とするアトリエが無事に営めるよう、私もながら見守ることを約束しよう」

そして私は城からの帰り道の馬車の中で、お父様に『し子』のギフトを隠蔽するように言われたのだった。

また、後日、私を含めこの魔獣戦に協力した者達には、その貴賎を問わず、功績に応じた褒賞が贈られたのだった。

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