私とお父様は、馬車で王城へ急いだ。

その馬車の中で、お父様から、第一王子殿下が遅効だが強力な毒におかされ、危ないのだと聞かされた。

馬車を降り、殿下の部屋まで行かなければならないのだが、王子殿下の部屋は王城の奧深く、王家の皆様の居住スペースにあるため、かなりの距離がある。

「デイジーの足では、急がせるのもかわいそうだな」

そう言って、ひょいと私を片手に抱き上げると、お父様は早足で目的の部屋まで向かった。

「魔導師団、副師団長のプレスラリア子爵だ。陛下に『薬が手にった』とお伝え願いたい」

お父様は、部屋の前にいる兵士に言伝を頼んだ。

兵士は、扉をノックし、部屋にり父の用件を伝える。するとすぐに陛下の聲で許可がおり、私たちは部屋の中へと招かれた。

「おお、デイジー！薬を持ってきてくれたというのは本當か？」

陛下は、生死の境を彷徨うい我が子を前に、藁にでもすがりたいといった様子だ。

「はい、『強力解毒ポーション』を作ってまいりました。鑑定の結果、どんな毒にも効果があるそうです」

私は一禮し、ポシェットの中からそのポーション瓶を取り出して陛下に差し出す。

「ハインリヒを呼べ。疑うわけではないが念のため今すぐ鑑定させよ」

陛下は私からポーション瓶をけ取ると、すぐに兵士に命じた。

兵士は一禮すると足早にその場を後にした。

程なくして、ハインリヒが急いで部屋へやってくる。

「鑑定せよとのご命令、どの品にございましょうか」

「これだ」

陛下がハインリヒに瓶を差し出す。

すると、ハインリヒはその瓶をじっと凝視した後、陛下に結果を告げた。

「このポーションは、毒であれば、どんなものでも解毒できると出ております」

ハインリヒは、信じられないと言った様子だ。

「陛下、それを殿下にお飲みいただきましょう！」

年老いた宮廷醫師は、陛下に進言する。

うむ、と頷いて、陛下はそのポーションを醫師に預けた。

ポーション瓶をけ取った醫師は、蓋を開け、ベッドに橫になる王子殿下のもとへゆく。そして、両頬を手で挾んで口を開かせると、しずつ、しずつポーションを口に含ませていく。

「殿下、苦しいのが治ります。お飲みください」

そう醫師に言われると、殿下は素直にコクリコクリとを嚥下させていく。

すると、紫がかっていた顔は、赤みこそまだ戻らないものの正常なのを取り戻していく。だが、殿下はまだ顔を歪ませ、腹部の痛みを訴える。そして苦しそうに息を淺く早く吐く。

……え？あの薬で治らないの？

私は正直、鑑定が全てと思っていただけに自信があった。なのに、治らないというのはどういうことだろう？私は混した。

「お父様……」

私は何かを間違ってしまったのだろうか。不安になってお父様の服の裾をぎゅっと摑んだ。お父様は私の手を包み込んでギュッと握り返してくれた。

「どういうことだ、なぜ治らん！」

陛下は焦れたように、醫師に向かって言葉荒く尋ねる。

「陛下、落ち著かれてください。毒についてはもう大丈夫でございます」

醫師は、焦る陛下を言葉で宥める。

「殿下、々お腹を失禮いたします」

醫師はそう言って、殿下のお腹をしずつ場所をずらして押して行き、殿下が痛がる場所を探る。ちょうどお腹の中央あたりのらかい場所を醫師の細く節張った指が押すと、殿下は大きく顔を歪ませた。

「何かわかったのか！」

陛下の問いに、醫師は頷いた。

「しばらくの間、殿下のおは毒に曬されておりましたから、胃の腑が傷ついておいでです。その傷をハイポーションで癒せば、全快いたしましょう」

醫師がそう言って、頭を下げて見立てを申し上げる。

その言葉に、陛下も王妃殿下も明が見えたのだろう、ほっとした表をする。

「早く治してやってくれ」

陛下が醫師にそう告げると、汗ばんだ額に張り付いた王子殿下の前髪を両脇に優しくかき分ける。

「勿論でございます」

そう言って醫師は助手にハイポーションを取り出させてけ取ると、再び殿下の口元へポーションをゆっくり流し込む。素直にポーションを飲み込んだ殿下は、やがて呼吸が深く穏やかなものになり、僅かながらも頬に赤みがさしてきた。

薄ら瞳を開いて、あたりを見回す。

「……お、とうさま、おかあ、さま……」

そう言って腕をばす。その手を王妃殿下が握りしめ、王子殿下を抱きしめる。

「ウィリアム、よかった……一時はどうなることかと……」

そう言って、かけがえのない我が子の命が守られたことに泣き崩れるのだった。

國王陛下は、そんな妃殿下の背を優しくでてめる。

「宮廷醫師マドラー、そして錬金師デイジー。此度は我が息子のために盡力してくれて、一人の父として、心から謝する」

その言葉に、醫師と私は陛下に「もったいないお言葉です」そう言って、頭を下げるのだった。

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