私は、國の騎士さんたちとの採取を終え、自宅に帰ってきた。

と、その時、廚房へ向かうミィナとすれ違った。

「おかえりなさい、デイジーお嬢様」

ミィナは、お辭儀をして迎えてくれた。

気持ちが落ち著くまでの間、我が家の客として扱っていたミィナは、『デニッシュ』作りを一緒にしてからというもの、暇さえあれば廚房へ見學にり浸り、その結果、彼は我が家の廚房で使用人として働くという選択をしたのだ。部屋も空いていた使用人用の部屋に移り、今は使用人として見習いから始めて廚房で働いている。

ちなみに、私がアトリエを開く時までにしっかりボブとマリアから學んで、將來は私の元で調理人として働きたいと言ってくれている。私は料理が出來ないからとってもありがたい！

今のところ、私についてきてくれるのは、マーカスとミィナ。それとリーフ。今度、三人で將來のアトリエについて、お話したいな。

ミィナと別れた後は自室に著替えに行き、『しゃべりたくナール』を作るために、実験室に移したのだった。ちなみに、普通の令嬢であれば著替えは侍に手伝ってもらうものだが、私の場合獨立することが前提にあるので、訓練を兼ねて極力自分のことは自分でするようにしている。

実験室にる。

『おしゃべりキノコ』と『ドンナ草の』。二つの素材を並べ、作る手順を考える。

前に、『強力解毒ポーション』を作った時のように、素材ごとにエキスを出してから混ぜてみることにした。

そもそも、素材全部をまとめて放り込んでいた今までの方法は、運良く上手くいっていただけで、ちょっと雑だったのかなと、前回の件で反省していたのだ。

まずは、『おしゃべりキノコ』。

みじん切りにして、なめの水と一緒にビーカーにれて加熱する。

【喋りたがりエキス？？？】

分類：薬品のもと

品質：低品質ーーー

詳細：分の出が出來ていない。

したつと、ビーカーのガラス面に小さな気泡が付き始め、だんだんその気泡が大きくなってくる。

そして、気泡がポコりポコりと水面に昇っていくようになってきた。

【喋りたがりエキス】

分類：薬品のもと

品質：低品質ー

詳細：分がし溶けだし始めている。

じゃあ、この溫度で保てるように、加熱を調整して……と。

【喋りたがりエキス】

分類：薬品のもと

品質：高品質

詳細：分が十分溶けだしている。

しばらく加熱を続けると、エキスをちゃんと取り出すことが出來た！

次は、『ドンナ草の』をみじん切りにして、水と一緒にビーカーにれる。

【エキス？？？】

分類：薬品のもと

品質：低品質ーーー

詳細：分の出が出來ていない。

もうしたつと、気泡が大きくなってきた。そして、想定通り沸騰前まで行っても狀態は変わらない。

っこが素材の場合は、沸騰しないと分が溶けだしにくいのだろうか？私は、今後の參考のために、ノートにメモをする。

そうこうしていると、沸騰が始まった。

ボコボコと気泡が泡立つ中、ドンナ草ののみじん切りが踴っている。

よし、沸騰させても大丈夫！

ならこのまま続けて……。

【エキス】

分類：薬品のもと

品質：高品質

詳細：分は十分出されている。

しばらく煮込むと、エキスをちゃんと取り出すことが出來た。

じゃあ、手順の最後、魔石を使ってふたつのエキスを反応させる。

喋りたがりエキスの中に魔石をれ、だいぶ冷めてきたエキスを加える。

そして、丁寧にかき混ぜていく。

【しゃべりたくナール？】

分類：薬品

品質：低品質ーーー

詳細：複數の分同士が反応できていない。

そのままの溫度であまり反応に進行が見られないので、慎重に加溫していく。

やはり、沸騰前であれば品質の低下は見られないので、そこまで上げて、その溫度をキープする。

【しゃべりたくナール】

分類：薬品

品質：低品質ーー

詳細：複數の分同士が反応し始めている。

うん、このままいけばいけるはず……。

私は、棒でゆっくりかき回していく。

すると。

【しゃべりたくナール】

分類：薬品

品質：高品質

詳細：飲んだ量に応じた一定時間、飲まされた相手を好意的にじ、素直になってしまう薬。悪用してはいけない。

……『悪用してはいけない』

そう、そういう薬を私は作った。

錬金とは、そういう使い手の判斷によっては悪いものにもなるモノを作れてしまう立場なのだと改めて思い知らされた。私は、このことは絶対心のどこかにきちんと留めておこうと思った。

◆

『しゃべりたくナール』は、お父様を通じて國王陛下へ渡してもらった。

程なくして、有力貴族が王家に対する殺人未遂容疑で捕まったと、王都中が騒ぎになった。

事件の黒幕は、とある侯爵とその娘。一夫一妻を貫く王に、自分の娘を側へ送ろうとしても斷られ、ならば跡継ぎがいなくなればと王子殿下の殺害を目論んだ。また、娘は娘で、寵をける王妃殿下憎さのあまり、王妃殿下に毒を盛らせたことがあったということが判明した。

その家は貴族籍を剝奪され領地は召し上げ、そして、黒幕の二名は死罪を賜った。

◆

私は、その噂もまだ靜まらぬ頃、國王陛下にお父様と共に王城へ呼ばれた。

會用サイズの小さな部屋へ案される。陛下は、その部屋の窓辺にたっておられた。

「此度は、まだいそなたを、國の醜い爭いに巻き込んで済まなかったと思う。だが、おかげで、私はする家族の安全を得られた。……心から謝する、デイジー」

陛下が立っている窓からは、明るい日が差し込み、しい花が咲きれる庭で散歩をする、王妃殿下と小さな両殿下が楽しそうに笑っているのが見える。その笑い聲が、この部屋の中にもれ聞こえる。とても、幸福そうな笑い聲が。

陛下は私に向き直っておっしゃった。

「全てそなたの作ってくれた薬のおかげだ。デイジー、私に可能なことであればなんでもみを葉えよう。そなたは何をむ？」

「……二度とこのような薬を作ることをお命じならないとお約束ください。そして、私は、一介の錬金師として準備が出來次第、獨立しようと思います。それをお許しください」

私は靜かに陛下に回答した。

「……わかった。そなたのアトリエの開設にあたっては、できる限りの便宜を図ろう。代金も、家族の安全を得られたことに値する額を後ほど送ろう」

「……ありがとうございます」

そうして、私は、この事件でし大人になり、自立するための準備を始めるのだった。

デイジーの錬金師としての立場と、現代の化學者、理學者を重ねてみました。薬になるけれど毒にもなる。便利になるけれど、兵にもなる。難しいですよね。上手く表現出來ていればと思います。

……次からは、アトリエ開設に向けた前向きな話になる予定です！