ある日、お仕事から帰ってきたお父様が、一通の封書を私に手渡した。見ると、封蝋は王家の紋章だった。

「陛下からだよ。この國の商業ギルドは國の監督下にあるから、便宜をはかれるだろうとおっしゃって、國王陛下が推薦狀を書いてくださったんだよ」

うーん、そういえば前回お會いした時は、何となく気まずい雰囲気でのお別れになってしまったし……。お禮狀と一緒に、し目新しい贈りをして喜んでいただきたいなあ。

そう思って、廚房にいるであろうミィナの元へ足を運んだ。

「ねえミィナ。あなたのこの間のデニッシュの新作、陛下への贈りにしたいのだけれど、作れるとしたらいつになるかしら？」

自分の『デニッシュ』を『陛下に贈る』と聞いて、びっくりしてミィナのしっぽがぶわっとが逆だって太くなる。

「はわわわわ……陛下にですか！『デニッシュ』を作る作業を優先してお仕事しても宜しいのでしたら、最短で明後日の朝にはできます」

そう言って、彼の上司である料理長のボブに視線をやる。

「私とマリアでフォローしますから、その日程で大丈夫ですよ、お嬢様」

どんとを叩いて、任せてください！と言ってくれるボブ。隣でマリアも頷いている。

「みんなありがとう！じゃあ、よろしくね！」

その後、「數はお幾つ用意しましょうか？」とミィナに確認されたので、「ご家族四人分の四個以上で、作りやすい個數でお願いするわ」と、ミィナにお任せしてみることにした。

翌々日、準備してもらった『デニッシュ』は、四人分各二個ずつの八個。この間のカスタードクリームの上にりんごと桃を飾ったものだ。それと私がしたためた禮狀を持ってお父様に出勤して貰った。

その日帰ってきたお父様曰く、陛下にとてもお喜びいただけたそうだ。

うん、良かった！

◆

そして、平日のある日、休暇を取得してくれたお父様と一緒に、商業ギルドへ事前に挨拶に行くことにした。

私は、よそ行きのワンピースを著て、髪をお下げに結い、髪飾りとして以前助けた商人さんから頂いたアクアマリンとペリドットの髪飾りをつけて行くことにした。

商業ギルドは、街の中央通りに大きく構えた高くそびえる建だった。

一階から最上階まで全部が、商業ギルドのために使っているというのだから凄い。まあ、この國で商売をしている全ての店を統括しているのだから、當たり前といえば當たり前なのだろうか。

私たちは、建の一階の口からってすぐ側にある、付カウンターへ向かう。

「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょう」

付のが尋ねてくる。

お父様が私を抱き上げた。すると、付嬢にも見やすい高さに私の顔が移する。

「プレスラリア子爵と娘のデイジーです。娘が、先々この街で店を構えようとしていまして。その事前のご挨拶に伺いました」

そう言って、王家の封蝋の押された推薦狀を付嬢に差し出す。

「まあ、國王陛下からのご推薦で開業ですか。上の者に取り次ぎますので、そちらのソファでお待ちください」

付嬢は推薦狀を父に返して、一禮をしてからその場を立ち去った。

しばらくソファで待っていると、先程の付嬢が戻ってきて、ソファに座った私たちの元へやってくる。

「プレスラリア子爵とデイジー様、ギルド長がお會いになるそうです。こちらへどうぞ」

そう言って、ある扉の前まで案される。その扉は開くと、數人がれるほどのただの箱にしか見えなかった。

「この小部屋の中にるのですか？」

私はこの小部屋になどってどうするのかと疑問に思って付嬢へ尋ねた。

「お嬢様は『昇降機』は初めてでしたか」

よくある反応なのだろうか、付嬢はにこりと微笑むと、慣れた様子で説明してくれる。

「私どもの建は高いので、魔道の『昇降機』を使って階の上下を移できるようにしているんです。魔石でいているんですよ」

付嬢は説明しながら、振り手振りで私たちを中へ導し、『昇降機』を作してかす。ウイーンという音と共に上へいているというそれは、なんだが足元がしふわっとするじがして不思議な覚がした。

「面會室はこちらです、どうぞ」

『昇降機』を下りると、いくつか扉があるうちのひとつに案される。付嬢がノックをしてから扉を開けて、私たちに中へはいるように促してくる。

部屋の中へると、恰幅の良い壯年の男が立ち上がって挨拶をしてくる。

「プレスラリア子爵とデイジーお嬢様、お初にお目にかかります。わざわざご足労頂いてありがとうご……」

と、男の言葉が驚きで途切れる。

彼は、以前オルケニア草原に採取に行った時に助けた商人の男、その人だった。