《【WEB版】王都の外れの錬金師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~【書籍化、コミカライズ】》69.國王一家への獻上
そういえば、『遠心分離機』を國王陛下に賜ってから、クレーム・シャンティを作るのが遅れ、ご褒に『遠心分離機』をお願いした時に話題にした『クレーム・シャンティ』を使った品を獻上していないことに気がついた。
……あれはとっても味しいわ!ぜひ家族で楽しんで頂かないと!
私は、廚房かパン工房にいるであろうミィナを探した。すると、廚房で後片付けをしているミィナを見つけた。
「ミィナ、お願いがあるの」
「はい、なんでしょう?」
作業の手を止めて、白い貓耳をピッと立てて、エプロンで手を拭いている。
「今度國王陛下一家に謁見するんだけれど、その時に、『クレーム・シャンティ』を使ったものを何か獻上したくて、ミィナに相談に來たのよ」
廚房に置いてある休憩用の椅子に腰掛けて、ミィナに用件を告げた。
「はわわわ!獻上の品ですか!ちょっとお菓子の本を持ってきますね!」
そう言って、三階の自室に本を取りに行ってしまった。
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どうもミィナは、給料を貯めては料理の本を買うことに費やしてしまっているらしい。本といえば高価なものだから、の子らしく自分の洋服とかに使えないんじゃないかと心配になるのだが、休憩時間などに近くの本屋に通って次に買う本を日々するのが彼の楽しみで、やーっと買うことが出來た瞬間がとても幸せなのだという。
……雇用主としてそういうものは買ってあげた方がいいかな……。経費に近いし。
今度別の機會に話し合わないとね。
なんて考えながら待っていたら、ミィナが本を抱えて階段を降りてきた。
「お待たせしました!」
そして、戻ってきたミィナは、廚房の清掃済みの作業臺の上に本を乗せる。私達はその本の近くに椅子を寄せた。本は、前にも見せてもらった製菓に関する本である。
「どのお菓子に『クレーム・シャンティ』を合わせましょうかねえ……」
そう言いながら、パラパラとページをめくる。
「あら?」
止まったページは、「シュー」という丸い焼き菓子だ。
「これは、中が空になる口當たりの軽い不思議なお菓子なんです。これに半分切込みをれて、たっぷり『クレーム・シャンティ』を挾みませんか?」
「それはいいわ!持っていくのにも、型崩れの心配がないわね!」
私達は、それを『シュー・クレーム』と名づけて獻上品に加えることにした。
◆
ようやく謁見の日を迎えたその日。
冷卻用の氷をれた箱に『シュー・クレーム』をれて持ち、馬車で王城へと向かった。
こういう時のために誂えてあったドレスはモスグリーンの生地をベースにしてドレープたっぷりに。中央は白い生地を絞って作ったシャーリングとレースで飾ったデザインになっている。の中央には、同じモスグリーンの生地で細めのリボン飾りが付いている。さすがにもうポシェットは失禮だから、小さなハンドバッグの中に獻上する指を収めた。
ドレスの著付けは一人では出來ないので、ミィナに手伝ってもらう。
ちなみに、アナさんとリィンにも一緒に行こうとったのだが、「そういうのは貴族の仕事」と一蹴されて一人で寂しく城へ向かった。
案された部屋は、王城の奧の家族のお住いにほど近い小ぶりの客間だった。
「久しぶりだね、デイジー。堅苦しくしてないで座っておくれ」
し待っていると、ご家族揃っていらっしゃって、席を勧められたので、一禮をしてから著席した。あとは、鑑定のためだろう、ハインリヒさんも同席している。
「デイジー嬢って言ったら味しいパンの子だよね!今日も味しいもの持ってきてくれたのかな?」
同い年のウィリアム殿下がワクワクした面持ちで尋ねてくる。
「まあ、あのあまぁいクリームの方?」
マーガレット殿下も期待でにっこりしている。
……持ってきて良かったわ。
私はほっとをなでおろした。
「もう!ウィリアムもマーガレットもはしたない……ごめんなさいね」
王妃殿下が恐しておふたりを嗜めていらっしゃる。
「大丈夫ですよ。今日は新作を持ってまいりました。こちらの箱に収めているものは『クレーム・シャンティ』をたっぷり挾んだ『シュー・クレーム』です。後で冷やしてお早めにお召し上がりになって下さい」
私はニッコリ笑ってテーブルの上に置いていたその箱を差し出した。
「ありがとう。後で家族で賞味させてもらうよ」
國王陛下が箱をけ取られた。
「それで本日の本題なのですが……私は金屬をまぜあわせるという錬金を學びまして、それでできた品を獻上いたしたく、お伺いしました」
そう言って、ハンドバッグから『守護の指』四個と『子授けの指』を二個差し出す。
「こちらの四つ揃いのものは『守護の指』と言って、あらゆる狀態異常を防ぎ、裝備者の力を徐々に回復する魔法の指ですので、皆様おひとつずつにつけていただければと。そして、こちらのペアのものは『子授けの指』と申しまして、仲睦まじいご夫婦のをより深め、子を授ける力を持つ指ですので、國王陛下と王妃殿下ににつけていただければ、きっとコウノトリが子をさずけてくださいますわ!」
……うん、ちゃんと説明できたわ!
「……コウノトリ……」
しかし、私の説明に、何故か陛下がぽかんとしている。ん?コウノトリはコウノトリでしょう?
「ああ、いや。デイジーにも、年相応なところがあるんだなって思ってね」
そして、口元を隠してくっくと笑われてしまった。
「陛下、笑っている場合ではありません!デイジー嬢の説明が確かならば、これらの指、國寶級を含めて素晴らしい贈りですわ。ハインリヒ、確認してみてくださる?」
口元を隠してらっしゃるその手を、王妃殿下は軽くパシンと叩いて、ハインリヒに鑑定するよう指示する。
彼はじっと全ての指を確認した。
「……デイジー嬢のお言葉に誤りはありません。『守護の指』は皆様のを守る素晴らしい品ですから、早々にお著け下さい。そして、コホン、『子授けの指』については、國を憂える臣としては、お早めにお二人に効果を確認していただきたく……」
やや頬を赤くしながらハインリヒが進言した。
すると、そのあとの王妃殿下の対応が素早かった。王妃殿下はお子様方と陛下とご自の指に『守護の指』をはめる。さらに『子授けの指』をご自と陛下の指にはめた。
「デイジー、本當に素敵な贈りをありがとう。お禮は後日沢山おくらせていただくわ!ちょっと急ぐので、これで失禮しますわね。ハインリヒ!子供たちと『シュー・クレーム』をお願い。陛下、私達は參りますわよ!」
「妃よ、何をそんなに慌てているのだ」
「私たちには、これから『公務』があるのです!」
そう言って王妃殿下は國王陛下を連れ去って行った。
後には、土産と子供を押し付けられたハインリヒと、私が取り殘される。
「……いや、何も今すぐに『公務』に向かわれなくても……」
ハインリヒが呆気にとられたように、去っていかれる王妃殿下と國王陛下の背を見送る。
「ご公務なら急がなくてはならないのでは?」
私は、『公務』の意味するところがわかるはずもなく、言葉通りにけ取りながら見送った。
殘された二人の會話は噛み合うことは無かった。
◆
後日談。
三か月ほど過ぎたある日、王妃殿下のご懐妊が報じられ、翌年には雙子の王子殿下と王殿下がお生まれになり、國中が祝賀ムードに包まれた。またその後も、數年おきにお子に恵まれるようになり、王妃殿下の悩みは解消された。そして、私とリィンは、お子様が生まれる度にお誕生のお祝いに、殘りのインゴットから『守護の指』を作ってお贈りするのが恒例となるのだった。
……コウノトリさん、やったね!私は心の中でお祝いするのだった。
殘りは冒険者2人に渡せば完了!
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