《【WEB版】王都の外れの錬金師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~【書籍化、コミカライズ】》98.卑怯な決闘申込

練習場から帰ってきたお父様、お兄様とお姉様。そして、お母様、私とアリエルが、居間のソファで顔を合わせていた。

「急に、職業神様から神託が下ったって連絡があってね……」

「突然、『賢者』と『聖』になれと言われたんです」

そう言って、お兄様とお姉様がため息をつく。

お兄様は十二歳、お姉様は十一歳。

五歳の時に『魔導師』と職業をいただいて、それに見合うようにと五歳の頃から努力してきたのに、さらなる試練が課されたのだそうだ。

確かに『賢者』と『聖』は、與えられるものは國に一人いればいい方で、とても譽高い職なのだけれど……。五歳に神託をいただいて、人の十五歳までに努力するのに比べて、十を超えてから十五までに習得せよとは、なかなか過酷なご神託だと思わない?

「私は、聖が使う魔法と聖魔法の素養はもともとなかったので、この歳から人する十五歳までに習得しなければ!と張り切っておりましたわ。でも、前の、聖を剝奪された方が、『正當な聖を決めるために決闘を申し込む』と言って手袋を投げつけにいらして……挙句に、『聖なんだから、決闘に使うのは聖魔法と魔法だけでいいですわよね!』って……!」

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お姉様が膝の上で握った拳がふるふると震えている。

「私、まだ転職してと聖の適を得て一週間なのよ!酷いと思わない?」

そう言って、お姉様が爪を噛む。貴族の令嬢としてしてはならない仕草。でも、それほどまでに憤っているのだろう。隣に座るお母様が彼をなだめるように、肩をでてその爪を噛む指を下ろさせた。

「あれ?前の聖を剝奪された方って、聖系の魔法を使えるんですか?」

一緒にその魔法適正ごと奪われるのかと思っていたので、ちょっと考えが追いつかずに聞いてみた。

「『職業の剝奪』なんて、あまり例のある事じゃないから詳しくはないけれど、それがどうも使えるみたいなんだよね。じゃなきゃ、特にダリアの聖魔法縛りはり立たないだろう?ああ、そうだ。噂だと二人とも『魔導士(・)』になったらしいよ」

とすると、多分聖系の魔法は相手の方がより上の魔法を使える可能があるわけね……。

ちなみに、『魔導師』と『魔導士』も、職として微妙に異なる。『魔導師』は、『師』の字のとおり、『人を指導する』管理職になれるが、『魔導士』の場合は、命令にそってくしかない魔法兵止まりである。

「私もね、學校の最上級生で、家柄と績は良いのだけれど、素行の悪い侯爵家の先輩がいてね。彼とは一年距離を置いておこうと思っていたら、神託で、彼の『賢者』は剝奪、そして私に指名するときたからねえ。いや參ったね。おかげで私もその先輩に手袋を投げつけられて決闘を挑まれる始末だよ。あの先輩、あえて賢者かごく一部の人しか適を得られない重力魔法を使ってね、嫌がる相手だろうと強引に跪かせて喜んでいるような人でさあ……嫌なんだよね」

お兄様は、やれやれといった様子で肩を竦めた。

「まあ、そういう家庭の事もあって、私も子供のために休暇を取る事を認められてね。それで、練習場で二人の特訓をしていたというわけなんだ。そもそも子爵家の分際で格上の家格のご子息・ご令嬢の職を奪ったみたいに當人の親に言われるもんだから、職場で肩も狹くてね。軍務卿が見かねて配慮してくださったんだよ……」

お父様が疲れた様子でため息をつく。

……本來なら喜ばしいことなのに。

決闘云々がなければ、まだ大変だとはいえ、お兄様もお姉様も人の歳までにはと努力をされたのだろう。でも、面倒なのは、神託を逆恨みして決闘を申し込んできた二人だ。一ヶ月後が決闘の日なのだそうだが、これは酷い。特に、お姉様の狀況ははっきり言って嫌がらせとか八つ當たり、お姉様に恥をかかせたいとか、そんな目的がみえみえだ。

「うーん、私はそう言う貴族の大人の事には疎いんですけど……でも、決闘って斷れませんでしたっけ?」

確か、手袋を投げつけられたとしても、それを拾わなければよかったような気がしたのよね?

「私の場合は……、侍と共に街に出ていた時に、元聖とその取り巻きに囲まれて、拾ってもいないのに、『拾ったぞ!決闘だ!』と強引に噓の事実を立証されてしまいましたの……一、一ヶ月でどうしろと……」

気の強いお姉様なのに、むしろ、気の強いお姉様だから、勝ちたいのに勝機が見えない悔しさなのか、目に涙をうるませて、膝に置いた拳をぎゅっと握りしめる。

「まあ、私の場合も、場所が學園だったっていうだけで、あとは概ね同じ狀況かな。どうもあの二人結託しているようだから」

そう言って、レームスお兄様がやれやれと肩を竦める。

「ご家族のお話に口を挾んでしまって申し訳ありませんが……しお聞きしてもよろしいですか?」

今まで黙っていたアリエルが突然話に參加してきた。

「あ、アリエルは魔法や聖魔法も使えるものね!なにかアイディアとかあったりする?」

うん、お姉様より使いこなしている分、なにかいい案を持っているかもしれないわ!

「デイジー様のお姉様は、今、聖魔法と魔法のスキルはどれくらいですか?それと、総魔力量は潤沢にありますか?」

「今は、ヒールとライトボール、ホーリーライト……基本魔法ができるようになったばかりです。でも、魔力量はかなり潤沢にありますわ」

そして、やはりお姉様は悔しそうに俯いてしまう。

「なるほど……でしたらまだ勝機はあるかもしれません。デイジー様のお兄様、お姉様。私はデイジー様に生まれ故郷を救っていただいたです。ですから、デイジー様のご家族が困っていらっしゃるなら、それを手助けするのはご恩返しのようなものです。……お力になりますわ」

にっこり笑う見かけ七歳児。私を除いた家族は困顔だ。

……當然よね。

私の家族の困した顔を見て、アリエルが、はた、と気がついたといった様子で言葉を付け加える。

「ああ!子供にしか見えないので驚いてらっしゃいますね!種族の関係でこの見た目ですけれど、私、五十歳ですから」

ニコッと笑って実年齢を告げるアリエル。

告げられた家族はぽかんとしていた。

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