《【WEB版】王都の外れの錬金師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~【書籍化、コミカライズ】》99.決闘當日
アリエルがお姉様とお兄様の特訓のサポートにって一ヶ月。アリエルは結局その間実家の客人として扱われた。
そして、やってきた決闘當日。
ここは、王國の王城の中にある闘技場。本來ならばこんな私怨の決闘ごときに使われる場所では無いのだが、元聖と元賢者側が、『國の聖と賢者として正當な者を決めるための決闘なのだから、然るべき場所で行うべきだ』と主張。挙句、彼らの親も格の高い貴族家で、結託した両家を黙らせることも難しかったらしく、渋々ここで決闘を行わせることを認めたらしい。そして、その名目と立場上、國王一家も観戦されることとなった。
神託を下ろす教會も、心はかなり元賢者と元聖にご立腹だ。何せ『神託に文句をつける』ということは『神に文句を言っている』のと同義だ。しかも、人ので『決闘によって相応しきものを決める』など、傲慢以外の何でもないというのが本音である。教會としては、『神託』がない限り、新たに決まった賢者と聖を変える気は無い。だが、やはり名目と立場上、この國での最高位の聖職者である樞機卿が観戦席にいらっしゃることになった。
広い円形の闘技場の観客席は人で埋まり、その中に私とお父様とお母様、アリエルが二人を見守るために観客席に座っていた。
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◆
まずは聖対決。
十四歳の元聖の勝手な主張により、どちらが聖に相応しいかを決めるべく、『屬』『聖屬』限定での戦いとなる。新聖である十一歳のお姉様は、聖になってから一ヶ月ちょっとしか経っていないのに、酷い條件だと思う。
観戦席で見守る私たち家族の周りの観客たちも、「いくらなんでも新聖に不利すぎるだろう!」「聖様は大丈夫なのか?」と怒りや心配の聲があがっている。
「うふ。どうせ聖になって一ヶ月。どんなに頑張ってもヒールとライトボールが出來ればいい所かしら?ねえ?ダリアさん」
口元に手の甲を添えて挑発して笑う、リリアン・フォン・リッケンドロップ。公爵家の娘だ。
「……そうかもしれませんわね。それならば五歳から先日まで聖だった貴はいったいどれ程の努力をなさったのかしら?」
お姉様の言葉に、リリアンがギリ、と赤いを噛む。
「……生意気だわ……大、本來聖が生まれるといえばリッケンドロップ家。その正當なる後継者にふさわしい華麗で壯大な魔法でその口塞いであげる!」
リリアンが両手をあげる。
「天の門よ。全てを焼き払う神々の……」
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「ライトボール100」
「……え、何それ……」
リリアンが慣れない大魔法を詠唱の力を借りて起する前に、お姉様の頭上に無數のライトボールが浮かび上がる。
「派手なばかりじゃ実戦には向かないのよ!」
お姉様が、片手を振り下ろすと、無數のライトボールがリリアンを襲い、その発により生まれた熱でそのを焼いていく。
「きゃ!いた!あづ!やめ……!」
何度も何度も當てられる『初級魔法』にを翻弄され、リリアンのが踴る。自分から魔法を唱える余裕は與えられない。
審判と回復師が慌てて決闘終了を宣言する。
「勝負あり!勝者ダリア・フォン・プレスラリア!」
リリアンは、服は焼け焦げボロボロで、表を火傷するにとどまらず重癥、回復師の手で治療をけながら擔架に乗せられて退場して行った。
そう、アリエルがお姉様達に教えたこと、それは魔法の『並行起(パラレルシンキング)』。
魔法は確かに初級
そして、二つ目に、魔法というものは詠唱者の実力によって同じ魔法だろうと威力は格段に変わる。そのふたつの要因が合わさった結果、高威力の初級魔法を無數に叩きつけられたリリアンは文字通りボロボロになった。
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そして、上級の魔法になるほど、詠唱を省略した『無詠唱』で起することは難しくなる。『聖』としての『華やかさ』をアピールしようと上級魔法を詠唱ありで起しようとしたリリアンの作戦負けだ。
◆
次は、賢者対決。
お兄様の相手は元賢者のアドルフ・フォン・デッケン。侯爵家の息子だ。
「レームス君。僕はリリアンのようにはいかないから、覚悟するようにね……。重力加増(グラビティ)30」
「重力加増(グラビティ)0」
アドルフがお兄様を地面にひざまづかせようと重力三割増の魔法とほぼ同時に、お兄様が自分に対してゼロ、すなわち、魔法のキャンセルをした。
「……なっ」
「……やると思った。貴方、人前で強引に跪かせるのお好きでしたからね」
キャンセルされたことに揺するアドルフと、予想通りの展開だったようで、余裕を見せるお兄様。
……お兄様、かっこいいわ!頑張って!
観客席で見守るしかできない私は、両手を祈りの形に組んで、固唾を飲んでその対決を見守る。
「じゃあこれはどうだ!スロウ!」
「クイック」
速度低下のハンディキャップを與えようとすると、お兄様はすぐにその反対の魔法を自分にかけてキャンセルする。
「なぜ賢者か限られた魔導師にしか使えない魔法まで使いこなしているんだ!炎の嵐(ファイアストーム)!」
「氷の壁(アイスウォール)!」
そして、足で地を蹴って炎をけ止めるその壁の橫へサイドステップし、次の魔法を繰り出す。
「雷(ライトニング)」
それをアドルフに命中させ、彼を軽い電狀態、すなわち麻痺狀態にした。
「……応用屬の雷、だと……?」
「……一ヶ月、寢る間も惜しんで鍛えましたから。それに先輩、妨害攻撃お好きでしょう。だから、それをキャンセルする方法は優先的に習得したんです。さ、降伏してください。けないでしょう?」
お兄様は、痛めつけることは本意では無いのか、降伏を求めてその場でアドルフの回答を待っていた。
ありえない!ここで膝を突いているのはアイツのはずだ!ギリリと噛んだアドルフのからが一筋流れる。
「降伏するくらいなら……コロシテヤル……」
暗い顔をして、ボソリとアドルフが呟いた。
「……來い、アスモデウス」
から流れたが一滴地面にこぼれ落ちると、そこからアドルフの周りに暗いを放つ魔法陣が描き出され、その地面が溶けたかのように、アドルフの背後に異界の住人が姿を現す。頭にヤギの角が二本、そして背中には墮天使の証の黒い羽。
「……それが、神に見放された理由でしたか」
お兄様は呆れたようにため息をついた。當たり前だ、さらなる強さにをかき、悪魔の召喚という邪法に手を出したのだから。
「転移」
そう呟くと、張本人であるアドルフはどこかに消えてしまった。
突然の異形の出現に、観客は騒然となる。だが、慌てて逃げようとするものたちで詰まった通路は封鎖狀態だ。そして、護衛兵たちも、國王一家を待避させようと導する。だが、陛下だけはその場に留まられた。
「私は、國の長としてこの決闘は見屆けなくてはならないと思う。ウィリアム、お前はお母様と妹を守って安全な場所に逃げなさい」
「……はい、父上もどうかご無事で」
王子殿下は妃殿下達を庇いながらその場を後にされた。
「猊下!どうか安全な場所へ!」
教會づきの騎士に避難を求められるが、樞機卿も首を橫に振られた。
「儂には神の心とその結果を見屆ける義務がある。それに、儂はこの國の聖職者の長。新賢者の手に負えなければ、儂がアレを始末しないとならんだろう?」
そう言って、席にお座りになったままり行きを見守る構えだ。
『それに、ここで相応の実力を新賢者が見せつけることが出來れば……神のご判斷が正しかったと、そして、新賢者にとっても彼こそが賢者と示せることだろう……期待に応えなさい、新賢者よ』
……悪魔を呼び出すだなんて。なにか私がお兄様のお力になれることは……?
私がその場で悩んでいると、お父様が聲を上げた。
「レームス!さすがにお前だけでは荷が重い!私もそちらへ加勢する!」
観客席からお父様が駆けて行って、決闘場に乗り込もうとする。
「ダメだと決まるまで、私にやらせてください。これは私の戦いです!」
「灼熱火炎地獄(インフェルノ)!」
お兄様がお父様を止めて、魔法を唱える。それは、お父様の十八番の、『劫炎』の二つ名で呼ばれる理由である上位魔法。その業火を、お兄様は片手に一個ずつ、計二つ起こしていた。
「……レームス……」
お父様が絶句する。
「……お父様は、私の憧れであり目標、そして、次期當主として乗り越えるべき方。だから、この魔法でアレを倒してみせます。……あなたの息子として」
そう言って、お兄様はお父様ににっこりと微笑みかけた。
『そうだ、私はプレスラリア家の長子、お父様の息子だ。我が家名にかけて、負けてなるものか!』
「私はこの國の賢者、この國を守護する者。……悪魔よ去れ!」
そう言って、お兄様が二個の業火を悪魔に向けて投げつける。しかし、悪魔は黒い翼を広げてその場を逃れる。
「空に逃げるならこうするまで……。灼熱火炎地獄(インフェルノ)!竜巻(トルネード)!」
お兄様は片手に炎を、反対の手に風を起こし、それをぶつける。するとそれは浮き上がる豪炎の竜巻となって悪魔を追いかける。火魔法と風魔法の融合。並行起(パラレルシンキング)の更なる応用だ。
逃げようとした悪魔は、竜巻に飲み込まれ、業火にを焼かれていく。
「……貧弱なものに呼ばれたばかりで力が充ちていないとはいえ……まあ、粘っても割に合わんな」
を焼かれる苦痛に耐えかね、レームスお兄様を睨みつけながらも、悪魔はその姿を消した。
「「レームス!」」
「「お兄様!」」
お父様とお母様、そしてお姉様と私が、レームスお兄様の元へ駆けつける。そして、お父様がその大きな腕で家族を抱きしめた。一緒に見守りに來ていたアリエルも、観客席で笑顔で拍手を送っている。
「……賢者だ……この國の守護者たる若き賢者様だ!」
「そして、これから國を護ってくださる聖様もいる!」
「この國は安泰だ!」
「ザルデンブルグ萬歳!國王陛下萬歳!賢者様萬歳!聖様萬歳!」
國王陛下と樞機卿が私たち家族を目を細めて見守る中、逃げ遅れた観衆たちから盛大な歓聲が上がる。その聲には若き賢者と聖の誕生への期待に満ち溢れていた。
だが、元賢者と同じく、元聖も治療をけると行方をくらまし、その行先は追跡できなかった。本人たちの処罰は葉わず、親の監督不行屆という名目で、その実家が爵位の降格と領地の一部を召し上げられるという形でこの騒は幕を下ろしたのだった。
◆
リリアンはアドルフの転移魔法によって助け出されていた。今は、人気のない森の中に潛んでいる。
「これからどうするつもり、アドルフ」
「シュヴァルツブルグ帝國に亡命する。あそこなら、この國の宗教は関係ない。実力主義で賢者と聖としてやって行けるだろう」
アドルフは心リリアンをバカにしている。聖とちやほやされた挙句くだらない男遊びでを落とした。まあ、だが僕が亡命するまでの回復役と、シュヴァルツブルグ帝國への手土産には丁度いいだろう。能力としては『聖』たるスキルを持っているのだから。
そして、彼らはからある力が抜けたのをじた。『職業神の恩恵』だ。神の溫で『魔導士』を與えたにも関わらず、さらに神意に背く行為を行った結果『無職』『恩恵なし』となったのだ。
「はっ、神がなんだと言うんだ。だったらあの神とは無縁の國に行くまでだ」
彼らは、かつてデイジーの師匠であるアナスタシアやリィンの祖父ドラグが亡命してきた軍事國家を目指すのだった。
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