《【WEB版】王都の外れの錬金師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~【書籍化、コミカライズ】》211.弾というもの

錬金師といったら、お薬を作って役に立つものじゃないのか、とリリーが尋ね、その問いに、優しい笑顔で首を橫に振るホーエンハイム子爵。

「うーん。じゃあ、錬金師がお薬を作らなくてもいいの?」

否定されただけでは、まだ六歳のリリーには理解ができなかったようで、再び子爵に疑問を投げる。

「俺は一通りポーションは作れるけど、専門は火薬だぞ」

そこに、子爵のお孫さんのアルフリートが橫から口を挾んだ。

「あ、またか(・)や(・)く(・)だわ!」

リリーが立ち上がって、アルフリートを指さすものだから、私が慌ててリリーの腕を下ろさせる。

「リリー。人に向かって指さしちゃ、マナー違反よ」

私がそう言って諭すと、リリーは「はぁい」とトーンダウンした聲で答えて、ソファに再び腰を下ろす。

「リリーちゃんは、火(・)薬(・)が何かわからないから、知りたくて仕方がないんだね」

私達姉妹のやりとりを微笑ましそうに子爵が目を細める。

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「アル。君の火薬に関する本の中で、一番易しいものを持ってきてあげなさい」

祖父からの指示に、アルフリートは億劫そうにしながらも、立ち上がって本を取りに客間を後にした。

そしてしばらくするとアルフリートが一冊の本を手に持って帰ってきた。

「これでいいかな」

「ああ、ありがとうアル」

祖父の言葉を聞いて、アルフリートが無言で頷く。

そう言ってテーブルの中央に本を載せると、自分はさっきまで座っていた場所に腰を下ろす。

「どうぞ、見てごらん」

子爵が、リリーに向かって本を開いてみるよう促す。

私の隣で、リリーが本を引き寄せ、自分の手元でその本を開いた。

その本はとても読み込まれているのか、紙の端などが丸くなっている。

「火薬……熱や衝撃をけて激しく燃えるもの」

まず、リリーにとって謎だった、火薬の定義を読み上げる。

弾……鉱山の発破などにより、鉱山開発を推進するもの。また、軍事利用によっても威力を発する……」

軍事利用、という言葉のところで、リリーの口は塞がってしまった。

「戦爭は、教會で、たくさんの人が犠牲にする、忌むべき行為だと習ったわ。……アルフリートは、そんな怖い実験をしているんですか?」

リリーが私にしがみついて、小さく震えながら、アルフリートを必死に睨みつけた。

すると、アルフリートは、「あ〜あ」と言って、両手を後頭部に回して、上目で宙を見ながらため息をつく。

「だから、ヤだったんだよ。しかもその本だって、『戦爭利用』よりも前に『鉱山開発』について書いてある本を持ってきたのに」

もう、拗ねたとか、不貞腐れたというのがふさわしそうな態度で、ソファにだらりともたれかかる。

「ほら、そんなに不貞腐れない。君の研究はそう言う一面も持つんだから、いちいちそういう態度をするんじゃない」

子供とはいえ、客人を前にだらしない態度を見せるアルフリートを、子爵が嗜める。

「だってさあ。俺の弾、國の産業のために役にたってるじゃん。新しい白を作るって話になって、亜鉛の大量発掘が必要になったときに鉱山で使われたの、俺の薬だぞ?」

……え! 白! 亜鉛! カチュアとのあの大騒の時よね!

「あの白を開発したのは、私と仲間達なのよ!」

しがみついているリリーと目線を合わせて、私はし興気味に彼に教える。

すると、その話は家族から聞いていたようで、リリーの目が輝きだす。

「それなら知っているわ。お姉さまがお友達と一緒に安全な白を作り出して、みんなのお役に立ったってこと!」

一気に表が明るくなったリリーに、さらに説明を続ける。

「それを作るためには、たくさんの亜鉛が必要なの。そのために貢獻してくれたのが、彼なのよ!」

すると、リリーがの向きをくるりとアルフリートの方へ向ける。

「すごいわ、あなた! 私と同じくらいなのに、國のお役に立てるなんて!」

拳をぎゅうっと握り、キラキラと目を輝かせて、尊敬を伝えようと一生懸命だ。

「別に、そんなに凄いわけじゃないけどな」

アルフリートが満更でもなかったのか、そして照れ隠しなのか、姿勢を正してから、後頭部を掻く。

「孫自慢ってわけでもないがね。アルは鉱山用の弾作りについては、陛下に認められていてね。今じゃ、それについての生産は、アルを中心に生産したものを納品しているんだ」

……それはすごい。アルフリートは多分七歳前後ってじかしら?

それで國庫に納品だなんて、凄い才能だわ!

「でも、本當に作りたいと思っているのは、そんなじゃない」

賞賛の目で皆から注目されて気を許したのか、アルフリートがポロリと本音をらす。

「……俺は、將來國で初めての、夜空に花を咲かす、『花火』が作りたいんだ!」

「夜空の、お花……」

夢を熱く語るアルフリートのことを、リリーは憧憬の眼差しで、ぼうっと見つめているのだった。

報告に、二巻のカバー絵とコミカライズの開始日を告知しました!

是非みてくださいね!

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