《【WEB版】王都の外れの錬金師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~【書籍化、コミカライズ】》212.リリーの新しい選択肢?
しばらくみんなで談笑したあとのこと。
まず、私と子爵。
教科書の検討について話し合うためにその場に殘った。
子爵が朱書きしてくれたという原案は、侍が持ってきてくれた。
次に、マーカスと、マーカスに懐いているルック。
彼らは、古いものから最新のものまで揃っているという、錬金に使われる(てきた)を展示している部屋を見せてもらえることになった。
なんと、子爵家に仕える錬金師さんの説明付きだ。
贅沢よね。
そして最後に、リリー。
アルフリートを追いかけて、離れの実験室に行ってしまった。
やっぱり、弾というか、花火に夢中になっていたものね。
當然かな、という行だった。
まあ、子爵曰く、アルフリート専用の大人の補佐はいるらしいし、リリーの障壁系の魔法がむしろ役に立つかもしれない。
怪我をすることはなさそうだと思って、私は、子爵との検討に集中することにした。
結局私は、安心して子爵と教科書の改善點について語り合うことにした。
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テーブルの上に置かれた教科書の原案には、たくさんのしおりが挾んである。
「この、しおりを挾んだページが、検討事項があるページだよ」
そう言いながら子爵は、しおりが挾まれた最初のページを開く。
そのページには、『ポーション』という言葉に、赤いインクで線が引かれていた。
「たとえばここなんだけれどね、初めて出てくる用語なのに、『ポーション』って普通に書いてあるだろう? まあ、知っている人が多いだろうけれど、貧しければそれすら目にしたことのない子もいるとは思わないかい?」
そう言って、腕を組んで、私の方を優しい目で見つめてくる。
「……そう、ですね。まずは、『ポーション』という用語の説明をするべきでしたね」
配慮が足りないなあ、と思って私は項垂れてしまう。
「デイジー嬢、大丈夫。自分が理解しているものを、他者も知っていると思い込んでしまうことは、ままあることなんだから。……落ちこまなくていいよ」
そう言ってにっこり微笑むと、次のしおりが挾まれたページに移る。
そのページは栄養剤の素材に関するページだ。
『萬年草』に赤い線が引かれ、その橫に、いくつかの他の植名が書かれていた。
「萬年草が栄養かであることに自力で辿り著いたのはすごいね。ここはね、萬年草と同じくらい栄養がある植があるから、いろんな地域に合わせて応用できるように、その植を書き足してしいんだよ」
なるほど。
私の生活している王都の近くだと、萬年草がたくさん生えているのだけれど、北方や南方といった、気象條件の違う土地では、萬年草は生えず、その代わり代用品となる草が生えているのだという。
子爵の説明は、説明をけていてとても気持ちの良いものだった。
まずは、私の記載は間違っていないとか、ここが素晴らしいとか褒めてくれる。
その上で、「ここはもうしこうしてしいんだよね」と的な提案をくれるのだ。
もしかしたら、子爵の朱れと今日の説明を元に、書き直ししたら、それで教科書のもとが出來てしまうのではないか?
そう思ってしまうほど、子爵の教えはわかりやすかった。
……きっと、こんな先生に習える子達は幸せね。
私は、きっと國民學校、そして錬金科はうまく行くだろうと、安心したのだった。
そうして、一通り指摘事項についての説明が終わった、ちょうどその時のことだった。
ドカン!
また、例の離れから火薬が発する音がした。
とはいっても、変に煙が立ち込めているわけでもなく、従者が慌てている様子もない。
失敗といった様子でもなさそうだ。
すると、扉が開いて、アルフリートがリリーの手を引いて、母屋の方へ駆けてきた。
「じーさん! こいつ、いや、リリーすごいぞ! 聞いてくれよ!」
庭に面した扉からリリーと手を繋いだまま、私たちのいるソファまで連れてくる。
従者は、その後をゆっくりと追いかけてきて、そばに控えていた。
「全く。玄関にも回らず、いお嬢さんを引っ張って走ってどうしたんだい」
そう窘めながらも、どうみてもアルフリートとリリーが喧嘩したとか、そんな様子はない。
むしろ、まだアルフリートがリリーの手を握りしめたままで、こっちまで微笑ましくなるほどだ。
アルフリートが興したように、リリーをソファに座るよう促した後、自分も腰を下ろす。
「こい……、リリーはな、理障壁が作れるんだ! おかげで、火薬実験が格段に安心してできるんだ! しかも、リリーの勘がすごいんだ。火薬の組み合わせを一発で言い當ててくる!」
「……お姉様、そんなに凄いの?」
アルフリートに、以前の態度から一転してベタ褒めされているリリーは、ちょっと當気味なようで、首を傾げている。
「火薬というのは、人々に必要なものだけれど、扱いにはとても危険が伴うんですよ、リリー様。でも、あなたの理障壁があれば、アルフリート様は安心して開発を進めることができるでしょう」
二人を見守ってくれていた従者が、橫から説明を補足する。
「そういうことなんだよ、リリー! なあ、リリーも花火が見たいって言ってくれただろう? 俺と一緒に造らないか?」
アルフリートはそう言って立ち上がると、リリーに片手を差し出した。
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