《【WEB版】王都の外れの錬金師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~【書籍化、コミカライズ】》220.賢者の塔の居住階

リーフと赤竜が仲直りしたあと、泣き止んだ彼は張り切って、上の階を案すると言い出した。

「その前に、あなたの名前はなんていうの?」

うん、名前を教えてもらわないと、ちょっと々と不便そうだったので私が尋ねた。

「ボクはウーウェン。グエンリール様につけていただいたんだ! ねえねえ。上には、グエンリール様の殘した産がいっぱいあるんだ。ボクはそれを守ってきたんだよ。それを、早く子孫であり相続者であるデイジー様に見せたいんだ!」

そう言って、ウーウェンは私の片手をとって、登り階段の方へ行こうと引っ張る。

……ん? 産。そして、相続者?

「ねえ。子孫とか相続者といっても、私には家族がいるわ。とすると、産をけ取る権利は、私の家族にもあるんじゃないかしら?」

まあ、そもそもお父様とお母様のどちらかが、多分何かを隠していそう。

そこを明らかにしないとはっきりしないのだけれど。

「えっ!」

それを聞いて、ウーウェンが目を輝かせる。

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「まだいるの? グエンリール様のを引いた方が! 會いたい! 會わせて! デイジー様!」

私の両手を摑んで大興だ。

「なあ、デイジー。そこの縁ってところ、はっきりしてるのか?」

レティアが私に尋ねてきた。

「それが、わからないのよ。なくとも、昔見せてもらった子爵家……お父様の家系図には載っていなかったわ」

「とすると、そこをはっきりさせるためにも、このウーウェンは家族に會わせて確認すべきだろう。そして、もし本當にデイジーの眷屬になるのであれば、その許可を國王陛下からける必要があるんじゃないか?」

レティアのいうことは、至極もっともだった。

そして、彼の言葉を聞いて、家族に會えそうだということに、ウーウェンは嬉々とした顔をしていた。

そんな彼を見ながら、私はため息をつく。

……そうよねえ。王都で勝手に赤竜飼っちゃダメよね。

「……レティア。お前サラッというけど、王都で竜飼わせる気か?」

マルクが片手で額を抑えながら、レティアに尋ねている。

「だって、これは放っておいても、ついてくるやつだろう?」

「……まあ、そうなんだろうが……」

「デイジーかその家族に絶対服従ならば、國でこっそり抱え込んでいるのに等しい。……あの國王と宰相なら、れる。そう思わないか?」

「……ああ、そうか」

レティアとマルクは、國からの依頼を直接けるくらいの冒険者だ。

口ぶりから推測するに、國王陛下と宰相閣下とも面識があるっぽい。

まあ、ついてきたいって子を連れて行けそうだといってもらえるのは、ほっとするものの……。

……めんどくさいな、この事態。

「ほら〜! 行くよ、デイジー様。あと、お連れのみんなも!」

半ば引きずられるようにして、私は上階へと続く階段を登っていくのだった。

四十六階から四十九階は、ひたすら、本、本、本だった。

各階のフロアを埋め盡くすほどに、魔を中心として、様々な分野の本が、本棚に詰まっていた。

「……すごい」

その量に圧倒されて、私は思わずつぶやいた。

「あれ?」

その中の、羊皮紙でできた一冊の本の背表紙を見ると、見たこともない文字で書かれた本があった。

「それは、古き時代に人が使っていた、古代語だよ」

私が首を捻っていると、ウーウェンが教えてくれた。

「あ! こっちに古代ドワーフ語で書かれた本もある!」

リィンが他の本を手に取ってんでいる。

「エルフの古代語の本もあるわ……」

アリエルも、ありえないといった表で、一冊の本を手に取っていた。

「グエンリール様は、ありとあらゆる書や実験道、そしてボクを従者として、この塔に隠遁されたんだ。彼の興味はありとあらゆるものに注がれていたから、本の數が凄いんだよ。本人が書いた本も多いけどね」

……これ、書いたものは置いといても、他は全部読んだのかしら?

そう考えたら、クラクラしてきた。

「あれ……」

クラクラしつつも、本の背表紙を眺めていると、錬金に関する本を見つけた。

さすがにそれは気になって、背表紙の頭に指をかけて引き出して、手に取ってみた。

……なにこれ。

それは、『錬金における忌』というタイトルの、著者がグエンリール本人の本だった。

「ああ、それは、グエンリール様が書いた本だよ。彼には錬金師の友人がいてね。でも、考えが合わずに袂を分かったんだ。……それも、隠遁するに至った理由の一つなんだけれどね」

ウーウェンがあまり良い思い出ではないのか、苦い顔をしながら説明してくれた。

「ねえ、この本だけ、持っていてもいいかしら?」

私はウーウェンに尋ねた。

「もちろん。だって、相続者だもの」

ひとまずウーウェンの許可は取ったことだし、きちんと保管しておいて、お父様には後で報告すればいい。

そう思って、ポシェットの中にその本を大切に仕舞い込んだ。

どうしても、この本だけは、私は読まなければならないと思ったのだ。

そうして、本ばかりの階を見て回って、最上階の五十階に到達した。

そこは、本棚と、実験、そして最低限生活するためのベッドやテーブルと機、ソファなどがおいてある、人が住んでいたのだろうと推測できるフロアだった。

でもなぜか、そこにあるテーブルにある椅子は、一つだった。なぜかしら? 普通、備え付けのテーブルセットってせめて一対の椅子があるわよね? なのに、一個しかないのだ。

私は不思議に思いつつも、あまり気にしないことにした。

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