《【WEB版】王都の外れの錬金師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~【書籍化、コミカライズ】》223.因果律

「デイジー様は、因果律という言葉を知っていますか?」

アリエルが、私の知らない言葉を口にして、私はさらに首を捻ることになったのだった。

「因果律?」

普段あまり耳にしない言葉だった。

「あるときに発生した事柄ーー原因から、それより先の未來における別の事柄ーー結果が、必然的に生じる場合、そのことを因果律というんです」

「ちょっと難しいわね」

私が戸っていると、アリエルは「そうかもしれません」と同意してくれた。

「何事にも、起きることには原因と結果があるということだ、くらいに思っていただければ、間違いでもないでしょう」

「うーん。それと、この石を私が見つけたことと何か関係があるの?」

すると「そうですね……」とつぶやいて、アリエルが口元を片手でれながら、暫しの間思案げにする。

「デイジー様は、いくつかのこれに類する寶石を手にれてきましたよね」

「ええ、そうね。でも、どうしたらいいか見ることもできなかったから、大切に保管庫にしまっているわ」

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「そうですね。そして、錬金師のデイジー様がその寶石をまたここで手にれた。それの元の持ち主は、錬金師になりたかったデイジー様のご先祖様です」

アリエルが、この寶石に出會った今までの経緯を順を追って説明してくれた。

「なあ、アリエル」

「どうしました? リィン様」

私たちの會話に、リィンが口を挾んできた。

「そもそも、時系列的に言えば、デイジーの祖先のグエンリールがその寶石を持っていた。だったら、デイジーが、何らかの意思をもって導かれたと考えてもいいんじゃないか?」

……あんまり、私の人生を不可思議なものにするのは、どうかと思うのだけれど。

私が途方に暮れているのを他所に、彼達は勝手に話を進めてしまう。

「ああ、確かに。私の母ならいいそうです。『機織りの神の織ったままに』とか……」

「グエンリール様は、その寶石をとても大切にしていて、ボクは『いつかそれを手にする子孫が訪れるまで、大切に保管しろ』って言われていたんだ!」

ウーウェンまでもが參加しだした。

「そう考えると、リィン様。あなたが言われるとおりなのかもしれません。この寶石達の重要をグエンリール様は知っていた。もしかしたら、いつか訪れる自分の子孫に何かを託したかったのかもしれません」

「多分そうだと思う!」

何だか、アリエルとウーウェンが、リィンの案に納得していた。

だけど、私はまだ納得できていなかった。

それに、何だか怖くなってきたのだ。

……私の運命ってそんなに難しいものなのかしら。

だんだん私の顔が曇り顔になっていくのをじる。だって、さっきから首は捻りっぱなし。そして、彼達の會話が盛り上がれば盛り上がるほど、私の口の端は下がっていく。

「デイジー」

そんな私の背中を、マルクがぽん、と叩いた。

彼のその笑顔は、人を労わろうとする優しいもの。

「お前は何もそんなに難しく考えなくてもいいんじゃないかな」

マルクに背を叩かれたかと思うと、次はレティアに髪をくしゃりとされた。

「レティア……」

「お前は何事も真面目に考えすぎだ。誰の何の意思があろうが、因果があろうが、お前はお前だ。その心の思うがままに、素直に生きればいいんじゃないか?」

レティアが穏やかな口調で私をめる。

一緒にこの塔を登ってきたリーフやレオンも私のそばにきて、私の手や足元に顔をり寄せてきた。

「まぁ」

レティアが、下がったままの私の口の端両方に指でれて、くいっと持ち上げた。

「何ふる(する)……!」

顔を橫に振って、その手を振り解こうとしたけれど、意外にレティアの戒めは固かった。

「お前に何かあったら、お前のことは守る」

「俺達が、な。それが約束だ」

私に強制的に笑顔を作らせようとするレティア。そして、そんな私の目の前に、中指に嵌められた仲間みんなでお揃いの指をかざすマルク。

二人は、真摯な眼差しと微笑みをもって、私に今一度誓ってくれた。

そうだ。霊王様がくださった寶石をもとに、私が初めての合金を作って、リィンが指にしてくれた。そうして、マルクとレティアに、「永久護衛権と換」と言って渡して、怒られたのよね。

その時のことを懐かしさをもって思い出すと、何だか自然と私の口角が持ち上がってくる。それとともに、レティアの戒めが解けた。

……仲間がいるから、大丈夫。

そうだ。

どんな意思が、どんな思が、そしてどんな運命が待っていても大丈夫。

私には、頼もしい仲間がこんなにいるんだもの!

マルクがまだあれこれ談義しているアリエル達を収めさせた。

そして、この塔に殘された産をどうしようという相談に移った。あれやこれや案が出たものの、ひとまずこれらをいきなり持ち出すことは不可能だ。

やがて、私達は結論をまとめた。

ウーウェンはここにひとまず居殘って、産の管理をする。

私は、まず親に、そして國王陛下に報告し、ウーウェンと産の取り扱いを相談する。

ウーウェンと産をかすのは、それからということになった。

私達は、ウーウェンにいっときの別れを告げる。そして、王都に戻るために塔を後にするのだった。

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