《【WEB版】王都の外れの錬金師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~【書籍化、コミカライズ】》234.ルックの新しい生活

學式も終わって、ルックは安息日を除いた毎日、學校へ通う生活が始まった。

「わわわ、朝寢坊しちゃいました〜!」

さて朝食とばかりに、ルックを除いたみんながテーブルを囲んでいた。

そこに、バン!と扉を開ける大きな音がして、慌てた様子でルックがリビングに駆け込んできた。

ミィナと、人型をとったウーウェンと、アリエル。三人でミィナが用意してくれた朝食を運んでくれていた。廚房は階下にあるからだ。

「あらあら」

両手に持ったお皿をテーブルに置くと、ルックの姿を上から下までチェックして、ミィナがそういった。

「ボタンを掛け違えていますよ。それに、肩紐がずれちゃっています」

仕方がないなあ、といった微笑ましいものを見る眼差しで、ミィナがくすくすと笑っていた。

「あー!」

指摘されて、ルックが慌て出す。

「ちょっとルック。ちゃんと髪を梳かして、顔も洗ったのかい? 寢癖が取れていないし、目脂が殘っているけど……」

心配になったのか、面倒見のいいマーカスがルックのそばに寄っていき、ミィナよりも細かく彼をチェックする。

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「ほら、ボタンを直すから、みんなに見えないようにこっち向いて」

マーカスが世話焼きモードにり、ルックを促した。

「ありがとうございます……」

ルックはすっかり眉が下がってしまっている。

「あとは顔を洗って、髪を整えて……。ゆっくり朝食を取るのは、今日は厳しそうだな」

マーカスがルックの面倒を見ながら呟いた。

「じゃあ、ルックには今朝は簡単に焼き上がっているパンで朝食を済ませてもらいましょうか?」

「その方がいいかもしれないわね」

ミィナの提案に、私も同意した。

「ねえ、ピーター、アリス。ルックのために、熱の取れたパンを二個持ってきてくれないかしら?」

私は、リビングをふわりふわりと飛んでいた彼らに、お願いしてみた。

彼らは、うさぎのぬいぐるみをボディにしている、魔導人形たちだ。

「「デイジー様、承知しました!」」

彼らが、揃って階下へと飛んで降りて行く。

そうして、ルックがマーカスの手によってだしなみを整えてもらっていると、ピーターとアリスが、それぞれお皿に一つずつ、パンを載せて戻ってきた。

チキンとお野菜を盛った調理パンと、カスタードクリームの上に新鮮な旬のイチゴを乗せたデニッシュだ。

ミィナが元々ルック用に置いておいた朝食の皿をそこからずらす。

その空いた場所に、コトリ、コトリと、ピーターとアリスが持ってきたお皿をルックの席の前に並べた。

ミィナがその橫に、牛ったマグカップを添える。

「ほら座って。早く朝食を済ませて」

時計をチラリとみたマーカスが、ルックをほどほどに急かす。

「いただきます!」

お手拭きで手を拭いたルックが、手摑みでパンを摘んで、モグモグと食べ始める。

私たちも、それぞれの席について、ミィナが準備してくれた朝食を食べ始めた。

「んぐぐ……」

そんな中、ルックは食べ急いでパンがにつかえてしまったらしく、をトントンしながら、牛ったマグカップに手をばす。

「ぷはー!」

を飲んで、につかえたパンを流し込んだルックが、一息ついていた。

それをみて、みんながルックを見てくすくすと笑う。

「?」

ルックは、その意図が摑めないらしい。

自分を見て笑う私達を不思議そうな顔でキョロキョロと見回していた。

実は、笑われている理由は簡単。

慌てて牛を飲んだから、ルックの口の上には、白いお髭ができてしまっていたのだ。

いわゆる牛ひげってやつね。

「……全く、世話が焼けるんだから」

ふう、とため息をついてハンカチでルックの口元を拭ってあげるのはマーカスだ。

そして、言葉とは裏腹に、彼の顔には優しげな微笑みが浮かんでいる。

……うーん。マーカスの世話焼きも原因の様な気がするんだけど。

ルックは両親を失った、いわゆる孤児だ。

故郷の村では村長が、王都では私が後見人をしている。

だから、出會ったばかりの頃はもうし、子供ながらに必死に自立しようとしているような雰囲気をじた。

けれど、アトリエにやってきて、みんなに囲まれて。

特に面倒見の良いマーカスに世話を焼かれているうちに、すっかりアトリエメンバーの弟キャラになってしまった気がする。

まあまだ彼は九歳。

子供らしくいる時期も大事よね。

そうしてようやく殘りのパンも食べ終えたルックが、時計を見て「行かないと!」とんだ。

「そういえば、今日は錬金科の授業もあるんでしょう? ちゃんと教科書をカバンにれたの?」

私が尋ねてみると、予想は悪い方に當たったらしい。

「わああ! 忘れてましたー!」

ルックが椅子の脇に置いておいた鞄を持って、自室へと駆け込んでいく。

そうして、慌ただしく部屋から出てくると、階段の前で足を止めた。

「行ってきます!」

「行ってらっしゃい!」

「気をつけてね」

そうして、アトリエのみんなに見送られて、ルックは元気に登校していくのだった。

のんびりとしたアトリエの風景回です。

賢者の塔攻略も終わったので、しのんびり回を続けるかもしれません。

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