《【WEB版】王都の外れの錬金師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~【書籍化、コミカライズ】》235.パン工房の朝

パン工房の朝は早い。

だから、その責任者であるミィナの朝もとても早い。

そして、彼に懐いたウーウェンの朝も、彼同様に早かった。

まだ朝日も差し込まない中、ミィナは起きなければならない。

そんな彼のために、機械仕かけの目覚まし時計を私はプレゼントしていた。

これは、ドワーフの技師達が生み出したという、彼らの技の結晶。

実は市販されていなくて、かなり高価だったりする(ミィナが驚いちゃうから、彼には緒ね!)。

たまたまリィンとドラグさんの工房を訪ねたときに「じいちゃんの最新作だ」といってリィンが見せてくれたものを見て「これはミィナにプレゼントしたい!」と思って、私が注文生産してもらったのだ。

そんな特別品の目覚まし時計のベルの音で、ミィナの朝は始まる。

「ふわぁ〜。もう朝ですぅ」

ミィナがまだ寢の中で目をる。

そんなミィナのすぐ側には、子竜姿のウーウェンもいた。

「ん〜。こんな朝日も登らない時間から、大変ですねえ」

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そう言いながらも、ウーウェンはゴソゴソと上掛けの中から這い出して、ベッドの上に起き上がった。

「ウーウェンさんは、まだ寢ていてもいいんですよぉ?」

ミィナも上掛けを剝いでから、ウーウェンに聲をかけた。

「でも、ミィナさんのオーブンの擔當はボクです! だから、一緒に起きないといけません!」

えっへん! といった様子でウーウェンがを張る。

「ありがとうございます。一人でやるより、私もウーウェンさんが一緒の方が嬉しいです。じゃあ、著替えたら一緒に廚房にいきましょう!」

ミィナはベッドから床に降りて、クローゼットに向かう。

そして扉を開いて今日の洋服に著替え、エプロンをにつけた。

「そうだ」

「?」

はっと思いついたように、ミィナがウーウェンの方に振り向いた。

「ウーウェンさんも、朝のパンの形や盛り付け、やってみませんか? せっかく朝早くにご一緒してくれるんですから、オーブンに火を吹くまで何もしないのも退屈でしょう?」

にっこり笑ってミィナが提案する。

その言葉に、ウーウェンの瞳がキラキラと輝き出す。

「やるやる、ボクもやります!」

そう宣言すると、ぽふんと子竜姿から黒いツノを持った赤い髪のの姿に変化(へんげ)する。

便利なことに、彼は人型になると自然と服をちゃんとにつけている。

そんなウーウェンを見て、ミィナはにっこりと微笑んで、まだ開いたままのクローゼットから予備のエプロンを取り出す。そして、それをウーウェンに手渡した。

「これは?」

手渡されたウーウェンは、よくわからないと言った様子で首を傾げる。

「エプロンです。ほら、私もにつけているでしょう?」

ミィナはそう言って、自分が著用しているエプロンの端を摘んで見せる。

「でもボク、これ付け方わかりませんよ?」

そう言うと、ウーウェンはエプロンを眺めながら「うーん」と唸ってしまう。

「じゃあ、私が付けてあげますね」

ミィナはそう言ってウーウェンから一度手渡したエプロンをけ取ると、ウーウェンの背後に回って、エプロンを固定するための紐を用にリボン結びするのだった。

そうして二人仲良く一階にある廚房へ降りていく。

ミィナが、二個ある冷蔵庫のうち、パン工房用のものから、寢かせておいたパン生地を取り出した。

ボウルにったその生地を、冷たい作業臺の上に載せる。

「ボクは何を手伝えばいいの?」

パン生地をのし棒で平たくばしていくミィナに、ウーウェンが尋ねた。

「このあと、一つずつの大きさにカットするので、それを丸めるのを一緒にやってください!」

「わかった!」

そうして二人は仲良くふんわりパンの生地を丸める。

そのあとも、調理パンの上に材を乗せたり、作業を続けた。

「じゃあ、これはボクの出番だね!」

ミィナが、朝一に焼くパンをオープンにれ終えると、ウーウェンが大張り切りでオーブンの前に仁王立ちになる。

「はい! お願いしますね!」

ぽふん!

とウーウェンは子竜姿に変化(へんげ)すると、オーブンの火付け部分にゴウッと炎を吐いた。

「ウーウェンさん、ありがとうございます!」

そうして、朝のパン作りの作業は、ミィナだけのものではなく、ウーウェンとの共同作業になったのだった。

そんな日々を繰り返す中、私は一つの疑問が湧いてきた。

……うーん。

ウーウェンとミィナったら、最初の晩に一緒に寢たきり、それが當たり前になってしまっている。

だから、ミィナが早朝に起きるのと一緒にウーウェンが起きて、ミィナのお手伝いをするのだ。

ウーウェンの部屋は、彼の荷置き場と化している。

それはいいんだけど……。

……ベッドのサイズ、大丈夫かしら?

二人は構わないというのだけれど。

でも、これが続くなら、空き部屋になっている四階の、當初リリー用にと想定していた広い部屋に、ダブルサイズのベッドを置いてあげて、二人部屋にしてしまった方がいいのではないかと思うのだ。

今度もう一度二人に聞いておかなくちゃね。

私は、アトリエでの二人のお引っ越しを検討するのだった。

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