《【WEB版】王都の外れの錬金師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~【書籍化、コミカライズ】》244.リーフへの相談
スプーンで掬った粥をふーっと冷まして、口に含む。
麥もすっかりらかくなっていて、優しい味わいが口の中に広がる。
「……味しい」
味は、五歳のあ(・)の(・)時(・)や、病気になった時によく食べたものと一緒。私のに懐かしさが込み上げてきた。
「無理せず、ゆっくり食べてくださいね。お側に控えていますから、何かあったら聲をかけてください」
ケイトは私にそう告げると、先ほどまでお母様が腰掛けていた椅子を脇に寄せて座った。どうやら私が食べ終わるまで見守るらしい。
私が気にせず自分のペースで食べられるようにだろう、彼はポケットから小さな冊子を取り出して読み始めた。
……これなら気を使わずゆっくり食べられるわ。
私は、二日眠っていてまだきの鈍い胃がけれられる量だけを、ゆっくりと味わって食べた。
そして、作ってくれた廚房のボブとマリアに申し訳なく思いながらも、半分は殘すことにした。
「ねえケイト」
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「はい、デイジー様」
ケイトが冊子を閉じて私に応える。
「この粥はとても味しかったわ。でも、今の私にはこの量はちょっと多いみたい。殘したいのだけれど、ボブとマリアにその事を伝えてくれないかしら?」
私がケイトにそう言うと、ケイトはにこりと笑って頷いた。
「大丈夫ですよ、デイジー様。デイジー様は目を覚まされてから初めてのお食事なんですから、無理をしてはいけません。デイジー様のお気持ちは、ボブとマリアには私から直接お伝えしておきますね」
ケイトは、手際よく私の目の前にある皿とフォークを持ってきたテーブルに移させる。そして、最後に私の前にある簡易テーブルを退けてくれた。
「では、これを片付けて、そのあと廚房に寄ってきますね」
「ありがとう、ケイト」
ケイトは私に一禮すると、片付けのためにテーブルを押して部屋を後にしたのだった。
◆
そうして私はまた部屋に一人になる。勿論リーフは控えているけれど。
そうだ。リーフに聞いてもらおうかしら。
さすがに私の聖獣のリーフだったら、『』の対象外よね。きっとを共有して守ってくれるわ。そもそも、リーフは私の護衛としてあの會談の場に控えていたのだし。
「ねえ、リーフ」
「はい」
リーフが、むくりと顔をあげて首を傾けた。
「一つ、相談したいことがあるの。いいかしら?」
「勿論。私はデイジー様の忠実な僕。デイジー様のためであれば、なんでもお相手しましょう」
リーフは頷き、私はその仕草に頼もしさをじた。
私は、この一人で解を出せそうもない悩みを、自分一人の心に抱えているのは辛かった。
誰かと共有したかった。
だから、口を開いた。
「あのね。私が作ったものを、陛下が戦爭に使いたいらしいのよ。勿論、人を傷つけるためじゃなくて、國民を守るため。……それは、リーフも知ってるわよね」
「はい」
「陛下の想いがそうならば、私は陛下のお申し出に応えて、私のできることをやろうと思うの。……だけどね」
「……はい」
「この國の人を守るということは、……戦爭するということは。もしかしたら、相手の國のなんの罪のない人は、傷ついたり……亡くなったりするのかもしれないじゃない。私が國の戦力増強のために助力するということは……そういうことなのだと思うのよ」
「……それは、そうなのかもしれません」
リーフが、私のことを気遣わしげに、その寶石のような瞳で見つめている。
「ねえ、リーフ」
「はい」
「私はどうするべきなのかしら。何が正しいことなのかしら。何が正解なのかしら。……私は、あの自白剤を作って、その結果を知った時から、何も長していないのかもしれない……」
「デイジー様……」
リーフは私の名を呼ぶと、ぽんと私のベッドに上がってきて、私の橫に寄り添った。
彼の溫もりが優しい。
「デイジー様」
「なあに?」
「私は、あなたの僕。あなたが決めたことであれば、私はなんでもあなたに忠実に従いましょう」
「……ありがとう」
でもそのあと、「ですが」と切り替えて、リーフは首を橫に振った。
「私はあなたの僕(・)なのです。あなたの導(・)き(・)手(・)ではないのです」
「……」
その言葉に、私は一瞬差しべられた手を振り解かれたかのようにじた。
「ああ、そんな顔をしないでください」
リーフがし慌てた様子で私に頬りをしてめようとする。
「言葉の選択をいささか誤りました。私はあなたを導けない。ですが、あなたは一人ぼっちではないはずです」
「……それは……?」
「アナスタシア殿や、そうですね……教科書なるものを書かれたときにデイジー様がお世話になった、ホーエンハイム殿。デイジー様には、そういった錬金の先達がいらっしゃるじゃないですか」
「そういえば、そうね……」
「私などではなく、専門的なことは、そういった方々に相談してみてはどうかと思うのです」
リーフは、真っ直ぐに私を見つめて、そうアドバイスをくれた。
「あともう一つ」
「なあに?」
「私はデイジー様に、べ(・)き(・)、ではなく、こ(・)う(・)あ(・)り(・)た(・)い(・)という想いで決めて行していただきたいと、思うのです。それがデイジー様らしいと、そう思うのです」
「……リーフ……」
それはほんのしの言葉の違い。
けれど、リーフのその言葉は、私にほんの小さな、けれど確かな気付きを與えてくれたのだった。
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