《【WEB版】王都の外れの錬金師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~【書籍化、コミカライズ】》248.背負うもの

優しく微笑みかけながら、お父様は私の部屋に足を踏みれた。

私はそのお父様をベッドで上半を起こした狀態のままれる。

お父様はそんな私の元へゆっくりと歩いてやってきて、前に座ったベッド脇に置いてある椅子に腰を下ろす。

「ホーエンハイム先生とお會いしたんだってね。……デイジー、君がショックをけたというのは彼から聞いたことが原因かい?」

「はい。……あの、その……」

私は、あの衝撃の、二律背反(アンチノミー)とも思える事実を、どうお父様に話し出そうかとしばらく逡巡する。

そうして、い日のあ(・)の(・)時(・)のことが脳裏をよぎった。

……自白剤。

そうだ。やはり私はあれに囚われている。

そして、あの経験から自分なりの解を紐解き、心を定めることができていないのだ。

「お父様」

「うん」

やっと言葉を発した私に、お父様は穏やかにただ返事だけを返してくれた。

「ホーエンハイム先生に聞いたんです」

「うん」

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「私たち錬金師は、國王陛下の申し出に応じれば、他國の人を傷つけたことで後悔するかもしれないんです」

「……それは、そうかもしれないね」

「そして、申し出を斷れば、自國の人がもしかしたら傷つき、後悔することになるかもしれないんです」

「……デイジー……」

お父様が私の名前だけを呼んで、その片腕を私の方へとばしてくる。

手が、私の頬に添えられる。

……溫かい。

その溫もりに、私の揺れている心がめられたような気がして、私はそっと瞼を閉じた。瞼を閉じると、靜かな室では自然とそのお父様の手のひらの溫もりしかじることはなくなった。

私は一つ大きく息を吐き出し、そして大きくに新しい空気を吸い込んだ。

そうして、閉じていた瞼を開ける。

すると、自然とお父様と目があった。

「ねえ、デイジー」

「はい。お父様」

今度はお父様から話を切り出されたので、私は頷いて答えた。

「……それはね、錬金師も魔導師も同じなんだよ」

「どういうことですか?」

私はお父様に尋ね返す。

「力(・)を(・)も(・)つ(・)者(・)のうち、良心を持つ者がぶつかる壁、いや一度は悩むものなんだ。そしてそれは、ごく自然なことなんだよ」

「……力? 錬金師も魔導師も同じ?」

私は不思議に思ってお父様に再び尋ね返す。

「そう。デイジーは錬金。お父さんは魔法。まあ、レームスもダリアもだね」

「……お父様やお兄様、お姉様と同じ……」

私がそう呟くと、お父様は「そうだ」と言わんばかりに頷いた。

「力をもつものは、その力をどちらの方向にも使えるんだよ。善き方にも、悪しき方にも。そして、その使い道は必ずしも自分の意志だけで方向が決められるとは限らない」

「……善き方……悪しき方……」

「うん」と言ってお父様が再び頷いた。

私を諭しながら、まだ私の頬に添えられたお父様の手のひらが溫かい。その溫もりは私に落ち著きを與えてくれる。

「デイジー。君はそ(・)れ(・)が起こってしまう前に気がつくことができた。それはまだ救いのあることなんだよ?」

「……救い……ですか?」

私はよくわからずに、首を傾けた。

「うん、デイジー。君は、今そのことに気づくことができた。それは、全てを制(コントロール)できるとは限らないけれど、多なりとも自分の意思で選べるということだ」

「……選ぶ。自分で」

「そうだ。自分でだよ」

それは、し突き放されたような気持ちが一瞬脳裏をよぎる。けれど、頬に添えられたお父様の溫もりが「そうではない」と言外に伝えてくれているようで、私は、そのまま落ち著いて會話を続けることができた。

「自分で選ぶことで、可能として、何を選び取り、何を捨て、そのことによって何を背負うことになるのかを、ある程度選択することができるんだ」

「選び取る……捨てる……背負う……」

そうして私はまた口を閉じ、逡巡する。

そんな私を、お父様はただ黙って見守ってくれていた。

「……難しいんですね」

ようやく口を開いた私から出た言葉はただそれだけだった。

「うん。難しい」

でも、お父様も同じようにシンプルに返してくれて。

「デイジー。彼の國との戦爭は今すぐに起こるというわけではない。……ゆっくりと考えなさい。自分のために。自分が後悔しないように」

「……自分の、ためですか」

「ああ、そうだ。そして、おそらく陛下はデイジーが決めた結論を尊重してくれるだろう。……あの方はそういう方だから」

そう言葉を紡ぐお父様の表は穏やかで、陛下への厚い信頼じさせる。

「さあ、デイジー。し話が長引いた。そろそろ休みなさい」

頬に添えられていた手が降りて、上半を橫にするようにとでもいうように、そっと私の肩に添えられた。

「……はい、そうします」

私は、お父様に手伝ってもらいながら、を橫にする。

お父様は、上掛けを私の肩まで覆うようにかけ直してくれた。

「……お父様」

私は橫になったまま、お父様を見上げて呼んだ。

「どうした? デイジー」

穏やかで優しい眼差しが私に注がれる。

「……ありがとうございます。……ゆっくり、自分なりに考えてみます」

「……うん。そうするといい。でも、無理はだよ?」

「はい」

最後に私に言い聞かせると、お父様は私が瞼を閉じたのを見てとって、足音靜かに扉の方へ向かい、部屋を後にしたのだった。

今年も応援、ご支援ありがとうございました。

この話をもって、今年の更新は最後とします。

また來年、引き続きご顧いただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

皆様も、どうぞ良い年末年始を過ごされますように。

なお、次回更新は年明け1/1(土)予定です。

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