《【WEB版】王都の外れの錬金師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~【書籍化、コミカライズ】》252.グエンリールとゲルズズ

そうしてひととおり話を終えると、アナさんは私を気遣いつつも、帰途についた。

それにしても、「阻止してみせる」なんて言ってみたけれど。

何をどうしたら、ゲルズズの企てを阻止できるのか、私には皆目わからなかった。

「デイジー、調子はどう?」

そんな時、お母様が扉を開けて部屋にってきた。

私はお母様が來たことに気づきもせず、つい、さっき知ったその人の名を口にする。

「ゲルズズ、かぁ……」

「デイジー⁉︎」

扉を開けてその場で立ち盡くすお母様の瞳は大きく見開かれていた。

「デイジー? どこでその名前を?」

足早にお母様が扉を閉めて私のいるベッドへとやってきた。

「……お母様? その名前をご存知なのですか?」

なぜ知っているのだろうと、逆に私は問い返す。

すると、私のベッド脇の椅子に腰掛けたお母様が、苦い顔をする。

「……あまりいい話じゃないのよ」

どう答えたらいいものか、そもそも話すべきなのかを逡巡するかのように、お母様は口籠った。

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「……お母様。私は知りたいです。その人はどんな人なんですか?」

迷うお母様の片腕に手をばし、そっと手を添えて、私は尋ねた。

「グエンリール様の、親友……だった人なの。でも、彼と訣別した結果、塔にこもってしまわれたわ」

「……グエンリール様の知り合いですって⁉︎」

今度は私が驚く番だった。

グエンリール様は賢者の塔に籠ってしまわれたという、お母様方のご先祖様。

賢者でありながら錬金を嗜み、隠遁したという塔の居住階にはたくさんの錬金材や書されていた。

「……グエンリール様は、大昔に賢者の塔に隠遁されたとお母様は言っていたでしょう?」

アナさんの推測が正しければ、今まさに起ころうとしている戦爭には、ゲルズズという人が関與している。そして、その戦爭のことは國家だ。多分、流石に仲が良くても、お父様もお母様にはらしてはいないだろうと思ったので、あくまで戦爭のことは伏せて尋ねることにした。

……緒にして、ごめんなさい。

お母様には、心の中で謝りながら。

「……お母様も、私のお母様から聞いた話なんだけれど」

お母様は、そう前置きをしてから語り出した。

「まだこの國で錬金が盛んだった頃の話よ。その時代にグエンリール様とゲルズズは出會い、最初はとても仲が良く、友人だったらしいのよ。魔法と錬金。そこには通じるものがあると言って、魔法も、錬金も、互いの知識を互いに分かち合いながら研究していたというわ」

……グエンリール様とゲルズズが友人。

初めて聞くその事実に私は驚いてしまった。

だって、ゲルズズは今まさに戦爭を起こしてまで賢者の石を作ろうとしている人だと聞いた。

その人とグエンリール様が友人だったなんて言われたら、普通驚くわよね?

「……あの、お母様」

私は、恐る恐るお母様に尋ねた。

「グエンリール様は、その……賢者の石を作ろうとしていたのでしょうか?」

ゲルズズが人の命を代償にしてまでも作ろうとしているという、賢者の石。それに、ご先祖様であるグエンリール様が関わっていたとしたら……と思うと、尋ねずにはいられなかったのだ。

「デイジー? そんなことまで知っているの?」

お母様が驚いたように目を見開いた。

「……そんなこと?」

逆に私が問い返す番だった。

「だってあれが元で喧嘩別れして、そしてグエンリール様は塔に籠ってしまわれたのよ。そんなことまで知っているとは思わなかったわ……」

「ああ、でも」と言ってお母様は、自分で合點がいったのだろうか? 不思議そうな顔から一転していつもの表に戻る。

「デイジーはあ(・)の(・)塔に行った本人だものね。きっとグエンリール様が書かれた日記でも読んだかしたのね」

……そんなわけではないけれど。

でも、合わせておいた方がいいのかもしれない。

「賢者の石が元だったんですね。でも、グエンリール様の日記……」

そう言いかけて、ふと思いだした。

確か、『錬金における忌』という本。それに、グエンリール様が塔に籠ってしまった理由が書いてあるようなことを、ウーウェンが言っていたことを。

……ならば、そこに何かが書かれているのだろうか?

あの本は、「グエンリール様が書いた」とウーウェンが言っていた。そして、「彼には錬金師の友人がいたけれど、考えが合わずに袂を分かった。それが、隠遁するに至った理由の一つだ」と。

そういえば、あの本は私が塔でどうしても気になって、いつもにつけているポシェットにれたはず。あれはマジックバッグ仕様に変えて容量はほぼ無盡蔵なので、そのままれてあるはず。

「お母さま、ありがとう!」

私は、ぎゅっとお母様に抱きついた。

「デイジー⁉︎」

お母様は、よくわからないと言った様子だったけれど、嬉しそうな様子の私を抱きとめてくれた。

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