《【WEB版】王都の外れの錬金師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します~【書籍化、コミカライズ】》256.神々の涙
◆
そうとはいっても、私に何が出來るのだろう。
ようやく調も落ち著いてきたある日、私は本格的に何か出來ることから手をつけようと考え始めた。
……そういえば。
グエンリール様のした書は、私が持ってきたのを除いて、すべて城の図書館に収蔵されたのだという。あまりにも蔵書數が多いので図書館を増築したほどだという。
……あそこなら、なにか手がかりがあるかも!
そう思いついた私は、アトリエに一度帰った。けれど、大事な調べのために再びアトリエをみんなにお願いしてしまうことをわびた。
事は話せないという私に、みんなは優しくけれてくれた。
◆
「デイジー・フォン・プレスラリアです」
城の図書館の前に立つ衛兵に名を告げる。そして、家紋のついたネックレスを見せると、すぐに彼は理解して、中へとれてくれた。
ここのグエンリール様のした蔵書はプレスラリア家からの寄贈品のようなものである。だから、その家名を告げれば、すぐに通してもらえる。
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「デイジー・フォン・プレスラリア準男爵です」
扉を開けてくれた兵士が、り口からってすぐ近くにいる、司書に告げる。
彼は私に會釈し、私はそれに軽く返した。
そうして、石造りの床に、靴音をなるべく響かせないように気をつけながら、奧へ奧へと進んでいく。
あの本には、『後の世のためになるような知恵を、わずかでもすために』と書かれていた。
だったら、彼のしたたくさんの本の中に、きっと手がかりがあるに違いない。
私は、そこにみを託したのだ。
そして、ようやくグエンリール様の蔵書を集めたコーナーにたどり著く。
「……うわぁ……」
確かに以前賢者の塔で見たとはいえ、その蔵書の多さに私は圧倒された。
「……この中から探すのかぁ……」
わかっていたとはいえ、一瞬めまいを覚える。
……でも!
私の大事な人達を……この國に住む、いいえ、この大陸に住む人々みんなを守れるように!
私は、一瞬湧きかけた諦めのような気持ちを振り切るように、ぶんぶんと頭を橫に振る。
「……絶対手がかりを探してみせる!」
そうして、私の途方もない蔵書探索が始まったのだった。
◆
「今日もお城の図書館調べですか?」
朝食を食べていると、マーカスに聲をかけられた。
毎日毎日、図書館の閉館時間ギリギリまでねばって調べ、くたくたになって帰宅してくる私を労ってくれているのかもしれない。
「本當だったら手伝って差し上げたいのですが……私には錬金の知識はないですし」
アリエルが眉を下げて言う。
「私もですよねえ……」
ミィナがいなくなったら、そもそもパンを作る人がいなくなってしまう。
「私が抜けると、錬金工房が立ちゆきませんしね」
「お役に立てずにすみません……」
マーカスの言葉に、まだ學生ので役に立てない自分を悔やんでいるのだろうか? ルックが俯きがちになる。
「……大丈夫。そのうち村を守る立派な錬金師になるんだろう?」
マーカスが、くしゃくしゃとルックの頭をでると、ルックが顔を上げて笑顔で「はい!」と元気よく答えた。
「殘念ながらボクはグエンリール様の研究は、からっきしなんだよなぁ……」
口をへの字にして、椅子の上で足であぐらをかいているウーウェンがぼやく。
「私達も、せか……いや、魔道人形としては若くて未ですから、お役に立てず、すみません……」
ピーターとアリスまで、しゅんとして頭を下げた。
そんなうさぎのぬいぐるみの頭をでながら、私は笑う。
「みんな、ありがとう!」
力になれないとはいっても、そのことを悔やんでくれている。
みんなが、私の力になりたいと思ってくれている。
その事実だけでも、とても私は幸せなのだ。
……そう、思えたから。
◆
「……そうは言っても」
朝食が終わると、いつも城の図書館に直行するのが、最近の私の日課だ。けれど、たまにはアトリエの狀態も把握しておこうと思って、保管庫を覗くことにした。
それと、自分も詰め狀態で、気分転換をしたかった。
アトリエ管理は、ぶっちゃけて言えばマーカスに任せてしまっても大丈夫だ。マーカスは頼りになる。けれど、それとこれとは違う。やはり、主人(オーナー)は私なんだから。
「……これなら、次の納品に向けた分も萬全ね」
納品を頼まれている品の數をそれぞれ數えて、私は頷いた。
「……あれ?」
扉をしめようとしたそのとき、保管庫の奧にいくつかのが見えるのに気がついた。
そして。
「……え?」
私のポシェットの中からがこぼれている。
私は急いでポシェットを開ける。
「……これ。グエンリール様のところから持ってきた、大地の神の涙だわ……」
そして、保管庫の奧でっているのは、世界樹の涙、氷の王の涙、火炎王の涙の三つだった。
改めて考えてみれば、『……の涙』と、名前が似ている。
「これ……関係のあるものだったのね……」
共鳴するように輝き合っているということはそういうことなのだろう。
そう思っていると。
そう呟いていると、背後を通りかかったウーウェンが私が手に取った四つの石を覗きこむ。
「デイジー様、それ! グエンリール様が集めたがっていた、『神々の涙』だよ! しかも、あと殘り一個じゃないか!」
彼は興気味に私にそう伝えたのだった。
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