なんとなく切りが悪いのでもう一話だけ更新。

お人好しの大男フェルドが、私に一日掛けて基礎を叩き込むと宣言した。

一応信用はしたけどまだ三割ほど大人を警戒していた私は、眠る前に離れるつもりでいたけど、フェルドの実力からすると逃げられそうにないことと、あのの“知識”では近接戦闘面に不安があったので、素直にそれをけることにした。

翌日朝日と共に起きて、フェルドの持っていた黒パンを分けてもらい、軽く火で炙りながら朝食とする。

孤児院の子達は、『黒パンはくて不味いから白パンが食べたい』とよく愚癡をらしていた。確かに革のサンダルでも囓っているのかと思うほどいものもあるけど、私はそれほど嫌いじゃない。

白パンのようならかさはないけれど、中はモチッとしていて噛んでいるとちゃんと味がある。きちんと細かくに挽いて丁寧に作ればそれほど不味いじゃなく、不味いのは質の悪い黒麥で手間を省いて適當に作る人のせいだ。

それでも孤児院の黒パンは最悪だったけど。

「まず坊主。お前、自分の“ステータス”を見たことがあるか？」

仁王立ちするフェルドの言葉に私は首を振る。

あのの“前世”とやらでは無かったみたいだけど、この世界では自分の生命力や魔力などの“強さ”を數値にして表す、便利な技が存在する。

ステータスとは【鑑定】によって視ることが出來る個人の能力報だ。でもあの孤児院の近くにはそんなことが出來る人はいなかったし、両親が生きていたときも調べた記憶はない。

でもあのの…というかあのの師匠の授業によると、一般的に使われている鑑定は世界の報に神を繋げるのでも、相手の魂の報を盜み視るような大魔ではなく、視覚や聴覚やや魔力で相手の力量をじ取り、それを數値にしたものらしい。

だから相手の報を【鑑定】して分かるのは、魔力と力、それと強さを數値化した【総合戦闘力】だけだと言っていた。

その他にも相手の報を完璧に見る【完全鑑定】が存在するそうだが、あのの師匠は、もしそれを知る機會があっても絶対に覚えようとするなと言った。

なぜなら他者の魂の報や世界の報を盜み視ることは、定命の者には魂に負荷が掛かるそうで、その対価は自分の“壽命”であるらしく、使うと確実に命が減るので、永遠の生命を持つ竜種や、人類種でも古代エルフかハイエルフ以外は使わない。

過去にはそのような鑑定能力を【加護】で得た者もいたそうだけど、そうした人は猜疑心が強く他者に能力を話さないそうで、自分でも気付かず壽命を無駄に減らしていたそうだ。

目に見える対価も無しに使える便利な能力……特にあのが切していた特殊能力(チート)なんかには“裏”があると思ったほうがいい。

「フェルドは使えるの？」

「ああ、最近ようやくスキルとして使えるようになった。これが俺から見たお前の能力だ。文字は読めるか？」

フェルドはそう言いながら地面に木の棒でそれを書く。

魔力値：13/13　力：22/26

総合戦闘力：21

「……まぁ、子供ならこんなもんか。今の數値をしっかり覚えたか？」

私の數値はとても弱いらしい。文字と知識を摺り合わせながら、微妙な表をして頷く私にフェルドが何かを放り投げてきた。

「……？」

「それは『鑑定水晶』と呼ばれているだ。それで覗き込んだ生きの力や魔力を読み取り數値化する補佐をしてくれる。それを何度も使っていると自然と【鑑定】が使えるようになるんだが、今は自分のを覗き見て『力を見たい』と願うんだ。殘り二回は使えるはずだから、ちゃんとさっきの自分の數字を頭に思い浮かべながらだぞ」

「…………」

自分で【鑑定】をする補佐になる道か。私は言われたとおりに自分の手を水晶で覗きながら願うと、何か數字のようなが水晶に浮かんでくる。

「見えてきた數字を、さっきの數値と合わせろ。上手く合わせられたか？」

【アーリシア】【種族：人族♀】

【魔力値：13/13】【力値：21/26】

【筋力：3】【耐久：4】【敏捷：5】【用：5】

【総合戦闘力：21】

私が『合っている』と頷くと、フェルドは自分の【強化】を発しながら今度は自分を【鑑定】しろと言った。

【フェルド】【種族：人族♂】

【魔力値：177/210】【力値：354/370】

【総合戦闘力：1378（強化中：1764）】

……フェルドが強いのか私が弱すぎるのか、あまりにも差がありすぎて彼がどれだけ強いのか見當もつかない。私が數値を読み上げると彼は靜かに頷いた。

「まぁ、ほとんど合ってるな。數値の見え方は個人によって違うが、その水晶には俺が使っていた“この大陸で一般的に使われる見え方”が焼き付いているはずだから、覚えておけば後で他者との比較が楽になるはずだ」

しばらくフェルドの數値を見ていると文字が消えて、鑑定水晶からもが失われた。

「これで何回使うと鑑定を覚えられるの？」

「そうだな……俺は六十回くらいだったが、まぁ、普通は１００までいかないな」

「これ、売ってるの？」

「だいたい一個あたり十回使えて、銀貨３枚くらいだ」

「…………」

結構高い。いや、それで相手の力が分かるなら安いと思うべきか。

でも銀貨１枚で宿屋に朝飯付きで三日泊まれるのだから、一般の普通の冒険者だとあまり使えないと思う。そう考えると【鑑定】を使えるのはお金がある人限定か。

「それで鑑定水晶を使う基礎は出來たはずだ。それとお前の戦闘力だと戦闘スキルは全く無いようだな。まぁ予想通りだが、次は狩りに行くぞっ」

「……え」

いきなり大剣を背負って森の中に突っ込んでいくフェルドを慌てて追いかける。

「しゃがめ。足音を立てるな」

先行していたフェルドが藪の中で突然しゃがみ込み、追うだけで必死だった私は、瞬く間に薄れていくその気配に、一瞬彼を見失いそうになった。

「これって……」

「聲も潛めろ。俺も隠は得意じゃないが、それでも森で狩りをしてきた経験があるから【隠スキル】が１レベルある。お前も強化は使うなよ？　敏な獲に気づかれる。魔力の使い方は後で教えるが、まずは森に満ちている“魔素”をじ取れ」

「……うん」

多分、この近くにフェルドが言う獲がいるのだろう。私もしれていた息を整えるように息を潛めながら、周辺の魔素をじようと意識を周囲に向けた。

「魔素で風の流れをじるんだ。風の中にある匂いを嗅ぎ取れ。すぐに出來なくてもいいから、意識するとしないとでは習得速度にかなりの違いが出る」

「…………」

コクン…と、とりあえず頷いてみたけど、あまり理解できていない。

自分の魔力は何となく分かるようになったけど、周囲の魔素はぼんやりと分かるだけでそれが草木の魔力かの魔力か分からなかった。

「自分の魔力と周囲の魔素の違いをじ取れ。ただ靜かにくだけじゃに気付かれる。周囲の魔素と自分の魔力を合わせろ。流れや大きさを全く同じにすれば気配が薄くなる」

「……わかった」

本當に基礎を一日で叩き込むつもりか。私は、ぼんやりしていたら何も出來ないまま終わると気付いて、とにかく周囲の魔素をじ取ろうと集中した。

魔素の流れで風を読む。あのの知識でいう『大気』に魔素が満ちているという意味だろうか。だとしたら魔素で風を読むというより、大気の中で流している魔素がそのまま風の流れと言うことか。

意識を集中して周囲のいている魔素をじようとして、何かいているような気はしたけど、まだハッキリと分からない。

集中しながらも腳を止めず、フェルドの後をついて必死に森の中を進んだ。

「坊主、停まれ。あそこを見ろ。何かいるのが分かるか？」

「…………」

多分、前方の藪を指しているのだと思うけど、私にはそこに何がいるのか全く分からなかった。

「草木は障害がない限り枝葉を橫に広げる。太があればそちらに葉を向けて枝をばす。だったら不自然な枝が分かるか？」

「……あ」

確かによく見れば不自然に曲がっている枝が有り、それに気付くと森の中で不自然な部分が目につくようになった。

「気付いたのなら葉のきを見ろ。風の流れと違う部分がある」

風が流れて右から左に木の葉が波のように揺れた。その流れが終わったときに微かに違うきをする枝があった。

「あそこに獲がいる。じられるか？　鑑定したときの覚だ。そこにいる生きの気配をじ取れ」

……無茶をいう。でもそこに“居る”と意識すれば、確かに何かがいるような気がしてきた。

「兎だな。まずあれを狩るぞ」

いきなりフェルドが手斧を構えると藪の中に投擲した。

聞こえてくる微かな鳴き聲。そのままそこへ向かう彼の後を追うと、手斧がざっくり

と背中に突き刺さって即死した兎が一羽落ちていた。

「処理をしたら次に行くぞ」

それから午前中をかけて、私の理解や力などお構いなしに森での狩りが続き、フェルドは狩った獲のの抜き方や皮の剝ぎかた、臓の処理などを、駆け足気味だったけど戸う私に実戦で叩き込んだ。

野営場に戻ると疲労で倒れ込む私からし離れて、削り出した木の串にさばいた兎を刺しはじめる。

「おい、坊主っ！　を焼くぞっ」

「……うん」

疲れたよりも『昨日からばっかり』だと、私は栄養面のバランスの悪さに顔を顰めて立ち上がる。

「【火花(ファイア)】」

フェルドの生活魔法で枯れ葉に火を付け、そこから細い枝を燃やして、次に太い枝に火を付けていく。

彼は魔を使えるけど本職ではないそうで、あのみたいに生活魔法は六種類全部ではなくて、【火花(ファイア)】、【流水(ウォータ)】、【燈火(ライト)】の三種しか覚えていなかった。

焚火の周囲に串を刺しながら、今まで間近で見たことのなかった生活魔法の魔力の流れを凝視する。

あのの師匠は、【火花(ファイア)】の訓練として、ひたすら魔力を練りながら火が燃える様子を見続けさせた。それこそ一日に何時間も、眠りに落ちても夢に見るまで。

おそらくこれは、フェルドの言っていた『魔素の流れを読む』ということと同じではないかな？

この世界の理現象には、霊の存在が接に関わっている。火が燃えるのはその場に炎の霊がいるからだと霊信仰者は言っていて、実際に炎は炎屬の魔素だけを燃料に燃えることが出來るからだ。

そこに霊がいるかどうかはともかく、理現象には魔素が関わっている。最初は無屬である魔素が、屬を持つ生や質とれることで『屬魔力』になって、その屬魔法の燃料となるのでは？

屬持ちの人は、取り込んだ魔素を自分の屬に変換する？

だから……多分、覚えられた生活魔法がそのままその人が持つ『魔力屬』になるのではないだろうか？

……いや、あのは一応だけど六種全部を使えていた。あのの師匠も六種の生活魔法を覚えるのは魔師の嗜みだと言っていた。と言うことは、生活魔法が『魔法屬』に繋がると考えたのは間違いなのかも？

でもフェルドの使える魔は【魔】と【火魔】で、彼の使える生活魔法とほぼ同じだ。もしかしたら『魔力屬』とは単なる『相』のようなもので、覚えにくいだけで使えないものではないのかもしれない。

あのは、一番最初に生活魔法で覚えさせられたのが【火花(ファイア)】で、一番手間取って一番時間を掛けていた。

そして、あのが使えたのは【火魔】と【水魔】だから、これって単純に『一番印象に殘った魔』だからかも。

でも……だったら、どうして屬を複數扱える人がないのか？　すべてに興味を持っている人もいたはず。

もしかして……多くの魔力を持つことで心臓にその屬の“魔石”が生される。でも複數の屬を持つことで何か弊害があるのかもしれない。

「焼けたぞ、坊主。食え食え」

思考が中斷され、フェルドが差し出した兎の串焼きをけ取る。

はっきり言って疲れすぎて食なんて欠片もないけど、次にまともな食料を得られる保証がないので無理矢理にでも胃に流し込みながら、燃える火の中にある魔素を目に焼き付けた。

「起きろ坊主っ！　次の訓練を始めるぞっ」

腹が膨れてうつらうつらとしていると、フェルドの聲で叩き起こされた。

次は武の使い方を教えてくれるらしい。何の武を使いたいかと問われてナイフと答えると、フェルドはし考えて深く頷いた。

「戦闘の基本は【剣】になるんだが、【槍】や【短剣】なら、レベル１なら比較的早く覚えられるので悪くない。俺が使うのは【剣】だが、大剣技を使うので片手剣だと【戦技】が使えない。剣と短剣が分かれているのは扱い方が異なるからだ。でも戦技が使えないだけでナイフでもある程度は扱える」

要するに、剣スキルしか無くても棒がド素人というわけじゃない。

扱える技が魂に焼き付いているだけなので、例えば【剣】が３レベルの人でも、棒でも短剣でも扱い方が似ているなら、１レベルくらいは何とか使えるらしい。

「戦技(せんぎ)ってなに？」

確か“知識”では、戦士系の人が使う“必殺技”だと記憶している。でもあのは短剣スキルを持っていたのに【戦技】を覚えていなかった。

「【強化】の応用で使えるようになる、単音節の無屬魔法と言われている。一応強化と戦技が、屬魔に相當する上級の無屬魔ってことになるな」

「どうやって覚えるの？」

「う～ん……最近だとランク１の戦技なら冒険者ギルドで教えてもらえるらしいぞ。金はかかるがな。それ以上は使える誰かに習うか、どこかに弟子りしないと無理だ」

「ふぅ～ん……」

魔と同じように誰かに習う必要があるのか。面倒な。

それからフェルドにナイフの構え方や振り方や刺し方、防などを矯正された。それで分かったことは、あのの短剣はだいぶいい加減だったことだった。

それでよく短剣スキルを會得できたと逆に心する。

幾つかの基礎的な“型”を教えられて、腕や腰を叩かれながらきを矯正される。でも完璧に覚える時間もないので、そこそこけるようになったら今度は実踐形式でしごかれた。

私はナイフを使い、フェルドは木の棒だったけど、結局私のナイフは木の棒すら折ることが出來ず、その後はけの練習として何度も投げ飛ばされた。

フェルド本人は親切心で教えてくれているんだろうけど、これ本當に七歳の子供にしていい訓練なのだろうか？

しばらくするとまた疲労でけなくなったけど、フェルドの【流水(ウォータ)】で頭から水をかけられ、【回復(ヒール)】で強制的に力を回復させられた。

「本來なら鍛錬で【回復(ヒール)】を使いすぎると力がつかないので良くないんだが、時間もないし、まぁいいだろ。坊主は、森で反撃してきた時から思っていたが、思い切りがいいからそこそこ強くなれると思うぞ。後は短剣スキルを覚えたら強化も……って、お前使えるんだったな？　まだスキルは取れないと思うが、魔力切れには注意しろ」

「……魔力が盡きるとどうなるの？」

「普通に気絶する。普通は一晩寢れば魔力は回復するんだが、魔力切れで気絶すると、半日は目を覚まさない。それに魔力がギリギリまで低下すると飢狀態になる。下手をすると気絶中に衰弱死する危険もあるから、よほどの時じゃない限り、魔力は全部使うなよっ」

「……わかった」

確かにそれは危険だね。特に私の場合は、気絶して目を覚まさないうちに野生に殺される危険があった。しでも命の危険があるのなら気をつけよう。

その後はフェルドから【強化】の使い方と注意點を教わった。

本來なら近接戦闘スキルを１レベル得る過程で、自然と魔力を全に流すようになるので、そこで強化を自然と會得するらしい。

近接戦闘スキルと強化は接な関係にあって、使用レベルは同じになるそうだ。

あと個人の魔力作練度によって多変わるが、慣れないうちは１００數えるくらいで魔力を１消費するので、自分がどれだけ戦えるかで覚えろと言われた。

私の場合はすでに【強化】の基礎が出來ているので、短剣の型をしっかり覚えれば【短剣スキル】は比較的早く覚えられるんだってさ。

「まあ、基礎の基礎で、駆け足だったが最低限のことは詰め込めたと思う。俺はもう行かなくてはいけないが、達者でな。坊主っ」

夕方近くになり時間のなくなったフェルドがそう言って自分の荷を抱えた。

「……うん」

唐突な出會いとキツい修行。でも、彼の言には孤児になってからじたことのなかった、“大人”の優しさと溫かさがあった。

私の中の“子供”の部分がしだけ寂しさをじて下を向くと、フェルドは灰と汗でまみれた私の頭をガシガシとでて、暗くなる前に町のほうへ大きな背中を見せるように歩いていった。

「…………」

夕焼けの中に消えていくその背中が見えなくなるまで見送り、私は心の寂しさを大きく吸った息と一緒に自分の中に飲み込んだ。

普通は浮浪児なんて気には掛けない。一時的とはいえ生きるを教えてくれたフェルドは隨分なお人好しだと思う。

私はフェルドが殘してくれた葉に包まれた兎のを抱えて、また誰か旅人が來る前に焚火の火を踏み消して森の中にを隠した。

枝にぶら下げておいた食料が蟲や小に囓られてないか確認して、木の上に登ると太い枝の上で近くを流れる小川の音に耳を澄ます。もう“私”に火種は必要ない。

「――【火花(ファイア)】――」

手を前に出して生活魔法を唱えると、まだ稚拙ながらバチッと小さな火花が散った。

そして私は水の流れを聞きながら【流水(ウォータ)】と唱え、指先に滲んだ水滴を啜るように飲み込み、暗くなりはじめた辺りを警戒するように數分ごとの細かい眠りにつきながら、力と魔力の回復に努めた。

＊＊＊

その頃、アーリシアの住んでいた孤児院のある町では、とある“事件”が話題になっていた。

この國では伯爵家以上の大貴族が一定地域の領地を寄親として、寄子に子爵以下の多くの貴族家を纏めている。その一つ、トーラス伯爵家が治めている地域、北寄りの國境に近いホーラス男爵領にある一つの町で、殺人事件が二件も起きていたのだ。

犠牲者の一人は冒険者の魔師と思われるで、荷が奪われていたことから取りの犯行だと思われた。

ホーラス男爵領は辺境に屬しているが北に大規模な魔が住む森があり、この辺りでは多くの冒険者が賑わう土地である。冒険者は魔の森に近い男爵が住む大きな町に集まるので、この小さな町にはあまり訪れないが、それでも流れ者である冒険者達の気質を知っている住民達は、どうせ冒険者同士の諍いだろうとあまり気にはしなかった。

だが、それが町の住民であり、孤児の世話をしていた管理人の老婆というのなら話は違ってくる。

老婆が他の住人に慕われていたのではなく、面倒な孤児の世話を額の寄付金で請け負ってくれた“大事な”人だったからだ。それ故に老婆が多行きすぎた“躾”を孤児たちにしていても、町の大人たちは見て見ぬ振りをしていた。

住民が殺されたことで、この町周辺を治めている士爵が老婆の部屋を調べてみると、子供を玩奴隷として他領に売り、私腹をやしていた証拠が見つかった。

もしかしたら老婆が殺害された理由が、奴隷売買をするマフィアが絡んでいるのではないかと、子供達がどこに売られたのか調べようとしたが記録はなく、孤児の何人がいなくなっているのか誰も把握できず、結局事件は未解決として扱われた。

ホーラス男爵は新しい孤児院の管理者を、寄親であるトーラス伯爵に紹介してもらい、その人が到著するまで孤児たちは男爵の使用人が面倒を見ることになり、孤児たちは町の奉仕活にあてられた。

その中でドブさらいを擔當していた七歳のは、その場所で半分欠けた『魔石』を拾い、その妖しい輝きに魅了されるように瞳を輝かせた。

「……うん。わたし……、“主人公(ヒロイン)”になりたい」

次から一日一話更新です。

次は戦闘手段を模索します。