《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》14 命懸けの対価

人のいないスラム街の一角で、私に刃を向けてきた一人の男。

年の頃は三十代半ば。中中背、茶の髪に茶の瞳で、町に紛れたらそのまま見失ってしまいそうなその男から、男臭い笑みと共に“殺気”がじられた瞬間、私は強化を全開にして“逃げ”にった。

男の隠スキルは私の數段上。おそらく戦闘面では比べものにならないほどの差があるはず。なので私は戦うことも隠れることも放棄して、全力で逃走することにした。

町の外に通じるは大人の男ではれない。そこにれば逃げられると思って脇目も振らずに駆け出すと、風斬り音が聞こえて私を掠めるように鋭い刃が通り抜けていった。

「おいおい、逃げるなよ」

「…………」

ジワジワとれ出す男の殺気に、私の背中に冷たい汗が流れる。

遊ばれている……。そうされるほど私と男には実力の差があった。

この男、ただの盜賊じゃない。鑑定水晶を使う隙はないけど、タイプは違うしフェルドほどではないけど、それに近い“圧力”をじた。

この男から逃げられるのだろうか? それでも“戦う”という選択肢を選ぶより遙かにマシだ。そう決めた瞬間に駆け出した私を、すぐさま男が追ってくる。

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でもそれは、男が私を子供だと甘く見て油斷しているからだ。そうでなければ背中に刃を投げて終わりにするはずだ。

シュッ!

「おっ!?」

私が背後に投げつけた鉄串に男が聲をあげた。

練習はしているけど【投擲スキル】をまだ得られていない私では、まだ生きには深く刺さらない。けれど、まだ“遊び覚”でいる男は、怪我をするような深追いはしないはずだと考えた。

キンッ、と鉄串が男の刃であっさりと弾かれる。けれど、そのせいで一瞬だけ私から意識が逸れたその隙に、周囲にあるの魔素を集めて強引に自分の魔力をに染めた。

「【燈火(ライト)】っ!」

魔素を一気に燃焼させて一瞬だけの強いを放つ。

「おおっ!?」

男の驚愕するような聲が響いた。せっかく作りだしたこの隙は逃せない。その瞬間に鋭角に曲がるように飛び出すと、男が何か呟いた。

「……【幻聴(ノイズ)】」

「っ!」

っ? その瞬間、私の向かうその進行方向から男が大地を踏む音が聞こえて、私は咄嗟に橫に飛ぶ。

私の視界もに焼かれて完全じゃないけど、男の視界は奪えたはず。

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さっきの魔の正は分からないが、その場から魔素の覚だけを頼りに離しようとしたとき、突然背後から頭を鷲摑みされた。

「捕まえた」

「っ!?」

前にいたはずの男が後ろにいた。しかも視界を奪ったはずなのに私の位置を正確に把握されていた。

何故っ?と考えるのは後にしてほぼ條件反のように腰からナイフを抜くと、ガキンと固い音がして、手にあったナイフが弾かれて飛んでいった。

「ふっ!」

揺しようとする心をあのを殺したときのように、吐く息と共に深く沈めて、頭皮の痛みに耐えながら強引に勢を変え、肘打ちを男の摑んでいた手首に打ち込んだ。

わずかに緩んだ男の手から無理矢理抜け出すと、地面を転がるように距離を取り、その場で四つん這いになるような格好で男を見上げる。

「「…………」」

これが実戦か……。男はまだ完全じゃない視界に目を細めつつも、手に付いた灰に顔を顰めながら、牙を剝くような兇悪な笑みを浮かべた。

髪の艶を隠すために付けた灰がなければ、あの狀態から逃げることはできなかっただろう。相手が本気じゃないのでまだ耐えているけど、あまりにも違いすぎる実力と男から放たれる“威圧”にが震える。

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その手から逃げても事態が好転したわけじゃない。男からはたぶん逃げ切れない。戦って勝てるような相手でもない。でも……

「フゥウッ!!」

心に生まれた恐怖を打ち消すように、周囲の魔素を吸い込みながら再び自分の中の魔素をに染め上げ、力が回復するように念じながら貓のように息を吐く。

【回復(ヒール)】を使う隙はない。けれど、【Lv.1】を會得した私なら念じるだけでも効果が得られる気がして、気のせいか本當にしだけ活力が戻った。

もう逃げない。意識を逃走から戦闘へと切り替えると、頭の中で“何か”がカチリと歯車が合わさるような覚がした。

この男と戦ってもきっと勝てないだろう。でも生を諦めたわけじゃない。

死中に活を拾う。死に狂いで喰らいついて目にを見せてやる。

腰から鉄串を抜いて歯に咥える。私は力が足りない。速さも足りない。腳だけの筋力では速さは出ないと理解した私は、全力の強化を使って腳だけでなく強化した腕で大地に爪を立て、自分を一本の“矢”として放つために全を弓のように引き絞る。

遊びで襲ったことを後悔しろ。

勝てないまでも絶対に後悔するような傷を付けてやる。

その傷が元で男が誰かに負けるのなら、それが私の勝ちになる。

さあ……死ねっ!!

「うわっ!? 待て待てっ、ちょっとタンマっ!!」

男が慌てたようにぶと、手に持っていた短剣を捨てて両手を上げた。何を企んでいる? 私がそのまま男に襲いかかろうとすると、さらに男が聲をあげる。

「待て待て、俺が悪かったっ、謝るっ! 俺は仕事で使えるようなスラムのガキを捜してただけなんだよっ!!」

……は? なんだって?

「いやぁ、本當にすまんっ!! ガキに隠を見破られたのなんて初めてだったし、お前の逃げっぷりがあんまりにも見事だったんで、つい追いかけちまったっ!」

「…………」

戦意がないことを示すように地面に腰を下ろして手を合わせる男を、私は【回復(ヒール)】を自分に使いながら半目で睨む。

またコレかっ! またコレ系の大人かっ! フェルドといいこの男といい、私はこういう男どもを追いかけさせるような“匂い”でも出しているのっ!?

この男のいうことを真にけるのなら、彼は仕事をさせるための子供を捜しているらしい。子供に仕事なんて出來るのか?と思うけど、狹い場所だったり、大人を油斷させるためだったりと々あるそうだ。

それでどうしてこの男のような手練れがそんなことをしているのかというと、試して使えるようなら、継続的に仕事を任せられる人間を將來を見越して確保しておきたいらしい。

「おおっ、ガキのくせに【回復(ヒール)】なんて使えるのか。どこで習った?」

「そんなことはどうでもいい。それで……“盜賊”が子供に何をさせたいの?」

「盜賊じゃねーよっ! これでも冒険者ギルドに籍のあるれっきとした“斥候(スカウト)”様よ。あんな連中と一緒にすんな。ほれほれ見ろ見ろ」

「……わかった」

男が冒険者の分証明とも言えるギルドの認識票(タグ)を、押し付けるように見せつけてくる。【ランク4】……思った通りかなりの手練れだ。

盜賊でも冒険者ギルドに加している者もいるとは思うけど、戦闘力を含めてここまでの実力を持っている盜賊は滅多にいないはず。

盜賊(シーフ)と斥候(スカウト)は似ているようで違う。

盜賊は戦闘よりも見つからないことに重點を置いて、隠と探知系と鍵開けなどを鍛え上げた“犯罪者”だ。けれど結局自分のに勝てなかった連中なので、末端構員の技はそんなに高くないが、悪知恵だけは驚くほどに長けている。

斥候は同じように隠や探知系を極めているが、見つからないことよりも見つけることを重視している。

跡やダンジョンの罠を見破り解除する。報を集めて有益な報を雇い主に渡す。元々『冒険者』は、跡の探索や報を持ち帰る専門の傭兵だったので、今でも高い戦闘力を有する斥候がギルドには多く在籍している。

そんなことを自慢げに語る男からは、フェルドと同じような『し殘念な大人』臭がした。だからこの男を見てフェルドを思い出したのかな?

「それで、おじさん」

「“おじさん”じゃねぇ。俺の名前はヴィーロだ。それと俺はまだ三十五だ」

「…………」

充分“おじさん”じゃないか。なくとも私のお父さんより年上だ。

「……ヴィーロ。それで“私”に何をさせたいの? 冒険者ギルドの仕事?」

完全に信用したわけじゃないけど、それでもヴィーロの実力なら、子供を騙して売るよりも跡の探索でもしたほうがよっぽど儲かるだろう。だから信用はしたわけじゃないけど、警戒は一段階下げた。

どっちみち逃げても逃げられないと分かったからね。

「ギルドの仕事じゃねーな。元々はギルドからけた仕事の依頼主だったんだが、今は個人的に契約して仕事を請け負っている」

「悪いことならしない。でも……私で出來るの?」

「悪事じゃねーよ。どっちかって言うと警備の手伝いだ。それにお前だったら問題ねーな。……くくっ」

私の問いに何を思い出したのか、ヴィーロは笑いながら自分の膝を叩く。

「ここら辺じゃ、普通のガキしか見あたらなくて、スラムのガキでも使いものにするには時間がかかるな~と落膽してたんだが、お前はいい拾いもんだよ。良い覚を持っているし、稚拙ながら魔も使える。それに何だよ、最後のあの“殺気”はっ! ガキの出せる殺気じゃねーぞ。追い詰められた魔狼でも相手しているのかと思ったぜ」

私の死に狂いの気合いを、ヴィーロはそんなふうに語る。

殺気……人を三人殺めているのだから確かにあるのだと思うけど、自分ではよく分からない。呪文に意志を乗せる訓練をしていたせいで、殺意が魔力と共に滲み出たのだろうか?

「斷ったらどうなるの?」

「ん? 別に何にもしないぞ。やる気のない奴にやらせても無駄だしな」

斷ったらまた戦闘になるのかとを滲ませていると、ヴィーロは何でもなさそうにそう言った。

「……仕事容は? 警備の手伝いってなに?」

「おうっ。やらせたいことはちゃんとあるんだが、最初は使いものになるか、試験として使いっ走りをさせるつもりだった。ちゃんと言われたことを理解できるか、馬鹿なことをしでかさないか、一番大事なのは、危険なことを任せられる“膽力”があるか、なんだけどな」

「ふぅ~ん……」

「お前は々危なっかしいが、敵わないと知ってまず逃げに徹したのは褒めてやる。膽力は申し分ねぇ。だったら々予定を早めて、俺が見極めてもいいかな」

私を見るヴィーロの瞳に鋭さが宿る。

……あ、これ、フェルドが私を鍛えると宣言したときと同じ眼だ。どうやらお眼鏡にはかなったようだけど……

「うん……わかった」

「おお、それは良かったっ。いや、助かったぜ。そろそろ誰か連れていかねぇと依頼主に睨まれるからよ」

ヴィーロが安堵したようにおっさん臭く自分の肩を叩く。

私は彼を完全に信用したわけじゃないけど、それでもヴィーロの側にいることは私の利益になるとじた。

ヴィーロは冒険者である斥候(スカウト)……私の完全な上位互換だ。彼の側にいて隠や戦闘技を眼で盜み、自分のにする。今の私が強くなるにはそれが近道だと考えた。

「よし、さっそくギルドに行くか」

事が決まると、地面に胡座をかいていたヴィーロが音も立てずに立ち上がる。

「ギルド…って冒険者ギルド? 何で?」

何か調べでもあるのだろうか? だったら用のない私はどうしようかと考えていると、ヴィーロがしだけ首を傾げる。

「何…って、そりゃあ、お前の冒険者登録だよ」

「……はぁ? 私、戦闘スキルもってないよ?」

確かには覚えたけど、それだけで冒険者に登録するのは面倒のほうが大きい気がする。そう主張すると、今度はヴィーロのほうが呆れた顔をした。

「お前こそ何を言ってるんだ? 10歳程度で強化も使えて、その戦闘力なら戦闘系スキルが無いわけがないだろう?」

「…………え?」

一瞬理解できなかった言葉の意味を理解した私は、慌てて鑑定水晶を取り出して自分を調べてみた。すると……今までずっと會得できなかった【短剣】スキルが、知らないスキルと共にステータスに記載されていた。

【アリア(アーリシア)】【種族:人族♀】【ランク1】

【魔力値:33/70】5Up【力値:29/52】15Up

【筋力:4(4.4)】1Up【耐久:5(5.5)】1Up【敏捷:7(7.7)】2Up【用:6】

【短剣Lv.1】New【Lv.1】New

Lv.1】【無屬魔法Lv.1】

【生活魔法×6】【魔力制Lv.1】【威圧Lv.1】New

【隠Lv.1】【暗視Lv.1】【探知Lv.1】

【総合戦闘力:36(強化中:38)】10Up

アリアは『私』と言っていますが、ヴィーロはなんとなくアリアの別に気づいています。

次回、冒険者ギルドへ。

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