《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》16 偏屈な鍛冶屋
「【突撃(スラスト)】っ!」
私のナイフで突き出した【戦技(せんぎ)】の衝撃が、1メートル先の丸太を抉る。
【戦技(せんぎ)】とは、単音節の無屬魔法で、武を介として発する近接戦闘職の必殺技のようなものだ。
使用には魔力を消費して、通常攻撃の數倍の威力を放つことが出來る。
ただし、簡単に使える分、使用には制限があり、レベルが高くなるほど使用魔力は多くなり扱いが困難になる。そして一度使うと筋に熱のような魔素が溜まり、その熱が冷めないうちに無理に使うと筋を傷つけてしまう。
もちろん痛めた筋は【回復(ヒール)】で回復可能だが痛みは抜けず、無理に【回復(ヒール)】で使い続けると、數日間は腕が上がらなくなるそうだ。
短剣スキル、ランク1の戦技は、【突撃(スラスト)】だ。
片手でナイフを突きのように使い、その衝撃を倍加して前方に放つ。
程は技量によって1メートル以上にもなり、威力が低くリーチの短い短剣の弱點を補ってくれる、かなり使える戦技だった。
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戦技は碌な知識がなかったので覚えるのは難しいかと考えていたのだけど、ヴィーロに型を教えてもらい、手本を見せてもらうと予定の1時間も経たずに使えるようになっていた。
【突撃(スラスト)】は無屬の魔力を刃の形に放つだけの『魔法』だ。魔ではなく魔法と言うことを意識して、魔素の流れを再現するように、魔力を飛ばすのではなく刃をばすようなイメージで使う。
これは稚拙ながらも生活魔法をすべて覚えた経験が役に立った。でも魔力制を覚えていなかったら、もっと時間がかかったと思う。
パチパチパチ……
「結構です、アリアさん。素晴らしい戦技でした。あなたを冒険者ギルドのランク1冒険者として歓迎いたします」
試験を兼任していた付のが拍手で出迎え、すでに出來上がっていた認識票(タグ)を私に手渡してくれた。本來なら試験が終わってからしばらく待たされるのだけど、私が魔を使えることで問題なしとして、先に作ってくれていたらしい。
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ニコリと優しく微笑んで手渡してくれたが、打って変わって剣呑な眼差しを背後の男に向ける。
「ヴィーロさん、訓練場使用料と登録料、合わせて銀貨二枚早く払ってくださいね」
「態度が違いすぎるだろっ!」
「若くて可い子と、おっさんで、態度が変わるのは當然だと思いませんか?」
「くそっ、反論できねぇっ!」
……それでいいのか。まぁ、仲が良いのだと思っておけばいいか。
「アリア、次行くぞ」
「うん」
不満を表すようにどかどかと歩くヴィーロの後に続いて、私も冒険者ギルドを後にする。チラリと振り返ると付のが私に気づいて手を振ってくれた。
そういえばあのの“知識”では、新人冒険者は必ずガラの悪い冒険者に絡まれるイベントが発生する伝統があるらしいのだが、ヴィーロがいたおかげか、そちらはしお預けらしい。
とりあえずヴィーロとの仕事の話をしよう。
彼の予定では、一週間程度のお使いを何度かさせられて、それで使いものになりそうならヴィーロが直々に戦闘訓練を施し、それで信用できると分かったらそこからあらためて依頼主のところで仕事をするはずだった。
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私がヴィーロを信用しきっていないように、彼もまた私を完全に見極めていないようで、その依頼主が誰なのか、そこでどんな仕事をするのかまだ教えてもらっていない。
でも……もしかしたらその依頼主が貴族である可能があるのか。
さすがに貴族が浮浪児まがいの子供に仕事をさせるとは思えないけど、もし貴族でも今の私はし背がびているので、すぐさま孤児院から消えた子供だとは気づかれないと思う。
あれほど貴族を警戒していたのに、どんな心変わりが起こったのかというと、今の私は生きるために強くなろうとしているが、フェルドとヴィーロを見て、強くなるのはそれなりに目立つことなのだと知った。
強くなれば貴族と関わる機會があるかもしれない。その時に一々全部逃げるか、正を隠したままある程度許容するかで、その後の人生が大きく変わってくる。
なので、ヴィーロという保護者を間に挾んで貴族と接できるのはよい機會だと考えた。可能なら酷い貴族と関わったときの“保険”として伝手がほしいけど、それは張りすぎだろう。それにたぶん、依頼主が貴族だったとしても浮浪児に仕事をさせるような貴族ならそれほど偉い貴族じゃないと思う。
それに、最終的に単獨で他國に出できる実力を得られれば、見つかっても平気なんじゃないかと思い直したのだ。
そして『強くなる』ためには、ヴィーロの仕事をするのが一番早い気がした。
「それじゃ、仕事をさせるために最低限のことが出來るように鍛えてやる」
「……わかった」
脳裏に、フェルドとした子供がするとは思えない修行景が浮かんでくる。
でも、その間の生活費はヴィーロが出してくれるらしいし、それだけでなく日當として小銀貨1枚くれるらしい。
普通の平民からすると安いような気もするけど、スラムの浮浪児からすると、過ぎた好待遇なので文句などあるはずがない。
「それと……アリア。お前のナイフを見せてみろ」
「うん?」
他人に武を渡すのには不安はあるが、ヴィーロほどの手練れに拒んでも何の意味もない。ヴィーロは私が差し出したナイフをけ取ると、若干顔を顰めて微妙な顔つきになった。
「……こいつは、貰いか?」
「うん? そうだけど……」
私の返事にヴィーロは軽く溜息をついて、そのままナイフを私に返す。
「そいつは解だけに使うか、予備の武にしておけ。どっちにも使うとすぐに糊で切れ味が落ちるぞ」
「でも、戦うときはどうするの?」
「俺がこの町に來た一番の理由は、この町の鍛冶屋に用があったからだ。お前の手に合う奴を買ってやる。そのナイフじゃ、ガキには握りがデカすぎるんだよ」
「……うん」
元々大男のフェルドが使っていたなので握りも大きい。それは私も自覚していたので、買ってくれるというなら喜んで貰う。
「それと……これも履いておけ」
「ん?」
ヴィーロが差し出したのは半ズボンだった。店で目についたを買ったのか、多サイズは適當だったが履けないこともない。
でも、どうしてこれが必要なのだろう? 意味が分からず首を傾げてヴィーロを見上げると、ヴィーロは顔を顰めて私の頭を暴にかき回した。
「お前は戦闘の時にヒラヒラさせすぎなんだよっ」
よく分からないことを言って歩き出したヴィーロを追って私も歩く。何故か分からないけどあまり聞かないほうがいい話題なのかもしれない。
「そういえば、戦いの時、魔を使った?」
ヴィーロが戦闘途中で魔らしきものを唱えた後、前にいたはずのヴィーロが後ろにいたのは、彼の魔ではないかと思った。その現象を尋ねると、ヴィーロもそれを思い出したのか歩きながら軽く振り返る。
「ああ、あれか。俺は【闇魔】を使えるんだよ。レベル1で一つしか使えないけど、あれは、“音”を任意の場所で発生させる魔だ」
「……闇魔」
なるほど、幻系の闇魔か。音をどこかに立てるだけなら大したことはないように聞こえるが、ヴィーロや私のような斥候職が使うのなら々な場面で役立ちそうだ。
「私に闇魔を教えて」
せっかく知識で覚えていない闇魔を知っている人が見つかったのだから、ここで逃す手はない。私がそう言うとヴィーロは腳を止め、私を見下ろしながらしだけ考える素振りを見せた。
「魔か……。お前に闇魔の屬があるのか分からんから、覚えられるか保障はせんぞ? 教え方なんて知らないから呪文だけなら教えてやるが……それでもいいか?」
「充分」
そもそも誰かに習ったこともない。呪文と意味さえ分かれば、また時間をかけてしずつ解析していけばいい。
そんな會話をしながら表通りを歩いていくと、ヴィーロはスラム街に近い低所得者層の住宅地へと足を向けた。
ここって確か……あの雑貨屋の爺さんの店があるところかな? そういえば、爺さんが偏屈な鍛冶屋のドワーフのことを話していた。だとしたら、これから行くのはそのドワーフの鍛冶屋なのかも。
それからしばらく低所得者が住む地域を歩いていると、遠くから金屬を叩くような音がどこかから聞こえてきた。そこが目的地なのか、ヴィーロが慣れた様子でり組んだ路地へとり、しばらく進んだ辺りでし大きめの石造りの作業場に辿り著く。
「ガルバス、いるかっ!」
ヴィーロが怒鳴り聲のような聲を出すと、しして奧から銅鑼を鳴らすような大聲が返ってくる。
「ひとんちの前で、でけぇ聲を出すんじゃねぇっ!!!」
ビリビリと鼓を震わせるような聲に思わず耳を押さえると、奧から背は小さいが橫幅はフェルド以上もありそうな、真っ白な髭を生やしたドワーフの老人が現れる。
老人…だよね? 私も“知識”で知っているだけで、ドワーフと會うのは初めてなのでよく分からない。
「なんだ、ヴィーロの小僧か。酒でも持ってきたのか?」
「いい加減、“小僧”は止めてくれ。前に頼まれたが集まったから持ってきたんだよ。ほれ、火吹きトカゲの魔石だ。上だぜ?」
「おお、やっと揃ったか。それがないと爐の熱があがらん。早速使ってみるぞっ」
「おいおい、金くらい払えよ。かなり手間がかかったんだぞ」
「みみっちいこと言うな。前に作ってやった短剣を出せ。新品同様にしてやる」
「……仕方ねぇな」
やり取りはよく分からないが、結構親しい関係のようだ。それでどうやって武を直すのか興味深く覗いていると、ようやくドワーフ…ガルバスが私に気がついた。
「おめぇの子か? ……いや、お前の顔じゃ違うな。弟子か?」
「何気にひでぇな……まぁ、弟子みたいなもんだ。こいつにナイフを使わせたいんだが何かあるか?」
「こんなガキに持たす武はねぇっ!! …と言いたいところだが、そこら辺にある奴を適當に持ってけ。ヴィーロのツケにしてやる」
「……魔石の代金も貰ってないのに、ツケにされるのか?」
ヴィーロのそんな呟きを無視してガルバスが魔石の一部を爐に投げれた。
爐に燈っていた炎のがあきらかに変わり、強烈な熱気が溢れ出る。を焼くような熱気の中で、ガルバスが酒瓶から口に含んだ酒を爐に吹きかけると、炎が踴るように揺らめいた。
きっとただのお酒じゃない。火吹きトカゲの魔石とそのお酒のせいか、私はその炎に宿る魔素の、あまりにも鮮やかな『』に魅せられるように聲をらした。
「……きれい……」
「…………」
私の呟きを捉えたガルバスが、爐から顔を上げてマジマジと私を見た。
「おめぇ、この火の“”が分かるのか?」
「混じりけのない……“赤”」
思わず無意識にそう答えると、ガルバスは私の顔をジッと見ながら、白い髭をでるようにゆっくりと頷く。
「その髪……お前が雑貨屋の偏屈爺が言ってた、“灰かぶり”か」
「…………」
お互いに相手を“偏屈”と言ってるのか。
「おい、灰かぶり。おめぇ、武はナイフだったか?」
「うん」
「よし分かった。おいっ、ヴィーロっ!! そんな買った奴が下取りで置いてったようなクズ武なんて見てないで答えろ!! おめぇ、明日まで時間はあるかっ!?」
ガルバスの聲に、鍛冶場の隅で箱にあった短剣を真剣な顔で選んでいたヴィーロが、驚いた顔で振り返る。
「クズ武を選ばせてたのかよっ!? まぁ、明日くらいなら別にいいが……どうしたんだ?」
ヴィーロが答えるとそれに頷いたガルバスが奧へと行き、しばらくして戻ってくると一本の細で真っ黒なナイフを私に差し出した。
「俺が昔作ったナイフだ。灰かぶり。お前の手に合うように直してやる」
申し訳ありませんが、次回の更新は土曜日になります。
次回、新しい武
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