《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》25 勧
「あなたは……」
セラが暗闇に佇む塗れの子供に聲をかけると、突然現れた彼を警戒して放たれていた、氷のような殺気がわずかに和らいだ。
それでもまだ子供だとは思えないほどの視線の鋭さは消えておらず、ナイフを構えたまま警戒を続けている。
セラはその様子を見て不意に悟る。この子は他人を……“大人”を信用していない。
「……あの子は無事ですよ」
そう聲をかけると、ようやく敵ではないと判斷してくれたのか、まだ殘っていた殺気が夜に溶けるように消えて、ようやくその子は真正面からセラに視線を向けた。
やはり、この子はミーナから魔を引き離すために無謀な戦いに挑み、そしてこんなボロボロになりながらも、ランク2の魔であるホブゴブリンを倒してしまったのだ。
この子は人を信じていなくても、まだ“人”として歪んでいない。
(……似ている)
真正面からセラを見據えるその子の瞳は、そのもその強さも、セラの上司である辺境伯閣下と似ているような気がした。
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この子は何者なのか……。子供とは思えない膽力と殺気、そしてその戦闘能力は心ついたときから鍛えていたセラの息子さえ越えているとじる。
その答えを求めるようにセラが思わず一歩踏み出すと、セラから逃げるように距離を取ろうとしたその子供のが揺れて、気を失うように崩れ落ちた。
「っ!」
を駆使して數メートルの距離を一瞬で詰めたセラが、頭から倒れる寸前で子供のを抱きとめる。
「…………」
とても細くて軽い小さな。そんな子がホブゴブリンと戦い、もも使い果たしたのだろう。眠っていればただの可らしい子供で、同年代の子供がいるセラは母親のようにに汚れたその頬を指ででた。
「……帰りましょうか」
その子が落としたナイフや裝備を拾い、その中のひとつである紐分銅の髪で編んだ解れかけた紐を見て、セラは何か心に引っかかりのようなものをじて、その紐を懐にしまい込んだ。
***
「…………」
目を覚ますと知らない部屋にいた。
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確か……ホブゴブリンが死ぬまで戦って……どうしたんだっけ? 途中からよく覚えてないけど、最後にメイドらしき姿を見たような気がする。
……まぁいいか。何故か久しぶりにお母さんの夢を見てし気分がいい。
はし怠いけど大きな怪我が殘っていないので安堵する。というよりも、傷がぜんぜん殘っていない。昔からの傷はともかく、この一ヶ月でついた傷が跡形もなく消えていた。
誰か、かなり念りに【治癒(キュア)】でもかけてくれたのかな……
とりあえず自分の狀態を確認する。あの塗れだった服はがされたのか、どこにでも売っているような簡易な貫頭を著せられていた。はさっぱりしていたけど、お風呂にったように完全に綺麗になっているわけじゃない。
細かい埃が取れているのに泥のような大きな汚れはまだ微かに殘っているから、何か魔的な方法で汚れを除去したのかも。
の回りに武はない。あの場に置いてきてしまったのか……せめてガルバスの黒いナイフだけは回収したかったけど、命があるだけ幸運だったと思うしかないか。
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それよりも気になることがある。魔力の質…じゃないな。それもあるけど魔力の流れ自がやけにらかな気がして自分を【鑑定】してみると、ステータスがとんでもないことになっていた。
【アリア(アーリシア)】【種族:人族♀】【ランク1】
【魔力値:107/112】35Up【力値:48/60】5Up
【筋力:4(4.4)】【耐久:5(5.5)】【敏捷:7(7.7)】【用:6】
【短剣Lv.1】【Lv.1】【投擲Lv.1】New
【魔Lv.1】【闇魔法Lv.1】New【無屬魔法Lv.1】
【生活魔法×6】【魔力制Lv.2】【威圧Lv.2】
【隠Lv.1】【暗視Lv.1】【探知Lv.1】
【簡易鑑定】
【総合戦闘力:58(強化中:63)】19Up
……なにこれ? 【投擲】スキルは何となく覚えてると思っていた。
でも……【闇魔法Lv.1】ってなに? 闇魔じゃないの? そのせいなのか魔力制がレベル2になっているし、ランクは1のままだけど、魔力も隨分増えて戦闘力も上がっていた。
そして何故か【威圧】までも上がっているのは、意味が分からない。
魔力の質は……ステータスを見て何となく理解した。たぶんだけど……私のの中に闇屬の【魔石】が生されたんだと思う。
何度もその屬の魔を使わないと魔石は生されないと思っていたのに、こんなことでも出來ちゃうんだ……。試しに【暗闇(ダーク)】を使ってみると、染めてもいないのに私の側から闇屬の魔素が溢れてきた。
「……まぁいいか」
別に悪いことじゃない。魔石のせいか魔力制のおかげか、魔力の流れがらかになった気がして調は以前より良い気がする。
「……ん?」
その時、何かがこちらに近づいてくる“気配”が【探知】に引っ掛かる。大雑把な歩き方の振……それでも無意識に重を消すようなこの歩き方は……
バタンッ!
「よう、起きてるかっ」
「……ヴィーロ」
まだ寢ていたらどうするつもりだったのか……いや、ヴィーロのことだから、ここに來るまでに私が起きていたと気づいていたんだと思う。だから挨拶代わりに足音を立てて近づいてきたんだ。
勝手にってきて勝手にベッドの脇の椅子に腰掛けたヴィーロは、呆れながらも揶揄するような視線を私に向けてきた。
「ホブゴブリンを倒したんだって? お前も無茶するなぁ。お前の戦闘力でホブゴブリンとゴブリン四を同時に相手にするなんて、普通は死ぬぞ」
「次はもっと上手くやる」
私が気負いも反省もなくそう言うと、ヴィーロがさらに呆れた顔になった。
「……それはなに?」
ヴィーロは片手にいい匂いのする篭を持っていた。それを指摘すると、思い出したように篭の蓋を開ける。
「アリア。お前また丸一日寢てたんだぞ。腹減ってると思って、俺の朝飯ついでにお前の分も持ってきた。食え食え」
「…………」
朝は朝でも、昨夜の翌日かと思っていたらその次の日だったみたい。
でも、ヴィーロが持ってきた『朝食』は、茹でた香草りソーセージとぶ厚く切ったハム。そしてタレをつけた骨付き羊の炙り焼きという、朝からばっかりのメニューだった。
男やもめの冒険者らしいと言えば“らしい”けど、丸一日以上胃に何もれていないのなら、もうし軽めのが良かったが……
「……食べる」
一度魔力が枯渇しかけたせいで、が凄く食べをしがっていた。
それに次はいつ食べられるか分からないので、毒でないのなら食べないという選択肢は私にはない。それでも油の味に胃から何かがこみ上げそうになったので、チマチマと小のようにハムを囓りながら、ヴィーロから必要な報を引き出した。
どうやらあのホブゴブリンたちは本當にはぐれ魔だったようで、他の地域で巣の掃討をしたのだが、數討ちらしたゴブリンたちがここまで流れてきたらしい。
その報告をけたダンドールが昨日のうちに騎士団を派遣したらしいので、騎士団の威信にかけて、この周辺の魔は掃討してくれるそうだ。
「……それで、私の仕事はどうなるの?」
ホブゴブリンは倒したけど、監視任務としてなら見かけたメイドに警告だけして、あの場は報告に戻るべきだった。しかもその後に丸一日仕事をさぼった狀態になっているので、あのスラムの子供を嫌悪していたカストロが、私をこのままにしておくとは思えない。
そんな意味合いを込めて尋ねると、ヴィーロは食い千切った羊を(朝から)果実酒で飲み込みながら、考え込むように腕を組む。
「それなんだが、なんでもお前には新しい仕事があるそうだぞ?」
「新しい仕事?」
「おう、……と、ちょうどいいから本人から聞くといい。セラか、っていいぞ」
ヴィーロが背後に呼びかけると同時に部屋の扉がノックされ、その扉から小麥のをした凄い人のメイドがってきた。
「…………」
ヴィーロは気づいていたみたいだけど、私の探知スキルでは彼が近づいてくる気配を察知できなかった。
【メイド】【種族:人族♀】
【魔力値:170/220】【力値:245/260】
【総合戦闘力:929(強化中:1126)】
……ただのメイドじゃない。ヴィーロとほぼ同等の戦闘力を持つ、とんでもない手練れだった。
こののは……“クルス人”?
亜人である獣人に『犬種』と『貓種』がいるように、人間種にも種族ごとに『人種』が存在する。
ドワーフは木工や細工が得意な『山ドワーフ』と、鍛冶が得意な『巖ドワーフ』がいて、エルフだと『森エルフ』や『闇エルフ』がいる。
そして人族の場合は、この大陸だと二つの人種があり、小麥のの『クルス人』はこの大陸の先住人種で、屬魔はあまり得意ではないけど、敏捷と用度が高く戦闘が得意な人種のはずだ。
もう一つの私やヴィーロのようなの白い人族は『メルセニア人』と呼ばれていて、千年くらい前に北の大陸から移住してきた人たちの末裔らしい。
このクレイデール王國は七割がメルセニア人で、二割が亜人であり、クルス人は一割しかいない。
それでも千年も経てばだいぶ混が進んでいて、人種的な差はほとんどないといわれている。生粋のメルセニア人なんて大陸北部の國か貴族にしかいないし、生粋のクルス人も、西にあるカルヴァーン帝國かガンザール連合王國くらいにしかいないと思う。
そのクルス人らしきメイド……セラは、ヴィーロが持ってきた『と酒』に底冷えするような冷たい視線を向けると、手に持っていた金屬のお盆からドーム狀の蓋を外す。
「病み上がりの子供に何を與えているのですか。そこのあなた、こちらを食しなさい。ミルクの麥粥(ポリツジ)を作ってきました」
そう言うと、仄かに甘い匂いのする麥粥をずずいと私に突き出した。
意外と押しが強くて強引にけ取らされてしまったけど、より遙かにマシだし、正直言うと胃に溜まれば拘りはない。
「食べながらで結構なので話を聞きなさい。まずは現場で回収したあなたの裝備を返卻します」
私が食べはじめたのを満足げに見ていたセラは、ヴィーロを押しのけるようにして椅子に腰掛け、私の裝備をベッドの脇に置く。
追加報。ヴィーロは妙齢の気の強いに弱い。
「この魔鋼のナイフは良いですね。他にも金銭類がありましたので私が保管していましたので、確認しなさい」
「……紐分銅は?」
黒いナイフ以外は代えが利くばかりで、どうでもいいと言えばいいのだけど、投げナイフや予備のナイフの他には歪に曲がった銅貨があるだけで、私の髪で編んだ紐が見あたらない。
「あれはかなり痛んでいて再使用は出來ないと判斷しましたので、私の一存で処分しました。問題ありませんね?」
「……うん」
使えないなら仕方ない。とはいえ、荷にある殘りの髪では、新たに紐を編むほどの量は殘っていなかった。……新しい代わりの武を考えないと。
そんなことを考えながら麥粥を完食すると、を片付けたセラがあらためて私に向き直る。
「あなたに新しい仕事を用意しました。あなたはランク1ですが一応“冒険者”だと聞きましたので、これはヴィーロ経由ではなく、あなたへの直接依頼になります」
「依頼?」
そう返した私の言葉に頷くと、セラは依頼の容を口にする。
「私の下でメイド見習いとして働き、『護衛メイド』の鍛錬をいたしませんか?」
護衛メイドへのおい。
次はいよいよ、乙ゲーム登場人と接します。
次回、メイドの仕事。クルス人の年。
明日投稿予定です。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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