《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》33 エレーナとの誓い
首がへし折れた盜賊が崩れ落ち、その全から魔の鎧が拡散するのを見て、その咽をナイフで切り裂き、完全にトドメを刺す。
「……ケホッ」
微かに咽せた私の口からが零れる。腹を刺されたときに臓を傷つけたのか、それとも毒が回ってきたのか、私が膝を突くように崩れ落ちて仰向けに倒れると、悲鳴のような聲が聞こえた。
「アリアッ!!」
わずかに視線だけをそちらに向けると、だいぶ毒は薄れているけどまだまともにけないエレーナが、這いずるように私のほうへ近づいてくる姿が見えた。
エレーナは無事だ……。大きな怪我も見あたらない。任務は完了したと息を吐きながらも、私は最後まで足掻くために【回復(ヒール)】を使って、おそらく瀕死になっているだろう力をしだけでも回復した。
使った魔や戦技を考えると、殘りの魔力は半分程度。ここでさらに【回復(ヒール)】を使ったことで、殘りは30~40程度だろう。それが私の“生命”の殘量と同義になる。
「アリアッ、何て酷い傷……」
私のところへ辿り著いたエレーナが私の怪我を見て顔を変えた。
「……無事?」
「わたくしのことよりも、あなたですわっ! こんな無茶な戦い方をして……この傷の深さだと【回復(ヒール)】では無理ですわ。わたくしがすぐに【治癒(キュア)】を…」
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「それは…いい。それより…【解毒(トリート)】…使える?」
「使えますけど……でも無理ですわっ! 毒の種類が分からなければ、異を消去できないのっ!」
私が毒に冒されていると知ってエレーナが青い顔で首を振る。
「……キリグ草……巖蛇の毒腺……サクアルの実……時雨樹の花……」
「……え?」
「たぶん……このどれかが…使われてる…」
私はあのが師匠の所から盜んできた『手書きの野草本』を、文字の読み書きのために何度も何度も読み込んでいた。
いずれ錬金も覚えるつもりだったので、それこそ細かい注釈にいたるまで、暗記するほどに読み込んでいる。
それによれば、このような痛みを伴う毒で、この國のある大陸南部でも手にりそうな毒の素材はこの四つだ。他にも種類はあるけど、ダガーに塗って常時使用できる狀態にしておくのなら、手間のかかる稀素材は使っていないと考えた。
さっきの素材のどれか…もしくは複數が使われている。たぶん、他の素材を混ぜて効果を増していると思うけど、本の毒素材を消せば時間で解消されるはず。
「き、キリグ草とサクアルの実は知っていますわ。でも、巖蛇の毒腺と時なんとかの花は、見たことがありませんわっ!」
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「……なら…サジュアの種子…とラベンダーの花を…イメージして…魔を使って。それが、……対抗素材……」
「アリア……あなた、どこでそんな知識を…」
「早く……」
「わ、わかりましたわ。でも、毒を消してもその傷は…」
「ポシェット……探って…」
「あなたの? これかしら……」
エレーナが私の腰にあるポシェットから、陶製の2本のポーションを取り出す。
「キレイな…瓶は、安い奴……古い瓶が……強いポーション……」
「これを使えば良いのですね」
それもあのが魔の師匠から盜んできただ。返せるのなら返そうと思ったが、そもそも死んでは返せない。
エレーナが覚束ない手付きで封を切り、蝋で固められた栓を抜いて私の傷口に直接かけると、鋭い痛みをじて私の口から思わずきがれる。
「このポーションだけでは治りませんわっ! やはり最初に【治癒(キュア)】を…」
「エレーナは…【解毒(トリート)】…使って。【治癒(キュア)】は……私が使う」
ポーションの使用限度期限は半年程度。期限ギリギリで効力が落ちているのもあるけど、そもそも治癒ポーション類は“再生”ではなく“回復”寄りの効果なので、元よりこれで治るとは思っていない。
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私はまだ【治癒(キュア)】の魔に功したことがないけど、それでも今の狀態ではエレーナに毒を消してもらい、私が自力で【治癒(キュア)】を使うしか生き延びるはなかった。
「――【解毒(トリート)】――」
「……【治癒(キュア)】……」
エレーナが呪文を唱えて私に【解毒(トリート)】を使う。私も途切れそうになる意識を痛みで繋ぎ止め、呪文を詠唱して【治癒(キュア)】を使うが、わずかにるだけでそれもすぐに消えてしまった。
エレーナが不安そうに私を見る。けれど私は首を振って彼に【解毒(トリート)】の魔を続けさせた。
【解毒(トリート)】はすぐに効果が表れる魔ではない。異を理解して消去するには集中力が必要で、特に今回のように特定しきれていない場合はさらに時間がかかる。
私は以前失敗してから何故【治癒(キュア)】が発しないか……そして、どうして使い手がないのか考えていた。
【治癒(キュア)】の呪文は『リティーシュワールボルデアンオストーリーステン』……一般的には『を元に戻す』という意味で知られているが、その呪文を展開するとその中に『再生』や『本當の姿』という単語が隠れていた。
おそらくは“知識”が足りないのだ。それも生學的な知識が。
【治癒(キュア)】を習得できた者たちは、セラのように人を壊し、急所を理解して、人の構造を良く知っていたのではないだろうか? あのも前世とやらでそれを學んでいたはずだが、心臓や脳の位置を知っていても、臓の正確な位置を知っているわけではなかった。
けれど、その“知識”を補う方法はある。
一度は失敗した。魔力殘量を考えるともう失敗はできない。
さっきは暗視の魔素の反を利用して、の構造を脳に描いた。でもそれだけじゃ足りなかった。
「――【診(フィール)】――」
魔素を飛ばして『れられた覚を與える』のではなく、本來の使い方である魔素を飛ばした先の『れたを得る』使い方をして、臓の構造を脳に描き、あのの知識とすり合わせる。
傷ついたのは臓……胃と肝臓の部分だ。
「――【治癒(キュア)】――」
ついに魔が発してイメージした臓を傷のない狀態に再生を始める。
この呪文を発させるには、漠然と使うのではなく、治療する再生すべき傷ついた部分を特定する必要があったのだ。
【治癒(キュア)】の範囲はかなり狹い。脳に描いた臓に當たるように手の位置を変えると、痛みが和らぎはじめて、私の名を呼ぶエレーナの聲を聴きながら私の意識は闇に沈んでいった。
***
次に目を覚ました時はまた醫務室を兼ねるベッドの上だった。
あれから三日ほど経っているらしく、怪我はすべて跡形もなく治っていたけど、それでも臓が傷ついたことで、しばらく安靜にしているようにと、またを持って見舞いに來たヴィーロから聞いた。
臓を痛めた子供にを持ってくるなよ……食べたけど。
セラからは賞賛と叱責の言葉をいただいた。あの盜賊はこの辺りでは有名な、魔を使う貴族専門の“拐屋”だったそうで、それに気づいて阻止したのは良いが、負ける可能が高い相手に挑むよりも、目印を殘しながら上級執事の到著まで追跡するのが正解だったらしい。
それでも私がまだ見習いで、地下の存在に気付けなかった上級執事が責任を取るらしく、私には報奨金も出るそうだ。
今回は上位の斥候護衛をエレーナの我が儘でそばに付けられなかったのだから、ある意味不可抗力な面もあるけど、そういう問題ではないらしい。
そもそも拐された瞬間からセラの仲間たちによる包囲網が展開されていて、時間の問題はあるけど取り戻す算段は出來ていたそうだ。
だから今回の件で私が報奨金を貰うのは、命懸けでエレーナを取り戻したからではなく、事態が大きくなる前に終息させ、表の警備であるダンドール辺境伯の責任問題を回避したからだと、こっそりヴィーロが教えてくれた。
だけどセラ的には、が弱いエレーナの負擔を最小限に留めたことを高く評価してくれた。でも、セオはそれに不満だったようで、無茶をして怪我をしたことを泣きながら叱られた。
……別に生きているし、傷跡もエレーナが消してくれたみたいなので、護衛メイドをするにも問題ないからいいんじゃないの?
そのエレーナとはあの日以來會えていない。
お忍びとはいえエレーナはこの國の王で、私は浮浪児上がりのメイド見習いでしかないのだから、彼が私を気にかける理由も、私がエレーナに會わなければいけない理由もない。
エレーナがこの地に滯在するのはあと二週間程度。
私のもあと數日で本調子に戻って任務に復帰できると思うけど、その監視対象であるエレーナはすっかり大人しくなっているらしく、私は殘り任期である二週間ほど靜養を言い渡された。
気にならないといえば噓になるが、仕方ないと割り切り修行と痛んだ武の修復に勤しんでいると、セラからメモを一枚渡され、読んだ後はすぐ焼卻するように命じられた。
「…………」
エレーナが王都に帰還する前夜、私はメイド服姿で城の壁に張り付き、目的の場所へと向かう。
指定時間は、時計塔の一の鐘が鳴る午前零時。
その鐘が鳴ると同時に、テラスにある手摺りにペンデュラムの糸を巻き付け、糸を魔力で強化しながらテラスに舞い降りると、そこにいた夜著のままテラスのテーブルに著いていたが、し驚いた顔でふわりと微笑んだ。
「時間ちょうどね。いらっしゃい、アリア」
「來たよ。エレーナ様」
あのメモはエレーナからの招待狀だった。
今夜零時に誰にも見つかることなく、外から彼に會いにくること。
外にはセラの仲間たちの気配をじたけど、私が通ることは知っているらしく何事もなく通してくれた。
エレーナの部屋からは誰の気配もじない。もしかしたらセラあたりは隠れているかもしれないけど、それを気にしはじめたら切りがないので、気にしないことにする。
「まずは助けてくれてありがとう。アリアのおかげで、調を崩すことなく最後までいられましたわ」
「問題ない。任務だから」
「あなたはそうよね」
何故かエレーナはクスリと笑い、手摺りの側にいた私と同じように、席を立って手摺りに手を置くと、私たちは數メートルの距離を置いて向かい合う。
「……アリア。あなたは何者?」
エレーナの真剣な瞳が私を映し、そこに映る私が小さく首を振る。
「ただの孤児で、ただの冒険者で、ただのアリアだ」
「そうね……」
何の答えを期待していたのか、しだけ寂しそうに見えた。
「アリア……あなたは、私の下には來ないのね?」
「私は誰にも仕えるつもりはない」
「ただの護衛としても?」
「私はただの冒険者だ」
一瞬風が吹き、エレーナの金の髪と、私のび始めた桃の髪が踴る。
「アリア。私たちは“友達”じゃない」
「うん」
「私は王で、あなたはただの冒険者で、私たちは決して同じ位置には立てない」
「わかってる」
「だったらっ……」
エレーナの聲がわずかに大きくなり、言葉を探すように黙り込むと、その代わりに私が口を開く。
「私たちは……“同類”だ」
「同類……」
さに合わない異様な知識を持ち、私たちは運命と孤獨に戦い続ける。
その意味が通じたのか、次の瞬間にはエレーナは落ち著いた“王”の顔になり、真っ直ぐ私を見つめた。
「ならば、“同類”の同志であるアリアよ。私は王として、あなたがどんな立場にいようとも、すべての力を使って、一度だけあなたの“味方”になることを誓うわ」
「なら、私は、同志であるエレーナのむまま、相手が誰でも……たとえそれが“王”でも、一人だけ必ず“殺す”と誓う」
エレーナの言葉は、一度だけ王に反逆して処刑されることになっても、私を助けるという誓いだ。
だから私は、彼がむのならどんな危険があろうとも、それがこの國の王でも、たとえ“魔王”でも、絶対に殺してみせると誓った。
「一つだけ……あなたの本當の名前を教えて」
「……あなたを呼び捨てにしてもいいのなら」
私がそう返すとエレーナは今更だとしだけ笑った。
「アーリシア」
私が本當の名を風に乗せると、エレーナはそっと頷く。
「……さよならアリア。そして私だけのアーリシア」
「さよなら……エレーナ」
エレーナは後ろを向き、一度も振り返ることなく部屋の中に消え、私もそれを無言で見屆け、テラスから音もなく姿を消した。
*
その翌朝、エレーナは主としての立場を崩すことなく王都へ出立し、私もメイド見習いの一人としてメイドたちの列の端で見送る。
私と彼が再び會うことがあるのか分からない。けれど、私たちは同志であり、離れていてもその誓いは生きている。
そうしてヴィーロに連れてこられた私の仕事は終わったわけだが、何故かセラではなく上級執事に呼び出されて、新しい任務を決められた。
「アリア。お前の新しい任務が決まった」
七歳児……
ヒロインと悪役令嬢。その誓いが二人の運命をどう変えてしまうのでしょうか?
本編に載せるタイミングなかったので、ステータスをここに載せておきます。
【アリア(アーリシア)】【種族:人族♀】【ランク2】
【魔力値:135/135】20Up【力値:80/80】16Up
【筋力:5(6)】1Up【耐久:6(7.2)】1Up【敏捷:7(8.4)】【用:7】1Up
【短剣Lv.1】【Lv.2】1Up【投擲Lv.1】【躁糸Lv.1】New
【魔lv.1】【闇魔法lv.2】1Up【無屬魔法Lv.2】1Up
【生活魔法×6】【魔力制Lv.2】【威圧Lv.2】
【隠Lv.1】【暗視Lv.1】【探知Lv.1】【毒耐Lv.1】New
【簡易鑑定】
【総合戦闘力:98(強化中:111)】37Up
だいぶ強くなりましたね。一般人に比べてですがw
ステータスの解説は次回の本編で語ります。
次回は押し付けられた仕事です。
ご想やプックマーク等をいただけると喜びます。
俺は、電脳世界が好きなだけの一般人です
簡単に自己紹介をしておこう。 俺は、高校生だ。確かに、親父に騙されて、會社の取締役社長をやっているが、俺だけしか・・・いや、幼馴染のユウキも社員になっていた・・・と思う。 俺の親父は、プログラマとしては一流なのだろうが、面倒なことはやらないとという変わり者だ。 そんな親父に小學生の頃から、プログラムやネットワークやハードウェアの事を叩き込まれてきた。俺が望んだと言っているが、覚えているわけがない。 俺が、パソコンやネットワークに詳しいと知った者からお願いという名の”命令”が屆くことが多い。 プログラムを作ってくれとかなら、まだ話ができる。パソコンがほしいけど、何がいいくらいなら可愛く感じてしまう。パソコンが壊れた、辺りの話だと、正直何もできないことの方が多い。 嫌いな奴が居るからハッキングしてくれや、元カノのスマホに侵入してくれ・・・犯罪な依頼も多い。これは、”ふざけるな”斷ることができるので気持ちが楽だ。それでも引き下がらない者も多い。その時には、金銭の要求をすると・・・次から話にも來なくなる。 でも、一番困るのは、”なんだだかわからないけど動かない”だ。俺は、プロでもなんでもない。 ただただ、パソコンが好きで、電脳世界が好きな”一般人”なのです。 そんな”一般人”の俺に、今日も依頼が入ってくる。
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