暗殺者ギルドからの最初の任務は、冒険者を裝った“初心者狩り”の盜賊たち……パーティー名『刃の牙』の暗殺だ。

以前仕事をけていた師匠が、前任のギルドマスターと悪人の依頼をけない取り決めをしていたので、私にも同じ種類の仕事が回ってくる。

でも、ディーノがそれを了承したのは、一般人の暗殺で失敗した場合、捕まって報が洩し、それをもみ消す労力を嫌ったのだろう。

「試験ですが報酬は支払います。無事に依頼を達できたら十倍の金を渡しましょう。これが前金です」

ディーノが指で弾いた貨を私が宙でけ止める。……前金で金貨一枚か。金貨一枚というのは人して働き始めた若者が貰う月の給金と同じくらいだ。

い子供がいる若い夫婦が月に金貨二～三枚で生活出來るので、金貨10枚だと大金にも思えるが、盜賊三人と命のやり取りをすると考えると微妙だな。

「それと右奧の部屋に武があります。昔のメンバーが殘したであったり、使えそうなを回収したですが、使えるのなら自由に使ってもいいですよ」

「了解」

この地下の暗殺者ギルドは、元炭鉱を改造しただったらしくかなりの広さがあった。その上にある禮拝堂も、數百年前の炭鉱事故で亡くなった人たちのために建てられたものらしいが、現在はちょっとした観名所にもなっている。

地下の炭鉱だと空気が淀みがちだが、微かな風の流れをじるので何処かに通気口があるのだろう。部にほとんど燈りがないのは、空気を淀ませないためとメンバーのほとんどが暗視持ちだからか。

「【燈火(ライト)】」

目的の部屋に著くと検分のために【燈火(ライト)】を燈す。

武は確かにあったが、武庫と言うよりも倉庫に近く、並べられていた武のほとんどが埃を被っているか刃に錆が浮いていた。

死んだ暗殺者の品ならこんなものか。碌なはなかったが、それでも魔鉄製の小さな暗や、砥石ではなく金屬の研ぎ棒があったのでそれを貰っておく。

「よぉ、碌ながねぇだろ？　お前さんが新りの“灰かぶり”か？」

「……誰？」

近づいてくる気配はじていた。だけど、あまりにも堂々と近づいてくるので、逆に私は彼を待つことにした。

「俺か？　俺はガイと呼んでくれ。よろしくな、灰かぶりっ」

【ガイ】【種族：人族♂】

【魔力値：90/95】【力値：255/270】

【総合戦闘力：251（強化中：294）】

淺黒いをしたクルス人の若者は、白い歯を剝き出してニカッと笑う。

戦闘力はキーラとあまり変わらないが、この魔力値でそれなら、戦闘継続力ではなく単純に能力が高いのだろう。

それにしても“ガイ”か。この國でも男に多い名前で、覚えやすい気もするが逆に覚えにくい。だがそれよりも。

「“灰かぶり”って？」

「お前さん、あのキーラと一悶著起こしたんだろ？　あいつの聲がこっちにまで聞こえてたぜ」

キーラがんだ『灰かぶりのクソガキ』って聲が聞こえてたのか。

別に“灰かぶり”と呼ばれることに抵抗はない……と言うよりも、どこにでもある名前を名乗ったガイや、もしかしたらディーノやキーラも本名ではなく偽名である可能もある。

このガイという男は、ギルドの中ではまともそうな印象をけた。

暗殺者だからその時點で“まとも”とは言えないが、信用できるかどうか別にして、それでもあのキーラよりはマシだろう。

「それでガイは何しにここへ？」

「噂のセレジュラの弟子がどんな奴かと思ってな。気づいていると思うが、ここじゃまともな奴はないんだ。特に“賢人”や“ゴード”には気をつけろ。今まで何人もの仲間が犠牲になってる」

「賢人…？」

“賢人”とは、五百歳近い森エルフの老人で、彼は呪いの研究をしている魔師だった。彼は実験と稱してメンバーに呪いをかけ、証拠も殘さず何人も死に追いやった。

そして森エルフである彼は、有能な闇エルフの魔師である師匠を敵視しているそうで、その弟子である私にも危害を加える可能があると教えてくれた。

呪いか……。師匠の授業にもそんな容があった。

膨大な儀式を行い遠方にいる対象に危害を加えたり、対象の行を抑制したりする技で、師匠に言わせれば準備の労力と効果が合わない『実用的ではない分野』だと言っていた。……なるほど、そいつが師匠を敵視するわけだな。

その他にもガイは、このギルドで注意する人を教えてくれる。

戦闘狂のドワーフ、シャルガ。

影使い、ラーダ。

そして、あのゴスロリ、キーラ。

だけど最も危険なのは、賢人と一緒にその名前が出たゴードだ。

「ここからでも微かに唸るような聲が聞こえないか？」

「…………」

通気口の風の音かと思っていたが、そう言われると確かに生きの“唸り聲”にも聞こえる。

「あいつはただのバケモノだ。まともな暗殺に使えるような知能はねえが、ギルドのメンバーを粛正するときだけ、あいつが出てくるんだ」

なるほどね……キーラが粛正と聞いてあっさり引き下がったのは、そういう訳か。

「まぁ、近寄りさえしなければ平気だが……そういえば、もうお前さんの仕事は決まったのか？」

「……初心者狩りの盜賊」

「おお、そんな仕事も來てたな。依頼料もそんなに高くなかったので後回しにされていたが……大丈夫か？　バカにするわけじゃないが、子供の初仕事にはキツいだろ？」

「見てみないとわからない」

「ま、そうだな。初回から死なねぇように気をつけろよ。この仕事は、初任務が一番死ぬ確率が高いからな」

「……わかった」

ガイはそんな勵ましをしてニカッと笑い、口笛を吹くような軽い足取りで自分の部屋に戻っていった。

よく分からない奴だったが、おかげでだいたいの概要が分かった。この報は有効に使わせてもらう。

ディーノはこのギルドに私の部屋を用意してくれていたが、そこを使うつもりはない。私はその日のうちに暗殺者ギルドを出ると、誰にも顔を合わせることなく目的地へと旅立った。

現在ターゲットである盜賊たちは、ダンドールから東に一週間ほどにあるセントレア伯爵領の、ダンジョンのある街を城にしているらしい。

『ダンジョン』か……“知識”にはあるけど、私は初めてなので一度頭の中で知識を整理しておく。

ダンジョンとは本來『地下牢』や『城の地下』を意味するが、この世界では魔が取り憑いた『跡』や『迷宮』を意味する。

魔が取り憑く、とは魔が跡に住み著くのではなく、文字通り跡に取り憑いて一化するのだ。

その魔は、太古の“ヤドカリ”が進化したものだと言われている。そのヤドカリは貝殻をに付けそのを守るように、窟を『殻』としてその中に生を呼び込むことで、その生きの魔力と生命力を得て生きてきた。

魔力と生命力を効率よく得るためには、生きどうしを爭わせて命を失わせる必要があり、そのためにダンジョンは死んだ生きの殘留思念から知識さえも吸収し、知能の低い魔を巧みに引き寄せ、人間が興味を示すアイテムなどを、鉱石などで生するに至るまで進化したらしい。

この國にある最大規模の三カ所のダンジョンになれば、魔が『半霊』と化し、最奧部まで辿り著いた者に【加護】を與えると言われているが、そんな場所は國が管理をしているので盜賊がり込む余地などなく、今回の向かう場所は一般的な中規模ダンジョンになる。

私は街に寄って必要なを買い込んでから、セントレア伯爵領へ向かう。

このヘーデル伯爵領からだと一旦南下してダンドールへり、そこから東に向かう約十日間の行程になる。

急げば一週間程度で著けるとは思うけど、私はその間も修行しながら進むのでこの行程で限界だ。

私はまだ強さが足りない。基礎的な鍛錬は師匠の下で行ってきたが、それをスキルやステータスに反映させるほどの“経験”が足りていなかった。

師匠と私の予定では、十歳になるまでみっちりと基礎の修行をして、徐々に反映させるつもりだったが、予定外の事態になり私は弱いままあの森を出るしかなくなった。

だけど私は、これを好機として捉えよう。

師匠のところに転がり込み、その庇護下にることで、私は數年ぶりにまともに眠れるようになった。

だけどそれは“子供の甘え”だ。気づかないうちに私は“普通の子供”のように師匠に甘えてしまっていたのだ。

師匠は口は悪いが、それに気づいてい私を保護してくれたのだろう。

だけど、ダメだ。それではダメなんだとようやく気づいた。

師匠に甘えていた五ヶ月間、私の力は最初のまともに眠ることができなかった三ヶ月間より、あきらかに長が遅かった。

もう一度、心もも極限に置いて鍛え直そう。ただの子供である私がグレイブに対抗し、大事な人たちを護るためには、神と魂を削るような修行をしなければいけなかったのだ。

師匠のおかげで蟲食い狀態だった知識もある程度補完できた。必要な武も技も教わった。

師匠を救う。エレーナを救う。運命から逃げない力を手にれる。そのためには一歩たりとも止まることなく、前に進み続けなければいけない。

幸いなことに、あの森で稀だった私を殺せるような強い“敵”は、すべて暗殺者ギルドが用意(・・)してくれる。

街道を通らず、街に寄らず、夜の森を、気配を殺して駆け抜け、出會う魔はすべて始末した。

今の私ならホブゴブリンでも真正面から戦える。ステータスの差を技量で埋め、的確に急所を貫き、私は“戦闘”と“殺しの技”を磨いていった。

『グギャ……』

夜の森で不意に遭遇した一のホブゴブリンを、一瞬の驚きから正気に戻る前に糸を捲いて息を止め、聲を出せなくなったホブゴブリンの咽に、ナイフをらせるようにしてトドメを刺した。

魔に恨みはない。出會いが敵だった。ただそれだけだ。

師匠は教えてくれた。戦闘系スキルは理的な技量のみで長するのではないと。

管や臓の正確な位置。どの位置にどの程度の攻撃をすれば敵を無力化できるのかを理解すれば、生かすことも殺すことも容易くなる。

技能(スキル)は技だけで長するのではなく、“知識”でも長する。い私がたった數ヶ月でスキルを得て戦えるようになった理由はそこにある。

私は移の間、ずっと神とを鍛え続け、十日後、東側の海沿いにあるセントレア伯爵領に到著した。

【アリア（アーリシア）】【種族：人族♀】【ランク２】

【魔力値：158/170】5Up【力値：123/140】20Up

【筋力：6（7.2）】【耐久：7（8.4）】1Up【敏捷：9（10.8）】1Up【用：7】

【短剣Lv.2】【Lv.2】【投擲Lv.2】【糸Lv.2】1Up

【魔法Lv.2】【闇魔法Lv.2】【無屬魔法Lv.2】

【生活魔法×6】【魔力制Lv.2】【威圧Lv.2】

【隠Lv.2】【暗視Lv.2】【探知Lv.2】【毒耐Lv.1】

【簡易鑑定】

【総合戦闘力：171（強化中：192）】23Up

々急ぎすぎたとじて進行速度をおとしましたが、暗殺まで辿り著きませんでした。

アリアはかなり強くなっています。

同じランク2でも、25話辺りのステータスと比べると格段の差があります。

次回、暗殺。そこに現れる意外な人とは。

たぶん、水曜予定です。