《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》51 王都への旅路
ランク4の冒険者パーティー、『暁の傭兵』。
構メンバーはランク4の戦士、ダガート。男・31歳。赤髪。
ランク3の重戦士、ランディ。男・29歳。金髪薄。
ランク3の斥候、元狩人のダンカン。男、30歳。黒髪。
ランク3の魔師、グリンダ。炎と水屬。・26歳。ダガートの婦。
私のターゲットは彼らだ。彼らは回収するはずの依頼品を橫領し、家族の品である魔のペンダントを持ち逃げされたその貴族が、彼らの暗殺と依頼品の回収を暗殺者ギルドに依頼した。
私が暗殺者ギルドと敵対するつもりなら彼らを暗殺する必要もないが、今回は暗殺者ギルドから連絡員が王都に派遣されるはずなので、今はギルドを油斷させるためにも怪しい行は控えるべきだろう。
その點で言えば、彼らが悪黨で良かった。……それと私は、家族の品を奪うような奴らに不快を覚え、母の形見である守り袋をそっと握りしめた。
暁の傭兵は、一般的なパーティーとしては人數こそないが、バランスが良いパーティーであり、彼らならダンジョンでもそこそこ深い階層まで潛れるだろう。
深い階層まで潛られたら私一人で追いつくのは難しい。彼らを安全に始末するとしたら王都で始末するか、その南にあるダンジョンのある街で始末するべきだが、そこまでに追いつけなかったら、消耗品の補充などで戻ってくるときを狙うしかない。
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それでもやはり、一番確実なのはダンジョンの中だろう。
王都は治安が良すぎるために別の意味で危険がある。だけどダンジョンなら私も命の危険はあるが、それは彼らにとっても同じことで、危険が多ければそれだけ隙が生じやすくなる。
々と考えすぎるのは私の悪い癖だ。でも、様々な場面を想定して対策を練っておけば、実際に起きたとき即座に行に移すことができる。
それでも今は遠くで々と考えるよりも、まずは行するべきだ。
現地の環境や狀況によって想定や仮定は簡単に変わってしまう。考察した予測の度を高めるためにも細な報が必要だった。
私は三日ほど、この北支部のある街に滯在し、ギルドや街で準備を整えてから王都へ出発した。
その三日間でも、連絡員が誰か調べることはできなかった。現地で接してくるとは思うが、私が知りたかったのは連絡員が何人いるかと言うことだ。
そいつらがいる限り私はおかしな行が取れない。連絡員を始末するにも複數存在して討ちらせば、私の裏切りがバレてしまう。
せめてしやすい相手であることを祈るしかないか……
このヘーデル伯爵領から王都へ向かうには二通りのルートがある。
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一つは、前回仕事をしたセントレア伯爵領から海沿いの主街道を通る、エレーナが使ったはずの比較的安全な道。
もう一つは、ダンドールから真っ直ぐに南下し、山岳地帯の渓谷を通る、危険だが早く辿り著ける道。
私が使うのはもちろん、危険な渓谷側の道だ。
エレーナのように専用の高速馬車を使うのなら、海沿いの主街道のほうが早く著けると思う。けれど、徒歩や各地で停まる乗合馬車だと一ヶ月半ほどかかってしまう。
渓谷だと馬車が通れないわけじゃない。ただ、一般の馬車や旅人が渓谷を通らないのは、その渓谷には鳥系の魔が多く出沒するからだ。
一般の馬車や旅人は渓谷を通らない。そこを通るのは、月に一度だけダンドールの守備隊が護衛をする行商隊だけだった。
一般の平民でもダンドールが発行する手形を買えば、行商隊の馬車に席を貰えるが、その手形はかなり高額であり、時間さえ気にしなければ安全なルートが他にあるのだから、それを使う者はほとんどいないそうだ。
それに月に一度なので、タイミングが悪ければ次の出発までかなり待つことになり、そもそも私の顔を知っている者がいるダンドールを避けてきた私が、それを使えるはずもない。
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私はまた十日ほどかけて、ダンドール辺境伯の寄子である幾つかの貴族領を南下し、山岳地帯に近い男爵領に到著した。
自由民である私でも、大きな街に寄らなければそれほど金を使うことはない。それでも最後の街には通行料である銀貨一枚を払って中にり、食料や必需品を買い込んだ。 それから、その街にある冒険者ギルドで魔の報を尋ねると、ここのギルドは狩人が邪魔な魔を狩ったときだけ素材を持ち込むような所で、専業の冒険者がないと嘆いていた職員は、かなり詳しく教えてくれた。
渓谷に出る魔は數種類いるが、さすがにグリフォンのような高ランクの魔はすぐに討伐隊が出るので、ここ十年ほど出現は確認されていない。そもそもあれは馬を狙うので、徒歩の旅人を狙うくらいなら牧場の牛でも狙うはずだ。
あの渓谷を徒歩で抜ける場合、問題となるのは小型と中型の鳥系魔だ。
とてつもない速度で獲を切り刻んで捕食する、隼系の『風鳥』と、旅人を捕まえ、巣に持ち帰って捕食する、カラス系の『ジャイアントクロウ』が出沒する。
小型の風鳥はランク1の魔で、中型のジャイアントクロウはランク2だが、冒険者ギルドの想定難易度になると、風鳥でランク2になり、ジャイアントクロウはランク3に分類される。
それというのも、場所が障害や天井もない渓谷で、相手が鳥だからという単純な理由だった。
冒険者ランク1や2の弓では矢を當てることすら難しく、ランク2や3の戦士でも降りてこなければ攻撃が出來ない。
まともに狩るとしたら攻撃系の風魔を使える魔師が必須であり、魔師を護る盾を用意できるパーティーでないと渓谷の魔を狩るのは難しい。
……“普通”なら。
渓谷の底を通ることになるが、渓谷の幅は最大10メートルほどで、崖は50メートルほどの高さがあるので、真晝以外は薄暗い。
でも、暗ささえ克服できるがあるのなら、暗い時間のほうが安全だ。魔なので気配を察して襲ってくるが、それでも鳥目のせいか暗くなると探知範囲が狹くなる。
ここに辿り著くまでの道中、とある闇魔法を訓練しながら旅をしてきたが、いまだに発は難しく、この渓谷でも歩きながら練習をしていると、真上に昇った太が渓谷を照らし、ついに魔が私を見つけた。
「……來たか」
私の耳がわずかな風切り音を捉え、その一瞬後に、探知スキルが背後から迫る小型の気配を捉えた。
反的に仰け反るようにを捻り、躱しながらすれ違い様に黒いナイフを振るうが、その気配の主も回転するように刃を躱して、嘲笑うように上空で旋回する。
隼系の魔――風鳥は、単獨ではなく群で行して人間を襲う。
やはり飛ぶ相手にナイフでは當てづらいか。あの機が出來るならナイフを投げても當たるかどうか運に頼ることになるだろう。
そうしているうちに二目の風鳥が真橫から襲ってきた。
速度は弓矢ほどだろうか。まともに戦えば目で見切るのは難しいが、風鳥は攻撃に移る一瞬だけ速度が落ちる。
その一瞬を逃さないように集中して探知を使い、再び襲いかかってきた風鳥の一に私は“刃”を投げつけた。
その刃を躱そうと風鳥が宙で回転し、私もそれに合わせて投げつけたペンデュラムの糸を作する。
『グギャッ!!』
ペンデュラムの刃に羽を切られた風鳥が、勢いよく地面に激突した。トドメは刺さない。どうせあの速度で地面に落ちたら無事であるはずがない。
私は左手からもペンデュラムを投げ放ち、直線ではなく曲線の軌道でまた襲ってきた他の風鳥の羽を斬り裂いた。
その場に留まることなく複雑な足捌きで風鳥の攻撃を躱し、ペンデュラムの刃で曲線の攻撃を使い風鳥を落としていく。
外れても気にしない。刃の命中率は三割程度あれば上出來だ。だが刃を躱してもそれをる糸まで躱さなければ意味はなく、私の魔力で強化したジャイアントスパイダーの糸は、風鳥の爪でも斬り裂けない。
羽を斬られて、糸にぶつかり、數分で十數の風鳥が落ちると、私に近づくことを止めて上空を旋回していた風鳥の一が、『風』の魔素を飛ばしてきた。
風鳥の名は伊達ではなく、こいつらはレベル1の風魔である【風刃(ウィンドカツター)】を使うことが出來る。
風系の魔は速度があり、不可視である故に躱しにくい。だけど、魔素をで視る私の“目”なら、距離さえあれば躱すのは難しくない。
風鳥の魔力値なら撃てても一度か二度。二度も撃てば魔力は盡きて速度ががた落ちするので、【風刃(ウィンドカツター)】は風鳥の奧の手と言っていいだろう。
それを躱し続ける私に業を煮やした一の風鳥が、私に襲いかかりながら至近距離から【風刃(ウィンドカツター)】を放ってきた。
「――【魔盾(シールド)】――」
私の左手に30センチ程の“の盾”が生まれる。
私は迫りくる風の魔素の一番の濃い部分に最低限の魔力を込めた魔盾(シールド)を押し當て、流すように斜めに逸らしながら、そのまま真っ直ぐに突っ込んできた風鳥の翼を黒いナイフで斬り裂いた。
襲ってきたほとんどの風鳥が落とされ、魔力を失った數が逃げ出すように上空へと飛び去っていくと――
『カァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
私に敵わないと察したのか、それとも“コレ”を恐れたのか。
甲高い鳴き聲が渓谷に響き渡り、渓谷の空を闇が斬り裂くように、巨大な黒い鳥が翼を広げて舞い下りてきた。
【ジャイアントクロウ】【種族:大】【難易度ランク3】
【魔力値:69/73】【力値:212/215】
【総合戦闘力:145】
ジャイアントクロウが全翼四メートル以上にもなる翼をはためかせ、真っ直ぐ私に襲いかかってくる。
私はそれを迎え撃つように両手からペンデュラムの刃を投げ放つが、その刃は黒い羽にわずかに傷をつけるだけで弾かれ、それを見た知能の高いジャイアントクロウは、嘲笑うように鋭い爪を私へ向けた。
その瞬間、私は指先と【糸】で糸をり、そのままペンデュラムの糸を黒い翼に巻き付ける。
『クァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
それに気づいたジャイアントクロウが怒りのびを上げ、私をペンデュラムの糸ごと空へと連れ去ろうと羽ばたいた。
だが、そうはさせない。私は羽ばたきを邪魔するように強く糸を引き、素早くブーツの踵を打ち合わせて、ブーツから飛び出した刃を近くの巖に蹴り込んだ。
師匠から貰った昔使っていたというブーツには細工がしてあり、踵に一定方向から衝撃を加えると、爪先と踵から小さな刃が飛び出す仕組みになっていた。
踵の刃で自分を大地に固定し、全重をかけた渾の強化で糸を引く。
私はまだ総合ランク的には2でしかないが、幾つかの補助系スキルはレベル3にまで上がっている。
レベル3の【魔力制】で全に魔力を流し、レベル3の【威圧】で一瞬だけジャイアントクロウのきを止め――
『カァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
「たぁああああああああああああああっ!!!」
慣で地面を巖ごと引きずられながらも、私は渾の力を込めて、恐怖のびを上げるジャイアントクロウを頭から地面に叩きつけた。
今までの修行や戦闘経験はアリアの中で確実な力となっています。
次回、はじめての王都。
仕事の関係で、次は日曜更新予定になります。
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