《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》53 再會
「なんだ、おっさんっ!」
「おっさんには関係ねぇだろっ!」
「どっか行けよ、おっさんっ!」
年たちは、見るからに強そうなフェルドらしき人を見ても、自分たちのほうが數が多いからか強気になって鉄製のナイフをチラつかせた。
……フェルドだよね? 一年も経っているから絶対とは言えないが、それでも彼のことは忘れたことはない。
そのフェルドらしき人は、年たちの言葉を聞いて、逆のシルエットでも分かるような兇悪な笑みを浮かべた。
「俺は“おっさん”じゃねえっ!」
ああ、フェルドだ。
フェルドが年たちに素手で毆りかかっていく。年たちの戦闘力は40~50程度なので、もしかしたら【】レベル1くらいあるかもしれないが、戦闘力1500もあるフェルドからすれば、武があってもなくても変わらない。
自稱二十歳……今は二十一だけど、年齢や外見なんてそんなに気にするようなことなのだろうか?
特に見せ場もなく、不良年たちを素手でボッコボコにして気が晴れたのか、その様子をジッと見ていた私に気づいて、良い笑顔で片手を上げた。
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「そこの坊主。平気だったか?」
「うん……」
本當なら厄介ごとに巻き込まれる前に、この場を離れるべきだったと思う。
それでも出會ったばかりの浮浪児に優しくしてくれて、生きる最初のを教えてくれた彼と再會したことで、しだけ離れがたくじていた。
そんな彼は反応の薄い私に何をじたのか、牙を剝き出すような笑みを浮かべる。
「やはりお前さん、その若さにしてはかなり強いな。こんな連中に絡まれても平気だとは思ったんだが、“彼ら”に助けてやれって言われてな」
「…………」
やっぱり一日だけ教えただけの浮浪児なんて覚えてないか。
私の姿が11歳くらいまで長しているのもあると思うけど、別に覚えていないのなら無理に思い出させる必要もない。
あの時、何も出來なかった子供が、彼に強いと言われるようになっただけで充分だ。私だけが彼の恩義を覚えていればいいし、それを態度に示す必要もない。
「彼ら?」
「あの年たちだ」
フェルドが向ける視線の方角に目を向けると、裏路地のり口に十代前半と思しき二人の年が立っていた。
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その後ろにフードを被ったのような人もいるが、フェルドが『年たち』と言っていたので、その人は彼らの護衛のような立場なのだろう。
そう思えるほどに彼らからは育ちの良さが滲み出ていた。彼らがどういう人なのか知らないが、市井に紛れるような服にしていてもこれなのだから、あまり関わり合いにならないほうがいいとじた。
「やあ、君。大丈夫だった?」
年の一人、赤みがかった艶のある金髪の年が、やたらと甘ったるい笑顔で近づいてきた。
「……問題ない」
「できれば、彼にはお禮を言ってくれる? とても心配していたようだったからね」
その言葉に視線を向けると、こちらの年も顔立ちは整っていたが、それよりも萬人けしそうならかな笑顔の年がゆっくりと近づいてくる。
「……ありがとう」
「ううん、いいんだよ。市民を助けるのは僕の役目だしね」
やはり貴族の子供か……。フェルドのことでここに殘ってしまったが、すぐに離れるべきだろう。
「いえ。本當にありがとうございました」
當たり障りのない言葉でもう一度禮を言ってからその場を離れようとすると、最初の赤い金髪の年が、すれ違い様にこっそりと聲をかけてきた。
「君。そんな格好をしているけど、の子でしょ?」
「…………」
思いがけない言葉に思わず一瞬だけ足を止めると、彼は道を塞ぐようにしてショールで隠した私の顔を覗き込む。
「君を直接助けた彼に言わせると、君って助けがいらないくらい強いんでしょ? そんな子が男の子の格好をして、こんな裏路地にる理由は何かな?」
金髪の年は純粋に私を助けようとしたみたいだけど、こちらの年は私を怪しんで接してきたようだ。
「どうしたんだ? ミハイル」
「なんでもないよ、エル。どうもこの子とは他人とは思えなくてね」
「へぇ……そういえば、髪のは分からないけど、ミハイルと何となく雰囲気が似ている気がするね」
そんな金髪年――エルの言葉を聞いて興味を引かれたのか、フェルドや無関心だったフードのも近づいてくる。
厄介だな……。でも、さすがに今、王都で騒ぎを起こすわけにはいかない。力盡くで突破するにも、フェルドはもちろん、フードのからもセラやヴィーロ並みの力量をじた。
フェルドには恩義がある。フェルドの敵になるつもりはないけれど、彼の周りの人間すべてに気を許す気もない。
できれば穏便にここから離する方法を模索していると、フェルドが私の気も知らずに気軽なじでまた話しかけてきた。
「お前さん、冒険者だろ? 服もそうだが裝備も痛んでるな。直したほうがいいんじゃないか?」
「……うん。王都にあるドワーフの防屋を捜している」
冒険者のタグもそうだけど、防類は師匠が使っていた百年前のものをそのまま使っているので、革や金屬部分はともかく布の部分は限界だった。
すぐに何とかしないといけないほどでもなかったが、彼らから離れるための方便としてそれを利用させてもらった。黒いナイフをくれたガルバスの弟が王都にいるはずなので、それも理由にさせてもらう。
王都にあるドワーフの防屋と言うだけで私も詳細は知らない。だけど、ドワーフの鍛冶屋は有名でも、防専門店は珍しいはずだ。だからそれを捜しているという理由をつけて彼らと別れようとすると、それまで黙っていたフードの人が口を開いた。
「ドワーフの防屋なら、私が知っているわ」
そう言いながらフードを取って顔を見せたその人は、らかそうな栗の髪をした、ドワーフとは仲が悪いと言われている森エルフのだった。
***
彼らの會話から推測すると、フェルドと森エルフのは、年たちがお忍びで街を見るための護衛をしているらしい。
まぁ、見るからにそうだろうとは思っていたけど、何故か私は、貴族らしき年二人にフェルドとエルフまでえて、全員でそのドワーフの防屋に向かうことになった。
どうしてそうなるのか、本當に意味が分からない。
適當なことを言って離すればいいと思ったが、あの赤い金髪の年――ミハイルが妙に私に絡んでくる。
そのせいかもう一人の年、エルも私に興味を持ったのか、年二人に挾まれるような形で街を歩く羽目になった。
よく分からないが二人は顔立ちが良いほうなのだろう。そんな二人に挾まれることで目立ちたくないのに目立ってしまう。
「君は寡黙だね。何を警戒しているのかな?」
「……これだけ“人”がいればね」
「へぇ……君は“分かる”んだ?」
無理に彼らから逃げ出せない理由は、彼らだけでなく、その他にも人混みに紛れるように、彼らを護る數人の護衛がいたからだ。
彼らが貴族なら、その護衛に就くのはセラの組織のような人たちかと思って警戒していたが、彼らの護衛には、足音さえも消せない重い鎧や武で戦うような人たちが就いていた。
何か理由でもあるのだろうか? その理由でフェルドのような人たちが表向きの護衛をしているのかもしれない。
とにかく、そんな年たちから無理に逃げるという行為は、自分から怪しいと言っているようなものだろう。
「ミハイル、彼と何を話しているんだい? 君が他人にそんなに興味を持つなんて珍しいね」
「さっきも言っただろ? どうも他人とは思えなくてね」
「…………」
ミハイルが何を考えているのか分からないけど、エルは先ほど私と彼が似ていると言った。印象なんてその時の覚で変わってくるから當てにならないが、ミハイルが他人と思えないと言った理由は、実を言うと私もしだけ理解できた。
ミハイルとエルは友人関係のようだが、他人との関係に一線を引いてしまうような“距離”をじた。そんな距離が私と何処か似ている気がしたのだ。
エルは私がだと気づいていないようだけど、それに気づいたミハイルは私を警戒してその正を探っているようにじた。
私たちのすぐ後をついてくる二人も、フェルドは気にもしていないだろうが、エルフのは観察でもするようにジロジロと私を見ているので、彼も私がだと気づいているのかもしれない。
「ねぇ、君のような若い人が冒険者だと、どんなことをしているの?」
微妙な空気を気にもせずエルが笑顔で話しかけてくる。別に答える義理もないけど、ミハイルの面白がるような視線が気になり、仕方なく口を開いた。
「ゴブリン狩りと野草の採取」
「ゴブリンかぁ……僕も戦ってみたいけど、無理かなぁ?」
おそらく実力の話ではなく、立場的に戦えないのだろう。だけど私はそんなことには気付かない振りをして、単純に戦闘面での話でまとめた。
「誰でも関係ない。殺す気があれば殺せるだろう」
戦闘なんて所詮は躊躇なく殺せるかどうかだ。
どんなに強かろうが、どれだけ他者を力で圧倒しようが、相手を殺せないのならそれが弱さになる。戦いで敵を殺さないのは、私から言わせればただの“驕り”だ。
「へぇ……」
ミハイルの面白がるような聲が聞こえて視線を向けると、彼やエルだけでなく、フェルドやエルフのさえも、不思議そうな顔でジッと私を見つめていた。
どうしたのだろう……? 當たり前のことを言っただけなのに。
それからまた微妙な空気になったが、幸いなことにさほど時間もかからず目的地であるドワーフの防屋に到著した。
その店は、表通りから離れた、庶民向けの服裝店や雑貨屋などがある通りにあり、白い石と漆喰で出來た普通の民家のドアに看板だけが付いているような店で、知らずに通ったら店だと気づかなかったかもしれない。
ここが、ガルバスの弟がやっているお店か……あの偏屈と言われるガルバスが変人と言っていたほどだから、一癖も二癖もあるような職人に違いない。
こういう類の店は初めてなのか、お坊ちゃまのエルやミハイルは珍しそうに小さな店の外観を眺めていたが、それとは対照的に何故か遠い目になっているエルフが妙に印象的だった。
その店に馴染みのある彼がドアを開け、その後に続いてっていくと、店には隨分と軽裝な、まるで服のような鎧が並んでいた。
でも、普通の鎧じゃない。金屬製の鎧も革製の鎧も、稀金屬や魔の皮を使っているのか魔力をめたが多く、防犯的に大丈夫なのだろうかと他人事ながら心配になった。
「ゲルフ、いる?」
エルフが店の奧に聲をかけると、數秒後、奧から中年のドワーフらしき力強く野太い聲が聞こえてきた。
「あ~ら、ミラちゃんじゃない。こんな可い子を連れてどうしたのかしらん?」
ガルバスの……弟?
変人……?
次回、変人の防屋。次はまた日曜更新予定です。
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