《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》61 ダンジョンの罠 ④

「貴様ぁあッ、絶対に許さんっ!!」

「…………」

暁の傭兵最後の一人――ランク4の戦士ダガートが、ついに事切れたダンカンの死を投げ捨てるようにしてダンジョンに吠えた。

さあ、ここからが本番だ。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

大剣を構えたダガートがびを上げながら斬り込んでくる。

私は風圧さえじさせるその一撃をと気配で察し、髪の數本を引き裂かれるようなギリギリで躱しながら、腰から抜いた暗を投げつけた。

流石はランク4……私も、回避に影響する【】がレベル3まで上がっていなかったら、その一撃で致命傷をけていたと思う。

「くっ!」

ダガートが至近距離から顔面に投げられた暗を首を傾げるように躱す。

その瞬間に私は手の平の“影”からペンデュラムを放ち、曲線を描いて飛ぶペンデュラムの刃を仰け反るようにして躱したダガートは、そのまま後退して警戒するように距離を取った。

闇魔法がレベル3になったことで、発させるだけで一杯だった【影収納(ストレージ)】が実用できる段階まで拡張している。

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それでも、ナイフ一本で一杯だった収納が小ぶりのカバン程度になったくらいだけど、私はその中にあえてメイン武を仕舞わずペンデュラムを仕舞っていた。

「……どういうつもりだ?」

追撃してこない私に、ダガートが訝しげな視線を向ける。

今の戦いで理解した。ランク4の剣がどれだけ速くても、怒りで単調な攻撃しか出來ないコイツなら、私は今のままでも充分戦える。

でも……それでは私が困る(・・・・)のだ。

「……本気で來い」

私が呟いた一言にダガートが目を剝いた。

でもこれだけは譲れない。これだけ策を弄して、ラーダや暁の傭兵の面々を殺したのは、私がランク4の冒険者と1対1で戦うためだ。

これから私は、一支部とは言え『暗殺者ギルド』という組織を敵にして戦う。

だがその中には、ディーノや賢人のようなランク4……そして処刑人ゴードのようなランク5近い戦闘力を持つ者もいる。

暗殺者ギルドの戦力を徐々に削りつつ私自が強くなるために、戦闘力を誤魔化してまで時間を稼いだが、ラーダまで戻らなければさすがに疑われはじめるだろう。

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暁の傭兵を始末すれば、ギルドに戻るまでの時間は稼げるとは思う。でも、ギルドに戻った時點で戦闘力を再度調べられたら、疑いはきっと確信に変わる。

だから私は、それまでにどうしても“ランク4”との真正面からの戦闘を経験しておきたかった。

最初はラーダを想定していたけど、彼はランク4でも隠と不意打ちがメインで、影渡りの謎さえ解けてしまえば直接的な戦力としてはランク3の上位でしかない。

だからこそ私は、ランク4の接近戦スキルを持つであろうダガートと正面から戦うために、暁の傭兵を囮にしてラーダを倒し、ラーダの死さえ囮に使って暁の傭兵の面々を殺したのだ。

だから、こんな怒りに我を忘れた狀態で戦ってもらっては私が困る。

お前はそんなに厚い人間ではないでしょう?

婦であるグリンダが死んでも、死人を貶めてまで私を罠に掛けようとした。

罠に失敗したダンカンの死を怒りにまかせて投げ捨てた。

冷靜になって目の前の私を見ろ。お前の仲間を殺したのは小娘でも、ランク3の冒険者を殺せる“暗殺者”だ。

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全ての力を発揮しろ。全力で戦い、お前は死んで私の“糧”となれ。その代わり、お前が勝てば私の命はくれてやる。

「……このガキ…なんて目をしやがる」

ジッと見つめる私の視線にダガートが骨に口元を歪めた。

一拍間を置いたことで冷靜さを取り戻したのか、ダガートは怒りの代わりに闘志を漲らせて剣を握る。

「……お前みたいなガキにはピンとこないだろうが、世の中には手を出したらいけねぇ輩が存在する」

急に語りはじめたダガートに、私も彼の言葉を聞きながら、連戦で微かにれた息を靜かに整えた。

「そういう奴らは神がやべぇ。魔でさえ、相手が自分より強ければ怯えるというのに、そんな奴らは勝つためなら、自分の命さえ平気でチップにしやがる」

「…………」

「もうお前をガキだなんて思わない。お前はバケモノだ。これからは俺の最大の敵として確実に殺すっ」

速度に対抗するため、大剣を短く持ったダガートが爪先でにじり寄り、私もナイフと暗を構え、その間合いを外すようにすり足で橫に移する。

ダンッ!

「うぉおおっ!!」

「はっ!」

ダガートが地を蹴ると同時に私も暗を投げつける。

ダガートはまたも首を傾げるようにして暗を躱すと、その勢いのまま大剣を袈裟懸けに振り下ろした。

おそらくガードしてもそのまま潰される。一瞬でそう判斷した私は、その一撃を躱すために前に出てダガートの懐に飛び込んだ。

「ちぃ!!」

間合いを外されたダガートがとっさに大剣の柄を振り下ろす。私は左腕の手甲でそれをけるが力量の差で吹き飛ばされた。

それを勝機と捉えたダガートは瞬時の判斷で大剣を地に落とし、腰の後ろに差した二本のショートソードで斬りかかってきた。

その判斷は正しいが悪手でもある。

柄の一撃とはいえ私は勢を崩され、ダメージもけているが、私の速度に対処して確実にトドメを刺そうと思えば速度の速い短剣が最適だった。

けれど、【大剣】【】【防】のスキルがレベル4だとしても、予備武である短剣もレベル4に達しているのだろうか?

ガキンッ!!

けた瞬間、理解した。短剣の技量は私とさほど変わらない。

それでも格の差と左腕のダメージのせいで、それをけたナイフがわずかに橫に流された。

「死ねっ!!」

その瞬間を逃さずダガートが右の短剣を突き出した。

接戦の場合、または相手を警戒している場合は、隙が生まれるのを最小限に抑えるため【戦技】は使わない。

「ふっ!!」

溜め込んだ息を吹くようにして、私は臆することなく前に出る。

ギリギリで躱したダガートの短剣が私の脇腹を薄く斬り裂いた。でも私は退かない。ランク4の戦士が私の土俵で戦ってくれるのだ。それを越えるべく戦っている私が、ここで退いてどうするっ!

ギンッ!ギンッ!

右手に黒いナイフ、左手に鋼のナイフを構え、ダガートの二刀流と真っ向からぶつかり合う。

格も力も技も場數もダガートのほうが上だ。

私の攻撃は掠りもせず、まぐれ當たりも革鎧に弾かれる。ダガートの一撃をけるだけで力は削られ、私の肩や腕にしずつ傷をつけていった。

「ハハハッ! さすがに限界のようだなっ!」

「…………」

一般的に、人前に近接戦闘スキルがレベル3にならないと言われるのは、その技に子供のでは耐えられないからだ。

それは魔力で長した私でも同じことで、長だけはびても一般的な十代前半に比べたら、まだ筋が細い。

でも本當にそうなのか? 一般的に…ということは“例外”があるのではないか?

私は力と力の無さを技と“知識”で補い戦ってきた。

目を凝らせ。相手のきを理解しろ。

力では敵わない。力では勝負にならない。

力がないのなら知恵を使え。力がないのなら技でけ流せ。

目の前に手本がある。十數年戦い続けてきた戦士がいる。技を盜め、その刃をけて鍛錬に変えろ。

今、それが出來ないのなら死ぬだけだっ!

「むっ!?」

攻撃をける瞬間に手首を捻り、二本の腕と上半で威力を吸収し、足腰で衝撃をけ流す。

二撃、三撃目をけ流し、けた威力で弓を引くように力を溜め、放つその一撃はついにダガートの鎧を切り裂いた。

「なにっ!?」

その瞬間、私の中で何かが変わった。

ギンッ! キンッ!

攻撃をけるナイフの音が、鉄のぶつかり合う音から澄んだ音に変わる。

それでも私とダガートの攻防はようやく互角になった程度だ。でも、それまで優位に戦闘をしていたダガートの顔にわずかな焦りが生まれた。

「――【暴風(サイクロン)】――っ!」

ダガートが短剣レベル3の戦技【暴風(サイクロン)】を放つ。

魔力を用いて擬似的な風の刃を生みだし、離れた場所でさえも攻撃できる戦技だったが、覚悟さえ決めれば近接戦では怖くない。

風の刃でを切り裂かれながらも、戦技を使ったことで一瞬直するダガートに向けて鋼の刃を投げ放つ。

「っ!!」

ダガートも、投擲なら顔や首が狙われると分かっていたのだろう。

直から回復したダガートが顔目がけて飛んでくるナイフを、またも首を傾げるようにして回避した――が、

「――がっ!?」

そのギリギリで躱す回避は何度も目にした。

鋼のナイフと同時に手の平の影から放ったペンデュラムの刃は、鋼のナイフを囮にしてダガートの首筋を斬り裂いた。

「ぐがっ!」

でもまだ淺い。まだ致命傷じゃない。

私は勢を崩して首を斬り裂かれたダガートに向けて、黒いナイフを大きく後ろに振りかぶる。

ダガートも私が【戦技】を使おうとしていると思ったのだろう。彼は躊躇もせずに短剣を捨てると、勢を崩しながらも前のめりになるようにして落ちていた大剣を片手で掬い上げ、そのまま飛び込むように橫薙ぎに斬りつけてきた。

でも私はここで戦技を使う気は初めからなかった。

わざと作った私の隙に飛び込んでくる一撃を、ナイフを振りかぶった勢いのまま、後ろに倒れて回避する。

私は素早く踵を打ち鳴らし、空ぶった勢いのまま前に流れてきたダガートの無防備な首筋に、ブーツから出した爪先の刃を蹴りつけるように突き刺した。

「ぐがぉあっ!!」

脈からを吹きだし、口からを吐き出しながらもダガートの目はまだ死んでいない。

これがランク4の戦士か……お前も充分にバケモノだ。

そのまま前のめりに倒れてくるダガートの両腕が、私の首にばされた。あの太い腕なら、最後の力で私の首をへし折るくらいは出來るだろう。

だがダメだ。

お前は一人で死ね。

「――【魔盾(シールド)】――」

私の目の前にの盾が出現する。

これは魔に対する盾だが、硝子程度の理防力もある。そのまま使えば倒れ込んでくるダガートを防ぐことも出來ずに砕かれるはずだが、私は【魔盾(シールド)】を面ではなく、真橫になる“線”で出現させていた。

「っ!?」

宙に固定化した【魔盾(シールド)】が、倒れてくるダガートの勢いと重みで、その太い首を半分まで斬り裂いた。

その瞬間にダガートの髪を両手で摑むと、まだ意識のあったダガートの瞳が本の化けを見るような目で私を映し、私はその首が切斷されるまで渾の力で引き寄せた。

地に倒れる頭なしのからが噴き出して私を染める。

私は、抱えていたダガートの生首を彼のの上に乗せると、それを見下ろしながら靜かに呟いた。

謝する……私はまた強くなれた」

【アリア(アーリシア)】【種族:人族♀】【ランク3】

【魔力値:92/210】【力値:84/170】22Up

【筋力:7(9)】【耐久:8(10)】1Up【敏捷:12(15)】1Up【用:8】

【短剣Lv.3】1Up【Lv.3】【投擲Lv.2】

【防Lv.1】New【糸Lv.2】

魔法Lv.2】【闇魔法Lv.3】【無屬魔法Lv.3】

【生活魔法×6】【魔力制Lv.3】【威圧Lv.3】

【隠Lv.3】【暗視Lv.2】【探知Lv.3】【毒耐Lv.2】

【簡易鑑定】

【総合戦闘力:443(強化中:514)】40Up

ついにランク4撃破です。

次は暗殺者ギルド攻略のため、行を開始します。

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