《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》66 暗殺者ギルド攻略 ⑤

ディーノが暗殺者ギルドに所屬したのは10歳の頃だった。

暗殺者ギルド北辺境地區の前ギルド長である父と、酒場の給仕との間に生まれた彼は、それまで母親と共に市井で暮らしていたが、とある事によって母親から父へ引き渡されることになった。

父親の職業は決して褒められるものではなかったが、母親は父親の本當の仕事をい息子に話さず、悪い人を懲らしめてお金を得る仕事だと伝えていた。

いディーノは父に憧れ、悪人を――自分と違う意見を持つ者を正論でねじ伏せ、彼の“正義”を理解できない者には暴力を振るうようになる。

だが、彼の“正義”は他の子供の反を買い、いディーノはさらなる暴力で叩き伏せられる結果となった。

ディーノが最初に歪んだのはその時だ。

彼は自分の“正義”のため、強くなる努力を始めると同時に、その鬱憤を晴らすために『自分より弱い存在』に意味のない暴力を振るうようになった。

最初は彼に暴力を振るった家庭の飼い犬や家畜を攫って、いたぶるように殺していたが、それは徐々に激化し、自分よりい子供を殺して歪んだ笑みを浮かべている彼を見て、ついに母親は息子を放り出すように父親へ引き渡した。

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父の“正義”の正が暗殺者ギルドだと知って、自分の“正義”が揺らいだディーノはさらに歪んだ。

だが彼は、自分の考える“正義”が大多數に認められないと悟り、法に逆らってでも悪に刑を執行する暗殺者ギルドそのものに傾倒していくことになる。

前ギルド長は息子に興味がなかった。父としてディーノが求めるものを與えながらも彼を見ていなかった。

ディーノが14歳の時、“魔族”と呼ばれる闇エルフのがギルドに加した。

セレジュラはしいだった。その強い力にも憧れた。ディーノは父に頼み込み、無理矢理彼の弟子となることで、彼の全てを自分のにしようと考えた。

ディーノは風と土の魔力屬を持っており、セレジュラの教えもあって一年足らずで魔を會得した。

だが、良くも悪くもディーノには一般的な才能しかなく、3レベルの屬は覚えたが、自分で魔を構築して“魔法”を得ることは出來なかった。

一般的には充分な実力でも、闇エルフである彼からすれば才能が乏しくじたのかもしれない。

ディーノは、セレジュラの諦めたような憐れみの視線を“蔑み”とじた。

彼が決定的に“歪んだ”のはその時だろう。自分より弱い者、才能の無い者を蔑み、痛めつけることに快楽を覚えるようになり、自分に“痛み”を與えたセレジュラに固執するようになる。

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***

「アリアッ!!!」

最初から……ディーノが師匠を脅迫した時點で、私は『暗殺者ギルド』そのものを敵にして、破壊すると決めていた。

ようやく“私”を理解して目を見開き、を吐くように私の名をんだ。

【ディーノ】【種族:人族♂】【推定ランク4】

【魔力値:145/180】【力値:223/290】

【総合戦闘力:795(強化中:933)】

ガキンッ!!!

同時に飛び出した私たちの刃が、暗闇に包まれたギルドで再び鮮やかな火花を散らす。

その時、ディーノから土系の魔素の“”が視えて飛び離れると同時に、ディーノが指先を私へ向ける。

「【飛礫(ストンブリツト)】っ!!」

元炭鉱である巖が剝き出しの天井から幾つもの飛礫が降りそそぐ。

こぼれ“視える”魔素から判斷すると、ディーノの屬はおそらく『土』と『風』だと推測する。

が早い。さすがは“兄弟子”だと言いたいところだが、彼の魔には“威”が足りない。

「ぎゃあっ!」

「ぐあっ!」

周囲から悲鳴が聞こえる。

おそらくディーノの魔盜賊と同じレベル3はあると思うが、盜賊よりも発は早くても出速度で劣っていた。

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以前、あの盜賊と戦った経験から土魔の発タイミングは知っている。

それを察して暗視レベルの低い人族の暗殺者に紛れるように盾にすると、戦闘の隙を窺っていた彼らは虛を衝かれたように飛礫に撃たれ、その隙を突いて私は彼らの首を刃で切り裂いた。

「くっ!」

仲間を巻き込んでしまったディーノがくようにして私へ憎悪の刃を向ける。

怒りで我を忘れていたとはいえ、仲間を巻き込んだのはお前の失態だ。そのように私が仕向けたのもあるが、この狀態でディーノとばかり長々と戦うつもりはない。

毒を撒き、ゴードとシャルガを戦い合わせ、暗殺者ギルドを混に巻き込みはしたけど、私が有利になったわけじゃない。

毒に耐えた生き殘りの暗殺者たちが集まってきている。殘りは十人前後だが、その中にはラーダのような暗視や探知に補正を持つ獣人もいる。

毒できが鈍っているとしても、そのほとんどがガイやキーラと同じランク3の連中だろう。

「…………」

私は覚悟を決めるようにを心の奧底へ沈め、スッと目を細める。

本當ならこんな“運頼り”の策なんて好きじゃない。でも、たった一人の子供が組織相手に戦うというのは、そういう覚悟がいる。

出てこい。

見ているんでしょ?

ずっと私が來たその時から、私を殺すことを考えていたのでしょ?

師匠に関わる全てのモノが憎いから。

「――【魔盾(シールド)】――ッ!!」

それが“視えた”瞬間、私は魔盾を発しながら跳び下がるように後ろに下がる。

「逃がすかっ!」

「死ね、灰かぶりっ!!」

瞬時に反応した二人の暗殺者が投げナイフと弓を撃ち、私は腕や肩に掠めてなくないダメージをけながらもさらに距離を取った、その次の瞬間――

「ぎゃあああああああっ!?」

「ひぃいいっ!」

「ぐぁああああっ!?」

奧側にいた數名の暗殺者が黒く染まり、きできなくなった彼らのが干涸らびた枯れ木のように崩壊する。

その間にも迫ってくる、複雑にの混じり合った気持ち悪い魔素を魔盾で防ぎながら躱すことは出來たが、それでも防ぎきれなかった“呪い”をけた外套が、ぎ捨てると同時に風化したように砕け散った。

「……これを躱すか。忌々しい闇エルフの弟子め」

最奧の暗がりから、暗いのローブにを包んだ森エルフの老人――呪師“賢人”が姿を現し、暗い瞳を私へ向ける。

呪い…呪は、非効率な技ではあるが、効率さえ無視して時間と場所を限定すれば他の魔を凌駕する威力を持つ。

そもそも取るに足らない技なら、師匠がわざわざ授業で講義するはずもない。だから私が最も警戒していたのは、ゴードではなくこの“賢人”だった。

「“賢人”っ! 何のつもりだっ!!!」

回避できたのか、殘っていたギルドの仲間を巻き込む攻撃にディーノがぶと、賢人は彼を一瞥して鼻で笑う。

「若造が……人族如きが儂の上に立ったつもりか?」

「なっ……」

賢人にとってギルドは研究の場であり、その場を維持するために盡力はしてもそこにいる者たちは仲間ではなかったのだろう。

絶句するディーノを無視するように賢人は私だけを瞳に映す。

「どうやって躱した? 闇エルフの弟子よ」

「……お前は必ずそうすると思っていた」

闇エルフと森エルフという同種族でありながら互いを嫌悪する関係以上に、己の半生をかけた“呪”を否定した師匠を、賢人は絶対に許さない。

そう確信はしていても、他者を巻き込んでまで攻撃してくるかどうかは賭けだった。

師匠もそうだけど、エルフ種はプライドが高い。外に出たエルフはそれほどでもないが、それだけ師匠への憎しみが強かったということだ。

だけどそのおかげで、邪魔だった戦闘力を持つギルドメンバーはほぼ無力化できた。まだ隠れている者はいると思うけど、ここに出てこないのは、よほど戦闘に自信がないか、よほど警戒心が強い連中だろう。

「ぐぉあおああああああっ」

何処かから斷末魔のびが聞こえた。

先ほどの呪いの影響をけてしまったのだろう。片足を黒く染めた戦闘狂シャルガがゴードの爪に心臓を貫かれて崩れ落ちる。

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

処刑人ゴードが自分を呪いで縛っていた“賢人”に気づいて怒りのびを上げた。

だけどゴード自も無傷じゃない。本気のシャルガと戦い全に深い裂傷を負っているだけじゃなく、その右腕が呪いをけて、黒い塵となって崩壊していた。

「……“命令”もけ付けんか。本當に忌々しいな、闇エルフとその弟子よっ」

ペキンッ。

私がゴードの呪いを書き換えたと気づいた賢人が顔を顰め、枯れ枝のような自分の指を一本、自分でへし折った。

「“地に伏せよ”」

「グガァアアアアアアアアアアアアッ!!!」

賢人に飛びかかろうとしたゴードが反吐を吐きながら床に崩れ落ちる。

これが呪の中でも師匠が最も効率が悪いと考え、師匠が賢人と反目する原因となった『対価式呪』だ。

とは自分の魔力を対価として“現象”を起こす技だが、それが呪の場合はその割合が高くなる。

としての呪なら、“魔力”とそれを設定する“時間”を対価にするが、それを突き詰めていくと、悪魔などの神生命に“己”を対価とするようになるそうだ。

そもそもエルフは、老化はしても見た目が老人にはならない。

森エルフである賢人の外見が老人になっているのは、自分の壽命を対価にしているからだろう。

おそらくは幾つかの“呪い”を壽命を対価に発できる狀態にしておき、指を折るという自傷行為によって発させるのだ。

殘りの指の數……あと9回は同様の攻撃が出來るとすれば、まともに賢人と戦っても勝ち目は薄い。

それにディーノのこともある。

彼は今、私と賢人を相手に手を出しかねているが、賢人が味方ではなくても敵ではないと気づいたら、私を逃がさないように立ち回るはずだ。

私はまだ不利な狀態にある。だけど私は逃げるつもりはない。

そして、そろそろ最後の命懸けの“罠”が発する。

『――?』

賢人が微かに眉を顰め、ディーノがそれに気づいてり口の方角に顔を向けた。

私がこのギルドの“正規口”からる時、最後の仕掛けをしておいた。

今日は何故か暑かったでしょ?

今日は何故か蒸したでしょ?

それは、私がこの地下ギルドにある通気口を全て潰したから。

元々ここは炭鉱で數百年前の事故により多數の犠牲者を出して、巨大な墓地と禮拝堂が作られた経緯がある。

その事故を調べた結果、巖から湧き出した天然ガスにランプの火が引火したことによる事故だとわかった。

今でも微弱ながらガスは湧き出している。それでも人に影響するほどではなく、その湧き出す地點に通気口を作っていれば問題はないはずだった。

この地下でランプの明かりが異様にないのは、全員が暗視を持っているからではなく、過去にこのギルドを作った人間がまたガスが溜まって引火するのを恐れたからだ。

數日前から通気口が塞がれたこのギルドでは、ガスが溜まり始め、意識が朦朧としていた者もいたはずだが、ずっとこの地下にいて匂いに慣れてしまっていた彼らはそれに気付けなかった。

そして毒が充満し始めたギルドで、ゴートとシャルガが爭い、賢人が無差別に呪を使えば、戦闘力に自信の無い者は隠れて逃げ出すのではないかと考えた。

そしてり口の扉を開いた瞬間、仕掛けておいた糸が外れて、火種が油に引火する。

おそらく口側から火が回ってきているはず。

最初からこの手を使わなかったのは、初手から使えば、いかに個人主義の暗殺者でも全員が団結して逃げ出す可能があったからだ。

「誰も生かして逃がさない」

私がそう呟くと、この地下に火を放たれたと理解したディーノが『狂っている』とくようにらした。

火の手が回り、湧き出したガスに引火するまでが、この地下ギルドにいる全員の命の殘り時間になる。

お前たちはここで死ね。ここが貴様らの棺桶だ。

次回、暗殺者ギルド攻略 最終(予定!)

燃えさかる舞臺で、ついに決著。

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