《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》69 暗闇からのい ②
「……盜賊ギルド?」
現れた男たちは盜賊ギルドの人間だった。
どうして盜賊ギルドがここに? 私を迎えに來たとは何なのか? そもそもどうやって私のことを知った?
知りたい報は多々あるが、その答えは意外なところから返ってきた。
「なっ!? どういうつもりだ、ライナスっ!」
彼らの後方にいた男が聲をあげると、最初に聲をかけてきたライナスと呼ばれた若い男がニヤけた顔で振り返る。
「ああ、君の報には本當に謝しているよ。何しろ、暗殺者ギルドの北辺境支部の壊滅という重大報をこんなに早く知ることが出來ただけではなく、それを為した重要人の報までもたらしてくれたからね」
「それはっ、お前たちが仇を討つのを手伝ってくれるとっ」
「ふふ、そうだったかな?」
ライナス……その名に聞き覚えがあるな。
それよりも後ろの男の聲にも聞き覚えがあると、そちらに目を向けると、そこには包帯のようにが滲んだ布を顔とに巻いた男が、私の視線に気づいて灼けるような憎しみの瞳を向けてきた。
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……ああ、この男は、
「“乞い”か」
「“灰かぶり”ぃいっ!!!」
ギルドの外にいた監視兼案役。そうか、この男は生き殘ったか。
「お前やラーダと王都に行った連絡役が、火だるまになりながら外に出てきて、死ぬ間際にお前の裏切りを教えてくれたっ!! ギルドに向かった外の連中もみんな禮拝堂の崩壊に巻き込まれたっ、お前のせいでっ!!!」
「そうか」
「お前がァああああっ!!」
私がもなく言葉を返すと、乞いは激高して短剣を腰から引き抜いた。
どうやらり口に仕掛けた発火の罠を開いたのは、見たこともない連絡役の男だったようだ。そこから私の報が外にれたのだとしたら、即死級の罠にしなかった私の失態だ。
それでも外にいた連中もほとんど死んだことと、私がギルドを潰した張本人であることがバレたという報は、気になっていたので知ることができて良かった。
「ぐぼっ!? なっ…おま、」
乞いが突然を吐くと、盜賊の一人が愕然とする彼の後ろから、腹を貫通するほどに刺し貫いていた。
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「君には謝しているが、お話の途中で割り込んでもらっては困るな。やれ」
ライナスがパチンッと指を鳴らすと、その周りにいた數人の盜賊が乞いの首やを貫き、乞いは最後に私のほうへ手をばして、その瞳からが消えていった。
「盜賊は、殺しをしないんじゃなかったの?」
私がそんな呟きをらすと、盜賊たちの意識が私へ戻り、ライナスが気取った仕草で前髪を払う。
「よく知っているね。だけどそれは、一般人に対してだけだよ。それにこいつは、君に手を出そうとしたのだから、當然の結果だね」
「…………」
もう用済みだから始末したようにしか見えないな。
「どうして私がここにいると分かった?」
「その前に、君は『霊の涙』を持っているかな? それは元々我々が『暁の傭兵』から買い取る手筈になっていたのだよ。それを渡してくれないか? もちろん、彼らに払うはずだった報酬をそのまま君に支払おうじゃないか」
なるほど、こいつらの狙いは“これ”か。
私が軽く頷いて一瞬だけ手品のように【影収納(ストレージ)】からネックレスを見せると、ライナスの瞳が輝いた。
「報酬は?」
「大金貨十二枚。それと私たちと契約(・・)してくれたら、さらに三枚支払おう」
私が金額を尋ねたことで脈ありとじたのか、一瞬だけ口元に下卑た笑みを浮かべたライナスは、『契約』という言葉を口にした。
「契約?」
「ふふ、君のような手練れを仲間にしたいと思うのは當然じゃないか。暗殺者ギルドを潰しても、他の支部はまだ生きているし、あの支部の生き殘りも君の命を狙い続けている。けれど、盜賊ギルドと暗殺者ギルドには相互不干渉の約があってね。個人としてはあまり意味はないが、我らの食客になれば暗殺者ギルドも簡単には手出しできない。どう? 悪い話ではないと思うけど?」
……そういうことか。
私を保護するという名目で私を縛り、戦闘面で手練れのない盜賊ギルド専屬の暗殺者に仕立てるつもりなのだろう。
「このネックレスはそんなに高値ではないと思ったけど?」
「売買出來ないとなると、よけいにしがる人も出てくるということだよ。君も男爵に売りつけようとこちらに來たのだろ? だけど男爵家にはもう資金はないし、どっちみち君がそれを売りつけても、いずれは我らの手にるけどね」
「…………」
だから高値をつける自分たちに寄越せとライナスは言う。
私がこのネックレスをノルフ男爵に売りつけると考え、待ち構えていたのか。
報はだいぶ出揃った。でも一つだけ、男爵家に品を返してもそれが盜賊ギルドの手に渡るという理由は何だろう?
私は強化で思考を加速させ、得た報を組み直して考察する。
ああ……そうか。
「“ライナス”……ノーラの新しい婚約者」
私がそう呟くと、ライナスの目がわずかに見開かれた。
「……もうそこまでの報を手にれていたか。ふふ……さすがだね。それでこそ我々の仲間になるに相応しいっ。お察しの通り、男爵家はもう盜賊ギルドの手のだよ。さあ、私の手を取りたまえっ!」
ライナスが爽やかな笑みを浮かべて私に手を差し出した。私もそれに合わせて一歩踏み出す。
でも私はライナスの手を取ることはなく、そのまま手の平の【影収納(ストレージ)】から出した暗でライナスの首に斬りつけた。
「ぎゃあああああああああっ!!」
し淺かった。
わずかに間合いが空いていたせいでライナスに回避する隙を與えてしまい、私の刃はライナスの顔面を斬り裂くだけに終わった。
「な、何をするっ!? 盜賊ギルドの庇護がなければ、君はっ!」
「そんなものは求めていない」
ノルフ男爵令嬢ノーラの婚約者。男爵が金を借りた商家から來た後添えの弟。
その商家自が盜賊ギルドの構員なのだろう。
霊の涙を確実に手にれるために商家から手を回した? それとも男爵家を手にれるために前妻の死を利用した?
……いや、おそらくはその両方だ。
山賊に襲われた前妻の死でさえ、盜賊ギルドが手を回した可能が高い。
暁の傭兵も最初から盜賊ギルドと繋がりがあったと考えたほうが自然だ。だとするのなら、今回、ノルフ男爵を襲った不幸は、金と地位の全てを手にれようとした盜賊ギルドが仕組んだことになる。
ノーラの母親をのために殺したお前らの手を取るはずがないだろう。
「や、やれっ! 相手はガキ一人だっ!!」
野な本を見せたライナスのび聲に、八人の盜賊たちが刃を抜いて構える。
「………」
戦闘力は下が100前後で、最高でもライナスの300前後か。戦闘力的にランク2がほとんどで、ライナスを含めた三人がランク3。そのうちの一人は力と魔力値から考えると魔師だと推測する。
その中で奧にいた戦闘力120前後の若い男が、私を見て顔を引きつらせた。おそらくコイツは【鑑定】か鑑定水晶を使って私の戦闘力を見たのだろう。なら――
「気をつけろ、こいつは、」
「――【幻痛(ペイン)】――」
その男が余計なことを言う前に、【幻痛(ペイン)】で直したその男の眉間に私が放った投擲ナイフが突き刺さる。
「油斷するなっ!」
「散れっ!!」
私の隙を窺っていた盜賊たちが、一人があっさり殺されたことで本気になり、なりふり構わず襲いかかってきた。
「馬鹿な奴めっ! これだけの人數に勝てると思うな、灰かぶりっ!」
きの速い男がダガーで突っ込んでくる。だが、あまりにも遅い。
顔面目がけて迫る切っ先から目を逸らさず、私は首を傾げるように躱して、すれ違い様にその首を深く斬り裂いた。
殘り六人――
「――【影(シャドー)攫い(スナッチ)】――」
握り拳ほどの影が地面に転がり落ちる。そこに飛び込んできた男は、真下から撃たれたクロスボウの矢に間を撃ち抜かれ、きを止めた瞬間にペンデュラムの刃で咽を斬り裂かれて命を散らした。
糸を引かれたペンデュラムの刃が死から引き抜かれ、弧を描いて舞う刃が仲間を殺されて唖然とする男の顔面を斬り裂き、その瞬間に飛び込んだ私が顎下から黒いナイフを脳まで突き立て即死させる。
殘り四人――
「【火炎(ファイア)槍(ジヤベリン)】っ!」
魔師からランク3の火魔【火炎槍】が放たれる。だけどあきらかに焦りすぎだ。直撃すれば私も即死だろうが、それ以上に撒き散らかされた炎が仲間さえも焼いてしまうだろう。
「――【魔盾(シールド)】――」
パリィンッ!
とっさに唱えた魔盾の魔力が足りずに硝子が割れるような幻聴と共に砕かれる。でもこんな稚拙な構なら一瞬保てば充分だ。
「ぎゃあああああっ!!」
逸らされた火炎槍が、私の背後から隠で迫っていた盜賊を直撃して炭に変えた。
私は余波で燃えはじめた外套をぎ捨て、広げるようにして次の呪文を唱え始めていた男の視界を塞ぐ。
同時にから抜き放った投擲ナイフを投げ放ち、燃えた外套が地に落ちると魔師は目とをナイフに貫かれて死んでいた。
殘り二人――
「この小娘がぁあっ!!」
二本の鉈を構えたランク3らしき男が突っ込んでくる。
「――【重過(ウエイト)】――」
私は【重過(ウエイト)】を唱えて壁を駆け上がり、男の上を飛び越えるようにしてその後ろにいた最後の男に闇魔法を撃ち放つ。
「――【幻痛(ペイン)】――」
「ぎっ!?」
きを止めたその男にナイフを投げて戦力を奪うと、背後から先ほどのランク3が、馬鹿にされたと思ったのか顔を真っ赤にして飛びかかってきた。
「ふざけやが、ぐぎゃっ!?」
飛び越した時に張られていたペンデュラムの糸に気づかなかったその男は、自分の勢いと自重で首を絞められ、その瞬間に後ろに回った私は男の後頭部を蹴りつけるようにして糸を引き――
ゴキン……ッ!
そのまま男の首をへし折った。
気がつくと立っている者はいなくなり、最初に顔面を斬り裂いたライナスは、いつの間にかその姿が見えなくなっていた。
……逃げたか。でも問題はない。
私は幻痛(ペイン)と腹部に刺さったナイフで悶絶している男の顎を蹴り、腰のポーチから毒薬を取り出して男の傷口にぶちまけた。
「ぎゃぁああああああああああああああっ!!?」
あの拐専門の盜賊が使っていた激痛を起こす毒をけて、顔中から々と垂れ流したその男は、自分の狀況が信じられないように首を振る。
さぁ、々と話してもらうよ。
お前は理解する必要はない。でもこれだけは覚えておけ。
暗殺者ギルドは私と師匠の敵になったから私が潰した。そして――
「お前たちも“私の敵”となった」
次回、暗殺者編最終話
木曜更新予定です。
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