《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》74 威名
「ペンデュラムだぁ?」
「これ」
首を捻るガルバスに、【影収納(ストレージ)】から出した糸付きの暗を見せて軽く振り回すと、ガルバスが玩を見た子供のような顔を輝かせた。
「突き刺す武か? 糸で縛る武か?」
「どちらにも使う。元々は分銅を使っていた。振り回して切る時もあるけど、その場合は威力が落ちるのでそこを何とかしたい」
「威力が落ちるのは重心の問題だな。軽すぎず重すぎずのバランスが重要だ。材質は何を考えている?」
「拘りはないけど、糊が付きにくいがいい」
「それならやはり魔鉄がいいな……ヴィクトルッ、魔鉄鉱は手にるか?」
ヴィクトル…? ガルバスがそう呼ぶと、面白そうに暗を見ていた雑貨屋の親爺がニヤリと笑う。
「この町で儂に手にれられないはないっ! 灰かぶり、この武はこの國のものじゃないな。西方の武か……珍しい」
「こいつは、ジャスタ皇國の武だな……おい、灰かぶりっ、ヴィーロの小僧とはもう一緒じゃねぇみたいだが、まだ俺のナイフは持っているか?」
「もちろん」
私は腰の後ろに括り付けていた黒いナイフを差し出すと、ガルバスは黒いナイフを鞘から抜いてわずかに顔を顰めた。
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「手れはしてるみてぇだが、隨分と派手な戦闘をしてきたようだな……魔鋼の武はミスリルほどじゃねぇが、魔素材と同様に持ち主の魔力でしずつ再生する。それが細かい傷が殘って、刃毀れまであるじゃねぇか」
「ごめん……」
「馬鹿野郎っ、武なんだから傷ついて當たり前だっ! コイツは切れ味だけで威が足りねぇ半端な武だ、見たところ、お前はかなり強くなってるだろ? そろそろ自分用の武を作ってもいいんじゃねぇのか?」
この黒いナイフはガルバスの若い頃の作品で、半端な武だから私に丁度いいとくれただ。だから彼は、もうこのナイフでは私に合わなくなったと思ったらしい。
でも、違う。
「ううん。私の戦闘スタイルなら“これ”がいい。他の誰もまともに使えなくても、このナイフは私が使うために生まれた武だ」
ナイフに傷が付くのは私の技量がまだ未だからだ。そう言うとガルバスが腕を組んで靜かに目を瞑る。
私は武に拘る分ではないけど、何度か無くしかけてもこのナイフが私の手の中に殘り続けたのは、よほど私に合っているのだと思うようになった。
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ガルバスがテーブルに散した大金貨を1枚摘まんで放り投げ、ヴィクトルが飛んできたそれを宙で摑む。
「ヴィクトルっ!! お前はそれで材料を用意しろっ。儂は武の設計をする」
「おう、任せろ」
「……作ってくれるの?」
突然盛り上がりはじめた二人に私が尋ねると、自分も大金貨を1枚だけけ取り、殘りを私へ押し返した。
「任せろ、馬鹿野郎っ、こんな面白い仕事、他にやれるかっ!」
「でも、それだけじゃ、魔鉄の武には足りないでしょ……」
以前ヴィーロが言っていた。魔鋼のナイフなら金貨5枚。ガルバスの初期の作品なら最低でも金貨10枚はするって。
「ガキがそんなことを気にするなっ! なぁ、ヴィクトルっ」
「そういうことだ。こういうのは爺の趣味みたいなものだ。ハハハッ」
「……ありがと」
私が二人に頭を下げると、二人が可笑しそうに笑って、ヴィクトルはまるで孫にでもするように私の頭をでた。
「灰かぶり、おめぇは一ヶ月ほどしたらまたここに來い。それとそのナイフは置いていけ。新しい武と一緒に直しておいてやる」
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「……うん、わかった」
一ヶ月か。新しい武を作るとなると早いほうだろう。
もう一度二人に禮を言って、黒いナイフを渡して鍛冶場を出て行こうとすると、ガルバスが慌てて私を呼び止めた。
「おい、灰かぶりっ!! おめぇ、代替えの武も持たずに行くつもりかっ、一ヶ月もどうするつもりだっ」
「別にそのナイフ以外なら特に使いたいはない。それに武なら持っている」
スカートの左側にあるスリットを持ち上げて、太ももに括り付けたナイフホルダーを見せると、ガルバスとヴィクトルが呑みかけていた酒を吹き出して、まるで頭痛でもしたように頭を抱えた。
「その裝備は……ゲルフか。奇妙なもんを作りやがって……」
「……おい、いいか、灰かぶり。儂らみたいな爺には関係ないが、お前も若いなら、男の前で簡単に腳を見せるんじゃないっ!」
「ん? わかった」
あのの“知識”では、若いはよく腳を見せていたが、よく分からないけど、確かに隠し武はあまり見せびらかすものではない。
「……し待ってろ」
神妙な顔で頷いた私に、何故かまた頭を抱えたガルバスが立ち上がって奧に行くと、持ってきた革に包まれたを渡してきた。
「代わりにコイツを持っていけ。今のおめぇには丁度いい武だろうよ」
革包みを開いてみると、奇妙な形の魔鋼のダガーがっていた。
刃渡りは黒いナイフと同じくらい。橫に刃のない切っ先だけの貫通用の武だけど、斷面が角が尖った四角で、かなりの強度があるように思われる。
軽く振って踏み出すように突き出してみる。黒いナイフより重いが、これなら魔のぶ厚い頭蓋でも、鎧の関節部分でも曲がらず貫通できそうだ。
「何言ってんだ、偏屈爺、それは灰かぶりにナイフを渡した後に、お前がコツコツと作ってた奴だろ?」
「橫からうるせぇぞ、偏屈爺っ!!」
何故かまた喧嘩をしはじめた二人に、私はもう一度頭を下げた。
***
黒いナイフの代わりに黒いダガーを裝著して、私は冒険者ギルドに向かった。
國境に近い辺境區でも、魔生息域に近く跡が近いこの町のギルドは、この周辺では最大の規模を誇る。
常時出りする冒険者は百人を超え、そのうちの三割はランク3以上と言われているので、領主の男爵でもギルドに無理強いは出來ないそうだ。
扉を開けてギルドにると、二十名くらいの冒険者がいて、數人から剣呑な視線を向けられた。
別にそう言うのは初めてじゃない。以前はヴィーロと一緒だったので何もなかったけど、人前の子供がそれなりの裝備をしていたら、半端な冒険者ほどそれを面白く思わない者は存在する。
経験上、外套をいで“”であることを示せば、多は“場”の雰囲気が変わるのだが、どちらにしろ絡んでくる理由が変わるだけなので、そのままカウンターまで進むと付のが私を見てしだけ目を見開いた。
「あら、あなたは……」
「登録ランクの確認をしてもらいたい。近接の【ランク3】だ」
冒険者ギルドに來た理由は【ランク】を上げるためだ。
今までランク1のままにしておいたのは、年相応のランクにしておかないと無駄に絡まれるのと、相手を騙せるからだった。
でも、13~14歳程度まで長した今なら、デメリットよりもメリットのほうが多くなると判斷した。
ランク1では登録した町の出りしか出來ないが、ランク2だとその領地のどの町にも通行料は必要なくなり、ランク3にもなれば領地を渡る時だけ通行料はかかるが、全ての町の出りは無料になる。
でもやっぱり、それを快く思わなかった奴がいたようだ。
「ガキがランク3だぁあっ!? 吹かすのも大概にしろっ!」
近くのカウンターで付と折衝していたらしい冒険者の一人が、突然がなり立てた。
「…………」
総合戦闘力200前後。二十代後半の人族男。力と魔力値から推測すると、典型的な前衛タイプのランク2か。
戦闘力が200ならギリギリランク3でもありえるが、この數値だと、努力して複數のスキルを上げて戦闘力は上がったが、ランク3にはなれなかったのだろう。
一つか二つのスキルしか上げていないランク3相手なら、経験もあるこの男のほうが多分強いのだろう。
だからこそ、子供がランク3になるのは“ズル”をされたようにじて、この男は許せなかったのだと思う。
だけど……そんなことが私と何の関係がある?
「冒険者のランクはギルドが判斷しますっ! 勝手なことを言わないでくださいっ」
私が聲をかけた付のが、席から立ち上がってそう反論する。
だけどそれは、この場合は逆効果だ。
「こんなガキがランク3なら、俺だってランク3になるはずだっ! 鑑定が間違ってるんだっ、こいつがランク3なら俺が判斷してやるっ!」
男が片手剣を抜くと、ギルドにいた冒険者たちが祭りでも始まったかのように、歓聲を上げてはやし立てる。
おそらく、この程度のことならよくあるのだろう。冒険者たちは誰も制止せず、他の職員は諦めたように奧へと下がり、男の仲間たちがヤレヤレといったじで、男の好きにさせるために私を逃がさないように周囲を取り囲んだ。
相手は男を含めて五人。
男の気が済めば、殺しあいになる前に止めにるのだろうが、刃を向けたのだから、五人程度の死亡は許容範囲(・・・・)だろう。
ピンッ、と外套の金を弾いて床に落とすと、フードに隠れていた髪に薄くまぶした幻の“灰”がわずかにきらめいた。
私がで子供だと気づいた何人かの気配が揺れて、仲間の斥候と思われる男のニヤけていた顔が一瞬で蒼白に変わり、異様な量の汗を噴き出した。
「……お、俺は関係ねぇっ!!! コイツが勝手に絡んだだけだっ! 俺はコイツと関係ねぇっ!!!」
斥候の男が悲痛とも思えるびを上げ、武を捨てるようにして後ずさる。
「お、おい?」
「どうしたんだ」
仲間たちが真っ青になった斥候の男に戸った様子で聲をかけると、斥候はばされたその手を振り払うように悲鳴を上げる。
「やめろっ! 俺に関わるんじゃねぇッ! あんたとは敵対しないっ! だから殺さないでくれっ!! “俺たちのギルド”は『灰かぶり姫』とは敵対しねぇっ!!」
「…………」
斥候の男が悲鳴を上げて転がるようにギルドから逃げ出すと、その場ではやし立てていた冒険者の數人も顔を青くしてギルドを飛び出し、その場に微妙な空気が漂った。
……ああ、そうか。あいつは冒険者の斥候ではなく、この男爵領の『盜賊ギルド』の人間だったのか。
『灰かぶり姫』とは、私のが今のように長しだしてから、盜賊ギルド経由で呼ばれはじめた“二つ名”だ。
通常、二つ名なんて、その地域を離れたら関係なくなるものだけど、どんな連絡網を持っているのか、どこの盜賊ギルドの連中もそう呼ぶせいで、最近では冒険者ギルドや暗殺者にもそう呼ばれはじめている。
あの斥候があんな態度を取ったのも、おそらくこの北辺境區でもダンドールのギルドと並んで恐れられていた、ケンドラス侯爵領の盜賊ギルドの“武闘派”が壊滅したことも影響しているのだろう。
いったいどんな“極悪な噂”が流れているのか……とりあえずこの地の盜賊ギルドは無駄に絡んでくることはなさそうだ。
「……チッ」
意味は分からなくても微妙な雰囲気に呑まれたのか、絡んできた冒険者の男が舌打ちをして離れていくと、その仲間たちも不気味そうに私を見てその後を追っていった。
「申し訳ありません。できれば彼を許してあげてください。彼の故郷が々厄介なことになってまして、気が立っているのです。……それにしても」
先ほどの付のがそう言いながら、私をジッと見てガックリと肩を落とす。
「あなた……“の子”だったんですね」
その言葉で思い出したが、彼は私が冒険者ギルドに登録した時の付嬢で、その時は良くしてもらった記憶がある。
それにしても門の兵士といい、さっきの男といい、この男爵領で何があったのか。
「何かあったの?」
「それは……」
「アリア?」
突然年らしき聲をかけられて振り返ると、何処か見覚えのある年が唖然とした顔で私を見つめていた。
その後ろで、付嬢よりもさらに愕然とした顔で、両手と両膝を床につけて、
「アリア……の子だった」
と落ち込んでいる10歳くらいのの子を見て、そのリアクションにようやく二人を思い出す。
「久しぶり、ジル、シュリ」
この男爵の町で初めて出會った、スラムに住む孤児の兄妹だった。
次回は、この地で起きた厄介ごとの容。
アリアはどうくか。
捕捉事項。
アリアの呼ばれ方で、『灰かぶり』と『灰かぶり姫』がありますが、暗殺者ギルド壊滅以降に関わった者ほど、後者で呼ぶ傾向があります。
アリアが知識があっても男の機微など理解できないことがあるように、偽ヒロインのほうも、ゲームの中のヒロインが畫面上で男ばかりと関わっていたせいで、普通の人間としてのとも関わる必要を理解していません。
外見的には一度活報告で書いた狀態に近くなったと思います。
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