《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》75 迫る脅威

「――【暴風(サイクロン)】――」

冒険者ギルドの修練場で、【短剣】スキルレベル3の戦技、【暴風(サイクロン)】が放たれ、対象となった丸太の表面を斬り刻む。

戦技自は無屬魔法だけど、この【暴風(サイクロン)】は風屬を含み、繰り出した方向にある半徑1メートル前後の空間を風の刃で切り刻む“範囲攻撃”になる。

正直に言えば威力も使い勝手もレベル1の【突撃(スラスト)】に劣る戦技だが、炎系や風系の攻撃魔を一瞬散らすことも出來るし、小さな群系魔には大きな効果を発揮した。

この戦技を見たのは、暁の傭兵リーダーのダガートが使ったただ一回のみ。

その一回を基にして使えるようになるには苦労したが、それでも一度でも目に焼き付け、その技をこのければ、鍛錬次第で意外と何とかなるものだ。

魔力の熱を払うように一振りして黒いダガーを腰の後ろに収めると、パチパチと拍手の音がして、以前と同じように付のが近づいてくる。

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「お見事でした。魔力で長なされたのでしょうが、その年齢でランク3とは、よほど高名な剣匠に師事されたのですか?」

「そうだね……」

裏社會で高名な魔師である師匠に教えをけたけど、短剣はフェルドに基礎を習い、ヴィーロに戦技を習って、セラに矯正されたが、そのほとんどは実戦で効率を求めた末に無駄な部分をそぎ落とした自己流だ。

ヴィーロやセラの短剣を見ると、流派のような多彩な型があった。

それがいらないとは言わないが、それら全てを練する時間も経験も無い私は、逆に基本形だけを鍛え上げて一撃の度と威力を高めることを選んだ。

どんな技でも刃に刺されたら生きは死ぬ。ミリ単位の誤差もなく完璧な角度で急所を突けば、それは數千の技に匹敵するというのが私の持論だ。

それに幻と毒を組み合わせた戦が私の戦い方になる。

「それではこちらをどうぞ。冒険者ギルド【ランク3】のタグになります」

「ありがとう」

ギルドのタグは、ペンダント狀の細い鎖に付けた3×6センチの銅板だ。

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作り直されたそれは、表示がランクが3になっているだけでなく、錆びない金屬である魔鉄が混ざっているそうでしだけが濃くなっていた。

ランク3になるだけなら魔法を使うことも考えた。

レベル3のは二つあり、そのうちの一つ【解呪(リムーブ)】は、使用するのに何か呪われている対象が必要で、もう一つの【高回復(ハイヒール)】は、消費魔力こそ大きいが治癒と回復を高威力で行う魔であり、これが使えるだけで々な所に目を付けられるようになるので結局諦めた。

登録更新料の銀貨3枚を支払い、まだ微妙な雰囲気漂うロビーに戻ると、あのスラムの兄妹、ジルとシュリが私を待ち構えていた。

「…………」

あまり良くないな……

裏社會と関係のありそうな冒険者は先ほど外に出ていったので今は平気だけど、この町の盜賊ギルドは私と敵対しないと言っても信じられるものではない。

なので私の知己と知られるだけで、後々厄介ごとに巻き込まれる可能がある。

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私は彼らに目線だけの合図で首を振り、彼らを無視するようにギルドの外に出て近くの路地にると、數分後にジルとシュリが追ってきた。

「こ、これで良かったのか?」

兄のジルがどこか挙不審なじで話しかけてくる。

以前は私をライバル視していたように思っていたが、私がだと分かった途端に張り合うようなじはなくなった。

やはりをライバルと見ることが出來ないのだろう。私と視線が合うと視線を逸らすのに何故かチラチラと私を見る。

「うん。あまり私と関わらないほうがいい。々と面倒なことになる」

「それってどういう……」

「バカね、兄ちゃん。アリアってランク3なんだよ? きっと凄いお仕事してるだろうから、初心者の私たちとパーティーなんて組めないって」

どうやら彼らは、私とパーティーを組みたくて話したかったみたい。

「んなことは分かってるよっ。それより、シュリはあんなに落ち込んでたくせに、もういいのかよっ」

「……アリアがいきなり大きくなったり、の子だったり々あったけど、もうの子でもこれだけ綺麗で格好良かったら、それも“有り”かなって……ふふふ」

「いや、ダメだろっ!?」

何か病的に笑っていたシュリが、ジルの言葉にジロリと睨む。

「……兄ちゃんだって、アリアが綺麗だから目も合わせられないくせに」

「なっ、お前っ!」

「用件はもういいか?」

「ちょっと待ってくれっ!」

久しぶりに會ったことで浮かれているのか、奇妙な方向にズレはじめた話を私が區切ると、ジルが切羽詰まったような顔で聲をあげた。

「パーティーが組みたいのも、実は行きたい場所があったんだ……」

「兄ちゃんっ」

「シュリ、お前だって、これで良いと思ってないだろっ」

「……初めから話せ」

意味が通じない會話を終わらせ、二人に事の初めから話させる。

二人はこの町の生まれではなく、ここからし西に行った小さな町の出らしい。

母親は早くに亡くなり、父はその數年後に後妻をもらったが、その父もまた數年後に流行病で亡くなると、その後妻は産まれていた我が子に畑を殘すため、二人を追い出してこの町に捨てたそうだ。

私と出會ったのはその頃だと言う。きっと雑貨屋のヴィクトルが、口煩くしながらも二人を見守っていたのだろう。

そしてスラムで兄妹をげていた男を私が殺したことで、兄妹は強くなろうと冒険者となる道を選んだ。

「雑貨屋の爺さんのところで兎を売って、ガルバスに武を売ってもらったんだっ」

「ほらこれ」

二人が得意そうに鋼の短剣とナイフを見せる。確かに今の彼らには“丁度いい”武だと思う。

それでもあのボロボロの兎でこのランクの武が買えるとは思えないので、きっとあの偏屈爺さん二人からの餞別なのだろう。……本當にお人好しだな。

それからシュリが10歳になった時點で13歳のジルと一緒に冒険者……ではなく、今はまだ戦闘系スキルが無いので、荷持ちをして金を稼いでいたところに“変な噂”を聞いたらしい。

「オークか」

「……うん」

あの付嬢に話を聞いたところ、まだ公にはなっていないが、跡から西にし離れた場所に、オークが集落を形したらしい。

しかもその場所は、跡と人が住む町との中間にあって、すでに何人かの犠牲者が出ているそうだ。

それなら領主の男爵が兵を送るか、その町が冒険者ギルドに依頼すればいい話だと思うが、実際に男爵が冒険者ギルドの斥候に依頼して規模を調べさせると、恐ろしい事実が判明した。

ランク3である通常オークが五十數

ランク4であるオークソルジャーが四

そして、それらを束ねるランク5……オークジェネラルが一確認された。

この街にいる男爵の兵士は百五十人。他の町から掻き集めれば三百にもなるが、その大部分はランク1か2で、ランク3の部隊長クラスは十名程度しかおらず、ランク4になると王都の騎士に十數名ほどいるだけだ。

普通のオークとオークソルジャー四だけなら兵士でも何とかなるかもしれないが、オークジェネラルが一いるだけで、おそらく兵士の半數近くが犠牲になる。

しかも治安のために兵を殘すとなると、討伐に出せる兵士は七十人が限界で、その數ではおそらく全滅するだろうと付嬢は言っていた。

それなら冒険者ギルドに頼めば良いのだが、オークジェネラルを倒すにはランク4が二人以上いる五人組のランク4パーティーが必要らしい。

だが、今現在、この男爵領にランク4の冒険者はいない。

男爵は兵の全滅を恐れて戦力を出しあぐね、冒険者ギルドは魔大発生のような急事態ならともかく、今の狀態では冒険者を強制的に出すことはできない。

協力をするにも、男爵が金を出すのか、その町が金を出すのか、冒険者がどこまで対処するのか、等々決まらないことがあってどこもけない狀態らしい。

今はまだ、その町に壁を作って防いではいるが、それもいつまで持つか分からない。

「その町が……俺たちの故郷なんだ」

ジルがを噛むようにそう言うと、その隣でシュリが顔を歪める。

「そんな町、どうなったっていいじゃない。私たちを捨てたがいる町だよ」

「それでも、俺たちの弟もいるし、友達だっているじゃないかっ」

「私は友達なんて覚えてない。それにあのの子供なんて……弟だって思ったことないわっ」

「シュリっ!」

ジルはシュリを叱りながらも自分もその気持ちは解るのか、言葉に詰まって私の方を向いた。

「アリア……俺だけでもいい。あの町に連れてってくれないか?」

「兄ちゃんっ、ダメっ! 兄ちゃんが死んじゃうかもしれないんだよっ!」

ジルは良い思い出がなく酷い目に遭っても、知り合いを助けたい。

シュリは母の違う弟が死ぬことを厭いながらも、ジルが死ぬことを恐れている。

「でもダメだ。お前たちを連れていくことはしない」

「アリアッ!」

ジルが一歩前に出た瞬間に、その足を軽く払って倒れたジルの首にナイフを當てる。

「お前たちでは、行っても死ぬだけだ」

「……ぐ」

自分の力の無さを思い知らされてジルがく。

「それに――」

私が“そちら”を見向きもせずにペンデュラムの刃を投げると、そこに潛んでいた男が一人飛び出した。

すかさず一投目のペンデュラムを作して逃げようとした男の足首に絡ませ、二投目のペンデュラムを男の首に巻き付けて地面に引き倒す。

「盜賊(シーフ)か? 暗殺者(アサシン)か?」

「ち、違うんだっ! 俺は様子を見にきただけで、ギルドの決定に逆らったわけじゃないっ! お前とも敵対しないっ!!」

「言い訳はあの世でしろ」

「まっ、」

ゴキュンッ……

男の首に捲いた糸とテコを使って、男の首の骨を真橫に捻って砕き折る。

「私は狙われている。だから自分のを守れないような、足手纏いを連れて歩くことはしない」

「「…………」」

ジルとシュリの存在を知った盜賊の死を表通りから見えない影に捨てる私に、二人が顔を悪くする。

同じ“場所”に居ても、私と二人とは住む“世界”が違いすぎるのだ。

おそらくこれが最善解だ。

碌に戦う力のない二人が生き殘るのには。

だから――

「町の様子は私が見てくる。逃げるくらいの手伝いならしてやるから、お前たちはここにいろ」

「アリア……」

ジルが呆然と呟き、シュリが目元を隠すように袖でる。

表通りではなく暗い裏路地のほうへと歩いて行く私の背に、小さく『お願い』とシュリの聲が聞こえた。

次回、オークに襲われる町を救う手段はあるのか?

偏屈爺さんたちをお人好しと言いつつ、アリアも甘いです。

捕捉報。

盜賊ギルドは全面的に手を引いたのではなく、各支部で対応が変わります。

抗爭から一年も経過しているので、武闘派ではないギルドは、そろそろ割に合わない、被害が大きすぎる、といった理由から徐々に“灰かぶり姫から手を引く”という意見にシフトしています。

當然アリアに対する怯えかたも個人で差があります。

アリア本人を恐れているのもありますが、盜賊ギルドの決定に逆らうことは家族ごと始末される結果もあり得たからです。

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