くそざこなめくじ様よりレビューをいただきました。ありがとうございます。

かなり絵面が地味です。

私一人で一ヶ月間、オークの足止めをする。

私が一人でそれをすることに、良い意味でも悪い意味でも一悶著あるかと思ったが、威圧で脅しすぎたのか私の行は承認された。

敵の數はランク３相當のノーマルオーク五十數、ランク４相當のオークソルジャーが四、そしてランク５のオークジェネラルが一。

まともに戦うとしたら戦闘スキルの無い民兵なんて數の足しにもならない。ちゃんと訓練をけた兵士でもオークの十倍以上の數がいる。

まともな神経をしていれば、あの數の足止めを考えるだけでも百人以上が必要だと思うはずだ。

“まとも”なら。

ジルとシュリが住んでいたという家も捜せば見つかるかもしれないが、別にそこまで面倒を見るつもりはない。

逃げる時間だけは稼いでやるが、彼らの弟と継母が逃げるかここに留まるのかは彼たちの選択だ。

オークどもの簡単な位置はギルドに聞いているが、最初の兵士からさらに詳しい場所を聞いてから、私はその日のうちにオークの拠點に向かった。

距離的に冒険者の腳で二日程と言うから、私ならもう半日くらいは短できる。

その場所は十年くらい前まで村があった場所だから、馬車が通れるくらいの道はあるが、十年経った今ではただの獣道になっていた。

道が途中から草むらに変わったあたりで地面を調べてみると、最近通ったような大きな足跡が幾つか見つかったので、こちらで間違いないようだ。

その後、何カ所か見つけた足跡から推測すると、オークたちは単獨ではなく三ほどで纏まって行していると思われる。

オークの知能はゴブリンよりマシといった程度だが、上位種になるとそれなりの知能があるそうなので、ちゃんと統率されている様子が窺えた。

ランク３が三相手ならいけるかな……？　問題は彼らを倒すことより、一気に倒しきれなかった場合に近くにいる仲間を呼ばれることだ。

魔の強さは、人間のように複數のスキルを持つと適応力ではなく、単獨のスキルと高いステータスによるごり押しだ。

なので、私と同じランク３でもオークの戦闘力は半分程度しかないが、數が増えると高い力値のせいで削りきれずに後手に回ることになる。

それとオークを倒せても、その死骸を見られてオークたちに『自分たちが攻撃をけている』と知られた場合、そのまま報復として町を襲われる可能があった。

雑食のオークたちは、今はまだ町の外に殘った農園の作を奪って食べているので問題ないが、人と同じく満たされればをするようになるだろう。

廃村周辺で狩りをしていると思うが、それが無くなったらオークたちは必ずあの小さな町を襲ってくると思う。

ここで勘違いしてはいけないのが、私は『勇者』でも『聖』でもないことだ。

私がすることはオークどもの“殲滅”ではなく、町の住人が逃げるまでの“時間稼ぎ”が目的なことを忘れてはいけない。

そのためには、食料調達するオークを狩って相手を追い込むのではなく、今の現狀を維持してもらう必要があった。

「……この時點で、作戦が“まとも”じゃないけどね」

＊

隠れながら森を進むこと半日程で、森の中を歩くオークたちに遭遇した。

【オーク（ノーマル）】【獣亜人種】

【魔力値：98/108】【力値：392/420】

【総合戦闘力：278】

やはり三一組で行しているみたいで、錆び付いた槍や末な石斧で武裝しているようだが、不意打ちで倒せない數値じゃない。

でもやっぱり魔は力値が大きいので面倒だ。

狩りをした獲を持っていないので、多分こいつらは、侵した外敵を排除する巡回兵士のようなものだろう。

だとしたら、こいつらが戻らなければ警戒させるだけになる。もし狙うとしても集落からかなり離れる時を待つしかない。

それから何度か遭遇するオークたちを草むらでやり過ごし、または地を這うようにして側を通り抜け、ようやくオークが居るという廃村に辿り著いた。

その村は、元々丸太を杭にして地面に打ち込んだ壁で囲われていたみたいだが、今はかなり痛んで腐っている部分があり、オークたちがそこに適當に石を積んでを塞いでいた。

私は一旦森の中に戻ると、姿と匂いを誤魔化すためにそこらの土を泥にして外套に塗りたくり、顔や髪も泥で汚す。

これから私は一度たりとも見つかってはいけない。

事が済むまで一度たりとも私が居ることに気づかれてはいけない。

量の干しと錬金で作った栄養補給の丸薬だけで食事を済ませ、周囲が暗くなるまで高い木の幹にへばりつくようにしながら時を待つ。

周囲が充分暗くなったことを確認して、足音対策に用意しておいた兎の皮をブーツの裏に縛り付ける。

レベル４になった魔力制での魔素を周囲に馴染ませ、魔力制のおかげで同じくレベル４になった隠を使い、私は暗闇の中を闇そのものとなってき出した。

オークにはれない。隙があっても手は出さない。

“知識”によれば、隠は風下から近寄るとあったが、それはこの世界では正解の半分でしかない。

【浄化(クリーン)】で匂いを消し、泥で匂いを誤魔化した私なら、わざわざ風向きに逆らって不自然な空気の流れを作るよりも、わずかに流れる夜風の速度に合わせるように移すれば私の存在を完全に闇に溶け込ますことが出來た。

村の面積とまだ殘る家屋數から計算すると、この村は五百人程度の村だったはずだ。

周囲は田畑で囲まれ、中心部に三十戸、西と南にそれぞれ二十戸の家屋が殘り、オークたちは半分朽ちたその家屋を好き勝手に使っているみたいだった。

まず調べることは、オークたちの正確な數とその分布だ。

どの地區に何ずつのオークがいるのか。そしてオークジェネラルと四のオークソルジャーがどこにいるのか、それが分からないと正確な予測を立てられない。

それから朝まで調べた結果、オークは西に十五前後とオークソルジャー一。

南に二十前後とオークソルジャー一。

中央に十五前後とオークソルジャー二。多分その中央にジェネラルもいると推測する。そこだけ推測になったのは、発せられる強い気配だけで近づくのが危険だと判斷したからだ。

數を何前後と言ったのは、夜の警戒をしている個が何かいて、正確な數を測定できなかったせいだが、それでも冒険者が調べた『五十數』から大きく違っていないはずだ。

明るくなる前に森へと戻り、そのまま廃村から離れて野草の採取をはじめた。

薬になる薬草や毒草。その地域に生える植と手持ちの素材だけが使える毒の種類になるし、生で食べられるは私の食料にもなる。

こういう森の素材で毒を作るなら蟲やカエルのほうが強い毒を持つが、量を確保できないと意味がないので、初めから植に絞ることにした。

その中でも珍しい毒にも薬にもなるキノコを見つけたので、出來る限り採取してツタで縛り、高い木の上に吊して乾燥させておく。

一日中それだけをしているわけじゃない。

オークの行を見張ると同時に、食料調達部隊などの外に出るオークたちの行範囲も調べないといけない。

オークたちがいつ行を変えて、あの町に侵攻するか分からない以上、私は気を抜くことは出來ないのだ。

睡眠は最大五分に區切って、一日合計三時間もあれば何とかなるだろう。

そんな生活を一週間ほど続け、オークたちの大まかな行パターンが読めてきた。

三日に一度、町の農作を取りに行くオークが十ほどいる。これが最初に町を襲ったオークだと思うが、二回目撃した一回はオークソルジャーが一同行していた。

そして毎日、朝になると同時にを狩りに行くオークがまた十ほどいたが、これらは全て戦闘力が低めの、小柄な若いオークだった。

私のほうは、丸薬で調を整えていると言っても、丸薬だけでは一週間ほどしか完璧な調を維持できない。

なので森の中で見つけた果実や干しを、廃村から離れた場所で摂取するように努めている。意外と野生の豆類や山芋の実を多く見つけたが、やっぱり生で食べると味しくない。

一週間で大まかな報が出揃ったので、そろそろ行を開始することにした。

第一段階はの狩りだが、自分が食べるわけじゃない。

見張っていて分かったが、オークたちの狩りはあまり上手くない。が大きく隠に不向きな種族だから、十ほどのオークが狩りをしても何も狩れない日が偶にあり、そんな日は森の果だけを持ち帰っていた。

オークが毎日狩りをしているのは、上位種が豆や野菜よりを好んでいるからだ。

なのでを求めて町を襲うのを先延ばしにするため、私が兎や鹿を狩って廃村の周囲に放置しておくことにした。

人間だったら落ちていた死骸など食べないし不審にも思うだろうが、仲間が狩って置いていったと思ったのか、新鮮なの死骸を見つけると喜び勇んで持ち帰っていた。

同時に狀況に適した毒の作をするために、素材の準備も始めた。

五十分の毒を錬金道もない森の中で作するのはかなり難易度が高いので、しずつでも始めておく。

毒草や毒キノコを乾燥させ、【化(ハード)】で作った鉢と棒で加工しながら、手持ちの薬剤と素材を使って毒を作っていった。

二週間目にって、を與え続けているせいかまだオークたちのきはない。今かれるとこれまでの準備が臺無しになるので、私も計畫を第二段階に移行する。

重要なことは、オークが人を襲う魔だと言っても、を食べて水を飲む『生』だと言うことだ。

廃村の井戸は、この十年で溜まった枯れ葉が土になって埋まっていたが、一カ所だけ水が湧き出ている溜め池があり、水は淀んでいたが、魔であるオークたちは問題なくそこから水を汲んで飲んでいた。

私は夜中に忍び込み、その溜め池にしずつ製作した毒を混ぜていった。

毒の味に慣れさせるようにしずつ毒に馴染ませていく。

濁った水でも腐ったでも食えるオークだと、半端な毒では効果が薄い。

味の他にも、いきなり多くの毒を混ぜて調を崩せば警戒して飲まなくなるので、しずつ魔にも効果が出る程度に毒の量を増やしていった。

私がやっているのはそれだけではない。

寢ているオークのいる家屋に忍び込み、散らばった食べにも毒を滲ませた。もちろん餌付けしているにも徐々に毒を混ぜている。

その他にも量しかなかったが、家屋の外に無造作に置かれていたオークの武にも継ぎ目部分に酸の薬剤をしずつ染みこませ、武の強度を下げていった。

焦らずに丁寧に、“私”という“悪意”をオークに浸させていく。

焦れて手を出すような愚かな真似はしない。

私はフェルドやグレイブのような強者じゃない。しずつ數の個を倒し続けて足止め出來ると考えるほど、私は自分を過大評価はしていない。

私の失敗は、大勢の人の死に直結する。

手を出してオークの行が私の思をわずかでも上回れば、そこが私の死に場所となるだろう。

失敗は許されない。オークにわずかな反撃の機會を與えてはいけない。

だから私はオークの大軍という巨大な巖を、大剣で叩き割ることも、ハンマーで周りから砕くこともせず、針で削るようにを開けて“悪意(毒)”を流し込む。

けれど、それもそろそろ限界か……

私が使った毒は大したものじゃない。そもそも毒とも言えないかもしれない。

私が使ったのは、『腹下し』と『鼻炎止め』だ。

腹下しは説明するまでもないだろう。本來はの毒素を出すために使われるものだが、それを長期間摂取すれば水癥狀を起こして力が低下していく。

そして鼻炎止めは風邪の時の鼻水などを抑える効果がある。ただし、副作用として異様に咽が渇くようになる。

そして水を飲めば飲むほど、私の悪意は彼らを蝕んでいく。

三週間が過ぎて、ほとんどのオークが水癥狀を起こしていた。

オークはそこに來てようやく原因があると思いはじめ、それを落ちていたを食ったせいだと考えたらしい。

実際ににも毒を仕込んでいたので半分は正解だ。

そこでオークは以外の食料を得るために、水癥狀を起こしていた狩りをするオークと、町から農作を盜ってくるオークを外に出した。

だがそれだけでは、食料もすぐに足りなくなるだろう。それ以上にを好む上位種が町を襲うことを選ぶはずだ。

逃げられる住民の避難が済むまであと一週間……そろそろ時間稼ぎも限界だと察したので、計畫の最終段階である私自による直接の足止めを開始した。

森の中を歩く三のオーク。槍ではなく袋狀にした皮を持っているので、おそらくは狩りではなく果を集めるつもりなのだろう。

だけど、その様子は三週間前とは違い、全に覇気が無く、森の起伏を歩くことさえ難儀しているように見えた。

……これなら何とかなるだろう。

【オーク（ノーマル）】【獣亜人種】

【魔力値：85/105】【力値：127/410】

【総合戦闘力：166（260）】36％down

【狀態：衰弱】

タンッ、とオークたちを見下ろしていた木から飛び出し、真上から黒いダガーを衰弱して戦闘力が半減したオークの頭蓋に突き立てた。

『ブモォアアアアアアアアアアアアッ！！』

それに気づいた他の二が警戒のびを上げる。だけど、その聲はこの位置だと他のオークには屆かない。

二同時に突っ込んでくるオークに向けてペンデュラムの刃を投げて目元をらせ、反的に顎を上げたオーク二に、私は両手で黒いダガーと細いナイフを顎下から脳に向けて同時に刺し殺した。

お前らはここで地に腐れ。

また爽快のない戦略です（笑）

次回、戦力が落ちたオークとアリアとの対決。

來週から更新速度をし落とします。