《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》80 オーク攻略戦 ④

私一人がここまでする必要は無いかもしれない。

私一人でここまでやったのだから、もう充分かもしれない。

でも、私はそんな用な生き方は出來ないみたい。

あと五日、町の住民の避難が完了するまでオークたちの足止めをするため、私は暗い森を廃村まで戻る。

一度町に戻る選択肢もあったが、オークソルジャーと戦った地點から距離にして一日ほどもあり、二日も時間を無駄にすると、食料調達班が戻らないことでオークたちが侵攻を始める恐れがあった。

それでも薬品くらいは補充できたかもしれないが、その時間を移に費やすのならその時間で睡眠を取ったほうがマシだと判斷した。

だけど、まともな睡眠を取る暇もなさそうだ……

翌日の夕方にオークたちがいる廃村に辿り著くと、そこでは最後に殘ったオークソルジャーの指示の下、殘った食料を掻き集めて出発の準備を始めていた。

その様子を見るに出発はすぐではなく、今外に出ているはずの狩猟班が戻ってから、明日の朝あたりに出るのだと思われる。

おそらくだが、私が倒したオークソルジャーたちの部隊は、食料の調達ではなく町を襲う先遣隊だったのだろう。それならあの過剰な戦力も頷ける。

……本當にギリギリだった。

コイツらをここに押し留めておくことはもう無理だけど、出発前に辿り著けたことでギリギリ間に合った。

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私は廃村のきが分かる程度に離れた巨木に登ると、來る途中で見つけた黒ベリーと丸薬を口に含んで、暗くなるまで目を閉じる。

この三週間でまともな睡眠も食事もしていない私のは疲弊している。

昨日はポーションで無理矢理回復させたが、溜まった疲労は戦闘から丸一日経過しても六割程度までしか回復していなかった。

が沈むまで一時間……意識的に睡眠を取って力と気力を回復させる。

睡眠を取れば魔力も力も起きている時の倍も回復する。溜まった疲労を回復するためにも無理矢理眠り、一時間後――が沈んで空が暗くなる空気で目を覚ました私は、夜の闇に紛れて音もなくき出した。

もうオークの行を止めることは出來ない。上位種を含めた三十ほどのオークが纏まって行したら、私では手の出しようがなかった。でも、移を始める前の、この廃村に散らばった狀況なら私にも出來ることがある。

それはオークたちの暗殺だ。

オークの狀態が正常なら生命力が高いオークの暗殺なんて難しいが、毒によって衰弱した狀態の今なら可能なはずだ。

まずは廃村周辺を巡回するオークたちだ。出発が近いこともあって廃村から遠く離れることもなくなったが、その代わり三くこともなくなり単獨で巡回していた。

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「…………」

巡回するオークの先に回って木の上にを潛め、真下に來たオークに飛び降りると同時に糸を巻き付け、その太い首を全重と落下の速度を合わせて一気に締め上げた。

『…グガァ…ア』

そのオークは襲撃されていることさえ気づかず、突然の窒息に首を掻きむしる。だけどその程度で、魔力で強化した蜘蛛糸は切れはしない。

私は半分逆さまになりながらも踵でオークの後頭部を蹴って一気に糸を締め上げ、完璧に絞め落とす。

が厄介なのはこれでも時間が経てば息を吹き返すところだ。なので私は地面の腐葉土を【流水(ウォータ)】を使って濡らし、そこにオークの顔を突っ込んで窒息させた。

これで二十六目……今はまだの臭いをさせたくはない。

私は二目の巡回するオークを見つけて忍び寄る。だが、そのオークは若い個なのか怯えるように開けた場所ばかり歩いていた。

オークの太い首を一瞬で締め上げるには、木の上から飛ぶ落下速度も重要なのでさっきと同じ手は使えない。

でも開けた場所なら別の戦い方もある。私はすぐさま黒いダガーの柄に予備の糸を巻き付け、大きく弧を描くように投げて真上からオークに叩きつけた。

ゴッ…!

『……ガ…』

遠心力と魔力で強化されたダガーの柄を頭頂部に喰らったオークが、白目を剝いて崩れ落ちる。すぐに近づいて最初のオークと同じ処理をしてから、死を隠すように適當に腐葉土をまぶして次を捜す。

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同じようにして他に巡回していた三のオークを始末する。ここまではほとんどを流していないことで、廃村にいる殘りのオークに気づかれた様子はない。

念の為に魔素のを視る暗視で周囲を確認し、私は闇に紛れて廃村の中へ侵した。

――三十目。

あと半日でも時間があって、強力な眠り薬でもあれば楽になるのだが、生憎どちらも用意は出來ない。そもそも強力な眠り薬は、ランクの高い植系魔からしか取れないので、簡単に用意出來るものではない。

廃村の様子は出発が近いせいかまだ起きているオークがいるようだ。とりあえずオークジェネラルがいると思われる中央部を避けて、西と南の集落を潰すことにする。

西の集落には普通のオークだけでソルジャーの気配はなく、起きているオークも居なかった。

寢息が聞こえる廃屋に忍び寄ると三のオークが眠っていたので、ポーチからこの國でも珍しい小さな硝子瓶を取り出し、その中しずつ垂らした糸を伝わせてオークの口に流し込む。

これは別に毒じゃない。消毒用に何度も蒸留した純度の高いアルコールだ。

こんなものを口に流したら人間なら咽せる程度では済まないだろうが、生的に強靱なオークなら問題はない。

他の廃屋にいた四にも同様の処理をして最初の廃屋に戻ると、最初にアルコールを盛ったオークたちの寢息が大きくなっていた。

私は深く眠っているオークの延髄に、が噴き出す大きな管を避けながら、大きな千枚通しのような黒いダガーをしずつ埋め込みトドメを刺す。

最後にビクッと震えてきがれたが、その個が起きることも他のオークが気づくこともなかったので、そのままオークたちを殺していった。

私が通常戦闘時にナイフに毒を塗ったりしないのは、毒自が渇くと効果がほぼ無くなるからだ。あらかじめ塗っておいても空気にれているだけで毒は劣化していく。

エレーナを攫った盜賊が使っていたように、劣化しにくい微弱な毒ならそれを保存できる専用の鞘があるそうだが、私はそれを求めなかった。

別に戦い方に拘るつもりはない、殺さなければいけない相手を確実に殺すためなら、使うのに躊躇もしないだろう。でも、毒にばかり頼る戦闘を続けてそれに囚われるようになれば、私が求める強さに辿り著くことが出來ないようにじた、ただの私の我が儘だ。

これで三十七目――

次に南の集落に向かうと、まだ起きていた三のオークしかいなかった。

ここも西の集落ももっと沢山のオークが居たはずだが、たぶん狩猟班やソルジャーたちと一緒にいた連中だろう。ここの三が起きていたのは、巡回していたオークの代要員なのかもしれない。

その三は固まって長い芋のようなものを食べていた。面倒だな……數分見ていたがばらける様子もなかったので暗殺を強行する。

「――【診(フィール)】――」

車座になっていた向こう側の二に【診(フィール)】を使うと、耳にれられたその二が後ろを振り返り、私は意味が分からず不思議そうにしている一に忍びよると、そのまま延髄から口まで黒いダガーを刺し貫いた。

『ブボッ…』

その奇妙な聲で振り返っていた二がこちらを向くより先にダガーから手を放し、飛び出した私の掌底が顎を弾いて、オークの顔を向こう側に戻す。

『ブオッ!?』

痛みがあっても理解できていないオークたちの顎下から、ブーツから引き抜いた細いナイフと予備のダガーを脳まで突き刺し、二同時にトドメを刺した。

これで四十目――

が大量に流れたので、拡散するの臭いにいつ気づかれるか分からない。

殘りは中央にいるオークジェネラルが一と、オークソルジャーが一、そして普通のオークが十數。でも問題は數じゃない。オークジェネラル一だけでオーク五十と同等の脅威がある。

「……ふぅ」

不安を肺に溜まった空気と共に外に出し、ストレッチをしてをほぐす。

魔力と力はどちらも七割ほど。も多の痛みとり傷はあるが、腱の痛みや出はなく、打撲の痛みもきに支障が生じるほどじゃない。

私は暗闇の中をいて、オークジェネラルがいる中央集落へ走り出す。

數分後にその場所に到著すると、私は前回の失敗を踏まえてまずは偵察を行うことにした。

私の“眼”で確認しただけでも通常オークが11。その全てが中央の広場に集まっており侵攻する準備を終えていた。

その中央に立つのは、へし曲げた若木に弦を張ったような無骨な弓を持つ一のオークソルジャー。

そして……その奧にいる長3メートル以上の巨大なオークが、オークジェネラルだろう。

私は一度下がってオークたちに一番近い廃屋の屋に上がる。

私は手甲にあるクロスボウのギミックから短矢を外して、ポーチから一番飛距離が出る鋼製の短矢を取り出すと、傷と曲がりをチェックする。

師匠から譲りけた極小のクロスボウは、五メートル以の敵を牽制する近接戦用の武だ。その距離でも骨を貫通する威力はなく、木の板を狙っても30メートル以上離れたら深くは刺さらない。

この位置から見るだけでも、オークジェネラルには撃っても無駄だとじた。おそらく遠距離攻撃は不意打ちでも避けられる。それでも屋に登った理由は、〈弓〉のオークソルジャーを狙撃するためだ。

目測でその距離32メートル。飛距離が出る鋼の矢でも頭蓋の貫通は不可能だ。なのでその狙撃を有効にするために私は“奧の手”を使う。

ポーチから取り出した、二つの小さな白磁の瓶。そのうちの一つから慎重に蓋を外して用意しておいた葉の上に數滴垂らして蓋を閉める。

もう一つから蓋を外して矢の先端を浸すと、蓋を閉めて両方ポーチに戻してからようやく息を吐いた。

薬剤に浸した矢の先端で葉に垂らした薬剤を混ぜると、途端に鋼の矢を腐食させながら異様な臭気が立ちのぼる。

これは師匠が作った二の猛毒だ。一つ一つは無害だが、混ぜることで強烈な腐食毒へと変化する。今まで使わなかったのはこれが煙を吸うだけでも危険だからだ。こんなものを一日に二回も使ったら使用者にもダメージが來る。

しかも水分に弱く大気の水分にれているだけでも効果が落ちていく。私は煙を吸わず、息さえ吹きかけないように注意しながら慎重に矢をギミックに裝填し、頭の中で構していた闇魔法を唱えた。

「――【重過(ウエイト)】――」

重さを変えるのではなくを任意の方向へ向ける闇魔法だ。これを魔ではなく魔法と言ったのは、すでに構を変えてを上げていたからだ。

クロスボウを使う私の【弓】はレベル1しかないが、レベル3の闇魔法で【重過(ウエイト)】を併用すれば、命中率と飛距離と威力を三割以上ばすことが出來た。

その時、オークジェネラルが顔を上げ、〈弓〉のオークソルジャーが警戒のびを上げながら弓を構えた。

毒の臭気か魔法を使ったせいか、私に気づいた〈弓〉が、2メートルもありそうな弓に私の長程もありそうな矢をつがえて一気に引き絞り、私は矢を向けられながらもギミックに魔力を流して慎重に狙いを決める。

極度の集中に汗が額に流れる。レベル4の弓を持つ〈弓〉がニヤリと笑って角度を上げ、私の顔面に狙いを定めた。

シュパッ!!

〈弓〉から矢が放たれる。風を斬り裂き、唸りをあげて迫り來る矢の軌道(・・)を目に焼き付けて、私もギミックからクロスボウの矢を撃ち放った。

撃った瞬間に私が首を傾げると、確すぎる(・・・)矢が髪のの數本を斬り飛ばすように、私の頭の脇を通り抜け、撃たれた矢と全く同じ軌道で飛んでいくクロスボウの矢は、そのまま一瞬怯えを見せて直した〈弓〉の左目を撃ち抜いた。

……四十一目。

お前は弱くない。ただ、しだけ覚悟が足りなかっただけだ。

今回は毒による狙撃です。

毒はあまり使い勝手の良い武するつもりはありません。強力な即死毒は今回のように取り扱いも使用者も危険になりますし、飲みに混ぜることも出來ません。

次回、オークジェネラル戦

たぶん、土曜日が日曜日のの更新予定です。

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