《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》82 オーク攻略戦 ⑥
前話を々修正しました。
『グォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
顔面を斬り裂かれたオークジェネラルが苦痛のきを上げた。
ジェネラルとすれ違うように飛び越えた私は、そこにいた運のないオークの眉間にダガーを突き立てるようにして著地すると、一瞬力に襲われて荒い息を吐く。
淺かったか……。あの速度でダガーを突き立てれば、オークジェネラルといえども致命傷を與えられたはずだが、あの速度でもジェネラルはわずかに顔を逸らして直撃を回避した。
逆に回避されるのなら黒いダガーではなく修理している黒いナイフのほうがダメージを與えられたと思うが、ナイフではそもそも“決め手”に欠けるのでその仮定には意味がない。
それよりもこの力は何だろう? この覚は……初めて【強化】を使った時と似ている。ううん、し違う。初めて【戦技】を使った時のような力と筋に溜まる熱をじた。
集中して全に魔力を流してはいたが何が原因なのだろう? そのおかげで想定したよりも速度が出たのだと思うが、今はそれを考察している時間はない。
殘りはこのオークジェネラルと、私に怯えた視線を向けるオークが二のみ。他にも狩り殘した個がいるかもしれないが、ここにいないのなら放置しても良いだろう。
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『……オマエ……』
ジェネラルが顔の傷に當てた手の隙間から私を睨んで、『言葉』をらした。
こいつ……上位種は知能が高いと聞いていたが、人の言葉を話せたのか。聲帯構造の違いかジェネラルは一言一言區切るように聲をらす。
『ヒトゾク…ノ、。ナゼ、我ラ、オソウ? ナカマ、殺ス、ナゼダ?』
「…………」
オークたちからしてみれば、私は集落を襲って仲間を殺した“悪”なのだろう。
見方が変われば正も邪もまた変わる。人族や亜人を含めた“人間種”が正義であるとは限らない。人族の敵である魔族でも敵対する理由はあるはずで、恐れられる魔族にも師匠のようなお人好しもいる。
だけど、そんなことに何の意味があるのだろう?
「お前たちに恨みはない。でも縄張りに他者がれば、子を護るために命を懸けて戦う。お前たちは、現れた時から“敵”だった。ただそれだけだ」
全ての者が満足できる世界ならそもそも爭いは起こらない。奪いに來たのなら奪われる覚悟もあるのでしょ?
『……ワカッタ』
私の“答え”に目を細めて何かを考えていたジェネラルは、塗れの顔から手を放して黒鉄の六角棒を両手で構える。
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その構えからは強者としての驕りはなく、私を襲撃者ではなく『敵』として認めたのだとじられた。そんなジェネラルの想いをじたのか、怯えていた二のオークが武を握りしめてジェネラルの橫に並ぶ。
『ワガ名ハ、ゴルジョール。センシ…ヨ、“名”ハ?』
「……アリア」
『ソウカ……ユクゾ、アリアッ!!!』
咆吼と同時にオークジェネラル――ゴルジョールが風の如く飛び出して六角棒を私へ叩きつけた。
私はギリギリでるように回避する。伏せた地面に片手を突いて片足で地面を蹴り、止まることなく流れるように移しながら、私を追ってきたオークの一に真下から、逆立ちをするようにブーツの刃を顎に叩き込んだ。
とうとうゴルジョールが本気になった。
毒で弱していると言っても、ランク3の私とは技量に大きな隔たりがある。対抗できるのは速度のみ。ステータスこそ下がっていないが蓄積した疲労から私の魔力も力も半分を切っていた。
この狀態でも勝機は殘っているのか? 先ほどまでは最悪逃げることも視野にれていたが今はその考えは捨てている。
ゴルジョールは私を敵として認め、強者の驕りを捨て、衰弱したでも誇りをもって戦いに臨んでいる。今のコイツから逃げれば、私は多分、この“舞臺”にもう二度と上がれない気がした。
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私のむ強さは“力”だけじゃない。私は“心”で強くなる。
咽を抉られたオークが泡のような反吐を吐きながら崩れ落ち、そのオークを目隠しにして迫っていたゴルジョールが六角棒で突きを繰り出した。私は仰け反るようにそれを躱して、地を這うように距離を取る。
棒は分かりやすい危険である刃が無いため、攻撃の幅が広い。槍のように突き、大剣のように薙ぎ払い、ハンマーのように打ち砕く。
ゴルジョールの敏捷値が下がっているので戦えているように見えているが、一撃でも直撃すれば全の骨が砕かれるだろう。
「――【影(シャドー)攫い(スナッチ)】――」
闇魔法で四つの“闇”を同時に創り出すと私は周囲にばらまいた。
『ガァアアアアアアアアアアアアッ!!!』
ゴルジョールが“闇”を警戒しながら頭上で六角棒を旋回させ、そのまま端を摑んで叩きつけてきた。
六角棒と腕の長さで3メートル以上の距離を一瞬で詰められた私は、歩法を使ってスライドしながら、自分の影を使ってゴルジョールの頭の脇に浮かべた“闇”からクロスボウの矢を放つ。
「ぐっ」
ギリギリで避けても砕かれた大地の破片が私のを打ち、ゴルジョールは撃たれた矢を目で見て躱したが、追撃だけは防ぐことが出來た。
使い勝手の良い【影攫い】だが、欠點もある。
空間系の闇魔法は効果を及ぼすためにを魔素で覆う必要があり、【影収納(ストレージ)】くらいなら糸の束を繋げていてもペンデュラムを外に出せるが、影から影へと転移させるには完全に隔離する必要がある。〈槍〉のソルジャー戦では直にれていたので影を渡らせることが出來たが、影に刃を突き立てて離れている場所を攻撃するような真似は出來ないのだ。
だから【影攫い】で送れるのは、投擲系か罠系のみ。
『ガッ!?』
ゴルジョールの側にあったもう一つの“闇”が罅割れると、中から零れたの玉が一瞬だけ強烈なを放つ。
空間系闇魔法は式を包して様々な現象を起こす。ならば他の魔も直接送れるのではないかと考え、生活魔法の【燈火(ライト)】を持続ゼロにして送り込んだ。
と闇で相殺する可能もあったが無屬だから良かったのか、目潰しとして発した瞬間に私はゴルジョールへ全力で飛び出した。
まだ殘っていた【重過(ウエイト)】の効果と【強化】を使い、常人の倍の速度で5メートルの距離を一気に詰め寄り、目を押さえるゴルジョールに黒いダガーを突き出した。
『グガアアッ!!』
だがその渾の一撃は最後に殘っていたオークの心臓を貫いていた。
に目を焼かれてさえそれでも庇ったのか、それともただの偶然か。どちらにしろ骨を貫いて元まで埋まったダガーを抜こうとしたその瞬間、ゴルジョールが目を瞑ったままオークごと私を六角棒で弾き飛ばした。
「かはっ!」
地面を転がった私の口からが溢れる。
それでもまだ致命傷じゃない。おそらく暗視に頼らずに探知のみで反撃をしたのか、大柄なオークのがクッションになって直撃だけは避けられた。
ゴルジョールが痛めた目を細めるように睨め付け、再び両手で六角棒を構えると、私も足に力を込めて立ち上がる。
骨は多分折れていない。筋も腱も酷く痛む箇所はない。それでも力値が限界ギリギリまで低下しているのが自覚できた。
【高回復(ハイヒール)】を使えば力と傷を回復できるが、ゴルジョールがレベル3の魔法を構する時間を與えてくれるはずもなく、それを使えても魔力はほぼ空になる。
慣れている【回復(ヒール)】なら隙を見て使えるかもしれないが……いや、止めておこう。ここで魔力を消費するなら攻撃に回したほうがいい。回復が出來たとしても決め手がなければ意味がない。
これが斥候職の弱點だ。魔導師や戦士系と違って、生き殘りには長けていても私には『決め手』がない。
今までは何とかなった。刃を刺せるのなら誰であろうと倒せると思っていた。普通の冒険者ならそれでも良い。だけどランク5以上の“強者”を一人で相手にするには、それだけでは足りないと思い知らされた。
“決め手”がいる。ゴルジョールが使った【戦技】のような一撃が。
「…………」
『…………』
ゆっくりと向かい合い、私が腰を落として黒いダガーを構えると、何かをじたのかゴルジョールも警戒するように腰を落として、腰を捻るように六角棒を大きく振り上げた。
ゴルジョールの戦技だ。ゴルジョールの中の魔力が溜まっていくのをじながら、私は思考を加速させて息を吐く。
思い出せ。さっきの覚を。ゴルジョールの顔を斬り裂いた一撃を。
強化を鍛えることで魔力制のレベルも上がって、戦技を扱う無屬魔法のレベルも上がる。
どれか一つで完結はしない。この三つのうちどれが欠けていてもダメなんだ。戦技を使う近接戦闘スキルは、ただの出口に過ぎない。
強化で全に流れる魔力を“眼”で視ると、無屬の魔素だけでなく微弱だけど屬のある魔素も混ざっていた。
今までは気にしなかった。それが普通だと思っていたから。でも魔力を水に喩えるのなら、それは雑味のようなものではないだろうか?
あの一撃は、極度に集中した結果だ。集中したことで周囲から魔素を取り込んで自分の魔素と合わせて魔力にするのではなく、自分の魔素だけを使ってしまったと自覚している。
だったら今度は自分の意思で、魔力から屬を排除する。
普通なら出來なくても、魔素のを視る私の“眼”なら出來るはず。
集中しろ。ピンセットで砂から鉄の粒を摘まむような繊細さで雑味を捨て去り、明な硝子を創り出すように無屬の魔力を製する。
「……ッ!」
目に視える魔素の明度が増していくと、全を流れる魔力の速度が増していく。その魔力の速度に全の筋が熱を帯びて、戦技を使う寸前のような狀態になった。
『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
私の魔力を察したゴルジョールが振り上げていた六角棒を振り下ろし、彼の【戦技】を撃ち放つ。
極度に加速された思考の中で、振り下ろされた六角棒の魔力が地面を打って衝撃波が発生していくのが見えた。
私の全を駆け巡る魔力が制できずに瞬く間に消費されていく。
その瞬間に地を蹴り飛び出した私のは、強化の限界さえ超えて眼に映る景さえ置き去りにして、放たれたゴルジョールの衝撃波が地を奔る前に飛び越え、目を大きく見開いたゴルジョールを貫き、その反に耐えきれずに吹き飛ばされた私のがゴルジョールの背後で數十メートルも転がっていく。
「……かはッ、ケフッ」
大地に大の字になり激しく咳き込んだ私の口からがれ、瞳だけを向ける視界の向こうで、ゴルジョールの巨がゆっくりと仰向けに倒れていくのが見えた。
ほぼ全ての魔力と力を失いきすら出來なくなったで、ゴルジョールの眉間に深々と黒いダガーが突き刺さっているのを瞳に映し、私は彼の死を確認して黙禱するように目を閉じると、その意識は靜かに闇の中に包まれていった。
【アリア(アーリシア)】【種族:人族♀】【ランク3】
【魔力値:4/250】10Up【力値:7/200】10Up
【筋力:9(12)】【耐久:9(12)】【敏捷:13(17)】【用:8】
【短剣Lv.3】【Lv.4】1Up【投擲Lv.3】【弓Lv.1】
【防Lv.3】【糸Lv.4】
【魔法Lv.3】【闇魔法Lv.3】【無屬魔法Lv.4】1Up
【生活魔法×6】【魔力制Lv.4】【威圧Lv.3】
【隠Lv.4】【暗視Lv.2】【探知Lv.4】【毒耐Lv.3】
【簡易鑑定】
【総合戦闘力:612(強化中:732)】36Up
オーク編決著です。事後処理や町のこともありますが、戦いは終わりました。
次回、町への帰還。新しい武。懐かしい顔……
そして、新たな技の正とは?
次から通常更新に戻ります。次回は水曜日更新予定です。
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