《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》84 新しい武と懐かしい顔 後編
後編です。
行きは駆け足で移したが帰りは徒歩で戻る。まだ本調子でないのもあるけど、強化にまだ若干の不安があったからだ。
ゴルジョールを倒したあの技……たぶん強化が暴走したような狀況になったのだと思うが、魔力を一気に消費してにもかなりの負荷をけた。
このような現象は師匠にも聞いたことはなかったが、武に詳しいガルバスなら何か知っているだろうか?
そして一ヶ月ぶりに大きな町に著くとオーク対策か見張りの數が増えていた。
どうせオークの脅威が無くなったことが確認されるまで解除されることはないので、特に気にすることもなく門に向かうと、ボロボロの外套のせいで不審な目を向けられたが、冒険者ギルドのタグを見せるとあっさり中に通された。
一ヶ月ぶりの町だが特に変わりもなく、途中にあった店で足りなくなった野草類を買い足しておく。
本來ならまずは冒険者ギルドに出向いて、あの付嬢あたりに簡単な説明をするべきなのだろうが、私はギルドにはよらずに最初にガルバスの工房へと向かった。
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いつものように裏通りにると隠をかけて音も無く移する。周囲を警戒して盜賊ギルドの“目”が無いことを確認してから、ガルバスの工房の扉を軽く叩く。
「ガルバス、いる?」
中から鎚の音がするので多分居るとは思うけど、そのせいで聞こえていないようだ。一応、聲をかけて中にると、鍛冶場で何かを作っていたガルバスが私に気づいて目を見開いた。
「灰かぶり……おめぇ、ボロボロじゃねぇか」
ゲルフの作った防は汚れる程度で済んでいるが、ただの革製である外套はまた買い換えないとどうしようもないほどに痛んでいた。
「戦闘があった。武は出來てる? それとこれ、お土産」
「こいつは…」
肩に擔いでいた“お荷”だった魔鉄の六角棒を渡すと、それをけ取ったガルバスが珍しそうにジッと見て唸りをらす。
「うぅむ……やけに古いもんだな。技はいが、相當使われているのに曲がりも反りもねぇってことは、かなり純度の高い魔鉄だな」
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一目でそこまで分かるのか。
「ガルバスはこれで武を作れたりする?」
「魔鉄の塊だから、そりゃ々作れるが……おい、灰かぶり。コイツをどこから持ってきた?」
「オークジェネラルが使ってた」
「……はぁ!? オークジェネラルだぁ!?」
「それをあげるから一つ教えてしいんだけど」
まずはこれまでの経緯を簡単に説明して暴走する強化の話をすると、呆れを通り越して頭を抱えたガルバスが深く溜息を付く。
「この馬鹿野郎がっ!! 冒険者に無茶をするなってのは無理な話だが……ちっとは自分のも大事に使えっ!」
「ごめん……」
「……それで、奇妙な強化の話だったな。俺は戦闘に関してはランク2程度の力しかないが、それでも武に関することなら詳しいつもりだ」
私を叱るようにジロリと見て、コップに酒を注いだガルバスは一気に呷ってから話を始める。
「武を作る以上、戦技を使うことを前提とした武を作る。だから若い頃に々調べてみた。今の戦技になったのはこの二千年くらいだが、それ以前も戦技はあった。お前が使ったのは、おそらくその“原初の戦技”だろう」
私が使ったのは、今のように【強化】と【戦技】として系化される以前の、その基になった技らしい。
暴走する強化の“熱”は自分の力を高めてくれるが、それは諸刃の剣だ。その熱を使えるように無屬魔法で制して、一點に放てるようにしたものが【戦技】になるそうだ。
ならば、これを利用すれば新しい自分の戦技が作れるかというと、そんな簡単な話ではない。
戦技は単音節の無屬魔法と言われているが、使っている単語は“霊語”ではなく人間種が使う“共用語”だ。オークのような魔は言葉ですらなく“雄び”だけで戦技を使っていた。
つまり普通の魔で使う“火矢”や“石礫”のような『発ワード』と変わらない。なのにどうして聲に出す必要があるのかというと、その発ワードの“意味”自が魔法になっているからだ。
その意味のある単語は、【霊】が認識することでこの世界の“霊語”として力を持つようになる。正しい意味さえ理解していれば詠唱破棄でも魔が魔法として発するように、近接戦闘スキルの技や戦技そのものの効果を正しく理解していれば、それを魔法の構として、雄びでさえ【戦技】は発することが出來るのだ。
先人たちは暴走する熱を何とかしようと長い年月をかけて試行錯誤を繰り返し、その結果として、霊がそれを認識することで今ある【戦技】は作られた。
鉱石を見つけただけで武を作れるわけじゃないように、私が片手間に試行錯誤を繰り返しても、戦技の形になるまで數十年はかかるだろう。喩え運良く完しても既存の戦技を超えることはまず無いと思う。
ちなみにゴルジョールが使った戦技の威力が高かったのは、ランク5以上の戦技は、世界のバランスを保つ“勇者”のために霊が作ったからだと言われているそうだ。
要するに原初の不安定な『強化の技』を安定化させたのが今の【戦技】であり、安定して強くなりたいのなら今の戦技を使うのが一番の早道だと言われた。
結論として戦技は作れない。でも、それなら、暴走する熱自をそのままコントロールすることは出來ないだろうか……
「魔的なことなら他の奴に聞け。おめぇにも魔の師匠がいるんだろ?」
「うん……そうする」
「そんなことより、武の製作も修理も終わってるぞ。まずは預かっていた魔鉄のナイフだ。握ってみろ」
「うん」
この二年半、命を預けてきたナイフが私の手に戻る。握ってみると、子供が両手で使える細い柄ではなくなり、片手で扱う太い握りに戻っていて、その吸い付くような手のに驚いた。
「……振ってみていい?」
「そこの薪でも斬ってみろ」
置いてあった薪を宙に放って、一気に踏み込んでナイフを振るうと、薪がまるで鉈で割ったように縦に両斷された。
その新品同様になった黒い刃には曇り一つなく、重心がしだけ先寄りになり、鋭さはそのままに威力が増している。
「うん……凄く良い。それじゃ、借りていたダガーだけど…」
「おう、そっちも整備してやる。もう一日だけ待ってろ」
「……代替の武じゃないの?」
私がそう言うと、黒いダガーを鞘から抜いたガルバスが顔を顰めた。
「たった一ヶ月で隨分と傷だらけだな……まぁ、オークの上位種と戦ったのなら當たり前か……。いいか、灰かぶり。この魔鉄のダガーは、そっちのナイフと合わせて使うことを前提に作った“威”の武だ。気にらなかったか?」
「ううん、それが無ければ負けていた」
この武だからこそ、最後のあの一撃に耐えられたのだと思う。
「だったら、このまま使え。そのナイフとは兄弟武だ。一緒に使わねぇとコイツらが可哀想だろ?」
「……うん」
……本當にお人好しな偏屈爺さんだ。
「それと、頼まれていた新しい武を見てみろっ、これだっ!!」
ガルバスが玩をもらった子供のように目を輝かせ、持っていた包みをテーブルに広げた。
「……四つ?」
ガルバスに頼んでいたペンデュラムの新しい刃は、何故か四つも種類があった。
「おめぇは、目的に沿って使い方を変えているんだろ? その使い方の目的別に々と作ってみた」
【汎用型】。ある程度の重みがある菱形の刃で、斬るのにも使えるが、基本は突き刺すことで使用するので、今までと同じように使えるはず。
【斬撃型】。チャクラムのような円形の刃で、振り回して回転する遠心力の速度によって、カミソリのように裂き、斧のように斬る。
【刃鎌型】。碇のような形の鎌で、斬撃型と同じように振り回して引き切ることで、生を一撃で殺すことも可能になった。
【分銅型】。ぶ厚い十字架のような形は振り回すことで水平になり、わずかに尖った両角をハンマーのように使えば頭蓋骨さえ砕けるだろう。
「使い方は分かるな? 金型は作ったからそのうち予備も作ってやる。材料ももらったことだしなっ、ガハハハハハッ」
ガルバスはそう言って魔鉄の六角棒を手で叩く。
「……ありがと」
「馬鹿野郎っ、ガキが遠慮するなんて百年早いんだよっ!」
わざとぶっきらぼうに振る舞うガルバスにしだけ笑みがれる。
「それから、出來合いで良いから投げナイフがしいんだけど……」
そう言って武が並ぶ棚に意識を向けた時、背後から“視線”と、り口に“隠する違和”をじて、スカートのスリットからナイフを抜き撃つと、その気配がわずかに揺れて投げたナイフが躱された。
かなりの手練れだと察してガルバスを庇うようにナイフを構える私の前に、その気配が景から滲み出て慌てたように聲をあげる。
「待て待てっ、あっぶねぇーなっ! ようやく見つけたのに“お師匠様”を殺すつもりかっ、アリアっ!」
「……ヴィーロ?」
姿を現したその男は、私をこの町から連れ出して斥候の技を鍛えてくれた、ランク4の冒険者であるヴィーロだった。
どうしてここに? でも……今、彼は“見つけた”と言った。
その瞬間に強化を全開にして、殺気と共に黒いナイフをヴィーロに向ける。
「それを依頼したのは“組織”か? それとも“盜賊ギルド”か?」
私が靜かにそう呟くと、ヴィーロが慌てて首を振る。
「話を聞けってっ! 俺がお前を捜していたのは、個人的に頼みたいことがあったんだよっ」
「…………」
頼み? ……また厄介ごとのような気がする。
ヴィーロ、久々の登場です。彼が現れたわけとは? そしてアリアを捜していた理由とは?
新しいペンデュラムの刃は、アリアの希を盛り込んだ結果、異様な殺意に溢れていますね……
次回は日曜日の更新予定です。
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