《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》88 妖怪

読者a様よりレビューをいただきました。ありがとうございます。

新しい糸は大きな問題もなく完した。小さな問題があったとすれば、蜘蛛が思いのほか大きかったので糸の元になる粘を掻き混ぜるのに苦労したのと、私のを混ぜる必要があったので軽い貧狀態になったくらいだ。

さすがにこの大きさの加工だと私一人では無理だった。師匠が手伝ってくれなかったら糸の質にムラができていたと思う。

だけどその甲斐あって出來上がった糸は100メートルにもなり、以前は1.5ミリ程度だった糸が1ミリほどに細くなったのに、魔力を通していなくても黒いナイフで切るのにも苦労するような強度があった。

これならばよほどの達人でもないかぎり、宙を舞う糸を刃で切斷することは出來ないはずだ。

新しい四つのペンデュラムに新しい糸を通して使い勝手を確かめてみると、レベル4になった【糸】スキルとも相が良く、六割程度なら自分の意思で方向を変えられるようになっていた。

殘った古い糸は――

「そっちの糸はこっちに渡しな」

「何に使うの?」

出発する二日前にそう言われて、なんだろうと思いながらも20メートルくらいの糸を渡すと、普通の糸も織りぜて首に巻ける程度の短いショールを作って、出発する朝に手渡してくれた。

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これを首に捲いておけば小さな投擲ナイフ程度なら防げると思う。本當に……與えてくれた恩をいつか返せる日が來るのだろうか……。

「それじゃ行っといで、無想弟子(アリア)。無茶をするなとは言わないが無理はするんじゃないよ。お前はお前らしく生きればいいんだから」

「うん、行ってきます。師匠(セレジユラ)」

師匠にしばしの別れを告げて出発する。本當に戻ってこられるかは分からない……でも帰ってくるつもりで毎回別れを繰り返す。

調もほぼ回復した。ヴィーロとの待ち合わせの場所まであと一ヶ月半もあれば充分に間に合う計算になる。

セイレス男爵領から幾つかの貴族領を抜けて、その寄親であるバッシュ伯爵領から私が潰した暗殺者ギルド北辺境支部があったヘーデル伯爵領を抜ける。

以前は活気のあったヘーデル伯爵領だが、今はガラの悪そうな連中を見かけるようになって、全的に褪せたじがした。

多分だけど、暗殺者ギルドと関係があった伯爵は、ギルドが消滅したことで悪化する財政と治安を、盜賊ギルドを呼び寄せることで維持しようと考えたのだろう。

他の貴族に後ろ暗い暗殺の仲介をして金を稼いでいた伯爵は、私を殺しても足りないくらい憎んでいるはずだ。

だけどそれと同時に、暗殺者ギルドの力を誰よりも知っていた伯爵は、それを潰した私に進んで関わろうとはしなかった。

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伯爵ほどの権力があれば、領なら無い罪をでっち上げてでも私を拘束できると思うが、この地では衛兵にも盜賊にも一度も絡まれたことはない。

ヴィーロの言葉を信じるのなら、セラあたりが伯爵に釘を刺している可能もある。

伯爵領からダンドール辺境伯領に下り、そこから待ち合わせ場所であるヘールトン公爵領へ向かうには二通りのルートがある。

ダンドールから南西に向かってダンス侯爵が寄親をしている地域を通るか、通り慣れた西に向かって、トーラス伯爵領から鉱山のあるケンドラス侯爵領へ向かってそこから南下するルートだ。

金銭的には通る貴族領がない後者だけど、距離的には前者のほうがわずかに近いので今回はそちらを選択する。

ダンス侯爵が寄親をしている地域に到著すれば、出発してから一ヶ月近くにもなり、季節は初夏に変わっていた。待ち合わせの時まであと半月あまりもあるので、何事もなければ充分に間に合うはずだ。

これまでの旅でも私を知らない盜賊や山賊にも襲われたことはあったが、十人程度なら問題になることもない。

そういえば、普通の冒険者なら、長距離の移は商隊の護衛でもするのだろうか?

一瞬、そんな“知識”が頭に浮かび、能力的には探知の範囲も広がって睡眠も小まめに取れる私は最適かと思ったが、普通に考えると私みたいな子供の冒険者を商隊が雇うはずもないと數秒で諦めた。

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師匠の庵を出発して約一ヶ月半の行程で、待ち合わせ場所であるヘールトン公爵領に到著した。

旅の途中にあったサンドーラ伯爵領の冒険者ギルドにも場所の変更通知も無かったので、まず問題はないと思うが、とりあえず公爵の城がある街のギルドに寄ってみれば、ヴィーロともう一人が著いているか分かるはずだ。

領境にある宿場町を夕刻近くに素通りして街道に出てしばらくすると、私の後をつけてくる微かな気配に気づいた。

「…………」

かなり…とまではいかないが、それなりの手練れだ。

実際に見てないので確な分析は出來ないけど、気配の隠し方や歩き方からするとランク3の上位からランク4の下位くらい……つまり私と同程度の戦闘力を持っていると推測する。

それがおそらく2~3人……“私”と知って狙っているのなら、盜賊ギルドではなくて暗殺者ギルドのほうだと思う。

この辺りの暗殺者ギルドなら、ケンドラス侯爵領でも襲ってきた砂漠民族の流れをくむ、中央西地區支部の暗殺者だと思う。

前回の襲撃はランク3下位の暗殺者が六人だった。その數が半分でも、それを踏まえて送られてくるのならそれ以上の実力がある連中だろう。

私で勝てるのか? ……いや、今までの戦いでも確実に勝てる戦いのほうがなかったはずだ。

だからこそ私は知恵を使い、敵を知り、罠を張り、あらゆる手を使ってギリギリの勝利をもぎ取ってきた。

私が足を止めてわずかに振り返ると、つけてきていた気配の足も止まり、その中の一人が再び歩み出て薄暗くなった街道に姿を見せた。

「“灰かぶり姫”か?」

「名乗ったことはない。お前は中央西支部の暗殺者か?」

「いかにも」

壯年のクルス人の男はそう言って、淺黒いに刻まれた皺を深くするようにしてわずかに笑う。

「長からの伝言だ。お前が我らの傘下にり、百人の暗殺をすれば今までのことは不問にしてやる」

「百人? 誰を?」

「お前が気にする必要はない。依頼をければ想いもえず殺すのが“我ら”であろう? 灰かぶり姫よ。返答はいかに」

「斷る」

その瞬間に前もって地に落としていた【影(シャドー)攫い(スナッチ)】の“闇”からクロスボウの矢が放たれ、壯年のクルス人は足下から撃たれた、不意打ちの矢を仰け反るように躱した。

この距離でも躱すのか……コイツは間違いなくランク4だ。

「愚かな小娘がっ」

そう言いながらもニヤリと笑った壯年の男は、跳び下がりながらも右手でシミターを抜き放ち左手でナイフを投擲する。

男のそのきに、私はナイフを躱しながら踏み込もうとした追撃を躊躇した。どうして片手剣を抜きながら距離を取る?

「シッ!!」

れるように息を吐いて私の橫手に広がる暗闇から細の男が躍り出る。

……無手? 素手で打ち込まれる拳打をナイフで迎撃すると、細の男はを使った奇妙なきで黒いナイフの腹を手で弾く。

格闘かっ! 再び打ち込まれる拳打を私は反り返るように躱しながら背後に手を付き、その拳打を刃付きのブーツで蹴り上げる。

「っ!」

わずかな風切り音を捉えて追撃する間もなくそのままさらに距離を取ると、その目前をシミターの刃が通り抜けた。

「よく躱したっ」

壯年の男が腕を引くと紐に結ばれたシミターが踴るように宙を舞う。

私のペンデュラムと同じ糸系の武。しかも私よりも作の幅が広い。

地に落ちることなく宙でクルクルと回るシミターが再び私に襲いかかり、細の男が腕の傷を庇いながら蹴りを放ってきた。

二人の攻撃を躱しながら両手のナイフとダガーで攻撃をいなして、二人から転がるように距離を取ると同時に、三人目の男が真上から飛びかかってくる。

「っ!」

わざと拳打をけてその衝撃で飛び離れた地面に、三人目の男が深々と両手の短剣を突き刺した。

「がぁあああああああああっ!!」

その男は、元まで埋まった短剣を事もなく抜き取り、獣のように吠えた。

三人目は狼系の獣人か……。戦闘方法は正攻法だが、今のきを見るだけでも私よりも遙かにステータスは上だろう。

三人の暗殺者たちは私を逃がさないように三方から取り囲んで、ゆっくりと時計回りに位置を変える。

「…………」

どうするか? 一対一なら戦えない相手じゃないけど、三人を相手にするには、分斷するための何かしらの“切っ掛け”が必要だとじた。

それをどうするかと私が考えたその時――

『――ひっひっひ――』

「「「!?」」」

暗くなった街道に奇妙な“笑い聲”が聞こえて、その奧から近づいてくる“影”に暗殺者たちの気がわずかに逸れた。

その隙に攻撃をするべきなのだが、出現したその“”の異様さに私も思わず目を奪われる。

真っ暗な街道を四つん這いで、とんでもない勢いで迫る小柄な“老婆”の姿。

「がっ!?」

狼獣人が混したように短剣を投げつけ、それを宙で摑み取った老婆が背後に短剣を捨てると、異様に魔力が高まり膨大な砂嵐が吹きつけた。

「っ!」

私と暗殺者たちが即座に離する。だが魔力知が出來なかったのか細の男が砂嵐に巻き込まれ、そのまま老婆に襲われていた。

【老婆】【種族:???】

【魔力値:365/425】【力値:173/184】

【総合戦闘力:1598(強化中:1992)】

なに……アレ? そう考えた瞬間、あのの知識から必要な報が浮かんでくる。

高速移する老婆、人とは思えない戦闘力に高い魔力、そして砂をかけるということは……もしかしてあれは、

「………妖怪?」

あのの世界にはそんな魔がいたと知識にある。だがそれでも、私のやることは変わらない。

一瞬で意識を切り替えた私は、舞っている砂嵐に隠れるように隠を使って飛び出すと、混している狼獣人の背に向け魔法を放つ。

「――【幻痛(ペイン)】――」

「ぎぎゃっ!?」

激痛に直する狼獣人の背に飛び移るようにして、私は黒いダガーを延髄に深々と突き刺した。

「小娘がっ!」

一瞬老婆に気を取られていた壯年のクルス人は、仲間を殺されて紐付きのシミターを私に投げつける。

中距離武でありながら重さがあり威力がある。通常ならその攻撃をけきれずに斬り裂かれるのだろうが、お前は驕りすぎだ。

暗殺者が同じ敵に何度も同じ技を見せてどうするの?

カンッ!

「なっ!」

唸りをあげて迫るシミターが私の數メートル前で弾かれた。

重みのある【分銅型】のペンデュラムは、遠心力が加われば生の頭蓋骨さえ砕く必殺の武になる。

闇に潛ませた黒い十字架がシミターを弾き飛ばし、別の方角から弧を描いて飛來する【斬撃型】のペンデュラムが壯年のクルス人の頸脈を斬り裂いた。

「ひひひっ」

その瞬間にあの老婆が飛びかかるように私に襲いかかってきた。

「――【幻影(シヤドー)】――」

影の幻影を囮にしてその攻撃を回避する。だけど、鑑定で見た膨大な戦闘力とは裏腹に、その攻撃は私でも見切れる程度の速さしかなかった。

もしかして近接は強化だけ? ならばあの戦闘力は魔によるものだと仮定して【影収納(ストレージ)】から【汎用型】と【刃鎌型】のペンデュラムを取り出した。

を使われたら勝ち目がない。使われる前に一瞬でケリを付けるしか、私が勝つ道はない。

の魔力を高めて貓のようにを伏せながら、地面を蹴るように飛び出して二つのペンデュラムを投げ放ち、老婆はギョロリと目を剝いてその全から膨大な魔力を解き放って迎え撃つ。

勝負は一瞬。互いにこの力値なら先に攻撃を當てたほうが、相手の命を奪う。

だけど――

「待て待てっ!! お前ら止まれっ!!」

聞き覚えのあるその聲と同時に飛んできたナイフに、私と老婆はすれ違うように互いとナイフを躱して地面を転がるように距離を取った。

……この聲って、ヴィーロ? 街道から駆けつけ、ナイフで強引に割ってった彼は殺し合う私と老婆を見て悲鳴のような聲をあげる。

「お前ら、仲間同士で殺しあってどうするんだよっ」

妖怪かと思いましたが新しい仲間でした。

アリアは知識はあっても、現代のことはフィクションとノンフィクションの違いがよく分かっていませんので、妖怪が実際にいると思っています。

次回、魔師の老婆。

次は土曜か日曜の更新予定です。

ご相談:

タイトルが容に合っていないというご意見がございました。

そこでタイトルを変更するべきかと考えたのですが、いかがでしょうか?

候補1

『 鉄の薔薇[Iron Rose] ―ヒロイン【最強】サバイバル― 』

後半を今のそのままつけてもいいかと思いましたが悩んでします。後半はいらないとか、このままで良いとか、ご意見お待ちしています。

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