《【書籍化】オタク同僚と偽裝結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!》突然のプロポーズ

「データ転送しました」

「相変わらず早い、おつかれさまー」

「確認をお願いします」

私、相沢咲月(あいざわさつき)は、同僚の瀬川恵(せがわえみ)に笑顔を作ってほほ笑んだ。

時間を確認すると、16時55分、完璧だ。

瀬川さんは私が転送したデータを確認しながら

「相沢さんって、毎回仕事を時間通りにきっちり上げて偉いなあ」

すごーい……と、ため息をついた。

私は「そんなことないですよ」と軽く謙遜しながら荷を鞄にれる。

事実、瀬川さんは本気を出したら、私の數倍仕事が早い。

私は何があっても17時に帰りたいだけなのだ。

「では、失禮します」

私は會社用に買っている3cmヒールを鳴らしながら歩いて、デザイン部を足早に出た。

大で就職先を選ぶ時に、半分以上が夢を追って消えていった。その中で私の條件はたった二つ。

ひとつは、『17時に帰れること』ともう一つは……

『副業許可』

「どああ~~めっちゃ疲れたああ~~~~」

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私は『完売しました!』と書いてある紙の上に突っ伏してため息をついた。

會社では3cmヒールにメイク完璧、服はシンプルと決めているが、ここではTシャツGパンすっぴん、髪の一つ縛りだ。

突っ伏すと前髪がダラダラと垂れてくる。

それを適當にちょんまげに縛った。もう何でもいい……。

「……今回ばかりは、本當に落とすかと思った」

私は安堵のため息をついた。

売り子のワラビちゃんは

「今回は難産でしたね~~」

と差しれで貰った煎餅をバリバリと食べている。

私は本業は文房のデザイナー、副業で同人作家をしている。

同人は中學生の時から15年以上、完全にベテラン作家の領域で、ここ數年は壁サーという壁際に配置される人気作家になった。

まあ同人はジャンルの人気が大きいけれど、たまに配信サイトでオリジナルも書かせて貰って、立場は安定してると思う。

ただ漫畫家として生きていくほど腕は無かったし、実家を出る條件が『就職』だったので、ずっとこの狀態だ。

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でも仕事で求められたものを書き、趣味で好きなものを書く生活が、私は最高に気にっている。

「書けば書くほどページが増えて、もう意味わかんなかったもん」

私はワラビちゃんが食べている煎餅を一つ貰ってバリバリ食べた。

あー、疲れと水に塩気が最高に染みる。

「どんどんネーム増えてましたよね」

ワラビちゃんはチョコパイもありますよ? と機の下の差しれボックスから引っ張り出した。

分かる、煎餅の後にはチョコだよね。

私はそれをけ取ってモグモグ食べた。ああ徹夜明けのに甘さが痺れるように旨い。

毎回死ぬほど疲れるのに、イベントは楽しくて毎回新刊作ってしまう。

「次に來られるのは冬かなー」

「あー、黒井さん、夏出ないんですもんねー」

ワラビちゃんはスマホのスケジュールを見ながら言った。

そそ。

私はポカリを飲みながら頷く。

うちの実家は田舎で旅館を経営していて、夏休みの7日間は絶対に手伝う約束で家を出ている。

スケジュール的に丸被りなので、毎年夏コミは出られない。

それは諦めてるから良いんだけど、何よりイヤなのが

「また結婚しろって言われるんだよなあ……」

私はため息をついた。

「黒井さん、それ毎年ていうか、會うたびに愚癡ってますよね」

ワラビちゃんはキャハハと軽く笑う。

私は機をドンと叩き嘆く。

「旅館は兄貴が継ぐし、奧さんもしっかりしててさ~、子供だって男ひとりずつ、完璧なの! あと問題なのは私だけで、すべての文句が私の所に溜まるの。地の沼かよ、マジで。別にいいじゃんねえ、私のことなんてほっといてほしい!」

イヤだイヤだ、帰りたくない~~。

私は思わず大聲でまくし立ててんだ。

本當に本當に面倒なのだ、親戚一同集まった所でひたすら『何かに問題があるのか』『男に興味がないのか』『誰かいないのか』『とにかく私たちを安心させてくれ』って

「なんで親を安心させるために結婚するんだよ!」

せめて幸せを祈れよ!

私は持っていたペットボトルをグシャリと潰した。

「言う言う、親って超それ言いますよね」

ワラビちゃんはケラケラ笑った。

「お母さんはお父さんの愚癡めっちゃ言ってて不幸なのに、どうして結婚しろって言うのかな」

「周りに結婚して幸せそうな人って、めっちゃないですね」

ワラビちゃんの言葉に私は深く頷いた。

今更結婚に夢なんて持てないし、結婚前に転がるさえ面倒だ。

そんな時間があったら原稿したいし、漫畫喫茶に籠りたい。

「ああ、もう偽裝結婚でも何でもいい。結婚しろって言われないために結婚したい。黙らせたい」

アゴを機に置くような狀態でため息をつく。

すると目の前に誰か立っているのが分かった。

顔を上げると……ド派手なTシャツにダボダボパンツ……何より大きなカメラをぶら下げている。そして深くかぶった帽子と分厚いメガネ。

ああ、コスプレイヤーの寫真を撮る人……カメコさんかな?

ワラビちゃんが

「すいません、今日は完売しちゃって……」

と聲をかけると、男の人は私の目の前にすっ……と座った。

汗臭い……? と思いきや、爽やかな石鹸の香り。あれ? 今日は5月にしては暑くてみんな臭そうなのに……?

男の人は私の目の前にひざまずき

「じゃあ、俺と結婚しませんか?」

と言った。

?????

なんだろ????

この人は私の目の前で今、なんて言った???

「は? 何言ってるんですか、警備呼びますよ」

カタンと立ち上がったのはワラビちゃんだ。

イベントは変な人が來たら即警備を呼ぶのが鉄則だけど……私はほんのり薫る石鹸の香りを思い出して、ワラビちゃんを制した。

「私……あなたと初対面ですよね? 警戒されて當然だと思いますが」

あえて仕事モード、冷靜に言ってみると、男の人は

「そうですよね、分かるはずないですよね」

と言って帽子を取ってメガネも取った。

「あ!!!!」

……とはならない。誰この人?

やっぱり初対面じゃね?

私の表を見て、男の人は「なるほど」と言って、後ろに縛られていた髪のを解いた。

そこでやっと分かった。

「……営業の滝本(たきもと)さんだ!!!」

「おつかれさまです、黒井さんとお呼びしたほうがいいですか?」

「あ、あ、あ……相沢でも、いいですけど……!!」

私が揺してる橫でワラビちゃんが

「黒井さんって本名相沢さんって言うんですね」

と靜かに頷いた。ワラビちゃんとは付き合い10年以上だけど、本名は郵便くらいしかやり取りしないので、お互いに覚えてない。

というか、ネット上の名前もネタでコロコロ変えるから覚えてないくらいだ。

なんなら私は先日まで『黒部ダム』て名前だったし、ワラビちゃんは『ラジオ』だった。なんだよ、それ……。

そうなの、私、本名は相沢なの。

相沢なんだけど……!!

「滝本さん……って……カメコ……さん……?」

私は恐る恐る聞いた。だって滝本さんって言えば、會社ではスーパークール、口數ないけど営業績は良くて、會社で一番人気の淺野さんに告白されても斷ったって有名なんだけど!

會社では高そうなスーツをキリッと著こなしてるのに、イベント會場では見本のようなカメコルック。

さすがに揺が隠せない。

滝本さんは

「俺はドルオタです。今日は推しがコスプレしてるので、撮影に來ました。よろしくお願いします」

と仕事のような手つきで名刺を出してきた。

渡された名刺には『ボカロP・タカピー』とめっちゃ可いイラストりで書いてあって……っていうか、ボカロP?!

私の顔を見たのか滝本さんは

「アイドル好きが高じて、ボカロで曲も作ってます。何人か歌って貰えてるんですよ」

と會社と同じ目元だけで微笑んだ。

ドルオタ極めて作曲!!……ガチすぎる……!!……と思ったけど、壁サーで巨大ポスターにはがっつりBLポスター(A0・841×1189mm壁サー標準譲渡決定済)。

後ろには700冊持ち込んだ新刊の空段ボールの山……私も結構なレベルでは……。

「とりあえず……お茶でもしますか?」

私はちょんまげにしていた髪のをツイと取って言った。

「いいですね」

滝本さんは解いた髪のをキュッと縛りなおした。

きっと寫真撮る時に邪魔だからばしてるんだろうな~、會社ではクール演出のためにばしてるって思われてるけど……。

私は妙に納得してしまった。

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